六十二話
17地区各所の路地を駆け巡っているのは、もちろん鬼獣群だけではない。
火と煙に飲まれた空の下、震える大地の上を一列隊列を組みながら、完全
武装の住民達が駆け巡っている。
17地区の商店が建ち並ぶ大通りを他地区からの増援部隊が急ぎ足で移動して
いた。
誰もが黙り込み、動く気配がしないかと、神経を尖らせている。
彼らの鼓膜には、激しい発砲音や鬼獣の金切り声などが遠くから届いている。
そして、彼らの視界には鬼獣群との交戦で出現する修羅場な光景広がって
いた。
横転した乗用車、ハンヴィーやストライカー装甲車が商店に突っ込んでいる。
そのため、窓ガラスは粉々に割れ、周囲に飛散していた。
アスファルトの地面には、無数の空薬莢が転がり、車両のフロントガラスや
建物の壁には、人の血と思われる真っ赤な液体が飛び散り、鬼獣の死骸も幾多も転がっている。
しかし、そのような修羅場な光景でも誰も叫ばず、言葉も発せず急ぎ足で
走り抜ける。
順調に移動しているかに見えたが、先頭の男性住民が拳を握り、頭の高さに
あげた。
その合図と共に、全員が脚を止め、何人かが怪訝な表情を浮かべた。
しかし、その表情も、すぐに鬼の様な形相に変わった。
なぜなら、増援部隊の前方に従来型鬼獣「ソルジャー」と中型鬼獣
「イントゥルーダー」の群れが道を塞いでいたからだ。
増援部隊は手慣れた動きで防御態勢に入ると、一斉に射撃を開始した。
「俺達で世界をもういっぺん平和にしようぜっ!!」
誰かが、大声で叫ぶ。
しかし、それに誰も応える者はおらず、急接近してくる鬼獣群に銃弾を
浴びせる。
近距離で、10挺以上の自動火器が火を噴いた。
放たれた銃弾は、従来型鬼獣「ソルジャー」と中型鬼獣「イントゥルーダー」の身体を貫き、金切り声が上がる。
身体を銃弾で貫かれ、のたうち回っている鬼獣にも銃弾を浴びせていく。
特殊部隊を彷彿とさせるようなほどの射撃命中率だ。
一発も無駄に外していない。
しかし、その中でも中型鬼獣「イントゥルーダー」はなかなかしぶとく
倒れない。
「手榴弾!!」
また誰かが大きく叫ぶが、男性の声ではなく女性の声だ。
投げられた手榴弾は、炎を噴き上げて破片を飛び散らして爆発する。
中型鬼獣「イントゥルーダー」の断末魔の絶叫が響く。
しかし、それでも鬼獣群は、命中率が高い銃弾を潜り抜けながら肉食獣
の如く素早く接近してくる。
従来型鬼獣「ソルジャー」は、接近を許した相手に向けて、生物の骨格はおろか金属をも破壊するほどの威力を持っているインナーマウスと呼ばれる
第二の顎で、腕や頸元に、次々と噛み付く。
噛み付かれた住民は、絶叫を発し、明確な指示はないがすぐ側にいた住民が、
引き剥がし作業に取り掛かり、乱闘する。
「衛生兵っ!!」 「畜生っ 助けてくれっ!!」 「糞鬼獣がっ!!」
あちらこちらで、もだえ苦しむ住民が出始めた。
しかし、誰一人逃げだそうとする住民はいない。




