五話
「酒井、武部、発注商品確認したから店に運んでくれ」
尚文露店主は、酒井と武部と言う名の店員を呼びながら、ノートPCの入力を
終えた。
鍛え上げられた身体をした、二名の男性店員は別の台車に発注商品を
載せていく。
「おう、兄ちゃん、次はこっちに来てくれ」
尚文露店主が固まっている彼にそう告げる。
「・・・わかりました」
短く応えると、彼は露店主の後をついていく。
「あの・・・店長、ちょっと尋ねようと思っていたんですが」
彼は、その後を付いて行きながら尋ねた
「何だ?」
尚文露店主が少し立ち止まって応える。
「この店の従業員で全体で何人いるのかなぁ・・・と」
彼がそう質問した。
この店で雇用されて、まだ時間が立っていないためもあるが、今一何人の従業員がいるのか把握出来てなかった。
彼が見た所、一〇名~二〇名ほどはいる事は分かっているが、どうしても積極的にコミュニケーションが取れない。
店内で会う店員1人1人の醸し出している雰囲気が、異質なのだ。
そう、この世界に紛れ込んで見てきた住民とはまた違う雰囲気なのだ。
「何だ、そんな事か。一個分隊7名で、一個小隊が本部4名と、4個分隊だから32名。それがおおよそ60個あって定数に対する配備率が8割位だから・・・
ざっと1500人だ」
尚文露店主が応えた。
「・・・・へ?」
彼はそう告げた。
「人材を有効に使っていなかった連中から、いささか強引にスカウトして引き抜いたから質は優れているぞ、兄ちゃん。
日本全国のやくざ組織に所属していた精鋭の組員、警視庁の警備部や公安、
SATに機動隊、SPに所属していた凄腕の奴らとか、あと捜査関係者も
スカウトしてやったよ。
当時の警察上層部の連中からは、「やめてくれ」って懇願してきたが、
「鬼獣に日本全土が侵略されても殺人なんかの捜査は続けるつもりなのか」と
尋ねたら、泣く泣く寄越してくれた」
尚文露店主は、ポケットから袋に入ったちくわを取り出すると、袋を開けてちくわを咀嚼しながら応えた。
「・・・・・・」
彼は、あまりにも想像出来ない応えに絶句する。
「他にも、自衛隊ーーーおっと、今は国防軍か。そこから、空挺やレンジャー、
特殊作戦群にしていた猛者どもだ。こっちも似たような事言われたが、
「ぐだぐた 言っている間に、日本全土が鬼獣の勢力下なるぞ。それが嫌なら、
言われた通りに 人材寄こしな。
俺が良いように使ってやる」って言ったら、しぶしぶ納得しやがった。
まぁ、何人かは執拗にクレーム言ってきたから、「丁重」な接客をして納得してもらったが」
尚文露店主は、ちくわを咀嚼をしながらさらに応える。
「(その「丁重」の内容は、聞きたくねぇ・・・)」
彼はそう思った。
少なくとも聞いてはいけない内容であることは間違いないだろう。
「それから、北米、中南米、西欧、北欧、中近東などの諜報機関に所属していた
切れ者揃いの連中を片っ端から引き抜いた。
他にも海外マフィアから優秀な者もスカウトしたな。
あ、さすがに諜報機関とマフィア相手に闘うのは面倒だから、「丁重」に説明したら 大方納得してくれたから助かったよ。
・・・唯一、不満なのが、兄ちゃんみたいに愛想笑いすらもしねぇ事なんだけどなぁ。ここは、諜報機関かマフィアか」
露店主はぶつぶつ文句を呟く。
「(うわぁ・・・どうりで何か違うと思ったんだよ)」
彼の方は、物凄く尋ねた事を後悔した。
「店に詰めている連中は、諜報機関の連中だ。兄ちゃん
他の見当らない店員は、この近隣周辺の戦区の各所で商品受注や戦区の
市場調査に、海外出張の店員は、現地の重火器類商品の製造元との
契約やその現地の「鬼獣」情報に、特別偵察任務を実施している軍の
同伴だーーーー、って、兄ちゃん貌色悪いぞ?」
ようやく、彼の貌色が悪いのに気がついた尚文露天商が心配そうに尋ねてきた。
「(聞かなきゃよかった)」
彼は本気で後悔した
「なぁ、兄ちゃん、ちくわ喰うか? これでも喰って元気出せ」
尚文露店主は、ポケットから袋に入ったちくわを取り出しながら告げてきた。