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091 ツクロダダンジョン ⑤


 そうして無事に壁尻とか呼ばれる最悪な罠から、俺は抜け出した。


 ブラッドに思うところはあるが、今は我慢する。


 それよりも、なぜこの罠が発動したかだ。


 まずブラッドは罠感知のスキルを持っていたはずだが、それをすり抜けるほどに隠蔽(いんぺい)されていたのだろう。


 次にブラッドには発動せず、俺だけが罠により捕らわれている。

 

 考えられるとすれば、違いは性別だろうか。


 今の俺はレフと融合したことにより、なぜか少女になっている。


 そしてこの罠はブラッドの行動から(かんが)みて、卑猥(ひわい)な目的で設置されている気がした。


 であるならば、性別差による発動条件をつけられていても不思議ではない。


 ツクロダも、ブラッドの壁尻など見たくはないだろう。


 当然、俺も見たくはない。


 加えてもしかしたらだが、一つ前の階層の罠が絶妙なタイミングで発動したのは、これが関係していそうだ。


 いや、ツクロダがあの罠で、女を狙うとは考えづらいな。


 そういえばあの時は、ブラッドを宙に浮かせていた。


 おそらく反応したのは俺ではなく、ブラッドだったのだろう。


 そう考えると、腑に落ちる。


 だとすればブラッドが罠を発動させた結果、自爆ネズミが死亡したことになるな。


 俺がカード化できたのは、なぜだろうか?


 おそらく罠の発動した者は関係なく、自爆による自害が影響している気がする。


 つまりカード化は、自害した個体も対象になるということだ。


 意外なところで、カード化の更なる条件を知ることができた。


 とりあえず、罠についてはもういいだろう。


 それよりも、さっさと次の階層に行くことにする。


 縮小解除して元の大きさに戻ると、俺は歩き出す。


「ま、まってくれよ!」

「……」

「む、無視か!? いや、あれは助けるためで、下心は……あんまなかった! 本当だ!」

「少し黙ろうか?」

「……はい」


 俺はブラッドにそう言うと、五階層目に下りた。


 ここが五階層目か。一見すると、特に変わったところはなさそうだ。


 相変わらず、灰色の壁と光源となる石が天井に埋め込まれている。


 他に変わったところは、見られない。


 しかし油断はできないので、慎重に進んでいく。


 すると少しして、嫌な予感がした。


 だが通路の先には、何も見えない。


 こういう時は、モンスターに先行させよう。


 俺はそう思い、ホブゴブリンを召喚して歩かせた。


「ピピピッ」

「ん? 何の音だ?」

「電子音?」


 どこからともなく、そんな音が聞こえた直後にそれは起きる。


 壁の一部が開き、銃のようなものが現れた。


 そして当然、思った通りのことが起きる。


 ズガガガガガガッ!


「ごぎゃぁ!?」


 ホブゴブリンは無数の弾丸により、ハチの巣になってやられてしまった。


「おいおいおい、ここはファンタジー世界だぞ!? SFに出てくるラボかよ!?」

「これは、酷いね……」


 銃を破壊すればいいかもしれないが、それによってスタート地点に戻される可能性もある。


 加えてどうやら、あの銃に罠感知は発動しなかったらしい。


 あれは罠ではなく、防衛装置的な感じだろうか?


 それとも、それだけ高度な隠蔽がされているのかもしれない。


 ちなみに銃を鑑定してみると、リビングアーマーが持っていた物よりもランクの高い物のようだった。


 つまり、威力もその分高いことになる。


 俺は何とか耐えられそうな気がしたが、ブラッドは無理だろう。


 途中で力尽きるのは、目に見えていた。


 それに俺も銃撃を受け続ければ、流石に厳しいかもしれない。


 また凍らせたダークネスチェインを近づけてみたが、簡単に貫通されてしまった。


 罠ゾーンのような強引な突破は、できそうにない。


「こりゃ、どうするんだ? たぶん俺にはどうしようもないぞ?」

「うーん。どうしよっか」


 とりあえず、もう一度観察してみることにした。


 今度はスモールマウスを向かわせる。


 だが一定の箇所(かしょ)を通過すると、やはり電子の後に銃が現れた。


 当然、スモールマウスはやられてしまう。


 電子音がしてから、数秒だけ時間があるようだ。


 それと銃は、壁が開くようにして現れる。


 構造からして、後ろへと撃つことはできない。


 なので銃のある壁を過ぎれば、撃たれることはないだろう。


 しかし第二第三の銃が現れると思うので、それも難しい。


 であれば、開くよりも先に駆け抜ければ大丈夫だろうか?


 いや、そんなことは想定されているはずだ。


 走っても間に合わない位置に、銃が設置されている気がする。


 だとすれば、壁が開くのを物理的に防ぐのはどうだ?


