十二話
17地区の中心部から大通り地帯は、局地的鬼獣警報が発令されて以降、激戦区の一つと化していた。
「鬼獣」群が包囲している緊急防衛指定場所へ向かうには、ここが重要地点
だった。
近隣地区からは、すでに約一万人規模の緊急増援部隊が死闘を演じていた。
17地区の住民もビルやマンション、また民家からコンビニなどで売り出されている、ありとあらゆる重火器類で攻勢を続けている。
ありとあらゆる重火器類が唸り声を発し、銃弾が「鬼獣」群に降りそそい
でいるが、ばたばたと倒れる「鬼獣」群の後から後から群れが続いていた。
17地区にある全てのコンビニ店は、重火器類を購入する客で軒並み混雑も
しており、異様な熱気に包まれている。
自動小銃が乱射され、機関銃が唸り声を発する音が繰り返し行われる。
その激しい戦闘が行われている場所に行進している、近隣地区からの増援部隊に
混じって、ハーレーダビッドソン・VRSCに跨って転がしている尚文露店主の
姿が存在していた。
迷彩服を着込んでいる住民が多い中、派手なアロハシャツという姿は否応なしに
目立つ。
ハーレーダビッドソン・VRSCを転がしている尚文露店主は、慎重なバイク
運転捌きに集中しながら、その一方で右耳に差し込んでいるイヤホンから
流れてくる情報に同じくらい注意を払っていた。
口の中で咀嚼しているちくわをせわしなく噛む露店主の筋肉が一定のリズムで
収縮を繰り返していた。
日本国内での「ファーストコンタクト」発生後からこの街にやってきて数年、
尚文露店主にとっては慣れた場所だ。
平時なら、充分なスペースを設けられた露店で接客をしているが、局地的鬼獣
警報が発令すれば、のんびりと店にいるわけにもいかない。
「グランド・ゼロ」前から世界の裏側で暗躍し、幾多の出来事を経験した
尚文露店主にとって、この様な修羅場は慣れている。
―――――もっとも、尚文真一郎露店主が裏社会から表社会に颯爽と姿を現し、大手を振って現す事が出来たのも鬼獣群による「グランド・ゼロ」の影響だ。
そのアロハシャツの尚文露店主の姿が気になる増援部隊の住民は、何やら話し込んでいる。
「おい、18地区の露店主がなんでいるんだ?」
携帯を弄っていた男性が隣の男性に尋ねる。
「どうみても配達だろ? 背中にリュック背負っているからしてな」
ガムを噛んでいる男性が、尚文露店主に視線を向けながら応える。
「小型核兵器とかじゃないよな、あれ」
携帯を弄っていた男性が、若干心配した表情を浮かべながら尋ねた。
「さあな・・・・小型核兵器は別として、あの露店主は常識ではとうてい考えも
つかない事を平気でするし売りつける露店主だ」
ガムを噛んでいた男性が僅かに肩をすくめるように応える。
「でもよ、そんなもの注文しても何処でどう逆立ちしても使うわけにはいかないんだろ? もしやるんだったら危険を覚悟で使うしか手はないな」
携帯を弄っていた男性が真顔で告げる。
そう会話を続けている間に、アロハシャツ姿の尚文露店主はバイクを転がして、
颯爽と走り去っていく。