表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

攻撃


「ガウロ総裁、ソラ行っちゃいました・・・・・・・」

 うつむきながらボソッと、小さく呟く。

「淋しいのか?」

「淋しくはありません。ただ、心配で――」

 突然、ガウロ総裁が両手をあげて言葉を遮った。瞼を閉じ、何かを覗っているガウロ総裁の緊迫した様子に、ウサは息をとめた。

「どうやら、ソラの心配をしている暇はなさそうじゃ。ダル、今すぐ操縦室に来るのじゃ。それからジャンク、今すぐ戦闘体制を整えてくれ」

「りょ、了解しました!ガウロ総裁」

 緊張したジャンクの声。船内に響き渡るサイレン音。

「緊急指令。緊急指令。

全船員に告ぐ。全船員に告ぐ。

直ちに戦闘体制につけ。戦闘体制につけ」

「ガウロ総裁、一体何があったのですか?」

 未だに事態を飲み込めないウサが、尋ねた。

「ダークウェー船が、近くにいる」

 慌ててレーダーを確認するウサ。しかし、レーダーには何も映っていない。

「総裁、レーダーには何も映っていません」

「ふん。わしには感じるのじゃ。この船のシールドのすぐ側をうろちょろしている禍々しいエネルギーをな・・・・・・間違いない、ダークウェー船じゃ」

 操縦室の扉が開いた。

 はぁ、はぁ、はぁ。

 操縦室が硬いシールドで覆われたためテレポートできなかったダルは、第三ポケットから走って来て息が切れている。

「はぁ、はぁ。ウサ、総裁。一体何が――」

 その時、操縦室の窓から見える銀河の景色が変わった。宇宙空間が歪み、小さな渦が生まれるのが見える。

「おい、まさか、あれってブラックホールじゃないのか?」

 誰もが息を飲み、窓の外をみつめている。

「ダルよ。あの渦が大きくなる前に、船ごとワープしなければならん」

「無理だッ!ワープの準備が間に合わねぇ。無理にワープすれば、船はバラバラになっちまう。そうだろ、ウサ公?」

 血の気の失せた顔で、ウサが小さく頷く。

「ウサ公。過去にダークウェー船のブラックホールにのみ込まれて、助かった船はないのか?」

「残念ながら、助かった船はないわ。全て、消滅している・・・・・・」

「ちっくしょう・・・・・・。今ここで、俺たちが消滅したらどうなる?誰が、ソラをサポートすんだよぉ!」

 絶体絶命の状況の中で、ソラの身を案じるダル。

「大丈夫じゃ、ダル!」

 ガウロ総裁がゆっくりと立ち上がった。年老いた瞳に、恐ろしいほどの眼光を宿しガウロ総裁のオーラがどんどん大きくなって船を包み込み始めた。

「ジャンクよ。全船員の意識を、船のシールドに集中させよ」

 高らかな声をあげて、指示を出す。

「了解しました。

全船員に告ぐ。全船員に告ぐ。

戦闘体制のまま、意識を船のシールドに集中させよ!」

「ウサよ。お前はわしの合図で、ワープスイッチを作動させよ」

 ウサが、大きく目を見開いた。

「総裁、まさか、御自分の生命エネルギーをワープエネルギーに転換させるつもりじゃ・・・・・・」

 ガウロ総裁は何も答えず両手を大きく広げ、目を瞑っている。

 ウサが頭を左右に大きく振った。

「――できない。私には、できません」

「ウサよ。ここで、みんなが倒れるわけにはいかんのじゃよ。わしの生命エネルギーを使えば、船は助かるかもしれん。一か八かの賭けじゃがのう・・・・・・」

ガウロ総裁が、いつものように穏やかに声をかける。

「くそじじぃ。そんな事をしたら、じじぃが消滅しちゃうじゃねぇか!」

「わしは、長く生きた。もう引退してもえぇじゃろう」

 総裁のオーラが、さらに大きくなった。その影響で、近くのダークウェー船が小刻みに揺れ始めた。

 なおも、ブラックホールは変わることなく渦をまいて巨大化している。母船は、バランスを失い左右に大きく揺れ始めた。今や船は渦潮に引き込まれてゆく、木の葉のようだった。

「ウサよ。今じゃ!」

「イヤ・・・・・・。私には、できない・・・・・・」

「俺がやる。どけ!」

 泣きじゃくるウサを押しのけ、ダルが操縦席に座った。

「いいか、ウサ公。いかなる時でも諦めんな!自分に出来る最善策を探せ。お前なら、出来るはずだ!!」

 ダルの言葉で、泣いているウサの瞳に微かに力が戻った。

「おし、じじぃ。準備ができたぞ!」

「うむ。今じゃ!」

 船が大きな爆発音と共に金色の光を放った。

刹那、船と共にブラックホールが消えアンドロメダ銀河には、ダークウェー船だけがが漂っていた。




 天の川銀河の端、太陽系に傷ついた一隻の宇宙船が現われた。

コスモ・ソースは、間一髪ブラックホールに飲み込まれず助かったのだ。

それは、奇跡と呼ぶに相応しかった。

 船内のあちこちに傷ついた者たちがいる。

小さな火災が発生し、動ける者は負傷者の手当てと消火活動に追われていた。

 慌ただしい船内に、ダルの声が響く。

「全船員に告ぐ。

 これより船の指令は、俺が出す!

