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六話

 

 尚文露店主が、差し出してきたちくわを断る様な勇気は、彼には皆無に

等しいため受け取った。

 再び、尚文露店主の後を付いて行きながら幾つかの倉庫を通り過ぎた時、

 その倉庫の扉、前の世界のテレビ映像などで見た事のあるシンボルマークが

 付いていた。

 その扉の前には、露天商店員が2人と背広を着込んだ中東系の外国人男性客が

 2人いた。

 英語で話し合っているため、彼には内容がわからなかった。

 尚文露店主が立ち止まってから、終始笑みを浮かべながら英語で何か告げて、

 近づいていく。

 その表情は、終始笑みを浮かべていた。




「(何を言っているのかわからん)」

 彼は頸を捻りながら、尚文露店主と中東系の外国人男性客との会話が終わるのを

 待つ。

「(それにしても、このマークは、何だっけ。テレビで見た事あるような)」

 尚文露店主と中東系の外国人男性客から、倉庫の扉に描かれているシンボルマークに視線を向け、何かを思い出そうと思考した。

 それは、背景が黄色、マークは赤紫のシンボルマークだ。

 周辺の三つのプロペラの羽根、髑髏のマーク、中央のCみたいなのが合わさった

 マークが扉に描かれている。

 何かを思い出そうとしたとき、尚文露店主が声をかけてきた。

「兄ちゃん、行くぞー」

 何処か上機嫌な尚文露店主の声だ。

 そのため、思い出す事は出来なかったが、何か重大な決断を下した様な表情を

 浮かべたまま立ち去っていく東系の外国人男性客2人を見送る事ができた。

 彼は、少し頸を傾げながら、急いで尚文露店主の後を追う。




 尚文露店商の後を追い目的の倉庫に入ると、大量に詰まれた箱が視界に飛び込んできた。

「さて、兄ちゃんは、ここに入るのは初めてだったな。この倉庫には、店が

 扱っているレーション、ドック・フード、キャットフード、調味料を

収納している」

 尚文露店主が告げてくる。

「ドック・フードやキャットフードも取り扱っているんですか」

 彼は、倉庫内に積まれている箱を見渡しながら応えた。



「今のご時世では、ドック・フードやキャットフードは、臨時レーション以外

何でもない商品だぜ、兄ちゃん」

 尚文露店主はそう告げながら、近くに置いてあった台車を押して、ある棚の前で

 立ち止まる。

「兄ちゃん、この棚からこれとこれ台車に載せてくれ」

 尚文露店主がそう告げながら、指を指す。

「わかりました」

 彼は、棚に収納されている箱を台車に載せていく。 




 箱には一目で分かるように白い紙に内容物が印刷されて貼られていた。

 その箱には、日本語で「とても食べられたものじゃない食い物」と書かれて

 いる。

「・・・・・・・」

 彼は一瞬眼を疑い、何度も文字を確認する。

「どうかしたのか、兄ちゃん」

 尚文露店商が、手に持っていたノートPCを操作しながら尋ねてくる。

 彼の様子を見て、何か気になった様だ。

「いや、何か凄い眼を疑うような表示されていて」

 彼がそう応えるが、視線は箱の文字に釘付け状態だ。




「あー、別におかしい事じゃないさ、扱っているレーションの半分は、製造元が

 各国の軍に取引を拒否られた商品だ」

 ノートPCを操作しながら告げる。

「え・・・・なんでまたそんな商品を扱っているんですか?」

 彼は、ぎょっとしながら応えた。

「発注が比較的スムーズだし、製造元がせび取り扱ってくれと泣きついて

 きたからだ。

 味は度外視されて製造されているが、きちんとカロリー換算されているから、

 喰っても死にはしないさ。

 だが、世界各国の防衛軍は、味が糞まずいから何処も取り扱わないけどな」

 彼は、それを聞きながら辺りの箱に恐る恐る向ける。



 視線を向けた先には――――――。


「ミステリーな味」

「とても食べられたものじゃない食物」

「鬼獣からも拒否された食べ物」

「吐き戻され、骨抜きにされた一口」

「精神薄弱料理」

「すぐ排泄できる食物」

「誰もが拒否した食物」

「食べ物に似た何か」

「野良犬や野良猫も、大変申し訳なさそうに返してきた食物」

 ――――――その様な文字が書かれた箱が山積みになっている。

「・・・・これ買う客がいるのですか」

 彼は何となく尋ねた。




「平時ではそんなに売れないが、大規模鬼獣侵攻警報や局地的鬼獣警報が

 発令時には、客は群がる様に全部購入していくぞ」

 尚文露店主が応える。

「それ嘘ですよね?、余るから返品したりしているんじゃ・・・」

 彼は、尚文露店主に視線を向けながら尋ねる。

「嘘じゃないさ、今のご時世だと今のご時世で鬼獣の大群に包囲され、

 泥水やベルトの革を しゃぶってギリギリな状況になるよりは、カロリー計算は

 されているが食い物かどうかも妖しいほどのまずい軍事レーションを食って生き残りたいという客が多いんだよ。

 兄ちゃんも「河川敷攻防戦」や「4丁目の闘い」を間近で見たろ。

 あんな連中が、餓死を選ぶと思うか?」

 ノートPCを操作しながら告げる。

「確かに」

 彼は何かを思い出すかのように、応えた。




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