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六話 幻夢 と 村人

「……あ、梅沢さん気がつかれましたか」


「君は……」


「良かった……。村の人に呼び戻されて帰ってきたら、梅沢さんひどい状態で、大慌てで治したんですよ」


「ごめん」


「いいえぇ。心配はしましたけど、気がついてくれて本当に良かったです」


「ごめん……。ごめんなさい。ごめん」


「梅沢さん?」


「僕は……なんとか助けようとしたんだ。君を」


「もしも~し。まだ寝ぼけてるのかしら。寝言?」


「でも僕はあの時まだ子供で、君の気持ちを考える事ができなくって……。直接的で、単純な方法しかとれなくて」


「私を誰かと勘違いしてるのかなぁ」


「それが逆に、君を追い詰める事になるなんて、思いもしないで。馬鹿だったから。嬉々としてやってたんだ。君が居なくなった後で、その事に気づいたんだ。ほんと意味が無い。遅すぎるよね」


「え……」


「あれから僕はなるべく人助けをするようにしたんだ。でもそれは、献血だったり募金だったり、他人任せの事ばかりで、僕が自分でやる事なんて、せいぜい重い荷物を持ってあげたり、迷ってる人に道を教えてあげる程度で、本当に……死にそうなほど困っている人は、見てみぬ振りをしてしまうんだ」


「……」


「また君の時のようになってしまいそうで、恐いんだ。もう僕のせいで他人の人生を壊したくないんだよ。ねぇ知ってる? 僕は、君がいなくなって、すぐに君の後を追おうとしたんだよ」


「……!」


「でも失敗したんだ。何も悪くない君がいなくなって、一番悪い僕は残ってしまったんだ。ごめん。本当にごめんね。ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん」


「ちょっ、ちょっと梅沢さん?」


「でもね、あの時見た僕の血は綺麗で、そして君の血も、綺麗だったんだよ……」


「梅沢さん?」


「すーすー……」


「寝ちゃった」







 僕はユナさんの家のベッドで寝ていて、その枕元にはユナさんがいた。


 何がなんだか解らない。僕はさっきまで湖でとうもろこしを食べていたはずでは?


「私は森にいたんですけど、村の人に呼び戻されて帰ってきたら、梅沢さんは全身大火傷のひどい状態だったんです。私、大慌てで治したんですよ」


 安心した顔を私に向け、ユナさんはそう言った。


 どうやら今まで気を失っていたらしい。

 夢を見ていた気がする。誰かと何かを喋ったような。


「そうでしたか、ごめんなさい」


 ユナさんの表情が、ほんの一瞬強張ったような気がした。


「う、梅沢さん、ジョウさんに習って魔法使おうとしてたんでしょ。なんでも、その魔法が強すぎたらしいです。使った本人の梅沢さんが火だるまになって吹き飛ばされちゃったんですって」


