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 オレは物心つく前から満月に惹かれていた。

 幼い頃、オレが窓から満月を見ていると、母親が血相を変えて、オレをだき抱え、満月が見えない所に移動させると、すばやくカーテンを閉めた。

『   、月を見てはいけません』

 彼女は凄い形相でそう言ってきた。その意味が分からなかったオレは首をかしげることしかできなかった。

 確か、父親が家に寄りつかなくなったのはその頃だった。彼女はそのことを周囲に知られないように、外では模範的な母親を演じ続けていた。

 彼女は夜になると、オレを外に出そうとはしなかった。満月の夜は早く寝るように言いつけられた。

 次第に、彼女は何かに追い詰められるようになって、最初は物を投げつめたりしていたが、それだけでは飽き足らず、ついに、オレに暴力を振るうようになった。

 オレはその事実から逃れるために、彼女の言いつけを破り、満月を見続けた。

 そんなある日、オレの我慢の限界を超えてしまった。全てを壊したい衝動に駆られた。自分に害あるものを破壊し続けた。

 その時のことはよく覚えていないが、朧気なら思い出すことはできる。

 彼女がオレの姿を見た時、何故か、安らかな顔を浮かべ、自分から破壊されに行った。

 その時の彼女の心情など、オレが理解できなかった。

 ただ、この後残されたオレは破壊し続ける道しかなかった。


***

 青い鳥は俺の前に出て、銀色狼の気を引きつける。銀色狼の攻撃を避けつつ、細剣で突いていくが、一軒家ほどある大きな狼相手にあまりダメージを与えられるはずがない。

 巨大狼相手に剣で挑むことは無謀としか考えられない。俺以上の楽観的思考を持つあいつでさえ、倒せるとは思っていないはずだ。あくまで、あいつは時間稼ぎをしているだけ。巨大狼が相手なら、こちらも巨大狼級を出さなければならない。

 俺は大剣を取り出し、魔法陣を展開し、

「出てこい、俺の魔犬(ケルベロス)!!」

 そう叫び、その陣へと大剣を突き刺す。すると、銀色狼の前に、三つの頭をもつ黒い魔犬・ケルベロスが現れる。

「こいつがお前の獲物だ。仕留めてこい!!」

 俺がそう言うと、そいつは咆哮をあげ、銀色狼に向かって、炎を吐く。

 こいつは俺のお気に入りの相棒である魔犬・ケルベロス。トップクラスの能力を持っているとされている召喚獣である。年に一人出ればいい方だと言われる魔法協会のランセンスを十四歳でとることが出来た理由がこれである。

 この為、俺は召喚魔法が得意とされているが、実はこれは召喚魔法の類ではない。そのことを知っているのは俺の師匠である赤犬さんと青い鳥だけである。

 今はそんなことはどうでもいいことである。火炎放射により、怯んだ銀色狼にケルベロスは突進していく。すると、銀色狼は咆哮をあげる。

 その瞬間、物凄い突風は巻き起こる。俺は大剣に捕まり、その風に耐える。青い鳥はその風に耐えられず飛ばされ、樹に激突したようだが、受け身を取ったようで、それほどダメージは受けていないようである。

 ケルベロスはと言うと、突風で怯むと、銀色狼が先ほどのお返しだと言わんばかりに突進され、必死にそれを堪える。そして、ケルベロスは銀色狼から距離をとろうとして、炎を吐くが、また突風が吹き荒れる。すると、ケルベロスが吐いた炎は消しさられ、銀色狼はケルベロスに噛みつく。

「っつう」

 俺は首に痛みが走り、思わず押さえ、表情を歪ませる。

 ケルベロスは苦しそうに咆哮をあげ、必死に振りほどこうとするが、銀色狼の牙はケルベロスの首から離れない。

 銀色狼に有利に働くように突風が一度だけではなく、二度も起きたと言うことは偶然ではないだろう。これらの風は銀色狼が起こしていると考えるのが妥当だろう。これが意識的に起こしていようと、いまいと、俺達に不利だという事実は変わらない。

