四話
梱包材には、もっとも危険な積荷が載せられている。
弾薬、高性能爆薬、雷管、クレイモア地雷、爆破機材、導火線――――
その大半は科学的に安定した物質で、輸送に危険はないが、その商品より
真ん中にショック吸収用スチロールに囲まれて置いてある商品だけは違った。
一般にPETNと略称されている商品だ。
彼はこの商品は、どのような物なのか、はたしてどのような効果があるのかを
尚文露店主や雇用されている店員に尋ねて知れば、腰を抜かすことは間違いない
だろう。
しかし、今のところ、彼は他の店員と交流をしていないので、話しかける様な
事はしていない。
その彼は、尚文露店主と共に、ある商品の確認を行っていた。
尚文露店主は、用意していた釘抜きで木箱の上蓋を開けていた。
釘で硬く梱包されていた上蓋は、手前の三か所目に平たい鉄の棒が入りわずかに
持ち上げられた瞬間、固く閉じられた貝が腱をきられたかのように簡単に
開いた。
中は透明なプラスチック・シートで覆われており、それをかき分けるようにして
手繰ると、油紙に包まれた本体が姿を現した。
「製造元のお国柄にしては、上等な仕事だな、そう思わないか、兄ちゃん」
尚文露店主は、満足した笑みを口の端に浮かべながら尋ねてきた。
もちろん、彼はどう応えていいのかわからないため、愛想笑いを浮かべる。
尚文露店主は、無造作にその包みを破った。
中から現れたのは、旧ソ連によって開発され、安価、簡便かつ効果的である
ため、彼の元の世界では、途上国の軍隊やゲリラ、民兵が好んで使用している
携帯対戦車擲弾発射器、RPGー7の発射筒だった。
「・・・すげぇ」
尚文露店商の肩越しに箱の中身を覗き込むようにしていた彼の口から、息を呑む様な感嘆な呟きが漏れた。
尚文露店主は、持ち歩いていたノートPCを立ち上げて、商品の記入を行なって
いた。
その作業をしながら、尚文露店商の脳裏には四か月前にロシアの製造販売元との
売買契約の手続きが蘇っていた。
現在ロシアは、鬼獣の大群により領土の半分以上を勢力圏におかれており、
その力圏地域は広大であり、ロシア防衛軍は各地で分断され、多くの部隊が壊走している。
ロシアの体制が崩壊一歩手前と共に、財政が危機に瀕したロシア防衛軍は、
幾何かの金を稼ぐ事にしか余裕が無いため、持てる軍備を世界各国の鬼獣防衛軍に開放を行っている。
自動小銃おろか、最高機密の一つとされている最新鋭のジェット戦闘機まで、
金次第で何でも提供しているのだ。
そのような市場は、ロシア各地域の都市部に大々的に開かれている。
尚文露店主は、その中でもモスクワ郊外に開かれている市場に出向いた。
市場の雪原には、今や鬼獣と攻防戦を展開している最前線に送られる事が無く
なった旧式から新型の戦車が大量に放置されていた光景が広がっていた。
その光景を見て、ロシアの大地を奪還する大規模作戦が実施されるのは、まだ
ずいぶん先になるなと思った。
製造販売元やロシア防衛軍の上層部、さらにはロシアの現国家元首に、いつもの
服装ではなく、ダッフルコートに古着屋で購入したジーンズという格好で
訪問し、 単刀直入に尋ねたが、尚文露店主にとっては納得のいく返答は
聞けなかった。
製造販売元やロシア防衛軍の上層部は、金を稼ぐ事にしか余裕がなく、ロシアの
現国家元首に至っては、権力闘争に血路を開いている現状を見れば尚文露店主も
殴りたくもなる。
ずいぶん前の時の、鬼獣の大群からの奪還戦の時も、かなり酷かったが、
今の現状はそれ以上悪いかもしれないと、尚文露店主は思った。
「(あの時は、ちょび髭の伍長と靴職人の息子は、俺の言うことを全て無視しやがったな)」
その様な事を思い出しながら続いて、尚文露店主が幾つかの木箱の蓋を
開けていた。
彼は、もう一度、尚文露店主の肩越しに箱の中身を覗き込むようにして、
固まった。
「(あれ・・・・・なんかどこかの映画で見たことある様な)」
箱を開けられた中身は、彼は何かの映画で見た事のある銃器が収まっていた。
10ミリ口径ケースレス弾100発を装填可能で残弾数がデジタル表示で示される機能があって、外観は樹脂部品を多用しているらしく一体形成部品のフレーム構造、
下部にポンプアクション式の30ミリグレネードランチャーを内蔵しており、
全体的にコンパクトに収められている火器であり、弾薬を発射するのではなく
レーザーパルスを発射するSF銃と言えば知っている人は知っている銃器だ。
某SF映画で宇宙海兵隊の正式採用小銃と言えば、わかりやすいだろう。
彼も幾度か映画作品を見た時に、見覚えがあるはずだ。
もう一つは、こちらもとある映画で携行武器として新開発された最先端兵器として登場した銃器だ。
アルミニウムを使った、ボール状の軽量弾を発射し、弾は亜光速の速度で打ち出され、プラズマ化していると言えば――――、これもわかる人ならわかる銃器だ。
元カリフオルニア知事が出演していた作品内に登場した銃器である。
二つともサイエンス・フィクションなどで登場している武器だが、
この世界では、どうやら開発に成功し市場に販売している様だ。
その木箱には値札が貼ってあり、一つは30円、もう一つには25円と貼られている。