第六話『新しい武器を得る時期は物語の中盤なのか終盤なのか、でも鍛冶屋系異世界物はそうでもないかな』
美久「ねぇーどーやったらあんな寝相になるって言うのー?」
朝起きてアリッサさんと一緒にライオスさんをお越しに行こうと思ったら円錐状に布団が巻かれててそのてっぺんに頭が突き刺さるように埋もれてきをつけの体勢のまま爆睡してた。
アリッサ「私にもわからんわ・・・とりあえず起こすよ」
美久「うん、せーのっ!」
布団を思いっきり引っ剥がして引っ張りすぎてぶっ倒れた。
ライオス「へぶぅっ!?」
アリッサ「まったくどういう理屈でありえない寝相になんのよ・・・!」
ライオス「いたた・・・今日のは格段に凄かったのか・・・?」
美久「うん、もうお山だったよ・・・」
ライオス「いやどんな寝相だよそれ・・・?」
そんでもって私達は朝食を済ませてマカズアの街の外に出た。
ライオス「それじゃあ帰るとしようか」
アリッサ「そうね、ギルドの人にも報告を済ませないと」
美久「うん、依頼も達成したし後は帰るだけかぁー」
そう言って私は伸びをする。
アリッサ「・・・!ちょっと待って・・・!?」
アリッサさんが何かに気づき、空を見ると大きなドラゴン・・・昨日のシキガミがこっちに来る・・・!?
シキガミ「おーここにいたか、探したぞ」
美久「えっ・・・?私達を・・・?」
シキガミ「そうだ、我を助けてくれたお礼を思ってな」
そう言ってシキガミは大きな口を開けると右前足を口に伸ばしていき・・・ゴッ!
シキガミ「オ゛ッ!」
前歯の一本を抜いちゃった・・・!?ライオス「へっ!?」
シキガミ「おー痛・・・これが・・・お主への礼だ」
そう言って抜いた歯を差し出した。
アリッサ「『龍の牙』を・・・!?」
美久「えっと・・・よくわかりませんが良いんですか・・・!?」
シキガミ「なぁに、また生えるしお主らの力、中々面白かったしな」
ライオス「あ・・・ありがたく受け取ります・・・!」
美久「私も・・・!ありがとう!」
シキガミ「それじゃ我はまた寝るぞ、散々身体を動かされてまだ眠いし」
そう言ってシキガミはあくび混じりに飛び立った。
美久「・・・とんでもないものをもらっちゃったね・・・」
ライオス「うーむ・・・こんな良いものを手に入れたのなら・・・」
アリッサ「そうね、ギルドには手紙を書いておきましょ」
美久「どこかより道をして帰るの?」
ライオス「うん、南西に鍛冶が盛んな大きな街の『ルドル』って街があってね、そこで装備を新調しようか」
アリッサ「そういえば・・・変わってるけどすごい腕前の鍛冶職人が最近表れたって噂があるね」
美久「へぇー!それは気になるね!」
ライオス「じゃあまずは港へ行こう!そこから船に乗ってルドルへ向かうよ!」
アリッサ「そうね」
美久「はーいっ!」
こうして私達はギルドにお手紙を書いて送って港へ向かい、船に乗ってルドルへと向かった。
****
船の中・・・
美久「そういえばライオスさんの剣、アリッサさんの雷で無くなっちゃいましたね・・・」
ライオス「彼女が考えた切り札なんだ、剣一本なら安いものさ」
アリッサ「これまで3回ぐらい使ったけど、今回のはかなりの威力だったと思うわ」
ライオス「まぁルドルで新たに仕入れればすむ話さ」
そんな話をしている内にルドルにある港に辿り着いた。
アリッサ「ルドルは山の中腹にある街だから鉱山があってそこから良質な鉄鉱石やミスリル、ダマスカス鋼が採れる街よ」
美久「へぇー・・・」
ライオス「ここには変わった馬車があるけど・・・あ、あれだ」
ライオスさんが指差した方向には毛がないヤギっぽい生き物が繋いだ簡易的な馬車があった。
ライオス「『ラバーゴード』は固い皮膚を持って脚も強いから、どんな悪路にも耐えられるんだ」
美久「へぇー!すごい!」
アリッサ「それじゃあここからはあれに乗って移動するよ」
私達は馬車・・・いや山羊車かな・・・に乗り込み、ルドルへと向かった。
****
1~2時間後、いっぱい煙突が見えてきた。
ライオス「お、見えてきたよ」
アリッサ「あれがルドルの鉱山ね」
美久「わぁー・・・」
街というより煙突が沢山ある村って感じだけど・・・ここの人達は煙とか気にしないのかな?
