プロローグ
天地開闢の頃、大地は人と獣と魔物のものであった。創造神ラピュノスは、天地創造の疲れを癒す長き眠りにつき、地上に神の姿は、未だなかった。
その中で人は、魔物と戦い、獣と戦い暮らしていた。魔物は人と獣を狩り、人は小さな獣を狩り、獣は同じ獣・人・魔物を狩って生きていた。人は、地上で最もか弱く、力なき存在であり、全てから“狩られる者”であった。
そんなある日、人々は願った。
「我々には、魔物のような魔力も、獣のような牙もない。石を砕いて造ったこれらだけでは、どうして生きて行けようか。せめて、魔物だけでもいなければ、我々にも生きる道が開けるであろうに」
それをある魔物が聞いた。いや、それは正確には魔物と人の間に生まれ、神の魂が宿った器であった。
「うぬらの願いを叶えたならば、うぬらは我に何をくれるのか?」
人頭蛇身のその魔物が言った。
「海に、何者にも乱されぬ平穏な暮らしを約束しよう。人はお前を敬い、供物を捧げよう。神に等しい社を造り、お前に祈ろう」
魔物からも人からも疎まれ、蔑まれていた魔物は、何よりも平和な暮らしが欲しかった。彼は、創造神ラピュノスの魂を宿した魔物であった。
「うぬらの願い、叶えよう。我が名はオロス。人頭蛇身に生まれた魔物。我が妹オロネスと共にうぬらの為に戦おう」
こうして聖蛇オロスは蛇女神オロネスと共に、長い戦いを始めた。神と魔物の力を秘めた二人に、やがて全ての魔物がひれ伏した。
「我が名はオロス。人と魔物の間に生まれた者。我は、全てを滅ぼすを望まぬ。魔物よ、天空に輝ける日輪ある間、大地を人に与えよ。その代わり、天空に月輪が輝く夜の闇をうぬらの住まう大地とするが良い。万が一、この定めを犯す者があったなら、我はその者を許す事はない。我が名と魂の誇りにかけて、我はその者を滅ぼすであろう」
全ての魔物が聖蛇オロスの命に従う事を誓った。
人は、聖蛇オロスの偉業を称えた。そして、約束の地に人は決して足を踏み入れぬ事を誓った。すると聖蛇は言った。
「人よ。汚さねば、海の幸を採るが良い。ただ我が望むのは、乱される事のない平穏な眠り。疲れを癒す安住の地。我は、我が子を地上に残す。人よ。何か事あらば、我が子に祈れ。彼らならば、うぬらよりも強い。そして我よりも人に近い」
聖蛇は、ヒュドルト、ラントゥ、シャマイラ、アゴルの四人を地上に残した。
「我が子らよ。うぬらは地上に残り、人と我が眠りを守れ。うぬらの水、土、風、火の力をもって我が命に服せ」
聖蛇の仰せに子らは答えた。
「我ら四人。父上の仰せに従います」
そして、四守護家が生まれた。
聖蛇は妻であり妹であるオロネスと共に海の国へ入られた。地上には、聖蛇の血筋と聖蛇の鎧が残され、人は平穏な生活を得た。
そして、現在も四守護家の血筋は続き、“魔法”と呼ばれる力を駆使して人と共に生きている……。
新シリーズです。
ひとまず在庫分の更新になります。
次回更新は金曜日になります。