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この世界に足りないのは勇者じゃない、道路だ ~土木転生の辺境領地改革~  作者: ヲワ・おわり


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第七話 土を固める、人を動かす

辺境領地改革、毎日5話ずつ更新予定です。

気になったら続きを追ってもらえると嬉しいです。

誰も動かなかった。


 工事開始を宣言した翌朝、役人たちへの通達を出した。現場集合、七時。しかし約束の時間に現場に来たのはクルト一人だった。


 別に驚きはしなかった。前世でも、現場の初日はそういうものだった。


 クルトはシャベルを担いで現場に向かった。


 後ろから足音が聞こえたのは、半町も歩かないうちだった。


「……俺も行っていいですか」


 振り向くと、フリッツが小走りでついてきていた。


「昨日の話、聞こえてたんです。工事始めるって。俺、手伝いたくて」


「道具はあるか」


「これしか」とフリッツは手のシャベルを持ち上げた。刃が薄くなっているが、まだ使える。


「それで十分だ」


 二人で現場に着いた。



──────



 最初にやることは表土の除去だ。


 道路の表面を覆っている腐植土——草の根や落ち葉が分解した、柔らかい層——をシャベルで掻き取る。この層を残したまま砕石を敷いても、下から腐って沈む。


「この黒い土を全部取る。深さはここまで」クルトはシャベルの刃で地面に線を引いた。「下の、色が変わる層まで掘り下げる」


「なんで黒い土はダメなんですか」


「腐植土は水を吸って膨らみ、乾けば縮む。その繰り返しで路面が不均一に動く。固い土の層まで下げてから、上に路盤を作る」


「なるほど……」フリッツはシャベルを土に刺した。「つまり、ちゃんとした土台から始めるってことですね」


「そうだ」


 二人で表土を掘り始めた。クルトが先に掘り、フリッツが掘り出した土を脇に寄せる。一時間ほどで、十メートル区間の表土が除去された。


 次は路床面の整形だ。


 クルトは土魔法を使い始めた。


 この世界の土魔法は、本来「壁を作る」「土を盛る」という用途に使われる。戦闘での防御として。しかしクルトが使う土魔法は違う。前世のロードローラーの動作原理——重量で土に圧力をかけ、粒子間の隙間をつぶして密度を上げる、その圧密の効果を、魔法で直接地面に与える。


 手をかざすと、地盤が微かに震えた。目に見えないが、土の粒子が整列していく感覚がある。魔力が少ないクルトには、広範囲を一気にやることはできない。しかし小範囲を丁寧に、均一に固めることならできる。


 見物に来ていた村人の一人が、「……なんだあれ」と声を上げた。


 地面が締まっていく。踏んでも沈まなくなる。魔法で締め固めた区間と、まだ施工していない区間の境目が、目に見えてわかる。


「地面が、固くなってる」


「魔法で?でもあんな使い方——」


「見たことない」


 フリッツが目を丸くして見ていた。


「俺も手伝う!」


 フリッツが声を上げた。それが、この工事で最初に上がった志願の声だった。


 午後に入ると、もう一人加わった。村の若い男で、名前はエーリク。フリッツの幼馴染だという。夕方には三人目が来た。これで明日は四人になる。


 クルトは作業しながら、フリッツに施工の手順を教えた。路盤の砕石を敷く前に勾配をつける理由。排水のために横断方向に傾けること。平滑度の確認方法——木の定規を路面に当て、隙間がないかを見る。


「こんなに丁寧にやるんですか」とフリッツが言った。「前の道路を直すとき、砂利を撒いて終わりだったって聞いてましたが」


「砂利を撒くだけじゃ、すぐ沈む。路床を固めて、正しい厚さで路盤を作って、勾配で排水して、初めて道路になる」


「……つまり前の道路は、最初からちゃんとしてなかったんですね」


「もしくは、ちゃんとしたものを崩した者がいる」


 言いかけて、クルトは止まった。まだ証拠がない。


「あと——」フリッツがふいに言った。「この辺の地面、昔からぬかるむ場所が決まってるって言ったじゃないですか。このすぐ先の区間、掘ってみたら」


「掘ってみるか」とクルトは言った。「明日の作業に入れる」



──────



 夕方、日が傾いたころ、クルトはふと気配を感じた。


 手を止めて、振り返る。


 工事現場の外、少し離れた場所に——白い髭の老人が、腕を組んで立っていた。


 ランベルトだった。


 目が合った。老人は何も言わない。ただ現場を見ている。施工の手順を、魔法の使い方を、路床面の仕上がりを——一つひとつ、値踏みするような目で。


 クルトも何も言わなかった。作業に戻った。


 「見られること」より「正しい施工をすること」の方が重要だ。ランベルトが見たいなら見ればいい。クルトがやることは変わらない。


 フリッツが小声で「ランベルト親方だ」と言った。「来るとは思わなかった……」


 クルトは聞こえていたが、答えなかった。


 日が落ちて作業を終えるまで、老人はそこに立っていた。言葉は、一言も発しなかった。

次話では、今回の判断が現場でどう返ってくるかが見えてきます。

続きもよろしくお願いします。

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