心機一転性格変貌
微妙な情に気づけない人を
雑なやつだと思っちゃう
でもきっと相手も同じ気持ち
隠しながら笑ってるよ
「そういえば藤川君ってものすごく明るい性格だよね~」
俺はよくこう言われることがある。
まあ自分でも認めていることだし、悪いことでもないから否定はしないんだけどね。
でも、俺は必ずこう答えるようにしている。
「昔は本当根暗だったんだよ。」
すると、
「え~っ、絶対嘘じゃんwwww」
まあこんな具合。本当に根暗だったんだけどね。
でも別に誤解を解こうとなんて思わない。
自分の過去をどう思われようと構わないわけだし。
でも同時に、誰かに自分の過去について聞いてもらいたい気持ちもあるわけで。
それだからお前らだけに特別に過去の話でもしよっかな。
せっかく話すんだからちゃんと聞いてくれよな!
・
・
・
俺は田舎の貧相な家庭に一人息子として身を授かった。
母親につけてもらった名前は【藤川智明】
そんな俺は生まれつき社交的な人ではなかった。
物心ついた時にはすでに父親はいなかった。
死別ではなく離婚。どうやらパチンコのしすぎで借金をこしらえてしまったらしい。
祖母は元気だったが祖父はとっくの昔に他界してしまったらしい。
ゆえに家庭には俺を除いて男性はいなかったのだ。
3歳くらいの時から保育園の通いだした。
この時おそらく初めて男児というものと接したと思う。
しかし、人と接することが苦手だったのと、男性に極端に慣れていなかったことから友達というものは皆無だった。
いつも自由時間は砂場でただ一人佇んで、絵本の読み聞かせの時も昼寝の時も何をするのも1人と所謂ぼっちだった。
そんな寂しい日常を過ごすこと約1年、小さな転機が訪れた。
ひょんな事から同じ保育園の子と仲良くなったのだ。
その子の名前は田中聡君。
田中君も積極的に人と話すような人じゃなかったけど、なぜか俺とだけは仲良くしてた。
外で遊ぶ時も中で遊ぶ時も彼と2人いることが多くなった。
そんな感じで中睦まじいまま卒園した。
小学校は2人とも同じだったが、クラスが違ったのでちょっとだけ疎遠になった。
田中君は新しいクラスに馴染んで、新しい友達をたくさん作っていた。
一方の俺は、完全なぼっちではないものの、友達の輪にはなかなか入れなかった。
それなりに仲良くできる人もいる反面、小さなイジメなんてものもあった。
上履きを隠されるなんてありがちなものから、荷物を溝に捨てられるというちょっと笑えないものまで。
そんな中慰めてくれたのは紛れもなく田中君だった。
正直、友達の多い田中君に嫉妬心を抱く反面、いつもいつも心の拠り所となっていたので、感謝の気持ちもあった。
そんなこんなで小学1年生は孤独の多いけど助けてくれる人もいるそんな1年だった。
しかし、その翌年、俺の心を根こそぎ抉りとるような事件が起きた。
2年になっても田中君と同じクラスにはなれなかった。
しかし2人は少ないながらもやりとりを続けてきた。
俺もいつか彼のために何かしてあげたいと思って、ちょっと社交的になろうと努めた。
精神的に強い人間になればきっと彼を助けれると思ったからだ。
2年生になって少しずつではあるが人との会話をするよう心がけた。
すると、助けたいという使命感以外だけでなく、楽しいと思う気持ちが若干芽生えてみた。
そんな矢先、
風の噂で田中君の転校が伝えられた。
伝えられた時は本当に時が止まったんじゃないかとさえ思えてしまった。
彼の転校はそのまま自分の核を失ったのと同義だからだ。
もう正直彼がいなくなると誰に従い誰について誰と仲良くすればいいのかすらも分からなかった。
純粋に大親友一人を失ったのではない。
親友友達全部を失ったことと等しいのだ。
今までクラスメイトと接するように努力してきたが、それも全部田中君の事を思っての行動だった。
それが全部無駄骨となってしまった。
そこは別にいいのだが、やっぱり離れてしまう事実があまりにも辛すぎる。
田中君の転校まで残り3日となってしまった。
