三十二話
17地区上空では、ガンシップ・プロジェクトIIに基づいてロッキードC-130 ハーキュリーズに武装を施した機体、AC-130が悠々と飛行していた。
その機体は、痛車よろしくアニメ作品内で登場する魔法少女の塗装を施し
ている。
恐らく民間機で間違いない。
AC-130に乗り込んでいる搭乗員の1人が、尚文露店商から渋々購入した
「精神薄弱料理」と呼称されているレーションを咀嚼していた。
「ぐへぇ……まっずい」
40mm機関砲担当搭乗員は呻く様に呟く。
だが、それでも「精神薄弱料理」と呼称されているレーションを咀嚼を
やめない。
人間が生きるのに必要な栄養素がぎっしり詰まっているレーションだが、味は
強烈な酸味+強烈な苦みという、食べるには勇気がいるレーションだ。
搭乗員は、鼻をつまみ、次に前歯で噛まずに奥歯ですりつぶしてはやいうちに
喉の奥に流し込むという咀嚼をひたすら行なう。
あまりのまずさに吐きそうになるが、吐けば我慢した意味が無くなるため、
喉元までせり上がってきた物体を無理矢理飲み下す。
ここで吐けば、もし何かのトラブルで地上に降りる事になれれば、泥水を
啜るという極限状況のサバイバルをしなくてはならない。
「地上部隊は、かなり苦戦しているみたいだな」
副操縦士の男性が緊張した表情を浮かべながら尋ねる。
「だから俺達の力が必要なのさ」
操縦士の男性が静かに応える。
現に地上部隊の通信の全てが逼迫した状況を如実に語っていた。
「(「イフリート」 こちら「フェニックス」っ、前方より中型鬼獣
「イントゥルーダー」が出現っ!!数が多い!!)」
雑音混じりの無線から悲痛な声と激しい銃撃音、そして鬼獣の金切り声が
流れる。
「(「イフリート」 こちら「グリズリー」っ、味方が負傷したっ、
繰り返すっ、味方が負傷したっ、至急救助を要請する、オーバー!)」
雑音混じりの無線から、さらに悲痛な声が聞こえる。
「(「グリズリー」 こちら「イフリート」、救助は出来ない、そちらで何とか
しろっ、アウト!)」
無慈悲な返答が返された。
「( 「エレンメタル」っ、繰り返す、「エレンメタル」っ、いますぐ制圧射撃だっ、弾薬を惜しむなっ!!)」
誰かが怒鳴るように告げる。
その周囲で戦闘を続けている住民が複数いるのだろう。
「負傷者が出たぞっ!!」 「畜生、こんな事になるんだったら、プロポース
をするんだった」・・・と言った声も聞こえる。
「(こちら「エレメンタル」っ、弾薬が底をついたっ!! 誰が弾薬を分けてくれっ!! アウト)」
激しい銃撃音と共に、怒鳴り散らす様に返答が返される。
「(こちら「サイクロン」っ、もう無理だっ、四方八方から鬼獣が寄ってくるっ、
こんなのどうする事もできねぇぇぇぇぇっ!!)」
絶望的な声と共に、絶叫が無線から流れる。
その絶叫は、一度聞けば耳からしばらくは離れないだろう。
「(「サイクロン」、こちら「イフリート」っ、弱音を吐くなっ、この時勢で
誰一人闘いからは逃れる事は出来ないっ!!闘え!!)」
そう応答が流れた。
この三十二話は、一部を交流させていだだいているcrow先生の作品
「鋼鉄の夢」の第三話「移動」を、ご許可を頂いて参考させて頂きました。
ありがとうございました