第二話・1『ベース音に合わせて敵を倒すだけの楽しい(比喩無し)お仕事です』(前編)
美久「ふぁあぁ・・・よく寝たなぁ、さて今日からどうしようか」
とりあえずギルドに行ってみようと思った私は、町の中央にある広場に向かった。
美久「綺麗・・・」
中央に噴水があり、その周りにはベンチが置かれていて人々が談笑したり、子供達が遊んでいたりしている。
私はしばらくボーッと眺めていたが、ハッと我に返って慌ててギルドに向かう。
ギルドの中に入ると、カウンターで受付嬢が声をかけてきた。
受付嬢「こんにちわ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
美久「あの・・・お仕事したくて」
受付嬢「かしこまりました、少々お待ちください」
そう言うと彼女は奥に行き、すぐに戻ってきた。
受付嬢「それではこちらの水晶玉に手をかざしていただけますか?」
美久「こうですか?」
すると水晶玉が光り、文字のようなものが浮かんできた。
受付嬢「ふむふむ・・・んー?・・・うーむ・・・ずいぶん変わったスキルを持っていらっしゃいますね・・・」
美久「やっぱり珍しいみたいだねぇ」
受付嬢「えぇ、かなり特殊です・・・【ビート】とかいうスキルがありますがこれはいったい何なのでしょう?」
美久「これはね、私の鼓動のリズムに合せて攻撃や回避が出来るんだ」
受付嬢「・・・ちょっと何言ってるかわからないです」
美久「まあ、そういう反応になるよね・・・とにかく私はビートを刻んで戦えるんだよ」
受付嬢「なるほど・・・それは確かに特殊な能力ですね・・・では話を変えて・・・」
そう言うと受付の人は指輪っぽいのを取り出した。
受付嬢「この指輪を着けて下さい」
美久「これって?」
受付嬢「冒険者の証しです、これを着けてるとランクに応じて受けられる依頼が増えていきます、それと依頼を受ける場合は必ずこの指輪をしている状態でお願いします」
美久「はーい、わかりました」
私は早速指輪を右手の小指にはめてみる、サイズはぴったりだ。
美久「これでよしっと、んじゃ依頼を探そうかな」
そして掲示板の前に行くと沢山の依頼書が貼られていた。
美久「うーん・・・どれがいいんだろう?」
私が悩んでると・・・
声「ねえ君」
後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには一人の青年と一人の女性が立っていた。
美久「はい、何か御用ですか?」
男性「君さえよければ僕達と一緒にパーティー組まないかい?」
美久「えっと・・・」
女性「申し遅れました、私はアリッサ、彼はライオスと言います」
美久「ええと・・・どうして私に声をかけたんですか?」
ライオス「いやぁ僕自分で言うのもなんだけど結構実力あるほうなんだけどさぁ、毎日おんなじクエストばっかりやってるのも飽きてきちゃってねぇそれで新入りの指導してみたら面白いんじゃないかと思ってさぁ」
美久「な、なるほど・・・」
アリッサ「それに登録してたときの会話を聞いてたものでして【ビート】とかいうスキルを聞いたのは初めてだったので少し気になりまして」
美久「ああ、あれ聞かれてたの」
ライオス「というわけなんだ、どうかな?」
美久「いいですよ」
アリッサ「あら?即答ですね」
美久「はい、せっかくのお誘いだし断る理由が無いですから」
ライオス「おおっ!ありがたい!それじゃよろしく頼むぜ!」
美久「はいっ美久と呼んでください」
私とライオスさんは握手をし、アリッサさんとも握手をした。
そして『ボーンラビットの狩猟』の依頼を受けて、草原へと向かったのだった。
***
青々とした空、心地よい風が頬を撫でていく。
美久「気持ちのいい天気だなぁ~♪」
アリッサ「油断は禁物よ、希に厄介なモンスターもいるからね」
美久「はーい、了解しました」
そんな風に雑談しながら歩いていると、遠くに数匹の影が見えてきた。
美久「あっ!いた!あのウサギがターゲットの魔物ですか!?」
ライオス「あぁそうだ、あいつらがボーンラビットだ」
アリッサ「見かけどおりすばしっこくて鋭い爪と角を持ってるの、油断しないでね」
美久「はい!がんばります!リズムに乗ってビートを刻めば大丈夫です!」
私は心の中のビートを掻き鳴らしながら近づく。
するとこちらに気付いたのか、3匹が一斉に襲ってきた。
美久「SHOW!IT'S BEAT!!」
まず正面にいる一匹に狙いを定め、ステップを踏みつつ攻撃をかわすと、すれ違いざまに足で蹴飛ばす。次にステップを踏んで横にいたもう1匹に蹴りを入れる。さらにステップを踏んで後ろに回り込み、また一匹を蹴り飛ばした。
そして最後の一匹が振り向くと同時にその顔に向かって回し蹴りをお見舞いした。
美久「ヒューッ♪」
