三十九話
鬼獣に対する憎悪と殺意を高ぶらせ、激戦が続く17地区へ向かう人々、
仕事を放り出して、隔絶地域奪還作戦へと向かう人々で他地区は混乱の巷と化しつつあった。
道路と並んで一際混乱に拍車がかかったのが、一部の交戦地域に対しての
「攻撃停止命令」と、その交戦地域へと向かえる一部交通機関などに対しての「移動停止命令」だ。
JR線9地区駅――――
防衛軍の拠点の一つであると同時に、 ****線と****線の分岐点という交通の
要衝に位置する駅では、殺気だった乗客が駅員と銃撃戦でも始めるのかと思わせるほどの状況になっていた。
駅の改札口とみどりの窓口は全面的に閉鎖され、自動券売機も消灯している。
改札口の前に立てられた看板には、『****線、****線、****線は、現在国防
本部の要請により運転を中止しております』の文字が、マジックで黒々と
書かれている。
「全面運休とはどういうことだっ!? この戦時に列車の運行を止めるとは、
いったいJRと国防軍は、何を考えてやがるんだっ!!」
改札口の前を埋め尽くしている、迷彩服と重火器類で武装した大群衆の前で
一人の中年男性が、人々を代表する形で駅員に食ってかかっている。
「大変申し訳ありません。私どもとしても、どうすることもできないのです。
何しろJR本社と日本国防軍から、運行停止命令が通達されていますので」
何処か人の良さそうな初老の駅員が同じ詫び文句を何度も何度も
繰り返しながら、頭を下げ続けている。
「おいっ、いつその命令が解除されるんだっ!!」
中年男性が怒気を孕ませた声で告げる。
「そうよ、いつ電車をだしてくれるのよ!!」
中年男性に便乗する格好で、M67 90mm無反動砲を担いだ若いOLが避難の声を
張り上げた。
「俺の家族が17地区にいるんだ。家族をあきらめろってか!!」
ベレッタAR70/90を持った学生らしき男性が声を荒げる。
「いつ17地区が鬼獣によって蹂躙されるかわからないんだぞっ!!」
M16自動小銃を持った男性が同じように声を荒げる。
「JRと国防軍は17地区を見捨てるつもりかっ!!」
AR-10を持った男性が怒気を孕んだ声で告げる。
「申し訳ありません。本当に申し訳ありません・・・、とにかくJR本社と国防軍
からの命令がない限り、電車を動かす事が出来ない状態で・・・」
駅員は、ただひたすら頭を下げ続ける。
もちろん、そうやって乗客の怒りを静められるとは思ってはいないが、他に
為すべきことは思い浮かばなかった。
「んな命令なんかどうでもいいだろうがっ、今こうしている間にも
17地区では鬼獣の蹂躙受けているんだぞっ!命令なんて無視してさっさと運べ
馬鹿野郎!! 」
RPG-7を担ついだ青年が叫んだ。
「それは・・・・!!」
思わず言い返そうとして、駅員は言葉をぐっと喉の奥に呑み込んだ。
鉄道や鬼獣との交戦の影響で、交通が乱れて非難するのはまだいい。
鬼獣に関しての戦闘に詳しい戦闘狂と呼ばれるほど詳しい人であれば、
このような無理難題は決していわない。
一番たちの悪いのが、こういう中途半端な鬼獣の知識と実戦経験を持つ輩だ。
ろくに劣悪な戦闘経験も体験していないくせに、自分の乏しい鬼獣知識を絶対の
ものとして、的外れな非難をしてくるからだ。
日本国内での「ファーストコンタクト」以降、鬼獣交戦教育は行われているが、
それでも一握りにこの様な輩がいる。
駅員はJR本社は、いったいなぜ国防軍の要請に従ったのか疑問を感じだ。
そして、一刻も早くこの命令が解除されることを切に願った。




