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『お前に居場所を与えよう』

 オレにこう言った人がいた。全身血まみれになり、絶望に苛まれたオレに手を差し伸べてくれた人がいた。

 何処でもいい。誰でも良かった。ここではない何処かに連れて行って欲しかったオレはその人物に付いていった。

 オレの願いは叶った。だが、何故だろうか?胸が締め付けられるようなこの想いは?

 どうして、オレは逃げ惑う女たちを追いかけているのだろうか?

 どうして、オレは命乞いする女を斬り付けているのだろうか?

 オレはそんなことをしたいなど思っていなかった。望んでいなかった。なのに、どうして、オレはこんなことをしているのだろうか?

 オレを絶望から救いだしてくれたと思った人はそんな光景を見て、オレを褒める。何故、オレは褒められている?褒められるようなことなどオレは何もしていない。いっそのこと、オレを罵ってくれた方が楽になる。

 オレに殺される女たちはオレを憐れむような表情を浮かべる。何で、オレを同情する?何故、誰もオレを恨んでくれないんだ?

 前の満月の夜、またオレは記憶がない。記憶が戻った時には俺の手は血塗れになっており、その近くでオレと年が近い女が死んでいた。

 本当に、オレは何処へ向かおうとしているのだろうか?


***

 鏡の中の支配者(スローネ)の怒りを買ってしまった俺達は予定通り、娼婦館に売られた。そして、予想通り、断罪天使エクソシアは引き取ってもらえなかった。こんなゴツイ女を指名する客はおそらくいないだろう。

 不幸中の幸いなのか、俺の女装はばれることはなかったが、どちらにしろ、俺との二人で、ここから脱出しなければならない。それを意味するところは執行者を倒した番犬を戦闘不能にして脱出するか、あるいは、番犬を味方につけて、脱出の手伝いをしてもらうしかない。

「………私は納得できません。何故、売られた金額が貴方より私の方が低いのですか?どう考えても、おかしいです」

 青い鳥は不満そうに愚痴る。俺の方が高かったことが大いに不満らしい。とは言え、さほど変わりはない。一つはっきりしたことは、この娼婦館は身体より顔を重視しているようである。

「お前が納得できない理由は分からなくはない。だがな、俺も納得できないことがある」

「何ですか。サーシャ?」

 こいつは俺のことをそう言ってくる。自分の母親の名前で呼ばれるのは不本意極まりないが、これは俺が咄嗟にそう名乗ってしまったのだから、自業自得というしかない。だが………、

「どうして、お前は元カノの名前(メアリー)を名乗っているんだよ?」

 青い鳥は露出の高いドレスを着ており、胸のあたりには“メアリー”というネームプレートをしてある。

 こいつのでっちあげの所為で、再生人形リバースドールの件で入院して、村に戻り、彼女に会った瞬間に、ビンタをお見舞いされ、別れを切り出されてしまったのだ。

 こいつは俺を何処までいたぶれば、気が済むのだろうか?

「サーシャ、女言葉を使わないと、ばれます」

 こいつは涼しい顔をしているので、言い返したくてたまらなかったが、ここで俺が男だとばれると不味い。俺が男だとばれた場合、良くてここから追い出され、悪ければ、俺の存在を消されるだろう。どちらの道にいってはならない。こんなとんでもない場所に、こいつ一人にさせると大変なことが起きるのは間違いない。

 俺は言い返さない代わりに、こいつを睨む。すると、俺達の前を歩いていた黒服の男が大きな扉の前で立ち止まる。どうやら、ここが俺たちを買った娼婦館の主人の部屋らしい。

「オーナー、例の姉妹を連れてきました」

 黒服の男がそう言うと、「入れ」と扉の向こうから男の声が聞こえてくる。その声を聞いた黒服の男は俺達に部屋へ入るよう促す。俺達は促されるまま、部屋に入ると、予想以上に広い部屋の奥に机があり、ギドギドと脂汗がのっている肥満体形のおっさんが深く座っていた。そして、舐めまわすように俺達を見てくる。その視線には鳥肌が立ってしまう。