山羊車から降りて街の中に入ると煙突つきの建物がいっぱいあった。
美久「おー・・・!」
アリッサ「この街は石炭も豊富だから鍛冶も盛んだし、【ヴァルキリーハーツ】の支部もあるのよ」
美久「ヴァルキリ・・・?」
ライオス「ヴァルキリーハーツ、大御所の鍛冶のギルドで根強い人気を誇ってるし、良質な武器を作ってくれる事から腕に自信のある冒険者がよく所属しているんだ」
アリッサ「この街で作ってもらった武器を持ってる人は結構いるそうよ」
美久「へー!そうなんだ!」
ライオス「んじゃさっそく変わってるけど凄い鍛冶職人の元へ行こうか」
美久「はいっ!」
そして私はライオスさんの案内で鍛冶工房へと足を運んだ。
ライオス「すいませーん」
受付の男性「はい、ご用件はなんでしょうか?」
ライオス「例の噂になってる鍛冶職人の人に会いに来たのですが」
受付の男性「はい、少々お待ちください」
そう言って男性は離れていった。
受付の男性「お待たせしました、ではこちらへどうぞ」
ライオス「はい」
そして私達は工房へと足を運んだ、
****
鍛冶工房にて・・・
美久「わぁー・・・」
そこには様々な武器が並んでた、綺麗な形状の杖や無骨な大剣といろいろある。
受付の男性「はい、この方が噂になってる鍛冶職人の方です」
そう言って受付の男性は去っていった。
???「どもっす、俺は『リィン』っす、よろしくっす」
そう言って軽くお辞儀をした。
美久「はい・・・!」
その人の見た目は金髪で短髪、黒いツナギを着てた。
アリッサ「あなたがあの噂の・・・?」
リィン「そうなんすけどねぇ・・・俺が作る武器が変わりすぎてるって周囲の評価はそんなでもなくてねぇ・・・」
ライオス「そうなんですか?」
リィン「剣とか槍とか普通の武器作るのって俺としてはありきたりすぎてつまんないんすよ、だから俺オリジナルの武器を作ってるんす」
美久「へぇー・・・」
リィン「まぁでも顧客にぴったりな武器を作ることは約束しまっすよ、まぁ素材が必要っすけどねぇ」
ライオス「素材ならこれを・・・」
そう言ってライオスさんはシキガミの牙をリィンさんに渡した。
リィン「おおっ!木属性なドラゴンの牙!?良いっすねぇ!」
アリッサ「それでどんな武器を作るの?」
リィン「俺のポリシーは顧客の戦い方を見てから武器を作る事なんでね、お三方こっちへ・・・」
美久「はぁ・・・?」
私達はリィンさんに付いていき、武器工房の外へ出て大きな広場へと出る。
リィン「んじゃまずそこの拳闘士のお嬢さん、あの球体・・・俺が作った仮想の標的に向かって攻撃をお願いするっす」
美久「そんじゃあ・・・」
私は鼓動のビートを高鳴らせていき、ベースの音を響き渡らせていく。
リィン「・・・?」
美久「ほっ!!」
私は仮想の標的に向かって飛び上がり、ビートに合わせて右ストレートを繰り出すとシンセの和音が鳴り響く。
美久「よっ!はっ!!」
ビートを響かせて拳や蹴りで攻撃していって更にシンセの和音が響き渡る。
美久「はっ!!やぁっ!!」
シンセの和音がどんどん響き渡っていき、私の動きもよりキレを増していく。
リィン「おー・・・ほぉー?」
美久「ふぅ・・・」
ライオス「相変わらず良いスキルだね」
アリッサ「たしかにねぇ」
リィン「なんじゃこのスキル・・・!?」
美久「あーえっとですねぇ・・・」
私はリィンさんに私のスキルについて説明した。
リィン「へぇー・・・そんなスキルが・・・」
アリッサ「それでリィン、このスキルでどんな武器を作れるの?」
リィン「うーむ・・・お嬢ちゃん・・・えっと名前は・・・」
美久「あっはい、ミクって呼んでください」
リィン「じゃあミクちゃん、君が望んでるのはズバリ『スムーズに敵に近づいたり素早く攻撃を避けれる方法』っすね!?」
美久「あー・・・!!」
確かに自在なヒットアンドアウエイが出来れば戦闘も楽になるし、よりダンスのような動きも出来るし・・・
リィン「だったら・・・あれを・・・うん・・・ドラゴンの牙で・・・」
リィンさんはぶつぶつと独り言を呟いてしばらく待っていると・・・
リィン「よしっ!ロジックが浮かんだっ!!」
そう言って黒板のような板を取り出し、何かを書いていった。
リィン「おしっ!まずは一つ!んじゃ続いて剣士の兄ちゃん、あの仮想の標的に一発だけこの剣で攻撃してみて」
