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任務

 アンドロメダ銀河に漂う宇宙船。その姿は、左右非対称の鉄アレイを横に倒した形をしていた。この宇宙船の名はコスモ・ソース。アンドロメダ銀河連邦所属の宇宙艦船である。小さいほうの球体は操縦室、大きいほうの球体は船員の居住スペースになっている。


 その日ソラは、操縦室に呼び出され大きなスクリーンに映し出された「地球」を眺めていた。突然、青く美しい地球が、黒焦げのいびつな形の星へと変化した。

 森は枯れ、海は干上がり砂漠と化した地上に、目玉のギョロギョロした餓鬼がきのような人間たちが、欲望のまま殺戮さつりくを繰り返している。地獄のような世界を自ら選んだ魂の成れの果てであった。

 そのいびつな星を囲む宇宙空間には、半透明の人間たちが帯状に並んでいる。ある者は、無表情のまま、ある者は笑みを浮かべて漂っていた。彼らは、輪廻転生を迎えることもなく、やがて宇宙のゴミとなる凍結された魂たちだ。

 半透明の人間たちの外側には、透明な光を持ったごくわずかな魂たちが、次の転生を待ち流れ星のように飛び回っている。アセンション(次元上昇)した魂たちだ。

 やがて、映像が消えた。


「ガウロ総裁。今、私が見せられたビジョンは?」

「地球の未来じゃ。それも、遠くない未来じゃな」

 また、スクリーンに新しい映像が映し出された。それは、現在の「地球」の姿である。

 -青く美しい星・地球ー

 今やその美しさはひび割れたガラス細工のようなものだ。

「地球なぞ、捨て置けばいい」

 地球に鋭い視線を投げかけ、ソラは吐き捨てるように呟いた。

「ソラよ。まぁ、そう言うな。ビジョンの最後に地球の断片が他の星に衝突し、多くの星が滅びる様子も見えたじゃろ。あれは、まずいな・・・・・・。うん、非常にまずいぞ。太陽系が消えてしまうなぁ」

 ガウロ総裁は、胸元まである豊かな白いあごひげを右手でさすりながら、ソラの瞳を真っ直ぐに見つめている。小さく優しいその瞳の奥に宿る眼光が、総裁の存在を際立たせる。総裁が何を考えているのか、ソラには容易に理解できた。

 太陽系に属する天の川銀河と、我々にいるアンドロメダ銀河は互いに引かれ合い徐々に近付いている。遠い将来、二つの銀河は一つになり新しい星が誕生するといわれていた。地球がアセンションに失敗し太陽系が消滅すれば、このアンドロメダ銀河にも何らかの影響があるのだろう。総裁は、それを危惧しているのだ。

「ガウロ総裁、地球の未来を変えることは不可能です。我々は、地球の断片から他の星を守るシールドを張ることに全力を尽しましょう」

 美しくも冷ややかな表情で淡々と答えるソラに対し、少し間をおいてガウロ総裁は静かに言った。

「ソラよ。わしは、不可能を可能にする道を探しておるのじゃ。お前なら、地球の未来を変えられるかもしれん・・・・・・」

 ソラの長く美しい金色の髪が、微かに揺れた。

「また私に、あの星へ行けと言うのですか?」

「そういうことじゃ」

総裁の言葉に、ソラの顔が紅潮する。腹の底から込み上げる強い怒りを押さえ込み、つとめて冷静に言葉を返した。

「地球へは参りません。理由は、総裁もご存知のはず・・・・・・」

「う~ん。地球の人間に裏切られたお前じゃからなぁ。気持ちは、よーくわかっておる。」

ガウロ総裁は、ゆっくりと静かに話を続けた。

「ソラよ。お前は地球に転生する度に強くなっていった。わしの想像をはるかに超えてな。今、地球は巨大な闇に覆われ、我々の仲間でもあるコスモ・シードたちが、光を失い自分自身の使命を忘れてしまっておる。地球に降り光を目覚めさせることができるのは、もはやお前しかおるまい」

 ソラは両手の拳に力を込め、唇をかみ締める。

「総裁、ダルがいるではありませんか?」

 少しの間を置き思い出したかのように顔を上げ、仲間の名前をあげてみた。

「確かにダルは強い。彼なら光の戦士として戦ってくれるじゃろう。じゃがのう、今の地球に必要なのは、戦いではなく目覚めじゃ。大きな愛と忍耐がなくては、地球は救えまいのう。」

