五十二話
第一艦隊の中でも、さらに修羅場に陥っている船があった。
手野テレビ局の中継艦(?)だ。
その中継艦はミサイル巡洋艦だが、中身は全て中継様に改良している。
元は戦闘指揮所だった場所では、テレビスタッフの喧噪で五月蠅いほどに
なっている。
「報告が二つあります」
淡々とした口調で、男性スタッフが告げてくる。
本社からの緊急連絡以降、硬い表情と姿勢をした現場責任者の男性が、先を
促す。
「一つ目は、残念な事ですが本社からの緊急連絡は遅かったと言うことです。
……視聴率はそう上げられるものでもないですし、仕方ないでしょうな。
ご存じだと思いますが、その艦船は先ほど爆沈しました。ご愁傷様です」
「……そうか……無念だ……」
淡々と言う男性スタッフを、現場責任者の男性は憎々しく睨みつける。
同じ告知をするのでも、もうすこし、思いやった言い回しができないの
だろうか? と思ったのだろ。
「二点目は……我々テレビ局にとって、良い事とも悪い事とも言えるかも
しれません。
第一艦隊は、一時撤退するつもりはなく、このままセイロンに強行する様です」
男性スタッフは、そう言うと、面倒なことを話しているかのように肩を
すくめた。
「何だとっ!?」
現場責任者の男性は叫んだ。
新種鬼獣群の想定外の襲撃で混乱しているのにも関わらず、第一艦隊は進撃を
開始するのだ。
「第一艦隊の指揮官……全艦船が沈められても実行するようです。
指揮官がどのような考えがあるのかはわかりませんが」
淡々と告げてくる。
「……馬鹿な……この状況で作戦を続けるというのかっ!? 誰が見ても
作戦は中止するべきだっ!!」
「心配要りません。本社からはこのまま中継を続けろと連絡が入ってます」
男性スタッフが淡々と告げてくる。
怒りに満ちた眼で、男性スタッフを一別すると、現場責任者の男性は、ただ、
身体を振るわせた。
「本社は、今の状況はどうなんだろうな この状況を中継して……」
怒りの孕んだ声で応える。
「複雑な感情でしょうね。視聴率が上がった、という感情と、新種鬼獣が出現したという絶望的な感情の狭間で揺れているのでは?」
男性スタッフが何を言い出したのか、とっさに理解出来なくて、現場責任者は
きょとんとした。
言葉の意味がわかるにつれ、その現場責任者の男性は何となくわかった。
視聴率が上がって、一瞬歓喜に包まれたが、新種鬼獣の出現に絶望にも似た空気に
本社は包まれているはすだ。
「しかし、ここからがどう判断していくのかは、現場の俺が判断しなきゃ
ならんか」
現場責任者の男性は、参ったと言うように肩をすくめた。
「第一艦隊は、何とかして、作戦を成功させようとするでしょう。
それが出来るかはわかりません。
しかし、我々は視聴率の事は脇に置いておき、常に今の戦況を中継する事では
ないでしようか」
男性スタッフが淡々とした声で告げる。
現場責任者の男性は、しばらく考え込むと、一つ頷いて、意を決した様な表情を
浮かべた。
「そうだな、それが仕事だな」
五十二話は、交流させていただいているしゅれねこ先生の作品
「あなたの未練 お聴きします」の 第八部を参考にさせていただきました。
しゅれねこ先生、ありがとうございました