 相手の属性が風なら、ケルベロスの属性は炎。必然的に、炎は風を呑みこむ。普通なら、ケルベロスに有利であるはず。だが、実際、ケルベロスの炎と銀色狼の風は拮抗している。

 だからと言って、俺の手札には銀色狼に対抗できる奴はケルベロス以外に存在しない。その為、今、ケルベロスを引っ込めるわけにはいかない。今、引っ込めれば、俺と青い鳥はなす術なく、殺されてしまう。

「ケルベロス、全身から炎を放出しろ」

 俺が叫ぶと、ケロベロスは勢いよく全身から炎を放出させる。すると、銀色狼はまた突風を起こすが、突風は勢いよく燃える炎に吸収されていき、より大きい炎に成長させる。それには流石の銀色狼も堪ったものではなかったようで、銀色狼の牙はケロベロスの首から離れる。

 すると、俺の首からも痛みが引いていく。それでも、俺の不利は以前と変わらない。これではケルベロスが倒されるのも時間の問題である。その場合、俺達の死は決まったものである。

 何かいい手がないか考えろ。このままだと、共倒れしか道が無くなるぞ。

 お前は青い鳥に最後まで付き合うと言ったんだろ?なら、あいつの為に勝ってやらなければならない。

 なら、俺の命に代えても勝たなければならない。

 朦朧とする頭を奮い立たせる。

「ケルベロス、火炎放射したまま、突進しろ」

 ケルベロスは炎を吐いたまま、銀色狼に突進する。すると、銀色狼も突風を起こし、今度はその炎を相殺させて、銀色狼もまた突進して、激突すると、俺の全身に痛みが走る。

「んぐ」

 俺は激痛により、思わず片足を地面につく。意識が朦朧になっていく。激痛で、頭がもう働こうとしてくれない。額からは脂汗が出てくる。これ以上の痛みが加わった場合、間違いなく、オレは気を失う。その時は必然的に、ケルベロスも消える。

 そうすれば、俺達は死ぬ。

 俺はまだ死にたくない。あいつをまだ死なせたくない。

 その想いで、自分を奮い立たせる。

 俺はまだしたいことをしていないし、あいつはやりたいことをやり遂げていない。中途半端なまま終わらせたくない。終わらせてたまるか。

 すると、銀色狼の足もとへ走っていく人影が見えた。青い鳥だ!!

 銀色狼がケルベロスに気を取られている間に、あいつは足元へ潜り込み、前右足に細剣を突き立てると、次は前左足を突き立てる。

すると、銀色狼は足に負った痛みで怯んだ。が自分の命を張って作ってくれたチャンスだ。無駄にするわけにはいかない。

「吐け―――」

 俺はその瞬間を見過ごすことはせず、ケルベロスに勢いよく炎を吐き出させる。はと言うと、ケルベロスが炎吐いた瞬間、地面に転がるように回避する。

 銀色狼の反撃させる暇など与えずに、火炎放射を浴びせていると、バンと銃声音が聴こえて来た。何処から聴こえてきたのか?俺が把握することなく、

「避けて下さい!!」

 青い鳥の叫んだ瞬間、俺の腹部に弾が貫通した。

「うっ」

 俺は呻き声を出して、前のめりに倒れるが、魔法陣から手を離さない。弾が撃たれたと思われる場所を見ると、オーナーと銃をこちらに向ける黒服の男達の姿が見えた。どうやら、俺達の行動はオーナー側に筒抜けだったらしい。

 撃たれた部分を見ると、ドクン、ドクンと大量出血している。俺の魔力が尽きかけている為か、勢いよく出血している。視界もぼやけてくる。この状態で、ケルベロスを動かし続けることは自殺行為としか言いようがない。

「もうケルベロスをひっこめて下さい。これ以上続ければ、貴方の命が危険です!!」

 青い鳥は必死にそう叫んでくる。ケルベロスを引っ込めれば、俺達は間違いなく、銀色狼に殺される。例え、ここから逃げることができ、俺の命が助かったとしても、あいつは助けられなかった無力感を味わうことになり、そして、彼を暗闇の淵から助けられることができなくなる。

