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エピローグⅱ

 そして、俺が入院して一週間が経った頃、彼はお見舞いにきた。どうやら、その足でコンビクトに向かうことになっているらしい。

都会に不慣れである彼の為、青い鳥も一緒に付いてきたようだが、彼のたってのお願いにより、病院に着いたら、青い鳥は一人で赤犬さんの家に戻っていったらしい。

「あの時はすまなかった」

 病室に入っての第一声にして、すぐに謝られた。怪我に対してか、それとも、自分のお見舞いの時に邪険に扱ったことに対してなのかは分からない。もしかしたら、両方のことを言っているかもしれない。

 そして、昨日、彼のところへ鏡の中の支配者(スローネ)たちが姿を現し、大方の事情は聞いたらしい。自分が何者なのか、この後の彼の処遇について。

「暫くは出ることが出来ないらしいが、外に出ることができたら、オレが殺めてしまった彼女達の墓参りをしたいと思っている。そんなことをしても、許されるとは思っていない。オレなりのけじめをつけるつもりだ」

 そんなことを言ってくる。そして、彼は俺の方を見て、

「本当にありがとう。お前たちには感謝しきれない」

 お前達がいなかったら、オレは自由になることはできなかった、と言ってくる。その言葉を聞くと、嬉しい気分になる。

「そうか。それは俺ではなく、あいつに言ってくれ。俺はあいつに付き合ってやっただけだ」

 俺がそう返すと、

「そういうことにしておく」

 オレが言いたかったのはそれだけだ、と彼は病室へと出ていこうとする。

「ケジメが付いたらでいい。こっちに遊びに来ないか?」

 俺がそう言うと、彼は俺の方へと振り返る。

「ああ言う状況下だったから、仕方が無い部分もあったが、お互い、何も知らないだろ?もう争う必要はないんだしな。泊まるんだったら、あいつの家がある。あいつの家、広くてな。一人で夜過ごすのは寂しいって言っててな。いつも、俺の家に泊っていくんだ。あんたが遊びにきたら、あいつは喜ぶし、あいつが俺の家に入り浸らないでいい。あいつが勝手に俺の部屋を漁るから困っているんだ」

 俺がそう提案すると、彼はとても驚いた表情を浮かべる。

「……本人のいないところでそんなことを決めていいのか?」

「あいつはそう言うことなら大歓迎だ。話によると、あいつはあんたの狼バージョンがえらい気に入っているみたいだから、満月の夜は気をつけた方がいいかもしれない」

 抱き枕にされるかもしれないぞ、と俺がそう言ってやる。


『彼は神子であると、同時に、獣の王の血を引いた一族の出でもあります』

 あの後、鏡の中の支配者(スローネ)は彼が銀色狼に変身した理由を教えてくれた。

 魔力を宿して生まれ落ちてくる人の子供がいるように、獣の中にも、ごく稀に、高い知能を持ち、強大な能力を持った獣の王と呼ばれる存在が生まれ落ちることがあるそうだ。普通なら、その時点で、自分たちの集落に危険が降りかからないように、その獣を殺していたそうだ。

 だが、集落の中には、その獣を守り神として、獣と人が古の契約を交わすところもあったそうだ。

 おそらく、彼の両親のどちらかが古の契約により、人と獣の王の間に生まれた一族の末裔の人間のようで、彼がその血をより濃く受け継いだそうである。だからこそ、彼に神子の力が宿ったのかもしれない。

 その血の所為で、彼は家族を失い、自分が生きる為に、他の人間を犠牲にしなければいけなかったのだから、彼にとってはありがた迷惑なものだろう。

「そうみたいだな。彼女に貴方の子供を百人ほど産みたいです、と言われた」

 ピンクや赤い狼さんを抱きたいです、と言っていたと彼が言ってくる。あいつが彼の子供を、しかも百人………。ミニオオカミが大量発生するならまだいい。本当は良くないが、それよりも、青い鳥jrが100人は本当に止めて欲しい。俺の不幸指数が大変なことになる。

「だから、俺で良ければ、喜んでと言ってやった」

 彼はとんでもない発言をしてくる。あんたは不幸を大量に製造してどうするつもりだ?

「あんたはあいつのことを全然わかっていない。あいつの分身が一人増えるだけでも危険だと言うのに、100人増やすのは世界の摂理を壊すのと同義だ」

 俺がそう必死に説得すると、彼はぷっと吹き出し、

「悪い、冗談だ。ここまで真剣に言ってくるとは思わなかった」

 そう謝ってくる。すると、俺は不機嫌になっていく。

「………そういう心臓に悪い冗談はやめてくれ」

 おかげで、寿命が10年ほど縮んだかと思った、と言うと、

「彼女が言っていたと言うことは本当だ。だが、その答えはまだ言っていない。彼女の話だと、オレは結婚相手候補其の二だそうだ」

 彼は意味深な笑みを浮かべ、

「オレは本気で狙うぞ」

 そんなことを言ってくる。

「………え?ちょっと待て。狙うって、どういうこと?あいつの子供を作ると言うのは冗談だよな?」

 何が何だか分からないでいると、

「………さあな?」

 彼はあくどい笑みを浮かべ、荷物を持ち、

「自由に出歩くことができるようになったら、顔を見せに行く、と彼女に言っておいてくれ」

 彼はそう言って、俺に背を向けるが、何か思い出したように振り向き、

「お前に俺の名前を言っていなかったな。一応、お前にだけ真名を明かしておく」

 そう言って、彼は真名を打ち明けると、そのまま病室を後にした。

 真名と言うのは人を縛る上で重要なものである。特に、魔法使いの本名と言うのは特別な意味を有する。その為、本当に信頼における人物の前でしか打ち明けない。むやみに打ち明けると、簡単に支配されてしまうことになる。

