三話
台車から手榴弾が入った木箱を全て下し終えるとほぼ同時に、尚文露店主に
話しかけられた。
「あ、兄ちゃん、ちょっと商品確認したい事があるから、一緒に来てくれ」
尚文露店主は、そう告げてくる。
「あ、はい」
彼は、短く返答した。
尚文露店主は彼を引き連れて、店の奥にある倉庫までやってきた。
「(この店の倉庫って、幾つあるんだろ・・・)」
彼は、そう疑問に思いながら尚文露店主と共に、倉庫内に入る。
倉庫内は、彼が先ほど手榴弾を出してきた倉庫よりも、ガン・オイルと加工された金属、硫黄と火薬、恐怖と死の臭いが充満していた。
その死の臭いの原因元は、入った直後に彼の視界に飛び込んできた大量の
武器と弾薬だ。
武器と弾薬は梱包材に詰められ、幾つかの蓋が外されていたが、どうやら蓋を
外していたのは、倉庫内で忙しそうに動き回り商品を確認している、この露店主に雇用された店員達であり、1人1人の店員達の動きは機敏だ。
迷彩服はもちろんのこと鍛え上げられた身体だが、彼でも本能的に感じ取れた。
一癖も二癖もありそうな店員達である。
そして、この場で迷彩服ではないのは、尚文露店主と彼だけだ。
また、その店員達は左腕に白い腕章を巻きつけているのが見えた。
どうやら、それが店員の目印となっている様だ。
その店員達は、尚文露店主の姿を見ると、軽く会釈をして作業を続ける。
「(・・・・こんな物量は、映画とかでしか見た事ないぞ)」
あまりの物騒な物が大量に保管されている光景を見て、背中に冷たい汗が
流れ落ちた。
「店長、ちょっと尋ねたい事があるんですが」
ある男性店員が、商品リストが書かれたメモ用紙を持ってきて尋ねてくる。
「おう、何だ?」
尚文露店商は、眉間を顰め、やや困り顔で視線を右往から左往へと移ろわしながら応える。
「赤外線追尾方式のスティンガー対空ミサイルの入った箱ってどれですか?」
メモ用紙を一瞥しながら、尋ねてくる。
「あー、あの商品か・・・、今、在庫が無いんだ」
尚文露店商が、素気のないような返答をする。
「わかりました、何時頃入荷しますか?」
男性店員が尋ねる。
「早くて一週間、遅くても二週間後に米国のテネシーから送られてくるはずだ。
まぁ、あの辺りも米国国内で1、2を争う激戦区だから、かなり時間はかかるが・・・。
南米解放作戦「聖剣」から帰還した直後の部隊に、直接売買契約をいささか強引に成立させといて良かったよ」
尚文露店商は、はっはっはっと笑いながら応える。
「・・・・まさか、以前来られたあの白人2人組は、この関係者ですか」
その男性店員は、何かその事情を知っているのか貌をいささか蒼白くさせな
がら尋ねた。
「まぁ、気にするな――――お、兄ちゃん、待たせたな」
尚文露店商は、屈託のない笑みを浮かべながら彼に告げてくる。
「(俺は、その辺の裏事情は、知りたくもないし、聞きたくもない)」
彼は、そう思った。