未だに俺は彼と話ができていない。
理由は転校するという真実をいまだに受け入れられないからだ。
放課後俺は一人クラスの教室に佇んでいた。
どうせ友なんて呼ぶに等しい人は誰ひとりといなくなるんだから帰ればいいのだが、家にも誰もおらず結局どこにいても一緒なのだ。
すると、教室の外から俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あーっ!藤川君じゃん久しぶり。」
その声の主は紛れもなく田中君だった。
彼の顔はまぶしいほどの笑顔で、その声にはいっさいの淀みがなかった。
「その…田中君話があるんだけど。」
「うん、だいたいわかるよ。ごめんね。」
田中君曰く、親の結婚で遠くに引越しをするとか。
それがあまりにも突然のことだったので、みんなに知らせるのもこんなに切羽詰まった時になってしまったらしい。
「ごめんね藤川君。たぶんもう会えないよ。」
小学生ながら薄々感づいていたことをはっきりと彼の口から告げられた。
もしかしたらこの時が一番ショックだったのかもしれない。
ああ、何もかもが終わったんだな。と幼心ながらも思い、心の中で何かが切れたような音がした。
その後彼らが言葉を交わすことはなかった。
田中君がいなくなるその日、彼のクラスでは盛大にお別れ会が開かれていた。
勿論、他クラスの俺がパーティーに参加する術はない。
結局、彼が旅立つその瞬間まで、俺は遠目で見るのが限界だった。
親の死に目に立ち会えなかった子供の気持ち・・・極端に言えばそんな心境だった。
田中君が突如消えて数週間、俺の周りには人はいなかった。
正しく言うと、人はいるのだが仲睦まじく話せる友達と呼べる人がいない。
田中君への未練はなるべく断つように心掛けた。
もちろんまだ心のどこかに彼のことが残ってはいるが、なるべく新たな一歩を踏み出すようプラスに振舞っている。
それはいいのだが、ポッカリと空いた田中君の穴を埋める友達が現れないのだ。
もともと人と接するのが苦手な俺は、田中君の代替人物を自発的に見つけることが困難なのだ。
そして向こう側も負のオーラを醸し出している俺に気さくに声をかけようなどという気は毛頭ないはずだ。
ゆえに話のできるクラスメイトは最高でも【知人】程度だった。
そんな感じで2年生の時は喜怒哀楽の感情が存在しない空虚の1年を過ごした。
そんな味気のない生活は、3年生の6月に終止符を打った。
運のいいことに友達ができたのだ。
キッカケは下校中。たまたま家路が同じだったので一緒に帰るとこから始まった。
彼の名前は小林孝明。サッカークラブに所属しておりスポーツ万能なので名前が学年中に広まっているくらいだ。
そんな彼と仲良くできるのはどこか誇らしいところがあった。
彼の性格はとても優しく、話し手としても聞き手としても万能であったため、すぐに俺は心を開いた。
彼と仲良くなってからは世界がガラッと変わった。
学校でも人並みとはいかないけど話をするようになった。
2年の初めに人と接する努力をしていたのが功を奏したのか、会話に入ることはさほど苦ではなかった。
3年になってからの約1年は本当にバラ色の人生だった。
小学4年生になった。
なんと新しいクラスでは小林君と同じクラスになれた。
4年生というと少しだけ大人になったような気がする。
それは、小学校に通いだして4年目というのもあるし、4年生の時に10歳を迎えるというのもあるが、それより以前よりはるかに話せるようになったことが大きいらしい。
実際に4年生というのは小学生の中では折り返し地点を突破し、中学年と呼ばれる立場となった。
義務教育も4年目に突入すると、いやでも人間は成長する。
例えば、1年生の時に自分の我だけを通そうとしていた人も、4年生になると他人の意見を尊重するようになり、
昔はひらがなすらまともに読めなかった子が、4年生にもなるとある程度難解な漢字だって読んじゃったり。
ただ、成長というのは必ずしも正の方向に働くとは限らない。