 だから、滅多に名前を名乗ることはない。だから、俺は黒犬と名乗り、俺の師匠は赤犬と名乗っている。あいつは魔法使いではないとは言え、縛られることを嫌う体質上、と名乗っているのかもしれない。

 その為、彼が俺に真名を打ち明けることは俺に命を握られていることを意味し、それと同時に、俺への信頼の形だと思う。だから、俺はその名前を一度たりとも呼ぶことはない。心の奥底へと大事に保管しておくつもりだ。

 教会側がそのことを知ったら、慌てふためきそうだが。

「………もう出てきたらどうだ?」

 俺がそう言うと、彼と入れ替わるように、青い鳥が入ってくる。

「いつからそこにいたんだ?」

「失礼なことを言います。私はさっき来たばかりです」

 こいつは心外そうに言ってくる。

「………そうか。聞いていようと、聞いていまいと、誰にも言うなよ」

「当たり前です。人の真名を他の人に言うほど、私は馬鹿ではないです」

「………やっぱり聞いてたんじゃないか」

 まあ、こいつなら、知られても悪用することはない。こいつは魔法を使えないのだから、彼を支配することなどできるはずがないとは思うが。

「………別に聞くつもりはありませんでした。聞こえてきただけです。ですが、安心して下さい。私以外、この部屋の近くには誰もいませんでしたから」

「そうかい。まあいい。それより、お前、子供を産むように迫ったそうだな。ピンクや赤い狼が欲しい、と。一応、お前の為に言っておくが、それらの色は無理だと思うぞ」

「どうしてですか?」

 信じられないと言う様子をみせる。

「どう考えても、遺伝子的に無理だろ。お前と彼の髪の色からして、出来るとしたら、銀色狼か青色狼くらいだ」

 それ以前に、子供に彼の特異体質が伝わるか、どうかというも疑わしい。彼はいわゆる先祖帰りの為、その血が色濃くでたわけで、彼の子供がその血を強く受け継ぐとは限らない。

 もしかしたら、彼は自分の子供が自分の血を受け継がないことを願っているかもしれない。もし受け継いでしまったら、彼のような悲惨な運命をたどらないとは言えない。

「そ、そうですか。でも、大丈夫です。貴方の黒遺伝子を引き継げば、黒狼もできます」

「ちょっと待て。何で、俺が彼と子作りすることになっている?俺達は同性同士だ」

 物理的に不可能である。もし物理的可能になっても、俺は一線を超えるつもりはない。

「彼は言っていました。私が貴方より美人になれば、考えてやる、と。つまり、彼は貴方に興味があると言うことになります」

「どうしたら、そう言う考えになる。その思考自体おかしいだろ!!」

「そう言われれば、そうです。もしそうなったら、私の結婚相手が一気にいなくなります。貴方達が両想いなら、祝福しなければなりません。ですが、そうなると、困るのは私です。どうすればいいでしょう?」

 そんなことを聞いてくる。

「そんなことあってたまるか!!」

 俺はちゃんと異性愛主義者であるし、彼だって、同性なんかより、異性に興味があるはずだ。

「………彼とまた会えると思いますか?」

 こいつはそんなことをポツンと呟いてくる。せっかく、友達になったと言うのに、離れ離れになるのはつらいです、と言ってくる。

 8年前、俺の故郷に来る前、こいつは王都から少し離れた所にあるコンビクトに住んでいた。あらゆる意味で、ぶっ飛んだ町ではあったが、そこにもちゃんと友達はいたらしい。そこを出ていかなければならなかった時、こいつはとても悲しくて、寂しかったのではないだろうか?心細い気持ちを抱いていたのではないかと思う。

「大丈夫だろ。暫くは無理かもしれないが、自由に出歩くことができたら、顔を見せに行くって言っていたしな。もし教会が彼を軟禁しているようであれば、救出しに行けばいい」

 再生人形リバースドールの時のように、と俺がそう言うと、

「勿論、そのつもりです」

 こいつは力強く言って、窓の外を眺める。

 この後、彼がどんな人生を歩むことになるのかは分からない。辛いことや悲しいことに遭うかもしれない。それでも、彼は生きていこうと思うだろう。憎しみに駆られることもなく、暴れまわることはないだろう。

 憎しみと理不尽さによって、満月の夜へと咆哮することはもうない。青い鳥が示した希望を手に、彼は今日も大地を掛けていくことだろう。

 だから、俺達は彼と再会できる日を待っていよう。彼が頑張ってあがいているのだから、彼の居場所を作って、安らぎを与えることが俺達に出来る最大限のことだと思うから………。


FIN……


ここまでご愛読ありがとうございました。

今まで忙しく、零時に投稿出来ませんでした。今日中だから、大丈夫。と信じてます。

次の話から、《宮廷魔法使い編》となります。彼らの世界に履歴書があったら、趣味に青い鳥の0円スマイルボランティアとしか書けない黒犬君ですが(特技や免許などの欄には魔法やライセンス。職歴には娼婦(笑)が書けそうだけど)、遂に就職します。ただし、職場はとんでもない上司やトラブルが控えていますが。

そう言った区切りがいいのと、一週間ほどマッハに忙しくなるので、8月4日はお休みさせてもらい、8月10日には投稿したいと思います。

ご理解の程、よろしくお願いします。

最後に、誤字・脱字、感想などありましたら、お願いします。あと、番外編で書いて欲しいものがあれば、そちらも気軽に言ってください。

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