「・・・・・・愛?私には、地球の人間に対する憎しみこそあれど、愛など一つも感じないッ!」

怒りを込めて答えるソラに、総裁が訊ねた。

「お前の仲間に対してもか?先に降りた仲間と、母船におる仲間、そこにも愛はないのか?」

「それは・・・・・・」

視線を逸らし口ごもるソラに対して、総裁は優しく言った。

「地球を救うということは、お前の仲間を守ることでもあるのじゃ。これが、最後の任務じゃよ」

 これ以上、不平や不満を並べたところで、この決定が覆されることはあるまい。ソラは覚悟を決めるしかないのだ。

「これが最後ですね。かしこまりました」

 こわばった表情のまま総裁に一礼すると、銀色の長いマントを翻し、足早に操縦室を後にする。

 操縦室から出ると同時に、ソラの美しい金色の髪が暗紅色に変わった。全身の細胞を駆け巡る強い怒りを抑えることができなかったのだ。

 操縦室の前で、ソラを心配して待っていた少女が一瞬息を飲み、慌ててソラを抱きしめる。

「怒らないでッ!ソラ!」

 震える少女の小さな腕の中で、ソラは少しずつ落ち着きを取り戻した。黒みを帯びた赤い髪が、次第に金色に戻っていく。

「ありがとう、ウサ。もう、大丈夫だ」

 胸に顔をうずめている少女・ウサの頭を撫でながら、ソラは優しく微笑んだ。

 二人は無言のまま、無機質な廊下を歩き居住スペースへと向かう。目の前を歩くソラの後ろ姿に不安を覚えながら、小さなウサは、子どものようにトコトコ後ろを追いかけて行く。細い廊下を抜けると、賑やかな繁華街に出た。ソラの部屋は、この繁華街を抜けた奥にある。

 賑やかな人ごみの中を足早に通り過ぎようとするソラに、大きな声で話かける人物がいた。

「おー、ソラ。ガウロじぃの話って何だったんだぁ?」

 アルコールグミを口いっぱいに頬張りながら、ダルが近づいてくる。

「別に・・・・・・、たいした話じゃないさ」

 低い声でぶっきらぼうに答え、ダルの顔を見ようともせず通りすぎた。ダルは思わず眉を寄せ、ソラの後ろをトコトコ歩いているウサの襟首を掴みあげる。小山のような筋肉を持つ大男に吊り上げられ、ウサの足は宙に浮きジタバタしていた。

「おいウサ公。何があった?」

 小さな足をバタバタさせながら、ウサは答えた。

「私にもわからないの。ただ、操縦室から出てきた時、ソラの髪が一瞬で赤黒くなったわ」

「何だって?」

「あ~ん。離してよ、ダル!ソラが行っちゃう!」

「あぁ、悪かった」

 ダルはそう謝ると、ウサを優しく下に降ろす。地に足が着くと、ウサは急いでソラの後を追いかけた。

二つに結ばれたピンク色の髪が、激しく前後に揺れている。

 一方ダルは、腰に差した大きな剣<スター・ファルシオン>をぎゅっと握り締め、赤いマントを翻し操縦室へと走り出した。


 ウサが繁華街を抜けると、奥の居住スペースでソラが腕を組んで待っていた。

「ソラ、あの・・・・・」

「話があるんだろ?私の部屋に来るか?」

「いいの?」

「あぁ」

 ソラの優しい言葉にウサは頬を赤く染めながらも、いつもと違う気遣いに胸騒ぎを覚えていた。

 扉のガラスコープにソラが瞳を近づけると、扉が消える。二人が中に入ると、再び扉が現われた。中は、殺風景で無機質な部屋だった。突然、部屋の真ん中にシンプルなシルバーのテーブルが現われる。同時に、そのテーブルと不釣合いなピンクの可愛いイスが二つ現われた。