例えば教師の目をかいくぐることだって上手くなる。
人によっては反抗をしてみたりするものも。
更にはいじめなんてものが激化することもある。
4年生の新しいクラスは、幸いなことにまだいじめは存在しなかった。
その代わり、すでに男子の中である程度の序列というものができていた。
序列の上の者が下の者に何か手出しをするということはなかったが、下の人は上の人に確実に萎縮していた。
もちろん少し話せるようになった程度の俺が序列の上に行けるはずもなく、知らない間に最下位層を漂っていた。
そんな中でも俺と小林君との仲に亀裂は入らずにそれなりに楽しい日々を過ごしていた。
そんなある日の帰り道、小林君が唐突にこんなことを言い出した。
「絶好って言葉知ってる?」
「?」
いきなりの発言に意味がわからずに首をかしげてると、小林君は自らの両手の人差し指の先端をあわせ、俺の前に出した。
「この両指が2人の絆で、これが切れると2人の縁も切れるんだって~。」
と、いきなり物騒なことを言い始めた。
「藤川君は切っちゃう?」
「切るわけないじゃん…。」
「まあそうだよね!」
このやりとりはすぐに終止符を打った。
別に絶縁するわけでもなく、仲良く帰宅した。
この時のやりとりが、のちに自分を苦しめることになることも知らずに。
この後も何日かに1回小林君は絶好という単語に触れてきた。
彼曰く2人の絆の深さを知るものさしみたいなものらしい。
しかしその絆確認が徐々に道をそれてきた。
「ちょっと藤川君宿題見せて~」
3時間目の算数の授業の前に小林君がそう言ってきた。
その時すぐに見せてあげればよかったのだが、俺は何となくそれを躊躇ってしまったのだ。
「え~。すぐ終わるし自分でやればいいじゃん。」
ちょっと冷徹な言葉をかけ過ぎてしまったと反省してた矢先、
「見せてくれないと絶交だよ。」
いつも通り両人差し指を合わせ俺の前に持ってきた。
今回は絆の確認なんてやさしいものではなく、俺を従わせる凶器として。
仕方がなく宿題を見せることにした。
(あれ・・・俺なんか怒らせるようなことしたかな?)
考えても答えは出てこないし、それ以前に小林君が起こっているそぶりを見せていないので、深く考えないことにした。
こういう脅し的なものは今回限りではなかった。
何か事あるごとに「絶交するから。」といい、合わせた人差し指を突きだしてくる。
別に切らなければいいのだが、その時は強引に切り離して絶交した!などと言ってくる。
そんなある日の昼休み、小林君と俺を含めた大勢の男子児童は、校庭でサッカーをしていた。
半ば遊びだったため、普通に制服でやっていたのだが、走っているときにうっかりハンカチを落としてしまった。
落としたハンカチを拾いに行こうとすると、先に俺のハンカチを拾ってくれた人がいた。
その人は小林君だった。
「あ、ありがとう小林君!」
そう言って彼のもとへと駆け寄ると、なぜか彼は全速力で俺がいる方向とは逆の方向に走り始めた。
前述にもあるように、彼はスポーツ万能なので運動神経がいい。
対して俺は、お世辞にも運動ができるとは言えない。
よって、俺は必死になって小林君を追いかけるも、差はどんどん広がるばかりであった。
ゼエゼエと息を切らして立ち止まると、その無様な姿を嘲け笑うかのように目の前に立っていた。
そして、俺がハンカチを奪い返そうとすると、彼は、ハンカチを持ったほうの手を上に高く上げ、とれないようにした。
「返してほしければ自力で取れよ。」
「いやでも・・・」
「そもそも取ってあげたんだから感謝の言葉があるんじゃないの?それなしに返してもらおうとしている訳?」
その意見は至極聖論であった。
俺は、やってもらった優しき行いを当たり前のように受け止めたのだ。
それでは相手の逆鱗に触れるのも無理はないのかもしれない。
「ハンカチを拾ってくれてありがとう。あと、返して。」
「返してくださいじゃないの?」
「返して・・・ください。」
「どうしよっかなぁ・・・」