「中々、上玉が手に入ったようだな。姉の方は身体の方は貧弱だが、顔はいい。妹の方は、顔は姉に劣るが、身体の発育はいい」

 オーナーがそう評価していると、青い鳥は不満そうな表情を浮かべる。自分より俺の方が可愛いと言われることが余程気に食わないらしい。

「不満そうな顔を浮かべてどうした?」

 オーナーはこいつの表情に気付いたのか、そんなことを言ってくる。

「………姉より可愛くないと言われるのが不本意です」

 こいつはこいつで、馬鹿正直なコメントを言ってくる。すると、オーナーは下品に大笑いし、

「お前は面白い奴だな。そんなに、姉より可愛くなりたいなら、私に忠実に働いてくれれば、お前の望みどおり、美人にしてやってもいいぞ。もともと、土台はいい方なのだからな」

 青い鳥はその言葉を聞いた途端、目を輝かせ、

「本当ですか。ちゃんと働けば、みんなが姉より可愛いと言ってくれるような女の子になるのですか?」

 そんなことを口走る。お前、当初の目的、見失いかけているだろ。

「ちゃんと働けば、叶えてやろう」

「ありがとうございます」

 青い鳥は嬉しそうにしている。お前の目的は俺より美人になることだったか?流石に、口に出して突っ込むことが出来ないので、心の中で突っ込む。

「お前たちの姉がかなり酷いと聞いて、不安に思っていたが、これなら、十分だ。お客に出すことが出来る」

 彼は満足気に言う。ちなみに、彼の言っている姉とは断罪天使エクソシアのことである。

「彼女と私達は異母姉妹ですから、似てなくて当たり前です。私もあんな姉を持って、恥に思っています」

 青い鳥はきっぱり言う。恥とは酷いことを言う。だが、一番恥だと思っているのはあんな姿にされた断罪天使エクソシアだと思うぞ。

「お前もそう思うか?」

 彼は俺の方にも振ってくる。振られた以上、返事しないと不味い。

「………彼女は、あまり外見はよくないのかもしれませんが、優しいお方です」

 当たり障りのない返事をする。主に、断罪天使エクソシアに対して。

「そうか。お前は姿が美しいだけではなく、心も美しいみたいだな。お前らは合格だ。明日から仕事をするのだから、今日は部屋でゆっくり休むがいい」

 彼はそう言ってくる。どうやら、無事に退室できるようだ。心の中で安堵していると、

『オーナー、お呼びでしょうか?』

 扉の向こうから、若い男の声が聞こえてくる。

「そうだった。お前を呼んでいたのを忘れるところだった。入れ」

「御意」

 と、部屋に入って来たのは銀髪の青年だった。歳は俺達、いや断罪天使エクソシアよりは年下だろう。

 本来は綺麗な銀色の髪だと思うが、あまり手入れとかはしないようで、銀色の髪はくすんでいるように見える。

 一番印象に残ったのは彼の翡翠の眼だった。彼の瞳は宝石のように輝いてるにもかかわらず、眼差しは鋭く、誰も寄せつかさせない。それでいて……、

「この娘たちはさっき入ったばかりの新入りだ。お前にはしばらくの間、この娘たちの世話をしてもらう」

「御意」

「というわけだ。何か必要なものがあったら、この男に言えば、こちらの出来る限りのものなら、用意させよう」

 彼はその男を見てから俺達を見て、

「この娘達を部屋まで案内してやってあげろ」

 それだけ言うと、俺達の退室を許した。

 彼に言われるまま、俺達はその青年の後へ付いていき、とある部屋まで連れて来られ、部屋の中に入るように促される。すると、その部屋は二人分のベッドがあった。二人で住むとしたら、手狭のような気がするが、こいつと二人部屋になれるのなら、そっちの方が都合いい。

 青い鳥はこの部屋からの眺めが気に入ったようで、ジッと眺めていた。こいつがここで働くと言い出さないか、と思わずにはいられない。こいつは当初の目的を忘れていそうで怖い。

 俺がこいつの様子を見て、頭を抱え込んでいると、銀髪の青年は内側から鍵を閉めていた。それを見て、俺は眉を顰める。何故、そんなことをする?

「これからする話は他の連中に聞かれると非常に不味いだろう」

 彼はそう言って、この部屋に備え付けられているソファーに座ると、俺達の方を見る。

「何故、わざわざ娼婦となってここへ潜り込んだ?」

「な!?」

 俺はただ絶句するしかなかった。どうして、俺達がわざとここへ潜り込んだと言うことが分かった?