 テーブルはソラが想念で具現化させた物だが、ピンクのイスはうっかりウサが具現化させてしまったようだ。

「ご、ごめんなさい!自分の部屋じゃないのに、ピンクのイス、用意しちゃって・・・・・・」

 ウサが大きな碧い瞳を伏せ、申し訳なさそうにうつむいている。

「かまわないさ。たまにはピンクのイスも悪くない」

 そう言うと、ソラはピンクのイスに腰をおろした。

(似合わない)ウサは可笑しくて笑いかけたが、険しい表情のソラを見て慌ててイスに腰をおろした。

「ねぇ、ソラ。ガウロ総裁に何を言われたの?」

 ウサは躊躇ためらいながら訊ねた。

「地球へ行ってくれと・・・・・・」

「・・・・・・」

 思いもよらない一言に絶句する。

「これが最後の任務だといわれた」

 ウサの瞳から、涙が溢れようとしている。

 沈黙が、殺風景な部屋を包み込み、ウサの鼻水をすする音が微かに響き始める。

「な、んで、また・・・・・・行かなくちゃ、い、けないの?」

 言葉がつかえて、うまくでてこない。

「地球が、最後のアセンションに突入したようだ。今の三次元世界から一気に五次元世界に移行する予定だ。しかし、失敗すれば太陽系が消滅し、銀河系のバランスが崩れるだろう」

「そ、んな・・・・・・ダルじゃ駄目なの?」

「今回の地球のアセンションに必要なのは、光と闇の融合。もともと、闇は光より生まれた。二つで一つだったものが分離し、やがて闇だけが増幅していった。その結果、地球では戦争と環境破壊が進んだんだ。もちろん、それだけじゃない。地球の闇が増幅していったのは、地球を侵略しようとしているアルナキやレプ族のダークサイドの存在もある」

 表情を変えることなく淡々と話すソラの瞳が、遠くを見つめている。

 過去、仲間だと思っていた人間に裏切られ傷ついたソラ。心の傷は今もまだ癒されてはいない。そんなソラの気持ちを考えると、ウサにはこれ以上かける言葉を探すことができなかった。

 ふいに、ダルがテレパシーコンタクトをしてきた。

――ソラ!今からテレポートする。部屋のシールドを解除してくれ!!

「わかった」

 ソラは、「やっかいな奴が来るぞ」と、ウサの耳元にささやいた。すぐに、黒髪の大男が部屋に現われた。

「ダル。テレポートなんて少し強引じゃないか?」

 ダルが強引にテレポートしてきた理由はソラにもわかっていたが、部屋の中の重く沈んだ空気を変えようと少しおどけた調子で声をかけた。ダルもそんなソラの気持ちを組んで、大きな声で答える。

「美しいソラ姐さんに、一刻も早く会いたくてね!」

 ダルのぎこちないウィンクが、空回りしている。

「二人とも、私に気を遣うのはやめて!」

 ウサが頬を膨らませ、子ども扱いされていることを怒った。

 ダルが頭を掻き、シルバーの大きな椅子を具現化させると腰をおろしソラと向き合った。

「ガウロじぃから、お前の任務について聞いてきた。俺は、船に残ってお前を支援する。ウサ公、お前もだぞ」

「いやッ!ソラと一緒に地球に行くわッ!」

 子どものように駄々をこねるウサに、

「船に残れ。これは、上官である私からの命令だ!」

と、ソラが強い口調で言った。

ダルがウサの右肩に優しく手を置き、話を続けた。

「今、地球にいるコスモ・シードたちの多くが、使命を忘れてしまっている。特に、日本に降りた仲間たちが一番悲惨な状態だそうだ。ダークサイドよって作られた、学校教育の過程でほとんどの子が洗脳されてしまうらしい。かろうじて、抵抗を試みようとする者は、障害児とみなされ薬を処方される。そんな一番やっかいな場所、日本にあいつがいるらしい」

「ミラか・・・・・・、すでに転生しているんだな?」

 ソラの顔が緊張し、うす紫の瞳が微かに動いた。

「あぁ。ただし、年齢・性別すべて不詳だ。コスモ・シードからの情報が全くないからな」

「お話中、失礼していいかな?」

突然、テーブルの上にガウロ総裁のホログラムが現われた。

「総裁、随分小さくなられましたね」

思わぬ登場に、ソラの緊張が解かれる。

「開発中のホログラムなんじゃが、なかなかいいじゃろう」

ガウロ総裁は目を細め、あごひげをさすりながら話を続けた。

「では、ソラの今回の任務について手短に話そう。任務地は日本じゃ。もうすぐ一人の少女が誕生するんじゃが、その子の体を借りる契約が完了した。今回は、その少女の体にウォークインしてもらいたい」

