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ハサミの独壇場  作者: 七草小鳥
数学教師、葉沙実
1/6

ハサミの日常、プロローグ

「本当に申し訳ありません」

使用人の葉沙実は、心底うんざりしていた。

主人にも、あたりとはずれがある物だ。ハズレの時は、何がなんでも難癖をつけてくる。

葉沙実は、大規模な屋敷に位置する学校の数学教師と、使用人をつとめていた。

それで、葉沙実の教え方が間違いだと、主人の寿一が難癖をつけてきたのである。

数学教師に算数も任せるのが悪い────

なんて事、言えない。0、1、2、3…それから数学と算数は始まるのだ。

怒られた要因は、葉沙実が二桁、三桁の引き算をインドの方法を生徒たちに教えたことにある。

例えば、

123ー17

は、くり下がりが必要だ。

くり下がりをなくすために、

123ー17→123ー20

(123+3)ー20 (引かれる数に、引く数から引いた分だけ足す)

=106

このように、

引く数の一の位をゼロにして計算するというものだった。

インド人の考え方に葉沙実は衝撃を受け、数学の教え方を一任されていたため、子供たちに教えようと思った。

なのにどうだろう?なぜこのような事で叱られなければいけないのだろうか…。

でも、こどもたちのためなら。そう思うと耐えられた。

「聞いているのか?葉沙実」

しまった、ぜんぜんきいてない。

「もう一回言っていただけますか」

「次から、筆算を教えるんだぞ」

数学についてはお前に一任する…そう言ってくださっていたのに。

我が子が関係するとなればいつもこうだ。

「はい」

筆算はもう教えていたのだけど、面倒だから言わないでおいた。


部屋を出て、ふぅと息をはく。

廊下の先に、桃色の着物を着た女性がいた。

ここは皆、特に職員は着物を着るという謎のルールがある。

雰囲気を壊さないためだそうだ。

桃色の着物の女性は、女性というよりかは少女のような顔立ちだが、葉沙実より一つ年上の24歳だ。

「あ、葉沙実せんせー。こんにちは。お叱りですか?」

こちらに気づいたようだ。

「亜豆先生。まぁ、そんなとこです」

亜豆の問いに対して、葉沙実は苦笑いを返した。

亜豆はピンク系の着物を好んで着ていて、ふわふわした雰囲気をまとっている。

生徒がどこにいるかもわからないし、主人や目上の方がいるかもしれないので敬語を使っているが、亜豆とは昔からの仲良しで、呼び捨てで呼び合う仲だ。

「放課後、豆知識について教えてくださいね♪」

亜豆がくりくりとした目で葉沙実を見る。

「もちろんです!」

怒られて落ち込んだ気分もなくなり、葉沙実は元気に返事をした。

今日はどんなことを話そうかな…と胸を膨らませる。

亜豆がいるおかげで学校にもつとめる側として楽しくこれている。

ありがたいなぁ、と思った。

亜豆とわかれ、葉沙実は歩き出した。


声が聞こえる。

━━━A組の、谷川くん、退学になるかもしれないんだって

━━━なんで? 

━━━不登校になって、数学の授業だけなら受けれるって言ったらしいんだけどね、それを先生が許さなくて、授業日数が足りなくて退学になったらしいよ

━━━誰かがいじめたらしいの

━━━誰,誰?

━━━それはね…

屋敷は、噂に満ちている。

心底どうでもいいことが大抵だ。

教室に着いた葉沙実は、周りを見渡した。

「よろしくお願いします」

日常が、始まった。


「じゃあ、今日は7に関する豆知識を教えるね」

放課後、亜豆と葉沙実は葉沙実の部屋に集まっていた。住み込みで働いているの使用人の葉沙実の部屋に集まっている。亜豆は使用人ではなく、国語の教師なので(葉沙実も数学教師なのだけど)屋敷の外に住んでいるのだ。

「この数、みて」

葉沙実はハサミの描かれたノートを取り出し、鉛筆で数を書いた。

142857

「14287?」

亜豆が反応する。

「うん。これに、2から順番に数字をかけていくと…」

142857 × 2 = 285714

142857 × 3 = 428571

142857 × 4 = 571428

142857 × 5 = 714285

142857 × 6 = 857142

「何のへんてつもないように見えるけど…」

亜豆がノートを覗き込んだ。

葉沙実は数字に印をつけていった。

「1」(4)〈2〉『8』【5】〝7〟× 2 =〈 2〉『8』【5】〝7〟「1」(4)

「ん?」

亜豆が首をひねる。

「かけられる数と、答えにおんなじ数が使われてるの」

「…あっ!本当だっ!」

亜豆が叫ぶ。

葉沙実はニコリと微笑んだ。

他の式も同じだ。

「でも、これって、7に関係あるの?」

「それはね…」

鉛筆をノートに走らせる。

142857 × 7 = 999999

「何でこうなるの?」

亜豆の純粋な反応。やりがいを感じる。

「142857 っていうのは、1を7で割った時に出てくる数なんだよ」

1 ÷ 7 = 0.142857142857142857…

「へぇ…」

亜豆が満足そうにため息をつく。

「もっと面白いのがね…、1番上の式では、2が1番目にあって、2番目の式では、2が3番目にあって…って感じで、数字がぐるぐる回ってることなんだよ!142857のことを、循環数や周期数っていうんだよ!」

葉沙実は興奮して、亜豆の形を左右に揺らした。

亜豆が口を開く。

「…数学のことになったら、葉沙実の独壇場だよね」

亜豆の、お決まりのセリフだった。



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