ライオス「一発だけ?良いけど・・・」
そう言ってライオスさんは剣を受け取って構えて仮想の標的に向かって走り、剣を振り下ろした。
リィン「どれ・・・」
リィンさんは標的の傷跡をよーく観察している。
リィン「ほーう・・・なるほどねぇ・・・」
アリッサ「何かわかったの?」
リィン「兄ちゃん、えっと・・・」
ライオス「ライオスだよ」
リィン「ライオっさん、あんたズバリ『迷ってる』っすね?」
ライオス「っ!!」
リィンさんのその言葉にライオスさんは驚いた。
リィン「剣の扱いに慣れてるようだけど、迷いがこの跡を通じて解ったっす」
ライオス「いやあ・・・参ったなぁ・・・」
アリッサ「予想できるわ、色んな武器を試してはいるけどどれもしっくり来ないんでしょ」
ライオス「うん・・・そうなんだよね・・・」
リィン「だったらあれだな・・・扱いやすいように・・・そんで・・・」
またぶつぶつと呟きながら黒板に何かを書いていく、そして書き終わると・・・
リィン「これで二つ目だっ!最後っそこの杖持ってる姉ちゃん、あの仮想の標的に一番得意だけどもっとも弱い魔法で攻撃してみてっす」
アリッサ「一番得意で弱い・・・ねぇ・・・」
アリッサさんが杖を構えて魔力を練っていき・・・
アリッサ「ふっ!」
雷のナイフのようなのが標的に向かって飛んでいって命中した。
リィン「ふーむ・・・」
アリッサ「これでなにか分かる?後言っとくけど私の名前はアリッサよ」
リィン「アリッさんっすね、ずばりアリッさんは魔法を使うのは得意だけど接近戦は苦手っすね?んでもって敵が近づくまでに魔法で倒そうとしてるっすね?」
アリッサ「・・・へぇー・・・そこまでわかるなんて凄いものね」
リィン「そんならあれかな・・・んでもって・・・ここらへんは・・・よしっ・・・あっそうだアリッさん、その杖をちょっと見してほしいっす」
アリッサ「良いけど・・・?」
リィン「ふむ・・・幅はこれくらいか・・・」
リィンさんはアリッサさんの杖をしばらく見ていると・・・
リィン「よしっ!夕方また来てくださいっす!それまでに完成させときまっすから!」
ライオス「今日の内に!?」
アリッサ「本当に大丈夫なの?」
リィン「だいじょぶっす!ベースとなる武器があってそれを受け取ったドラゴンの牙で加工するだけなんで!」
ライオス「なるほど・・・!」
アリッサ「まぁそれなら安心ね」
美久「じゃあよろしくお願いしますっ!!」
そうして私達は鍛冶工房を後にした。
****
夕暮れ時、私達はまたリィンさんの鍛冶屋に向かった。
リィン「おぅいっす!よく来てくれたっすねぇ!」
ライオス「それで武器は・・・」
リィン「あーいっ!これっす!」
そう言ってリィンさんは覆ってる布をめくって武器を見せた。
美久「わぁ・・・!」
一つ目はちょっと大きい双剣で刃の部分がちょっと反り返ってた。
美久「綺麗な剣・・・!!」
リィン「これはね・・・」
リィンさんが剣を手に取って峰の部分を合わせるとカキンっと音が鳴り、幅広の剣に変形した。
美久「わっ!?」
リィン「こんなぐあいに・・・」
今度は束の先端を合わせるとパドルっぽいのに変形した。
美久「すごーい・・・!」
アリッサ「へぇ・・・面白い武器ね」
リィン「どうっすか?自在に変形するこの剣、まさに色んな状況に対応する為に作ったっす!」
ライオス「こりゃあ凄い・・・!僕にぴったりだ!」
美久「こんな凄いのに周囲の評価は良くないのぉ・・・?」
リィン「いやあ『一種で充分ですよ』とか『変形する必要性は?』とかで不評だったけどライオっさんなら使いこなせると思うっす」
アリッサ「まぁその三つを使い分けれるならこれもありよね」
リィン「おっと三つだけじゃないっすよ、まだ数パターン変形が残ってまっすから、まぁそこはおたくが確かめてくださいっす」
ライオス「うん、わかった!ありがとう!」
リィン「では続いて・・・」
そう言ってリィンさんは布をめくり、もう一つの武器を見せた。
美久「んー?」
パッと見は大小の青いリングだけど・・・
リィン「これを見てほしいっす」
そう言いながらリィンさんは別にあった杖に大きいリングをはめた。
ライオス「もしかして杖を変形するの・・・?」
リィン「まぁこれも見ててくださいよっと」