「―-なっ、何ですって?」

息を飲み、うろたえるソラ。

ダルとウサも驚いて顔を見合わせる。

「おい、じじぃ!じゃなかった。ガウロ総裁。それは危険じゃないですか?ソラが覚醒しなかったらどうするんですか?」

「そうなんじゃよ。まぁ、一つの賭けじゃな。一つの肉体に二つの魂が宿るわけじゃからのう。最終的にその肉体を支配するのは、ソラの魂か人間の魂か?肉体を提供してくれる子の寿命は、本来十年しかなかったんじゃが、今回の契約により寿命は大幅に延ばしておる。それともう一つ・・・・・・、言いにくいんじゃがのう、契約には結婚と出産が入っておる」

「――なっ、バカな・・・・・・私が、結婚と出産だとッ!」

衝撃の言葉に、ソラの全身から力が抜けた。

呆然とするソラの隣でダルとウサが目を合わせ、にやにやしている。

「ソラ、まぁ、あれだ。最後の任務なんだし、これもいい経験ってことでだな、楽しんできたらどうだ?」

 ダルは肩を震わせ、笑いを堪えている。

「私、ソラが赤ちゃん産んで育てるの見てみたい!」

ウサの大きな瞳が輝いて、はしゃいでいるのが伝わってくる。

「お前ら、人事だと思って楽しんでいるだろう。ダル、私の代わりにウォークインして地球に行ってくれ!」

「それは、無理だろう?俺はさぁ、どっちかっていうとバリバリな男性性なわけで、契約してくれた女の子が嫌がると思うんだよね」

ソラが悔しそうにダルを睨んだ。

「総裁、ウォークインではなく、別な方法で地球に行かせてください!」

「う~ん・・・・・・例えばのう、このまま地球の人間に姿を似せて、お前を地球に送るとするじゃろう。そうすればじゃ、地球の内情が分かる前に、お前さんはダークサイドに見つかってしまう。すぐに戦いが始まってしまう可能性が高いのう。しかしな、人間の肉体を借りれば、奴らにそう簡単には見つかるまい。その間に、いろいろと策を練ることができるわけじゃなあ」

「では、せめて男性にウォークインを――」

ソラは懇願するように言葉を続けたが、それはすぐに遮られた。

「今回、ソラには女性性を深く学んでもらわなければならん。少女の魂と共に、いろんな事を疑似体験し学んでくるんじゃな」

「疑似体験?・・・・・・私は少女が死を迎える十歳で覚醒しないのですか?」

 ソラが驚いて質問する。

「その子がのう、出産と育児も経験したいからと、三十歳まで意識を持っていたいそうじゃ」

「では、私が覚醒するまでに三十年かかると?無理だ・・・・・・」

「そうだぜ、じぃ。いくらなんでも三十年眠り続けたら、よほどのショックが無い限り覚醒なんかできるはずがねぇ」

ウサが、ガウロ総裁をじっと見つめている。

(ガウロ総裁には、何か策があるんじゃないかしら?)

ウサはそう確信した。

「今回の任務が過酷なのは百も承知じゃ。それでも、やらねばならん。頼む、ソラ」

 ガウロ総裁が頭を下げる。アンドロメダ銀河連邦の最高責任者が――。

 誰もが息を呑み、しばし立ち尽くした。

「ガウロ総裁。頭をあげて下さい。どんな任務でも大丈夫です。必ず成功させて見せますから。もう、操縦室でお休みください。ホログラムが消えかかっていますよ」

「おぉ。時間切れのようじゃのう。それでは、ソラよ。頼んじゃよ」

 ホログラムが消えた。同時に、ソラの金色の髪が美しい銀色へと変化した。

 ソラの髪の色は、感情により三つの色に変化する。本来は、美しい金色であるが、怒りの感情が強くなると暗紅色に、戦闘モードになると銀色に変わる。

「ふっ。早速、戦闘モードかぁ。覚悟決めたんだな」

「あぁ。事態は私が考えていたより深刻らしいからな。私は、ちょっと部屋を出るが、二人はゆっくりしていってくれ」

「ソラ、待って!!」

 ウサがアイコートをかけ、何やら計算し始めた。

「三十年眠り続けたソラが覚醒する確立は、十パーセント。あまりにも危険だわ。でも十年で半覚醒状態にすれば、なんとかなるかも・・・・・・」

「しかし、半覚醒状態では、一つの肉体に宿った二つの魂がころころ入れ替わることになる。周りの人間に二重人格とみなされ、薬が処方されれば私の魂は肉体が滅びるまで覚醒できない」