ここで小林君は一呼吸おいて、
「やっぱやーめた~!」
といって返してくれなかった。
小林君から発せられた予想外の返答に内心戸惑い、返してもらうためについ手を出してしまった。
それは殴るとかいう暴力ではなく、ただ強引にハンカチをつかむというだけの行為。
しかし、その過程において誤って左手の爪が小林君の目を掠めてしまったのだ。
「だ、大丈夫?」
目に涙を浮かべて蹲る小林君とその周りを取り囲む男子たち
もちろん俺は非難の的となり、多くの人に責め立てられた。
思わず俺もその場で泣いてしまった。
カオスになった現場は颯爽と駆けつけてくれた先生たちの手によってなんとか収拾がついた。
放課後になると、俺と小林君は生活指導の先生に呼び出された。
「昼休みに何があったのか説明できる。」
あくまで優しく諭すように先生は俺たちに話しかけてきた。
先に口を開いたのは小林君。
「藤川君に目を突かれました。」
とだけ言ってあとは黙っていた。
まさか話を断片的にしか話さないとは思ってもいなかったので、俺は驚いていた。
「それは藤川君、本当なのかな?」
本当か嘘かと問われたら本当だ。
ただ、それが全部ではない。
「確かに僕は小林君の目を突いてしまいました。それと・・・」
続きを離そうとした時、隣の小林君からの鋭い視線が飛んできた。
まるで何かを訴えているような、でも、何を訴えているのかは理解できなかった。
「それと?何があったの?」
先生が催促してきたので話を続けることに。
「それと、最初に小林君が僕の落としたハンカチを返してくれなかったんです。」
「それは本当なの?」
ちょっと語気を強くして先生は小林君に問いただした。
「放蕩だとしたらとても悪いことだよ?」
先生がそういうと、小林君は無言のまま下を向き続けていた。
その眼には涙が溜まっており、今にも溢れこぼれそうだった。
「どうしてそんな酷いことをしたのかな?」
先生は問うが、彼は答える気は毛頭ないらしく延々と黙っていた。
結局この後グダグダとお説教が続き、配慮が足りなかっただの喧嘩両成敗だのという単語が出てきて、お互いが謝罪して解放されたのが、先生に呼び出されてから1時間過ぎくらいのことだった。
さすがにこの日は一緒に帰るとはならず、俺が学校でちょっと待機しておくという形で帰宅時間をずらした。
次の日、朝早くに登校すると、教室には小林君が一人席に座っていた。
俺はややためらいつつも教室に入り、挨拶を交わした。
「小林君、おはよう。」
大して彼から言葉は発せられなかった。
しばしの沈黙が続いたが、その沈黙を破ったのは小林君だった。
彼は憎悪の念をこらえながらこう言った。
「なんで昨日先生に正直に話したのさ。」
「そりゃあだって…先生が話せって言うからさ。」
「てことは藤川君は俺よりも先生のほうが大事ってわけね。」
「い、いや、そういう意味じゃなくて!」
展開が急すぎてついていけていなかったが、とりあえずマズいことだけは把握できた。
「これはもう問答無用で絶交だよね。」
「ちょっと待ってよ!そんなの酷いよ。」
「酷くないよ。だって藤川君は俺を見捨てて先生を取ったわけだから。」
「いや、だって正直に答えなきゃだめじゃん・・・」
「なんで?俺を助けるための嘘はつけなかった訳?」
「嘘つくのはよくないよ・・・」
「やっぱり藤川君は俺をその程度にしか見れてなかったってわけだね。仕方ないから絶交だよ。」
「そ、そんなの嫌だ。」
「じゃあ、罰を与えるからそれで許してあげるよ。」
そういうと、小林君は俺の了承を得ないまま罰を実行に移した。
今思えば、何か暴力に訴えたかっただけなんだろうけど。
急に俺の背後にまわってきて、首をわしづかみにして爪を立てた。
激痛が走ったが、親友を一人失うことを考えたら安い代償だ。
幸い流血することもなく、ただ痛いで俺の罰は幕を閉じた。
(今度からはなんとしてでも嫌われないようにしないと。でも、俺の何が悪かったんだろうか?従順に従えばそれでいいのかな?)