私は思わず口笛を吹いていた、すると残りの2人が拍手している。
ライオス「おいおい・・・なんて戦い方するんだ、まるで踊ってるようじゃないか・・・」
アリッサ「それに心なしか音が聞こえるような気がしますね・・・これが【ビート】とかいうスキルなのかしら・・・」
アリッサさんがそうぼやいてるとまたボーンラビット達が襲いかかってくる。
今度は4匹だ。
美久「よーし、じゃあちょっとボリューム上げてみようかな」
私は再びビートを刻み始め、今度はベースの音楽が響き始めた。
私はリズムに合わせてステップを踏む。
ライオス「おぉっ・・・こりゃ音楽か・・・!?」
美久「私の鼓動の音です、ビートは鼓動のリズム、だから私の鼓動に合わせればどんな攻撃だろうと回避できて・・・」
そう言ってボーンラビットの攻撃をリズム良くかわして・・・
美久「リズムに合わせて攻撃すれば音が鳴り響くんですっ♪」
そう言ってボーンラビットを蹴飛ばすとシンセの和音が響いた。
美久「まだまだいくよっ!」
そう言って次々と攻撃をかわし、音を打ち鳴らす。
そして数分後・・・ 規定数のボーンラビットを退治し終えた。
美久「ふぅ、なんとかなりましたね」
ライオス「・・・」
アリッサ「ん?どしたのライオス」
ライオス「もしかしたら・・・」
そう言うとライオスさんはビートに合わせて持ってた剣で木を一閃する。
するとギターの『ギュイィイィンッ』と音が鳴った。
ライオス「ふおぉおぉっ・・・!これだっ!虚無な日々が一気に埋め尽くされたかのような・・・!」
アリッサ「なに訳わからんこと言ってんの」
ライオス「ミクだっけ!?このリズムとか言うのに合わせて戦うのっ・・・すっごい楽しいっ!これからも仲間に入れてくれぇっ!」
アリッサ「ちょっ・・・なんでいきなりそうなるのよ!」
ライオス「だってこんな楽しそうなこと今まで無かったんだよ!頼むよぉ!」
美久「えっと・・・私としては全然構わないですけど」
アリッサ「あぁそう・・・まぁ本人がいいなら別にいいわ」
ライオス「ありがとう!よろしく頼むぜ!相棒!」
こうして私達はパーティーを組むことになったのだった。
***
そしてボーンラビットの素材を回収し、ギルドに報告しに行く。
受付嬢「えーっと1、2、3・・・25体ですね、全部で銀貨5枚になります」
美久「おーっ!結構貰えるもんなんだね」
ライオス「多めに倒してるからな、そりゃ報酬も高いさ」
アリッサ「でもあんまり調子に乗らないようにね」
美久「はーいわかりましたぁ、んじゃこのお金でご飯となんか武器を買おうかな」
ライオス「おっ、武器なら僕良い店知ってるから案内しようか?」
美久「いいの?じゃあお願いします」
ライオス「よしきた、それじゃついてきてくれ」
そう言ってライオスさんは歩き出す。
アリッサ「まったく・・・でも今までちょっと無気力な日々を過ごしていたライオスに活気が戻ったみたいだし、よかったのかしらね・・・」
アリッサさんは少し呆れた様子で呟いた。
そしてしばらく歩くと、ライオスさんはある店の扉を開ける。
そこには沢山の剣や盾、槍などが飾られていた。
ライオス「ここが僕の行きつけの武具屋だよ」
美久「へぇ~、凄いいっぱいあるね」
ライオス「ここは店主が昔冒険者だったらしくてね、色々珍しいものを持ってるんだ」
美久「なるほどねぇ・・・んじゃとりあえず適当に見て回ろうかな」
私は店内を散策し始めた。
剣や斧、弓矢に杖など、様々な種類があった。
美久「うーむ・・・やっぱりビートを刻みながら攻撃するんだから動きを阻害しない方がいいよね・・・」
そんな風に考えながら物色していると鎧っぽいのを見つけた。
美久「おーっ!これカッコイイかも!」
私がそう言ってると店主らしき人が話しかけてきた。
店主「ほうお目が高いね、それはバジリスクの皮を加工した鎧だ、防御力はもちろんだが軽い上に着心地もいいんだ」
美久「おぉっ!いいじゃんいいじゃん、これください」
アリッサ「でもこれ結構な値段するよ、大丈夫なの?」
美久「あーそうなの?どれくらいするの?」
ライオス「金貨2枚だけど僕が立て替えるよ」
美久「マジですか!?」
アリッサ「はぁ・・・ライオス、そこまで【ビート】のスキルが気に入ったの?」
ライオス「そりゃもう、僕はあのリズムに乗って踊る感じが堪らなかったんだよ、僕もあんな具合に戦ってみたいなって思ってさ」
美久「あはは・・・ありがとうございます」
そして私はバジリスクの鎧を購入したのだった。
***
美久「まだ時間ありますし、もう一回依頼やろっかなぁ」
ライオス「おっ、また行くのかい?」
美久「うん、次はもう少し強い敵と戦ってみようかなって」
ライオス「そうか、じゃあ今度は一緒に行こうか」
美久「はいはーい」
そう言って私達はギルドへ再び向かう。