act 5
ごめん、……てっちゃん。
無理だよ。
あの言葉が、頭から離れない。
受け入れられない。それを望めない。
「くそっ―――」
受け入れられない、あんな言葉。
何日たった今でも。
分かっている。先に突き放したのは、あの手を放したのは自分。
だから何も言えない。でも、そんな事できるはずもない。
あれから何度だって、電話した。家にだって行った。なのに、乃亜は、姿さえ、見せてくれなかった。
声だって、聞かせてくれなかった。
時間ばかりが二人の間を通り過ぎた。
それでも、あきらめるなんて、出来るはずもなく……。
「鉄?」
気が付いたら、乃亜の自宅へと足が向かっていた。
乃亜の自宅でもあって、仕事場でもある喫茶店の駐車場へと車を止めると、ちょうど店から出てきた琉香が、鉄哉の姿を見つけた。
「乃亜なら今日は居ないわよ」
エプロン姿の琉香は、そんなに時間はないけれど、と、鉄哉に口を開いた。
「病院、今日は検診の日だから」
「検診?」
鉄哉の言葉に琉香はうなずく。本当は、まだまだ口をききたくない、そんな思いも心の中にあるけれど、本当にこの二人が別れてしまえばいいなんて思ってなく、この何日かの間、必死で鉄哉が乃亜に、謝罪の心を見せていたのは見て分かったので、絶対言うなと口止めされていたにもかかわらず、琉香の言葉は滑り出てしまった。
「うん。すぐ近所に、大きな産婦人科病院、出来たでしょ? 乃亜、そこに通ってるの」
言っちゃった、琉香はそんな事を思ってしまったけれど、本当は、そう自分が望んだんだ、そう思った。
行ってあげて。そんな事、間違っても琉香は言わないけれど、その瞳が、それを語っている。
散々、罵倒して、あげくにひっぱたかれたけれど、琉香が自分の味方なのは分かる。
「ありがとう」
するりと出てきたのは、間違いなく心からの言葉。
簡単にいくなんて思ってない。だからこそ、ささいなこんな優しさがうれしかった。
もう、泣かさないで。そんな思いをふくめながら、琉香はゆっくりと頷いた。
「浜崎さん」
「あ、はい」
一時間前から、この待合室で待っていて、やっと名前が呼ばれた乃亜は、ほっと息をついた。
新しくできた事と、産婦人科専門の病院ということで、そこは、人で溢れていた。
でも、やっぱりそれなりの風格はあるのが分かる。
外見だっておしゃれだし、院内の雰囲気だって、なんだかおしゃれ。有名人が通ってもおかしくない様な、そんな感じ。
だけど……。
「あ、はじめまして、椎名といいます」
わ、若い……っ!
若すぎる!
なにこのイケめん先生? 顔で面接OKしたんですか?
こんなのに、私、診察されちゃうの?
「あ、あなたが、担当の先生なんですか?」
乃亜の質問に、その産婦人科医は、当然のように首を縦にふった。
その顔だって、なんだかさわやかだ。
「失礼ですが、お歳は……?」
「今年で三十路になります」
さ、さらりと答えちゃってるけど、若すぎるわよ~~!
じょ、冗談じゃない。
恥ずかしくて絶えられない。
「さ、こちらへどうぞ」
か、かかか帰る~~~~!!!
……To Be Continued…