それならたやすい話だと俺は思った。なぜなら抗うことをやめるだけで仲がいいという関係は延々と続くと思ったからだ。
しかし現実はそう甘くなかった。
人間だれしもに自我があり、あれしたいこれしたいと思うのは普通の子と。
そして、それが友達同士で分かれることだって別に普通のことだ。
しかし小林君はそれを許さない。
彼の脅し道具は絶交という言葉から首絞めという体罰に変化していた。
彼がやれと言って俺がやらなかったら首を絞められる。
そのたびに俺はいやになっていた。
(どうして自分には自我なんてものがあるんだろ?こんなものがあるからきっと小林君が怒るんだ。)
せめるのはいつも自分自身だった。
そして、日を重ねるごとに小林君の行動は過激になった。
ついに殴る蹴るの暴行にまで手を出した。
それでも俺は決して反抗はしなかった。
かつての田中君みたいに、大切な友達を失うのはいやだったから。
運動会の季節の9月の初めに事件は起こった。
その日は生憎の雨で、下校中の人の何人かはぶつぶつと文句を言っていた。
スポーツの秋と銘打っていながらスポーツができないもどかしさってのがあるのだろう。
俺はいつものように小林君と2人で下校しようとすると、小林君がこんな事を言ってきた。
「ねぇ藤川君、傘貸して。」
いつもなら貸しているが、今日はものすごい土砂降りなのだ。
なので、
「2人で2つの傘を共有しようよ!」
なるべく神経を逆なでしないように俺はそういった。
小林君はどこか不満げではあったが、俺の意見に承諾した。
そんな訳で2人で帰っていたわけだが、傘は意外と小さく、2人全体をカバーできていなかった。
これに不満を爆発させた小林君は、
「やっぱ傘貸してよ!俺濡れたくないから!」
こう言いだしたのだ。
俺は物凄く迷った。
また小林君に何かされるのはいやだったが、この雨の中帰るのも躊躇われる。
そこで、最初は拒否して、まずくなったら傘を貸すことにしよう!という結論を自分の中で出したのだ。
「やっぱ貸せないからこのままで帰ろうよ。」
そういった時だった。
小林君が僕の肩を思いきり突き飛ばしたのだ。
俺は体のバランスを崩して水たまりにダイブした。
そして転んだ俺から小林君は傘を奪い取ったのだ。
「返してよ!」
俺はありったけの声で泣き叫んだ。
だけど小林君は返す素振りは見せなかった。
それどころか、尻もちをついている俺の顔面めがけて蹴りを放ったのだ。
彼はサッカー経験者なので本気じゃなくても蹴りには相当の威力がある。
俺はそのまま地面に突っ伏した。水たまりは鼻血の赤に染まっていた。
それを見て小林君は立ち去ろうとした。
俺の何が悪かったの?
何をしたからそんなに激昂してるの?
俺がどうすれば優しくしてくれるの?
さまざまな疑問が頭の中でループするけど答えは出てこない。
でも、立ち去ろうとする小林君にせめて話だけでも聞いてもらいたい。
その一心で俺は小林君の足にしがみついた。
「お願いだから待ってよ!ねえ!」
小林君は俺を振り払おうとしたが、それよりも早くに俺は立ちあがった。
しかし、それがいけなかったのか、俺が立ち上がるとほぼ同時に小林君は俺の喉を絞めてきた。
気道を塞ぐような締め方ではなくて爪を立てて痛みを与えるような締め方。
痛みに耐えられずに思わず悲鳴を上げたその時だった。
喉のほうで何やら大量の赤い液体が迸った。
それを見るや否や小林君は目的の傘も持たず一目散に俺のもとを離れて走り去った。
自分の身に何が起きたのかを理解したのはそのあとだった。
水たまりにはさきほどとは比べ物にならないほどの血があった。
それはもはや血の中に若干の水があるという表現のほうが正しいと思えてしまうくらいに。
そして現在進行形でとめどなく流れる鮮血。
幼心に死を覚悟した瞬間だった。
ずっと同じ場所に居座り続けても仕方ないので、とりあえず帰宅することに。
まだ痛みが残るが、なんとか立ち上がり帰ろうとしたその時、
「まあ!ボクどうしたの!!」
目の前に慌てふためいたおばあさんが立っていた。
おそらく俺の事を心配してくれたんだろう。手持ちの布で応急措置までしてくれた。
「ありがとうございます。」
俺はぼそっと礼を言った。すると、
「近くに病院があるから連れて行ってあげるわ!」