「………まだ、だ。俺はここで終われない」

 ここで、終わらせたくない。まだあいつの想いが届いていないし、まだ彼は救われていない。

 ここで逃げたらきっと、彼は勿論、あいつの笑顔も見ることができないような気がするから……。

「………何で、そこまで頑張るんですか?」

 こいつは今にも泣きそうな表情を浮かべて、そんなことを言ってくる。


『何で、そこまで頑張るんですか?』


 俺が必死狂って、魔法の練習をした時、あいつがそう尋ねた時と言葉が重なる。

 あの時、俺はこの少女に守られる存在ではなく、背中を預けてもらえるような存在になりたかった。

 今、その努力が実っているのか分からないが、こいつに頼られるようになっている。あの時の俺が抱いていた望みは叶っていると言えるだろう。

 でも、俺はそれだけでは満足できなかった。それができたなら、今度はこいつがやりたいことの手伝いをしたい。そして、世界の全ての人に幸せを届けたいと言うこいつの願いを叶えてやろう。

 こいつのすることはハチャメチャで、俺はとんでもない目に遭っていたし、何回も死にかけた。不幸を振り撒かられる毎日だった。でも、俺はこいつから離れることはできなかった。

 全てがいいことばかりあるわけじゃない。辛かったり、悲しかったりすることなんて、ざらにあることだと思う。

 俺はこいつと一緒に行動する中で、いろいろな大切なことを教わっているし、与えてもらっている。

 人生、面白いことや楽しいことばかりじゃない。だからと言って、辛いばかりでもない。

 あの時、あいつが俺に、そのことを証明してくれたように、今度は彼に証明して欲しい。

 今が辛くても、それを乗り越えれば、生きていて良かったと思える日が来る、と。

「………そんなの決まっているだろう」

 俺はこんな絶望の中でも信じている。

「お前ならを起こしてくれるって、信じているからに他ならないからだ」

 そうじゃなければ、臆病者の俺がここまでできるはずがないのだ。

「死にそうになっていると言うのに、何で起こるか分からない奇跡なんか信じるんですか!!」

 青い鳥がそう叫ぶ。

「私には貴方が必要です。貴方がいなくなったら、私はどうすればいいんですか!!」

 魔法陣を壊してでも、私は貴方を担いで逃げます、そう言い、俺の魔法陣に手を当てる。こんなことをすれば、魔法陣の効果が消え、ケルベロスが消えてしまう。俺は止めようとしたその時、魔法陣が光り出し、術式が変化して行く。

 その瞬間、ケルベロスも光に包まれ、姿を変えていき、二対の羽根を生やしていく。

 それは空高く飛び立ち、自由を象徴するかのような姿だった。

「………ちゃんと奇跡を起こしたじゃないか」

 俺はそう呟くと、こいつは信じられないと言う様子を浮かべていた。

 それは幻獣の一種である不死鳥だ。ただし、こいつは赤い炎ではなく、青い炎を纏っている。

 その姿はまるで、だ。それを見て、俺は笑みがこぼれてしまう

 とうとう、こいつは幸せを呼ぶ鳥(ブルーバード)を呼び出すような奇跡をおこした。

 そして、ブルーバードは大気を吸い込んでいく。それを見た銀色の狼は危険を察知したのか、突風を起こし、ブルーバードにぶち込もうとしていた。

 だが、ブルーバードはまだ溜めこめていないようで、攻撃に出ることが出来ないでいた。そして、銀色狼が突風を起こした瞬間、ピカっと特大の雷が銀色狼の背中に直撃し、銀色狼が怯んだ。

 その瞬間、ブルーバードは攻撃準備に入り、

「「当たれ(ってください)――――」」

 俺達が叫んだのと同時に、ブルーバードから青い炎が吐き出される。銀色狼は逃げる暇もなく、それを浴びることなった。

 すると、銀色狼の体力が限界なのか、ドスンと地響きを立てて横へと倒れ、その瞬間、俺の意識が途切れることとなる。

 こうして、俺達の長かったような満月の夜は終わりを告げた。

感想、誤字・脱字等がありましたら、教えて下さい。


次回投稿予定は7月28日です。次回が最終話となっています。第三弾のプロローグを投稿する予定なので、そちらも合わせて、お読みいただけたら、幸いです。

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