 そして、今からウサは、ソラの代わりに司令官となる。

 誰も、文句は無いな?

 今すぐ被害状況を調べ、報告せよ。

 以上だ!」

 この館内放送により、船員はガウロ総裁を失った事実を知った。

あちこちから、むせびなく声が聞こえてくる。

それでも皆、前を向いて立ち上がり自分のやるべき仕事を全うしていた。

「ダル、私、司令官なんて――」

「無理とか言うなよ!俺だって、総裁の代わりやるんだからよ」

 ダルは深いため息をついた。ガウロ総裁を失ってどうやって船を立て直せばいいのか、今は皆目検討がつかなかった。

(そういえば、ウサ、さっきまであんなに泣いていたのに、案外元気だな)

先ほどまで青い顔をしていたウサなのに、今はどことなく余裕が感じられる。そっとウサの様子をうかがうと、肩の上に乗った小さな生き物と楽しそうに戯れている。

 ダルは、右手で目を擦って、肩の上の生き物を確認した。それは、小さな猿だった。

「うん?ウサ公、なんでお前の肩の上に、猿がいるんだ?」

「ふふふ・・・・・・。見た目は猿だけどね、ただのお猿ちゃんじゃないのよ。ねっ、ガウロ総裁」

「はぁ?お前、何を言っているんだ?」

「ウサ、なんじゃのう。この体は、まだしっくりこんのう」

 猿がしゃべった。

 猿がガウロ総裁の声で、ガウロ総裁の口調で喋っている。

「ウサ公。何だよ、これ?・・・・・・説明してくれ!」

 ウサは屈託のない笑顔で、説明した。

「実はね、ガウロ総裁のエネルギーを少しだけ拝借して、研究室で飼っていたお猿さんにウォークインさせちゃったの」

「何だって?ワープするあの直前に、そんな事を考えて実行したのか?」

「そう、大変だったけど、なんとか成功して良かったわ」

「・・・・・・」

「わしもな、びっくりしたぞ。気がつけば猿になっておるんじゃからなぁ。まぁ、以前のような力は無いが、こうして会話もできる。この体で、隠居生活でも楽しむとするぞい」

 ウサの肩の上で猿が大喜びしている。

 あっけにとられているダルを気に留めることもなく、ウサは愛おしそうに猿の頭を撫でていた。

「ガウロ総裁。お猿さんになっちゃったから、可愛い名前付けてあげてもいい?」

「おー、いいぞい。わしもなぁ、第二の人生を新たな名前で過ごしたいと思っておったところじゃ」

「じゃあ、モンちゃんっていうのは、どうかな?」

「モンちゃん!いいのぅ」

「おっ、おいウサ公。モンちゃんって、そいつは――」

「うん?何か言った?」

「いや、あの・・・・・・」

「わし、今度からウサちゃんって呼んでいいかのう?」

「いいわよ」

「でもって、今夜からウサちゃんと一緒に寝ていいかの?」

「いいわよ」

「それからのぅ、この体、ちょっと臭いから、お風呂に入りたいんじゃが・・・・・・」

「いいわよ。一緒に入ろう」

「うほほーい!」

肩の上で大はしゃぎの猿。

「おい、スケベじじぃ。一人で風呂入って、一人で寝ろ!特別室用意してやるから!」

 思わずダルが叫ぶ。

「あら、モンちゃんが私と一緒がいいって言うんだから、特別室なんていらないわ」

「そうじゃ、そうじゃ」

猿はダルの肩の上に移動し、抗議のジャンプをしている。

「じゃ、ダル。少しだけ時間ちょうだい。すぐ戻るから。おいで、モンちゃん」

 猿は、すばやくダルの肩からウサの肩へと移動した。

操縦室の扉が閉まる瞬間、ウサの肩の上で猿が腰をあげ、手でポンポンとお尻を叩いた。

(馬鹿にしているのか?)

 あんぐりと口を開け、全身から力の抜けるダル。張り詰めていた緊張の糸が切れ、理解しがたい状況の中で一人頭を掻き毟る。

(弱虫ウサ・泣き虫ウサ・可愛いウサ・頭のいいウサ・我がままウサ・・・・・・。あいつは一

体いくつの顔を持っているんだ?)