「………流石、番犬と言うだけあって、鼻はとても利くようですね」

 青い鳥は銀髪の青年を見る。

 この男が番犬ということが本当なら、執行者を殺したのもこいつか?こいつが殺した執行者はより上。なら、俺たち二人がかりで戦っても、勝てる可能性はほぼゼロ。

 みるみるうちに、身体中の汗がひいていく。初っ端から、ばれてどうすんだよ。このまま、俺達、殺されるんじゃないのか?

「安心しても大丈夫です。彼が私を殺す気でいるなら、私達をオーナーの前に通す前に殺しているはずです。ですから、貴方に問います。どうして、私達がわざと潜り込んだとわかりましたか?しかも、それを知っている上で、潜り込むことを許したのですか?」

 青い鳥がそう尋ねると、彼は興味なさそうに、

「あんな男だとバレバレな恰好を見せられて、気付かないわけがないだろう。しかも、女装していたのがあの断罪天使エクソシアだと分かれば、執行者が動き出したと考えてもおかしくない。なんせ、前に、執行者の女の例がある」

 そう説明する。彼が言う執行者の女と言うのはおそらく、が言っていたのことだろう。その言葉を聞くと、執行者を殺した番犬が彼であることは間違いない。

「そこから、お前達がの部下か何かと言うことが分かるということだ」

「それはご丁寧に説明ありがとうございます。なら、なおさら、オーナーに私達の正体を知らせる必要があるんじゃないですか?」

 確かに、青い鳥の言う通り、断罪天使エクソシアの部下が入り込んだとしたら、それこそ大問題ではないのか?いち早く、オーナーに伝えるべきことだろう。

「不安を煽るのは良くないと思ったから、言っていないだけだ。もし、お前達がおかしな行動を見せた場合、遠慮なく斬り捨てるつもりだ。早死にしたくなければ、仲間が救出するまで大人しくしているんだな」

 彼はそう言って、ソファーから立ち上がり、

「話はこれで終わりだ。警告はちゃんとした。それを踏まえて、行動しろ」

 彼はそれだけ言うと、俺達に背を向ける。すると、

「最後の質問を答えていません。どうして、潜り込むことを許したんですか?不安を煽るようなことをしたくないのなら、誰にも知られないように私達を殺せば良かったはずです。貴方には出来たはずです。なのに、どうして、敢えてしなかったのですか?」

「………意味なく殺すのはあまり好きではない、というだけだ。別に大した意味はない。俺のことより、自分たちのことを心配しろ。助けが来る前に、客にばれないように気を付けることだな」

 彼がそう言うと、

「………どういうことですか?」

 青い鳥は眉をひそめると、彼は俺を指して、

「こいつは確かに女っぽいが体つきが男だ。近づけば分かってしまう。それに、お前」

 次に、青い鳥を指して、

「私ですか?」

「そうだ。顔は男みたいな(・・・・・・・)顔立ちをしている。女に見えなくもないが、無理があるだろう。一般的女子にしては筋肉が付きすぎだし、それを隠すためか、胸に詰め物(・・・・・)して、それで、女になったつもりか?客が胸を触れば、一発でわかる」

 彼はそう言い切った。そう言い切ってしまった。その瞬間、悪寒が走った。言ってはならないことを、しかも、こいつの前で言ってしまった。

 次の瞬間、こいつは目にも止まらない速さで、彼の懐に移動し、見事、彼の顎に蹴りをお見舞いした。そして、一瞬のことで反応できなかった彼は倒れ込み、青い鳥は彼の上に乗り、

「誰の胸が詰め物ですか?誰が男ですか!?触って下さい。これが詰め物に思えますか?どいつも、こいつも、人を散々とコケにして、楽しいんですか?私は女です」

 彼の手を握り、その手を自分の胸に押し付ける。

「私はちゃんとした女です。なのに、何で、誰も私を女だと認めてくれないんですか!?」

 青い鳥の悲痛な叫びが廊下にも広まっていたということを、あいつが知るのはもう少し先の話である。


感想、誤字・脱字等がありましたら、よろしくお願いします。


次回投稿予定は6月31日となります。次回から、週一になります。よろしくお願いします。

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