俺は否定しようとしたが、たぶん聞いてくれそうにない。
それに、初対面の人と話すのは未だに抵抗があったのだ。
病院は比較的近くにあり、救急車を呼ぶよりも早く着くという理由であばあさんに連れて行ってもらった。
病院に到着して、何やら手続きなどをしていると、すぐに医者は対応してくれた。
幸いなことに止血が早かったために貧血とまではいかなかったとか。
俺は結果を聞いてほっとして、そのあと母親を呼んで家に帰った。
しかし母親は病院にお世話になっている息子の事を見逃すはずもなく
「今日何があったのかいいなさい。」
と、やや強めに言われた。
この間先生にチクった時の恐怖心があるがさすがに母親には逆らえない。
渋々1から10まで全部話すことに。
すると母親が、
「あんたそれイジメじゃないの!」
「えっ?」
俺の中でいじめなんて言う認識はなかった。
悪いことをしたから罰せられた。そう思っていたのにいじめだったなんて・・・
信じられないことだったが、母親はそんなことも気にせずに学校に電話をした。
こうやって先生に事実を伝える、これってなんかどっかで体験したような・・・
次の日学校に行くのがとても躊躇われた。
だって昨日の今日というのもあるが、過去の経験則からなにか仕打ちがあるのは目に見えてたからだ。
それでも母親に諭されて渋々学校に行くことに。
遅刻ギリギリにクラスに入ると、みんなもう来ていた。
小林君は俺を見ても特に何もリアクションをとらなかった。
ほどなくして、1時間目の始まりを伝えるチャイムが鳴った。
ここで担任の男の先生が入ってきて国語の授業をするはずが、なかなか入ってこない。
授業が始まって3分くらい遅れた時にやっと先生が到着した。
そして謝罪の言葉もなしに開口一番こういったのだ。
「今日の1時間目は急遽自習になったから。ちゃんと勉強するんだぞ!」
なにやら嬉しそうなクラスメイト達。それもそのはず自習はたいていの場合先生が席を外さなければならない事情があるときだけだからだ。
そして先生が授業ができない原因は・・・
「それと小林、ちょっと職員室に来い。」
1時間目は終わった。
小林君は未だに戻ってこない。
この分だと2時間目も自習になるのかなぁなんて暢気なことを考えている時、教室のドアが開いた。
入ってきたのは小林君たった一人だった。
小林君はわき目も振らずに俺のところに歩み寄ってきた。
今回は何されるんだろ…。内心とてもおびえていた。
てかたぶん怯えを隠し切れてなかったと思う。
そんな俺に対して小林君は、意外な行動をとった。
「今まで散々いじめてきてごめんなさい。」
一瞬なにが起きたのか理解できなかった。
まさか小林君から謝罪の言葉が聞けるなんて。しかもこの場には先生はいないし見てもないはずなのに。
そしてなんで謝るのかも理解し難かった。
でも実際に目の前の親友小林君は心から謝罪をしている
その時2時間目の始まりのチャイムが鳴った。
今度はチャイムのタイミングで担任教師が入ってきた。
社会の授業を始めるのかと思ったが、いきなりこんな話を始めた。
「このクラス内でいじめがあった。それは、ちょっと小突くとかいう生易しいものではなく、実際昨日怪我人がでたほどだ。」
まさか2時間目まで潰すつもりかと思ったがどうやらこのことはそれほどまでに重大なことらしかった。
「今回のいじめは最初はふざけてたものがどんどんエスカレートしていたことと、双方ともにいじめの実感がなかったことだ。」
この言葉を聞いて、ああ、あれはいじめだったんだなと思った。
親友だと思ってた人に結局裏切られたのか。
なんかこの体験過去にもしたような…
思い出すという行為に体が異様なまでの拒否反応を示した。
(失いたくないのに・・・なんでみんなのほうから避けていくのさ・・・)
ものすごい何かに押しつぶされそうになった時、俺は床に倒れてそのまま気を失った。
目が覚めるとそこは保健室だった。
どうやら俺は保健委員の人に保健室に担ぎ込まれたらしい。
周りを見渡すと、保険の先生は見当たらず、代りにクラスメイトの保健委員の男子がいた。
「目が覚めたようだね。」
彼は小林君と仲良しの長谷川君だ。
長谷川君は保健室の先生が帰ってくるまで俺のそばにいてくれるつもりだったらしい。
「ありがとうね。」
「いやいいんだよ。それよりたまには藤川君と話をしてみたくなってさ。」