そう言って腕輪っぽい小さいリングを手首にはめて念じると大きいリングからプロペラの羽っぽいのが生えた。
美久「おぉーっ!?」
リィン「飾りじゃないっすよっ!」
その言葉と共に杖が回転して浮き上がった。
アリッサ「これは・・・重力魔法の術式が組み込まれてるのね」
リィン「そゆことっす、このリングは重力魔法が込められてて、これをはめると杖を浮かせてこの腕輪で操ることが出来るっす!そんでこの羽で詠唱が間に合わなくて近づいてくる敵を攻撃することも出来るっす!」
ライオス「なるほど・・・これは面白いね」
美久「これも周囲の評価はダメだったの?」
リィン「そうなんすよ、『前衛に任せればいい』とか『浮かす意味がない』とかで不評だったけどアリっさんなら使いこなせると思うっす!」
アリッサ「そうね、確かにこれは私向きだわ」
リィン「それじゃあ最後っ!これは中々の自信作っすよ!」
そう言ってリィンさんは布をめくり、最後の武器を見せる。
美久「おー・・・!?」
それは緑色の籠手と具足、バックガードのセットだった。
リィン「これは魔法の金属【リギッドメタル】が使われていてね・・・」
そう言いながら右の籠手をはめてくリィンさん。
そんでグッと手を握ってパッと開くと掌から金属の花が咲いた。
美久「わっ・・・!?」
リィン「小型のゴーレムのコアが使用者の意思を感知して、籠手や具足に仕込んだリギッドメタルが形を変える事が出来るっす!」
アリッサ「リギッドメタルってそこそこ貴重だけどこれほどの量となると・・・」
リィン「はいぃ・・・『高すぎる』という理由で不評だったっす・・・」
ライオス「・・・いくら?」
リィン「受け取ったドラゴンの牙と交換で・・・どっすか?」
ライオス「うーむ・・・まぁ妥当かなぁ」
美久「あの!早速試しても良いですか!?」
リィン「無論っす!」
リィンさんの言葉を聞いて私は仮想の標的があるところへと走った。
アリッサ「私達は少し離れて見ていましょ」
ライオス「うん、そうだね」
****
【リィンの心情】
{それは、俺の予想を大きく越えていた・・・最初は打撃はもちろんの事、変形してダガーのように仮想の標的を攻撃していく程度だが段々と俺の予想を上回る行動をしていった。
具足の底をスプリング状にしてジャンプして距離をとったり籠手を鉤爪式ウィップにして引っ掻けて距離を積めたりしていき、挙げ句の果てには籠手とバッグガードのリギッドメタルをプロペラ状にして宙に浮く芸当をやりだしたのだった・・・}
美久「ふぅ・・・どうですか?」
ライオス「凄いねミク!まさかここまでやるとは思わなかったよ!」
アリッサ「ええ、凄いわ」
美久「えへへー・・・♪」
私は照れくさくなって頭をかく。
リィン「・・・ミクちゃん」
美久「はい?」
リィン「君はまさにこの武器に選ばれたといっても過言どころじゃないっす・・・ぜひともこの武器を使ってほしいっす!」
美久「そんなに・・・?でも嬉しいですっ!」
かくして私達は新たな武器を手にライオスさん達の街へ帰宅する・・・予定だったんだけど・・・
鳥「チチチ・・・」
美久「ん?なんだろこの鳥」
鳩のような姿で全体が黄色く、脚のところに手紙を入れるような筒がある鳥がこっちに来た。
ライオス「これは・・・僕のところのギルドのメッセバードだね」
美久「メッセ?」
アリッサ「この筒の中に手紙が入っているのよ」
メッセバード「チチチ・・・」
メッセバードはライオスさんの肩に乗って脚に付いてる筒からクチバシで手紙を出していった。
美久「おー器用だねぇ」
ライオス「えーっと・・・?」
そしてライオスさんは手紙を開いて読んでいく。
ライオス「ん・・・えぇ・・・?うーむ・・・」
アリッサ「どうしたのよ」
ライオス「『アグナマタル』の国で突然変異の魔物が大量発生してるみたいなんだ」
美久「えっと・・・あぐな・・・なんて?」
ライオス「砂漠の国の『アグナマタル』、そこで突然変異の魔物が大量発生したらしい」
アリッサ「なるほど、今ルドルにいるから距離が近い私達を頼った訳ね」
ライオス「そういう事だろうね、どうしよっかミク」
美久「行きましょうっ!困っている人を見捨ててはいけませんっ!!」
ライオス「それじゃあ行こうか」
美久「はいっ!」
アリッサ「ええ」
そして私達はアグナマタルへと旅立った。