第32話・盗み聞き
■――盗み聞き――
リングが食堂から出て行って、
しばらくヒロシは呆然とあの一瞬の出来事がまだ信じられずにいた。
「ヒロシはん、いつまでボーっとしとるん?」
「ん?」
やっと我に返り、アリアを見るといつの間にかお好み焼きの4分の1ほどがなくなっていた。
(どこにそんなに入ったんだ?)
「どうしたん?ヒロシはん」
「いや、別に・・・」
そう言いながら、すばやく残りを口に運んでいく。
「あっ、ちょっと。うちの分も残しといてや」
「まだ食うのか・・・」
「・・・何かゆうた?」
本当に今日はアリアの機嫌が悪いのであった。
「そろそろ行くぞ」
そう言って、ヒロシが立ち上がるとあわててアリアも、
ヒロシの肩に黙って乗ってきた。食堂から出ても、アリアはずっと黙ったままだった。
「いい加減、機嫌なおしてくれよ」
アリアは、首筋のあざをつついて、
「これ・・・」
と言い、怒ったようにヒロシを見つめた。
ヒロシはそれを聞き、気まずいように笑ったが、アリアは
「何で、教えてくれへんの?」
少し泣きそうな表情で、ヒロシを見上げた。
その表情がヒロシにはとてもつらかった・・・。
「これについては、出来たら聞かないでほしいな・・・」
そう、悲しそうな表情でアリアに語りかけた。
その表情を見てアリアは、困ったようにうつむいて小さく頷いた。
ヒロシは安心したように微笑むと、
「ありがとう、アリア」
と頭をなでた。
「・・・全員、集まりましたね」
「?」
いつの間にか、ヒロシ達は司令室の前に来ていた。
「どうしたん?ヒロシはん」
「いや、今何か・・・」
そういって、ヒロシは司令室の壁に耳をつけたが、
その様子を見てアリアは、いまだに首をかしげているだけだった。
「今回のミッションはかなり重要なものとなります」
ミフィリアの声だった。しかし、いつもののんびりした雰囲気の口ぶりではなかった。
「これで、うまくすれば。シガールとの戦いも終わるかもしれません」
「!!」
アリアも壁に耳をそばだてて聞き始めたが、今の言葉は聞いていなかったらしい。
「どうしたん?」
ヒロシは黙って答えずに中の様子を探り始めた。
「何を、するんだい。ミフィリア」
中の女が一人、そう声を上げた。
すると、ざわついていた中が、いっきに静かになった。少しの沈黙のあと、
「あなた方には、シガールの本部に潜入してもらいます」
その言葉が、放たれた瞬間、一瞬大きな殺気がヒロシの事を襲った。
「それは、本当か?」
男が尋ねると、今度はマーシャの声で、
「本当よ。場所はロシア郊外の町で、詳細はさっき配った冊子の中に」
そう、静かに言い、
「今回のミッションは敵地の確認だけです。戦闘は一切いりません」
ミフィリアがそうはっきりと告げた。その後は誰も一言もしゃべらず長い沈黙が続いた。
「あなた方が調査をしている間に、応援部隊が到着します。
その時、その隊と連携して出来れば敵の殲滅、あるいは敵を確認しておくことです」
アリアはよくわからないようで、首を傾げていた。
「もう一度確認します。戦いはいりません調査の仕方はあなた方に任せます。
戦いになったらすぐにひいて下さい。絶対に死なないように」
真面目な顔でそういうと、静かな殺気とともに小さく返事が聞こえた。
「あなたたちの健闘を祈ります」
そうミフィリアの声が聞こえたとき、足音が聞こえ始めた。
「アリア」
そう声をかけて、まだ聞こうとしているアリアを回収し、その場を立ち去った。