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この世界に足りないのは勇者じゃない、道路だ ~土木転生の辺境領地改革~  作者: ヲワ・おわり


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第四十九話 トラップと剣、最後の一体

辺境領地改革、毎日5話ずつ更新予定です。

気になったら続きを追ってもらえると嬉しいです。

夜明けから二時間後。


 ストーンゴーレムが動いた。


 三体。城壁北面に向けて、一定の速度で進行してくる。地面が沈む。一体が三トン以上あるのは見ただけでわかった。城壁の石積みが手に当たれば、補強した箇所も含めてただでは済まない。


 クルトは物見台の上で、三体の進路をそれぞれ割り振った。


「ゴーレム一体目——左の落とし穴誘導ルートへ篝火を移す。フリッツ、西の篝火を三本、北西の誘導ポイントに再配置」


「わかりました!」


「ランベルト、外壕の落とし穴機構の確認を」


「準備完了してる。いつでもいい」


「ゴーレム二体目が来たら——城壁上の崩落トラップの綱を切るタイミングを俺がカウントダウンします。フリッツ、担当できますか」


「はい——俺がやります!」


 カウントダウン。この世界にない概念だ。クルトが説明した。「数を逆から読む。三、二、一、ゼロ。ゼロで綱を切る。それだけです」


 フリッツが頷いた。周囲の者が「逆から数える?」と首を傾げたが、今は説明している時間はない。



──────



 一体目が誘導路に入った。


 ゴブリンとは違う。一体が一体で動いている。本能ではなく、低い知性で進路を決めている。篝火の明かりに引き寄せられ——北西の誘導ポイントに向かった。


「落とし穴機構——起動」


 ランベルトが弁を操作した。


 誘導路の地面の一部が開く。上から見れば大きな穴ではないが、ゴーレムの重さが一点に集中した瞬間、底部の支柱が抜けた。地面が崩れた。


 ゴーレムが半身埋まった。石の巨体が地面に沈み込み、腕だけを出してもがいている。


「ランベルト——今です!」


 老鍛冶師が弓矢を取った。矢尻は彼自身が打ったものだ。埋まったゴーレムの首の部分——核となる魔石が見えていた。


 一射目。外れた。


 二射目。石のすぐ横を掠めた。


「……」


 三射目。


 低い破砕音が響いた。魔石が割れた。ゴーレムの動きが止まり、石の塊になった。


「……なるほどな」


 ランベルトが弓を置いて、短く呟いた。彼にとっての「やりきった」という言葉だと、クルトにはわかった。



──────



 二体目が城壁の正面に向かってきた。


 城壁の上には、あらかじめ大石が積み上げてある。城壁横の崩落トラップ——岩盤から切り出した大石を綱で支えておき、綱を切ると上から落下する仕掛けだ。


 クルトが物見台から進行速度を計算した。ゴーレムの歩行速度、大石の落下時間、現在の位置。


(あと十二秒。十、九、八——)


「フリッツ、構えろ」


「——はい!」


 フリッツが綱を両手で握った。


「三——」クルトが声を出した。「二——」


 ゴーレムが城壁の直下に達した。


「一——ゼロ!」


 綱が切れた。大石が落下した。


 轟音。地面が震えた。粉塵が上がった。


 白い霧の中から、崩れ落ちた石塊が見えた。ゴーレムの形がなくなっていた。魔石が押し潰されて砕けた——内側から崩れる特有の光が一瞬走った。


 城壁上で元兵士の誰かが声を上げた。歓声ではなく、安堵の音だった。



──────



 三体目が来た。


 最初から誘導路を無視して動いた。落とし穴機構のルートも外れた。城壁の東側——補修したばかりの北東角の近く——を目指して、まっすぐ進んでくる。


 クルトは一秒で判断した。


(落とし穴にもトラップにもかからない。誘導する手段が残っていない。これは——インフラだけでは対処できない)


「エルドリックさん」


 大柄な騎士が物見台の下に立っていた。


「頼みます」


 それだけだった。


 エルドリックが城壁の外門に向かった。騎士の一人が「隊長、単独は——」と声をかけたが、エルドリックが振り返らずに言った。「お前たちは城壁を守れ。これは俺の仕事だ」


 クルトは物見台の縁を握った。


(この人が死んだら、俺の設計のせいだ——いや、違う。この人に委ねることが、この設計の完成だ)


 エルドリックが外に出た。


 ゴーレムが城壁の石に拳を打ち込み始めた。補修箇所が揺れている。あと五分持たない。クルトは計算しながら、エルドリックの動きを目で追った。


 大柄な男が走った。ゴーレムの背後に回る。足場のない石壁を、指先と爪先だけで駆け上がっていく。重力に逆らうような動きだった。


 騎士として最大の技術を、今ここで使っている。


 ゴーレムの首の位置——核となる魔石の場所——にエルドリックの剣が届いた。


 一撃。


 剣が魔石に刺さった。


 ゴーレムの動きが止まった。石の巨体が、内側から崩れていくように割れ始めた。エルドリックが壁から飛び降り、崩れ落ちる石塊から横に転がって出てきた。


 城内から声が上がった。


 今度は歓声だった。



──────



 クルトは物見台から北を見た。


 草原が静かだった。


 動くものがない。地面の振動も止んでいる。風が南から吹いて、朝の光が草を揺らしていた。


「……終わりましたか」


 フリッツがかすれた声で聞いた。


「終わりました」


 城壁の上に立つエルドリックが、ゆっくりと剣を鞘に収めた。その背中が振り返り、クルトを見た。


「……クルト」


 初めて名前で呼んだ。


「……エルドリックさん」


 二人の間に、言葉にならない何かが流れた。


「死者はゼロか」とエルドリックが聞いた。


「確認が必要ですが……おそらく」


 次の瞬間、城内から声が上がった。女の声、子供の声、老人の声——全部が混ざって、歓声になった。


 避難民が生存を確認し合っている声だった。


 それが答えだった。


 クルトは物見台の縁から手を離し、倒れそうになるのを踏ん張った。膝が笑っていた。


 ストーンゴーレムの崩れた核——魔石を見た。表面に、通常とは異なる紋様が刻まれていた。


(……この模様は何だ。後で必ず調べる)


 手帳を取り出した。震える手で書いた。


「大潮終息——修復計画、開始」

次話では、今回の判断が現場でどう返ってくるかが見えてきます。

続きもよろしくお願いします。

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