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8.元、夫 牛田誠

8.元、夫 牛田誠


 早苗は相変わらず日中はテレビを見たり、ゲームをして過ごしていた。そして、今は犯人と二人で夕食を食べている。出前のカツ丼を。

 犯人は朝食を与えると出掛けて行き、昼に弁当を買って戻ってくる。それからすぐに出かけると夕方戻ってきて夕食用に出前を頼んでくれる。それは中華だったり寿司だったり、ピザだったり。早苗が飽きないように気を配っていると言うよりは自分の好みで頼んでいるようだった。

「ねえ、お母さんはいつ迎えに来るの?」

 早苗はしらばっくれて聞いてみた。

「そう、そう!さっき、連絡があって、今日の夜には来られそうだって言ってたよ」

「本当?」

 早苗は嬉しそうな表情を作った。そして、食事を続けた。

自分が誘拐されたのだと気が付いてからは隙を見て逃げ出そうとも考えたのだけれど、この部屋は外も内も鍵が無ければ開かないようになっている。犯人がトイレに行っている間に抜け出そうとしたけれど。ドアを開けることが出来なかった。

 犯人の目的は判らなかったけれど、自分に危害を加える気はないと判断していた。それならばと、早苗はのんびり過ごすことを楽しむことにした。少なくとも犯人が身代金目当てではないことは明らかだった。母親は金持ちでも金持ちの知り合いが居るわけでもなかったから。


 矢沢が目を覚ますと紀子が簡単ではあるが朝食の支度をしてくれていた。

「ほー!美味そうだな」

 テーブルには焼き魚と目玉焼きが並べられていた。

「宿泊費を頂くんだからこれくらいは当然でしょう」

 朝食を済ませて外に出ると、矢沢の車が家の前に停めてあった。

「車…」

「矢沢さんが寝ている間に取って来たわ」

 紀子はそう言って微笑した。

「私はそこのバス停からバスで仕事に行くから、ここでお別れね。縁があったらまた会いたいわ。あっ!そうだ。矢沢さん、名刺か何か持ってないの?あったら1枚頂いてもいいかしら?」

「ああ、いいよ」

 矢沢は上着の内ポケットから財布を出すと、名刺を取り出し紀子に渡した。受け取った紀子の表情が一瞬こわばった。

「矢沢さんって探偵なんですか…。何か事件でもあったんですか?」

「まあね。ちょっと人探しを頼まれていてね」

「そうなんですか。せっかくの御縁ですから私たちに協力できることがあった、いつでも訪ねてきて下さい」

「ありがとうよ。その時は是非そうさせてもらうよ。じゃあな」

 矢沢はバス停の方へ歩いて行く紀子を見送ると、車を出した。そばの路地を曲がって一旦、車を停めると、バス停が見えるところまで車を移動させた。バスがすぐにやって来て、紀子はそのバスに乗り込んだ。矢沢はゆっくり車を出してバスの後を追った。


 美紀は康子の監視を続けていた。開店前の準備をしていると、康子が美紀のところに駆け寄って来た。

「美紀さん、犯人から連絡がありました」

「本当ですか?それで、犯人はなんて?」

「それが変なんですよ。私、てっきり身代金とか要求されるのかと思っていたら、今夜、一人で宇都宮まで来いっていうのよ」

「宇都宮ですか?と、言う事は犯人が磐田麻紀だという可能性が高くなったわね。私、所長に報告します。康子さんは早退できるように店長に頼んでみてください」

「はあ…。それは大丈夫だと思うんですけど、あの…」

「どうかしたんですか?」

「電車賃が…」


 紀子が昨夜家を抜け出したことは矢沢も気付いていた。

 矢沢は麻紀と紀子が共犯だと考えていた。紀子の後を付けていけば早苗を隠している場所へ行くか、麻紀と何らかの接触をすると予測していた。案の定、紀子は麻紀と会うと、辺りを見回してから内緒話をするように麻紀の耳元で何かささやいていた。そして、すぐに二人は別れた。麻紀はこの後、昨日の家電量販店へ仕事に向かうはずだ。矢沢はこのまま紀子の方を尾行することにした。そんな時、美紀から電話が入った。

「なに!宇都宮へ?分かった。犯人との約束の時間前に話しておきたいことがあるから4時に宇都宮の一つ手前、雀宮(すずめのみや)駅で降りるように伝えてくれ」


 電車の窓から外の風景を眺めながら康子はふと、早苗が産まれる前のことを思い出していた。早苗の父親のことを。自分が妊娠したと分かると逃げ出すように康子の前から消えてしまった。そう長い間連れ添ったわけではなかったけれど、あんな風に居なくなってしまうような人だったとは今でも思えないでいた。

「次は雀宮」

 車内放送がそう告げると、康子は席を立ちあがった。



 牛田(うしだ)(まこと)は浮気が原因で離婚したばかりだった。土木作業員だった牛田は宅地造成の現場で働いていた時、寝泊まりしていた現場の宿舎近くのスーパーで若いレジ打ちの女に目を付けた。自分とは一回り以上も歳が離れていることは一目見た瞬間に判った。普通なら学校に行っている時間に働いているという事は中卒で働いているのだろうと思った。きっと、恵まれた家庭環境ではないのだろうとも。

 貧しくて高校へは行けず、口減らしのために中学を出ると同時に土木作業員として働きだした自分と同じ境遇に見えたその少女に牛田は親近感を覚え、毎日そのスーパーに通った。

「いつもありがとうございます」

 その少女に初めて話し掛けられた時、牛田は表現のしようがないほどの喜びを感じた。

「俺のこと、覚えてくれてるのか?」

「はい。毎日、この時間に来てくれますよね。明日も待ってます」

 牛田は翌日、いつもの様に買い物に行くと、あの少女が居るレジの列に並んだ。そして、自分の順番になった時、こっそり少女にメモを渡した。少女は一瞬、びっくりしたようだったけれど、すぐに、牛田の意図を理解したと見えて、そのメモを素早くエプロンのポケットに押し込んだ。

「ありがとうございました」

 そう言って牛田を見送ると、軽く頭を下げた。


 牛田は仕事が終わると、宿舎に戻り、風呂に入ると一張羅のよそ行きに着替えた。

「おっ!今日はデートか?」

 同僚たちにからかわれながら牛田は宿舎を出た。町で1軒しかないファミリーレストランに入ると、奥の席でスーパーに居た少女が待っていた。



 雀宮駅の改札を出た康子は辺りをキョロキョロ見回した。すると、矢沢が手を揚げて合図しながら近付いてくるのが見えた。

「やあ!遠いところまでご苦労さん」


「今日は何を食べようか?」

 犯人が早苗に向かって言った。

「ねえ、おじさんはお母さんのどういうお友達なの?」

「ん?聞いてないかな?昔、お母さんと夫婦だったんだ」







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