 それを聞いても、僕に思い出せたのは、血を垂らしたシーンまでだった。


「なんでそんな強い魔法が出ちゃったんだろう」


「血を使いすぎたんじゃないですか? 魔法の強さは血の量によって決まりますから」


「一滴程度でしたよ」


「ん~、なら梅沢さんの才能って奴でしょうね。一滴でも、すっごい炎が出せる。そういう魔法なんですよ」


「そうなんでしょうか……。僕の才能……?」


 左手人差し指を見ると、ナイフでつけた傷口は消えていた。きっとユナさんが火傷を治療する過程で、一緒に消えてしまったのだろう。


「ところで梅沢さん?」


 急にユナさんが顔を寄せてきた。


「は、はい?」


「私の勘なんですけど、梅沢さんは本来、今使っているような敬語はあまり使わないのではないですかぁ?」


「そ、そうかもしれませんね」


 僕はその迫力に、気圧されてしまっている。


 ユナさんはニカッと笑って顔を引いた。


「それじゃあ今度から私との会話では、なるべく敬語を使わないでください。なんとな~く壁があるように感じるんですよね」


「うっ、でも……それは」


「ねっ!」


 再び顔を寄せてくる。笑っているのに強い顔だった。


「わ、解りました。なるべく敬語は使いません」


 ユナさんは大きく頷いて、よろしい。と言った。


「でも、じゃあユナさんも、僕に敬語を使わないでください。でないとその条件は飲めません」


「え、私もですか? ん~……。まぁ梅沢さんがいいって言うならいいか。解りました。私もこれから敬語は使わない……よ」


 その雰囲気がおかしくて、僕は噴出してしまった。ユナさんも要望が通ったせいかご機嫌だった。


「じゃあさ、せっかくだから呼び方も変えようよ。私はこれから梅ちゃんって呼ぶから、梅ちゃんも私の事ユナちゃんって呼んで!」


 そんな気恥ずかしい要求には応えられそうに無い。

 僕は苦笑いしつつ、曖昧にはぐらかした。


「それは、まぁうん、いずれ、そのうちにね……」





 一息ついた僕は、村の人たちに迷惑をかけた事を謝罪したい。就いてはユナさんにも案内がてら着いてきてほしい。と言った。


「いいです……。いいよ~。今からじゃ森には行けないし、私もやる事なくなっちゃったから」


「ありがとうござ……ありがとう。じゃあ行きましょう。あれっ? 服!」


 ベッドから起き上がって、自分が着ているものの異常に気が付いた。


 それまでは、元の世界で着ていた薄ピンクのシャツにジーパンという格好をしていたのだが、今、私はユナさんが着ているのと同じ、民族衣装のような服を身に纏っている。


 下半身はズボンになっていて、そこだけがユナさんの物と違う。

 作りとしてはツナギに近い。


「あぁ梅ちゃんの服は全部燃えちゃったんだ。予備の服があったから男の人がそれを着せてくれたんだよ。私は見てないから安心してね」


「そうですか」


 あの服は結構高くて、気に入っていたのにな……。

 僕が多少の落ち込みを見せていると、ユナさんは不機嫌な声を出した。


「そ、う、で、す、か~?」


「ごめんなさい。訂正します。『そうなんだ』」


 僕は落ち込む事もできなかった。

 もしかしたらそれがユナさんの目的だったのかもしれない。だとしたら、優しい人だ。




 まずは牧場にいる村長を訪ねた。

 村長は僕の姿を見ると、「無事でよかったなぁ」と喜んでくれた。


「ご迷惑をおかけしました」


「気にすんな気にすんな。命が助かってなによりだぁ」


 そう言って笑う村長の顔には、本当に少しの迷惑がった様子は見られなかった。彼も、良い人だ。



 村長にお礼と謝罪を済ませると、村の家々を回った。

 小さな村だから僕の救助には村人全員が協力してくれたらしいのだ。


 村長の奥さんのマチさん。

 ジョウさんの奥さんのノウさん。

 奥さんに先立たれ、今は一人暮らしだというランさん。

 同じく一人暮らしのコオさん。


 初対面なのに、皆、私の姿を見て「良かった良かった」と言ってくれた。ランさんにいたっては涙まで流して喜んだ。


 村で唯一の若い家族、三十代前半くらいの夫、キリさんは自慢げに胸を張った。


「お前さんが大怪我したってのをユナちゃんに伝えたのは俺なんだよ。俺の俊足が無かったらお前さん今頃あの世行きだったぜ」


 そのキリさんの頭を、赤ん坊を抱いた妻のマルさんが叩いた。赤ん坊はサンちゃんと言うらしい。


「この人の妄言なんて気にしなくていいからね。変に恩義を感じる必要ないから。するんなら隣のユナちゃんにしな」


「俺だって感謝されるべきだろ~」


「あんたはただ走っただけじゃないか。治したのはユナちゃんだろ!」


「なんだと~」「なによ~」と夫婦喧嘩が始まりそうだったので、僕達は退散することにした。

 でも、別れ際には二人とも息ぴったりで「助かって良かったな(ね)」と言ってくれた。

 サンちゃんはすやすやと眠っていた。



 ジョウさんは僕の姿を見るなり駆け寄ってきた。


「良かったぁ~気ぃついたんか。もう体はいいんか? 変なとこねぇか?」


「えぇ大丈夫です。ご迷惑かけてしまって、すいませんでした」


「いいやぁ。俺がちゃんと見たらんかったんが悪ぃんだよ。ごめんなぁ」


「いいえ、悪いのは僕ですよ」


 それから僕とジョウさんの謝り合戦が始まった。

 八往復したところでユナさんが止めてくれなければ、きっといつまでも続いていただろう。


「いつでも来てくれよなぁ。またうまぇもん食わせてやっから」


 そう叫ぶジョウさんに手を振って、僕達は家路についた。



「皆いい人達ですね……」


「そうでしょ。いい人達がいる、いい村なのよ」


 ちょっとした敬語を使ってしまったが、今回はユナさんからの叱責は無かった。



 もう陽が落ちてきて辺りが暗くなってきている。

 ふと前を見ると、ランさんが家から出てきた。手には小さな脚立のような物を持っている。


 ランさんは家の前にその脚立を立て掛けて登った。そこには壁から一本の棒が横に飛び出している。そしてその棒の先は、皿のように平たくなっていた。


 その皿に、ランさんは血を落とした。

 すると、そこから半径数十センチの範囲がパアッと明るくなった。


 光を放つ魔法。

 まるで街灯みたいだ。


「ごくろうさまです」


 ユナさんが手を振ると、ランさんも軽く手を挙げて応えた。僕は軽くお辞儀をした。




 家に帰り着き、ユナさんが夕食を作っていると、ドアがノックされた。扉を開けるとそこにはコオさんが立っていた。


 コオさんは「さっきはどうもぉ」と言いながら家の中に入ってくる。ユナさんも拒むような素振りは見せない。


 何の用だろうと僕が見ていると、コオさんは台所にある箱を開けた。中には何種類かの食材が入っていた。そしてその隅には、何も乗っていない小さな皿が一つ。


 コオさんが慣れた手つきでその皿の上に血を垂らすと、血は、拳ほどの大きさの氷へと姿を変えた。


「ありがとうございます」


「梅沢君もこれからここに住むんでしょ? 二人になったら使う食材も増えるから、もし氷が早く溶けちゃったりしたらすぐ呼んでね」


「はぁい」


 一仕事を終えるとコオさんはすぐに帰っていった。僕達は送り出すとき「おやすみなさい」と言った。コオさんも同じ言葉を口にした。



 氷を出す魔法を使って、冷蔵庫にしているんだ。



 皆、生活に役立つ、そして皆の為になる魔法を使っている。


 僕の魔法は、何かの役に立てるだろうか?


 炎……。それも桁外れに火力の強い魔法が。



 いやいや。使える魔法が一種類だけとは限らないと、ユナさんもジョウさんも言っていた。


 きっと他にも僕に使える魔法はあるはずだ。

 それはきっと人の役に立つ魔法に違いない。

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