そういうと2人は他愛もない話を始めた。
俺は確かに話下手だが、意外なことに会話は弾んだ。
そして8分くらい話したところで長谷川君がこんなことを聞いてきた。
「そういえば今回いじめられてたのって藤川君?」
「ま、まあそうだけど・・・」
ここからまさかいじめに発展しないよね…なんて危惧していたが、長谷川君の反応は正反対だった。
「僕でよければ話を聞くからさ、話してみなよ。」
そう言われたので俺は全部話すことに。
すると、
「そっか…。」
彼はとても怪訝な表情になった。
「そ、そっかぁ。」
そのあと一言二言交わしたら、
「ごめん、そろそろ授業行かなきゃならないし教室戻るわ。」
と言って長谷川君は保健室を足早に去った。
俺が教室に戻れたのは5時間目からだ。
クラスの雰囲気も特に変わったところもなく、ある意味で平和だった。
あれから小林君との会話は激減した。
一緒に帰ることすらほとんどなくなったのだ。
もちろんこっぴどく叱られたであろう彼が俺に手出しすることはなくなった。
その代わりに俺は、1人の親友を失った。
長谷川君はたまに話をする仲にはなった。
しかし前みたいに世間話というわけではなく、必要最低限だけ。
結局友達という仲にはなれなかった。
俺なりになにか答えを導き出そうとしてみた。
何が俺のことを拒ませているのか。
よくよく考えたらとても答えはシンプルだった。
暗い性格が行けないんだ。と
明るい人には皆が寄ってくるし、暗い人は避けられる。
明るい人はいじめにくいが、暗い人はいじめやすい。
結局俺は小林君を「いじめっ子」に変えてしまっていたのだ。
彼の本質は生真面目であるはずなのに。
俺が暗すぎるから小林君の性格を変貌させてしまった。答えはおそらくそこにあるのだ。
暗い性格というのはもしかしたら人一人の人生を狂わしかねない。
そう思うと取るべき行動はたった一つ。
自分の性格を変えることだった。
性格を変えるなんてたやすい話じゃなかった。
覚悟を決めてもやっぱり話すのは苦手だし会話はうまくできないし。
それでも徐々にではあるが話せるようになった。
6年生の時、話しながら笑顔を浮かべることすらそつなくこなせるようになったのだ。
これでもう誰かを狂わせないですむ。
そう信じて・・・
・
・
・
「藤川君って悩んでるそぶりすら見せないよね!」
「常に明るいって羨ましい・・・」
「悩みがないってことは馬鹿なんじゃね?」
人は口々にそういう。
俺が性格を変えるのにどれほど苦労したかも知らずに。
ただ、性格は変わった。それだけで本質が変わったわけじゃあない。
臆病なのは未だにそうだし、緊張だって人並み以上にする。
そして人よりも悩む。
でも誰かに相談はしない。それは過去のトラウマがあるから。
まあでも俺はこれでいいやと思ってる。
偽りだろうとも笑顔を絶やさないって素晴らしい人生じゃない。
こんばんはBonjour!やましです。
今回の小説は実はずっと前に書いて1度ボツになった作品です。
それを削除したつもりだったのですが、なんかしつこく残っていたわけです。
それを消すのもなんだから投稿しちゃえ~って感じですね。
そんな今回の小説。やたら絶望的な内容ですね。
まあなんか情緒不安定な時に書いたのでこんな有様になりました。
俺だった人間です。
焼きたいときや落ち込んだ時、大声で叫びたいときや大根をバット代りにして野球したいときだったありますから。
さて、昨日久々にLINEを開きました。
大学生なのですが、LINEを読むのが億劫になる事が多々あり、さらにあまり好きじゃないので基本開きません。
しかし暇だったので開くと友達が1人追加されているではありませんか
名前は【さっちー☆】(実際の名前とは一部異なります。)
いまどきキャピ×2なJKですら避けるようなHNを堂々と使ってます。
これは痛々しいぞと思いながらLINEを閉じました。
ああいう人とはできるだけ会話したくないですね。
どうやらその人は実の母親でした。
Twitter @shian_ZERO
長編小説 http://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/551163/
誤字脱字等々ありましたら教えてください。