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三十七話

 


尚文露店主が鬼獣群と激しい戦闘を展開している頃……

 隔絶している戦闘地域に進軍している増援住民、国防軍並び日本決死隊は、

『ソルジャー』と『イントゥルーダー』から成る鬼獣群の猛攻撃にさらされて

いた。

 その圧倒的な個体数を目の当たりにした彼等は、自力での敵勢力の排除を

不可能と判断。

 本部による砲弾支援を要請し、その援護を今か今かと待ちわびていた。

 だが、そこに本部からの理不尽とも思える命令が下される。 


「(「トロール」 こちら 「アゲハチョウ」 現状は了解した。

 だが本部命令によりこれ以上、この地域に航空支援は行えない。

 本部命令に従ってくれ アウト)」

 ひどい雑音の混じるその音声を聞くなり、日本決死隊の男性隊長は思わず罵り声をあげそうになった。

 「(――おまえら、何を考えている!?俺達にこのまま死ねと?)」

襲い来る鬼獣の大群は、増援住民や国防軍、並びに日本決死隊による必死の猛射撃を浴びながらも、尽きることなく突撃を繰り返してくる。

 どう考えても、このままでは持ち応えられない。




「こちら 「トロール」。 本部、砲撃支援を要求する!! オーバー」

 ここで引き下がれば、自分は愚か今必死で戦っている仲間達の命が危うい。

 隊長は携帯無線機を砕けんばかりに握り締め、必死の形相で食い下がる。

 その顔は青褪め、手は水にでも触れたかのように汗ばんでいた。




「(「トロール」、こちら本部だ。 繰り返す。

 砲撃支援は行えない。

 命令通りその場所に停止し、交戦を出来る限り控えろ。 アウト)」

 だが、返ってきた答えはまるで同じ。

 血肉を持った存在が放っているとも思えないほど感情が窺えないその声に、

日本決死隊の男性隊長は思わずおのれの耳を疑った。




「こちら 「トロール」 おい、本部!

 ここがどれだけの激戦なのかわかっているのかっ!!

 ふざけるな! どうしても砲弾支援が出来ないというなら、お前がここに来て

戦え! この冷血漢の鬼獣野郎!!」

 もはや自分達が見捨てられたことを悟った日本決死隊の男性隊長は、無線機を

握り締めて言葉の続く限りの罵声を浴びせる。

 だが、本部の通信員はただ沈黙を保ち、彼の望みに答えようとはしなかった。

いや、返答は返ってきたが、雑音に混じりながら淡々と「進軍停止」を繰り返すだけだった。




「頼むよ……見殺しにしないでくれ……頼む……頼む……」

 日本決死隊の男性隊長は、鬼気迫る様な声でもう一度告げる。

だが、その必死の声を握りつぶし、本部の通信員は「進軍停止だ」ともう一度繰り返し、一方的に通信を切った。

最後に聞いたプツリという小さな音は、天から伸びた蜘蛛の糸だろうか。

 それとも、天国のドアが閉ざされた音だろうか。

「なぜ……なぜ助けてくれない?

どうして、その理由すらも教えてくれないんだ?

 俺達に、理由も聞かずにただ死ねというのか!?……チクショウ、外道が!!

野郎共、出るぞ。

 この地獄を越えたら、本部のヤツラを張り飛ばして無能なくず野郎と罵ってやる!!」

日本決死隊の男性隊長はそう叫んだ。




そしてその頃、現場はまさに地獄のような光景が広がっていた。

「( こちら「ハリネズミ」っ、100メートル先より新手の『ソルジャー』

出現!! 手榴弾投げろっ、手榴弾!!)」

 他地区の増援住民の一人が無線機を握り締め、喉から血を吐きそうな聞き取りにくいダミ声を張り上げて必死に叫ぶ。

 だが、鬼獣「ソルジャー」の動きは素早い。

 彼等の狩りはサバンナで狩りを行うヒョウにも似ており、そんな敵に爆発までタイムラグのある手榴弾を命中させるのは至難のわざと言っても良いだろう。

「(「ハリネズミ」へ! こちら「トナカイ」!! 弾薬の予備がすべて

切れた!!

もう少しまともな指示を出せ、このド素人!!)」




戦場で飛び交うのは、何も罵声ばかりではない。

「(こちら「ハンター」。 「アウトロー」へ! 『イントゥルーダー』の排除

完了っ!! 座標 **** ****   だ!

 おい、後で喫茶店『しゅれねこ』のオムライスをおごれよ! オーバー」

「(こちら「アウトロー」。 「ハンター」確認した。

 生きて帰ったら幾らでも奢ってやるよ!! そのままヘマせずに戻って来い! アウト」

他地区からの増援住民の一人が無線で告げる。

中にはこんな力強い返答が帰ってくることもあったが、その多くは芳しくない内容ばかりだ。 




 雑音混じりの無線機から聞こえるのは、激しい発砲音と怒号と何を言っているのかもはや判別すら出来ない罵声や悲鳴、その中には恋人の名や妻の名を叫ぶ

声もある。

手持ちの弾薬は残り少ないが、鬼獣群の数は一向に減りそうになかった。

鬼獣の大群は、銃弾を浴びようが手榴弾で吹っ飛ばされようが、何事も無かった

かのように仲間の死体を踏み越えて突っ込んでくる。

それでも彼等は闘い続ける事しかできない――――

彼等の待ち焦がれている砲弾支援が、もはや行われることが無くても。

今のご時世、全世界が戦時下であり、逃げる場所も非戦闘員も存在しない。

この地球上にいる全ての人類は等しく戦闘員である。



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