 壊すわけではなく、開くのを押さえる感じだ。


 けれども銃が現れる壁の位置は、かなり高い。


 ホブゴブリンでは、届かないだろう。


 なら飛行可能なモンスターならとも思ったが、城への侵入の際に囮として使ってしまった。


 またそうしたモンスターの力では、壁を押さえきれないだろう。


 飛行可能で、壁を押さえられる程のモンスター……いることにはいるんだよな。


 ちょうどこのダンジョンで手に入れた、ロックハンドとロックフットが正にピッタリなのである。


 しかし召喚すれば、流石に怪しまれるだろう。


 俺が倒したモンスターをカード化することが、バレるかもしれない。


 さて、どうするべきか……。


 そう頭を悩ませていると、ブラッドがふとこんなことを言った。


「なあ、あの壁、凍らせられないのか? 凍らせれば、たぶん開かないと思うんだが」

「あっ……」


 なぜそれに気が付かなかったのかと、俺はつい声をもらしてしまう。


 そして実際試してみると、氷に阻まれて壁が開くことはなかった。


 難しく考え過ぎたな。こんな簡単なことが思いつかないとは……。


 このダンジョンで色々考えすぎた結果、思考に(かたよ)りができていたようだ。


 もう少し頭を柔らかくした方が、良いのかもしれない。


 そうして俺は銃が出る壁を凍らせながら、少しずつ前進していくのだった。

 

 ちなみにこの方法は合法と判断されたのか、スタート地点に戻されることは無さそうである。


 また壁だけではなく、床や天井からも銃が飛び出てくる。


 しかしモンスターを囮にすることで、場所の確認は容易だった。


 加えてこの階層には、モンスターがいないようである。


 壁の銃だけで、十分だと思ったのかもしれない。


 実際壁が開くのを阻止できなければ、攻略は難しいだろう。


 そして順調に進み続け、俺たちは一つの扉を発見する。


 ここまで扉などを見たことがなかったので、当然警戒した。


 だが中に気配があるので、開くことを選択する。


 一応ホブゴブリンに開けさせると、中には思いもよらない光景が広がっていた。


「ア”ア”ア”」

「うぅうう」

「ぐヴぁ……」


 これは、酷すぎる……。


 部屋の中には、様々なモンスターと融合させられた少女たちがいた。


 しかも体が部分的に溶けており、筋肉や骨が(あら)わになっている。

 

 人工モンスターの失敗作、やっぱり思った通りだったか。


 鑑定してみると少女たちには、人工モンスターのエクストラがあった。


 人工モンスターは、改造に失敗すると自壊するという効果内容がある。


 つまりツクロダは改造に失敗した少女たちを、ここに押し込めているようだった。


 見れば、獣と融合させられた少女が多い。


 ツクロダが俺に執着した理由の一つは、ここにありそうだな。


 人工的に、獣人を作ろうとしたのだろう。


「こ、こんなのは、許せねえ。人間のすることじゃねえよ!」

「そうだね。私もこれはあんまりだと思うよ」


 ブラッドも、これには怒りを抑えられないようだった。


 そして俺たちにできることは、少女たちを楽にさせるくらいである。


 なるべく痛みのない方法で楽にさせ、遺体は生活魔法火種で骨も残さず焼きつくした。


 小部屋で煙などが充満するかと思ったが、不思議なことに煙はどこかへ消えていく。


 どうやらこのダンジョンは、換気能力が優れているらしい。


 見れば壁の一部がいつの間にか、換気扇になっている。


 こちらに危険が無かったからか、直感も働かなかった。


 まあ、そんなことはどうでもいいか。


 それと、彼女たちのカード化はしない。


 ツクロダに復讐をさせる機会を作るよりも、早く楽にさせた方がいいと思った。


 そもそも人工モンスターは、個を失う。


 つまり彼女たちに、復讐をどうこう思うような気持ちは既に存在しないのだ。


 加えてカード化すれば、終わらない地獄が始まる。


 彼女たちは自壊しており、いずれ死亡していただろう。


 だがそれでカード化してしまうと、たとえ自壊で死亡してもカード化直後に戻ってしまうのだ。


 なので俺は、カード化をしなかった。


 たとえカードを後から処分できるとしても、その考えは変わらない。


「なあ、何でツクロダは、あの子たちを楽にさせなかったんだろうな」

「たぶん、観察するためだったり、何かに使えると思ったんじゃないのかな」

「そうか。とんだマッド野郎だな」

「そうだね」


 胸糞悪い気持ちを(いだ)きながら、俺たちは部屋を出る。


 その後は似たような部屋や卑猥(ひわい)な罠類などは無く、通路を進んでいく。


 もはや銃の防衛装置など、意味はない。

 

 するとしばらくして最奥に辿り着いたのか、大きな扉が現れる。


「やっと着いたみたいだね」

「ここが、そうなのか」

 

 俺たちはついに、目的の場所に辿り着いた。

 

 目の前には、ボスエリアへと続く扉がある。


 つまりこの先に、ツクロダがいる可能性が高かった。


 ようやくだ。この戦いに、決着を付けよう。


「ツクロダを見つけ次第、頼んだよ」

「ああ、分かっている。俺も逃がす気はねえ」


 そうして俺とブラッドは、ボスエリアへの扉を開くのだった。



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