「だから、プログラムするの。私のリーディングでは、少女の名前は万理絵というわ。もし万理絵ちゃんが学校にいる時、突然ソラの魂が覚醒すれば当然周りは混乱するわ。言葉遣いとか雰囲気とか、全くの別人に変わってしまうから・・・・・・ソラが、上手に演技できるとは思えないしね。そこで、覚醒条件を付けるの」

「覚醒条件?」

「そう。夜で万理絵ちゃんが一人の時だけっていう条件」

「でもよぉ、奴らにソラのエネルギーすぐキャッチされてしまうんじゃねぇか?」

「問題は、そこ。だから、もう一つ覚醒条件付けるの。万理絵ちゃんの部屋にシールドを張るわ。だから、覚醒条件は、一人・夜・部屋この三つが揃った時だけ」

「さすが、ウサ公」

ダルがしきりに感心している。

「しかし、ウサ。どうやって万理絵の部屋にシールドを張るんだ?」

ソラが尋ねた。

「ふふふ・・・・・・これ!」

ウサの手の中に、小さなうさぎのぬいぐるみが現われた。

「うさぎのぬいぐるみ?」

ぬいぐるみを手に取り、目を丸くするソラ。

「このぬいぐるみはね、万理絵ちゃんの出産祝いに用意される物なの。この中に、クリスタルを入れて・・・・・ほら、完成!このぬいぐるみを部屋に置いておけば、シールドを張れるわ。小さなシールドだけど、これならダークサイドにキャッチされないと思うの」

「さすがだな、ウサ」

ソラは、短時間で次々と作戦を考え出すウサに感心していた。

(もうすぐこの母船の頭脳は、ウサになるだろう)

そんな予感がしていた。

「ソラ、私が調べた未来には気になることがあったの。今回の任務想像以上にキツイと思う。これ以上は、何も言えないけど・・・・・・」

唇を結び、不安そうな表情を浮かべるウサ。

「覚悟はできているさ。私はちょっと出掛けてくる。ダルとゆっくりしていってくれ」

ソラはそう言うと、部屋を後にした。

部屋に残された二人が、深いため息をつく。

「おい、ウサ公。一体、何を見たんだ?」

ウサが重い口を、ゆっくりと開いた。

「万理絵ちゃんが、学校でひどいいじめを受けているの。でも、先生は知らないふり。親もね、万理絵ちゃんを虐待している」

「じゃぁ、十歳の寿命ってのは?」

「虐待死だと思う」

「おい、おい!いくらソラの意識が沈んでいるとはいえ、多少は疑似体験してんだぞ。いじめとか、虐待なんて、ソラの精神的ダメージが強すぎねぇか?下手すりゃ、ソラがダークサイドに掴まってしまうぜ」

ダルは行き場の無い怒りを、テーブルにぶつけた。

大きな拳で激しく叩かれたテーブルは、見事に二つに割れている。

(もし、テーブルが生き物だったら・・・・・・)

そんな想像をして、ウサは一瞬身震いした。

「そうだわ。動物・・・・・・」

ウサが小さく呟く。

「動物?」

「そうよ、猫!」

「猫?」

「ねぇ、ダルの生命エネルギー、少し分けてちょうだい。それで、猫を造るわ」

「エネルギー分けてやるのはかまわねぇけど、何で猫を造るんだ?」

 ウサが何を考えて、何をしようとしているのかダルにはさっぱり分からなかった。

「エジプトでのこと覚えている?」

「エジプト?そういえば、ソラは宮殿で猫飼っていたなぁ。ヌービスとかなんとかって名前付けて可愛いがっていた」

 肝心なことを忘れているダルに、少し呆れた顔でウサが説明した。

「それだけじゃないでしょ。ガウロ総裁が、ヌービスに憑依して、ソラを暗殺者から守っていたでしょ」

「あぁ、そうだった!随分昔の話で、すっかり忘れていたなぁ。そうか、今回は俺の分身で猫を造って、ソラを守ってやるんだな!」

「そういうこと!」

 一気に部屋の空気が明るくなる。

「うっしゃ――善は急げだ!今からお前の研究室にテレポートするぞ!」

「了解!」

 二人が消えた部屋の中に、壊れたテーブルだけが残された。

  

















 

 

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