どんなに考えても、ウサのことが理解できない。

 とにかく今は、船内の被害状況を確認するのが先だった。

「おい、ジャンク。今すぐ操縦室にテレポートしてくれ!」

「りょ、了解しました。ダル総裁」

「俺は、総裁じゃねぇ。最高司令官位にしといてくれ」

「了解しました。ダル最高司令官」

 すぐにジャンクが操縦室に現われる。

「おー、ジャンク。お前に聞きたい事がある」

 なぜか、青ざめるジャンク。唇も微かに震えている。

「船がワープする直前に、俺のオーラ・フィールドを広げるのをブロックした奴がいる。お前じゃないのか?」

「なっ、何のことだか、わ、わかりません」

「とぼけんなよ!あの瞬間、俺にそんな事ができんのは、お前とウサ公以外いねぇんだよ!」

「――ウッ、ウサ司令官では?」

 ジャンクの声が裏返っている。

「さっきまでは、そう思っていた。だが、違った。ウサ公は別な事していたんだ。あ・と・は、お前しかいねぇ。なんで、ブロックした?」

(これ以上、誤魔化せない・・・・・・)

ジャンクは大きく息を吸い込み、ゆっくりと話し始めた。

「私は、ダル最高司令官を失いたくなかったのであります。あの時、ガウロ総裁と共に、自らの生命エネルギーをワープエネルギーに変えようとしている想念を感じました。だから、ブロックしました。勝手なことをして申し訳ありませんでした・・・・・・」

 深々と頭を下げるジャンク。

「いや、いいんだ。お前の判断は・・・・・・多分、間違っちゃいない。あの時、俺と同じこと考えた奴が結構いたようだったが・・・・・・」

「はい、その通りであります。私の力では、一人にブロックかけるのが精一杯でしたので、他の者は残念ながら・・・・・・」

「ーそうか」

「ただ、ガウロ総裁一人のエネルギーでは、今回のワープは成功しなかったでしょう」

「あぁ。その通りだ」

「只今、船内から消失した船員を調査しております」

「ふん、さすが、仕事が早いな。ところで、お前に新しいポストを用意した。今からお前は、司令官だ。ウサ公と一緒に、ここに居てくれ」

 ダルの黒い瞳が、ジャンクを捕らえる。

「わっ、わたしが、しっ、司令官?・・・・・・むっ、無理であります」

 右手を大きく左右に振り、後ずさりするジャンク。

「無理でもなんでもいい。やってくれ!」

(そっ、そんな・・・・・・。無理だ。無理だ。無理だぁああああ――!!!)

 心の中で絶叫したところで、もう逃げ場はない。

釣り上げられた魚のように口をパクパクさせ、ジャンクは腰を抜かした。

「おいおい、ジャンク。まず座って落ち着いてくれ」

「はっ、はい・・・・・・」

 力なく返事をし、なんとかイスに腰をかける。

 暫らくは、目をパチパチさせ落ち着きの無いジャンクだったが、傍らで忙しそうにデーター解析をしているダルの様子を見て、背筋がピンと伸び始めた。

(今は、自分のやるべきことをやろう)

 ようやく落ち着きを取り戻したジャンクは、現在の船の座礁位置と地球時間をチェックし始めた。

 そこへ、ウサが戻ってきた。

「うん?ウサ公。猿はどうした?」

「猿じゃないわ、モンちゃん。疲れたのか、眠っているわ」

「そうか・・・・・・」

「ダ、ダル最高司令官!」

こわばったジャンクの声。

「どうした?」

「こっ、これを見て下さい。地球時間が、想像以上に進んでいます。ソラ司令官が、地球にウォークインしてから、十三年経過しています」

「何だって?」

「ジャンク、確かなの?」

「おそらく・・・・・・」

 三人は、顔を見合わせた。

ダルの額から、冷たい汗が流れ落ちる。

「ウサ公、急いでソラの空白の十三年間をリーディングしてくれ。対策はそれからだ!」

「了解!」

 ウサはアイコートをかけ、地球でソラの身に何が起こったかをリーディングし始めた。

「俺は、通信システムを回復させることに全力を尽す。このままじゃ、ソラと交信できんからな。ジャンクは、俺たちの代わりに船の建て直しに取り掛かってくれ。一人が不安なら、じじぃをたたき起こして一緒にやってくれ」

「りょ、了解致しました」

 ジャンクは走って操縦室を出た。

緊張のあまり、足がもつれている。

(ガウロ総裁、私一人では無理ですぅ・・・・・・。たっ、助けてくださいぃぃぃ!!)

ジャンクは、泣きながら走っていた。


















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