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086 ツクロダの登場


 ツクロダは来ると言っていたが、中々来ない。


 てっきり突然転移してきてもおかしくないと思っていたのだが、違ったのだろうか?


 それとも、他の仲間を集めている可能性もある。


 加えてあれから、目の前の少女とツクロダは連絡を取っていない。


 また少女たちは、気絶させないでこのままにしている。


 盗み聞きをするためと、ツクロダを警戒させないためだ。


 しかし連絡はしていないし、今更ツクロダがやってこないとは思えない。


 話を聞く限り、ツクロダはかなり俺への執着を見せていた。


 であれば、この少女たちをこのまま気絶させても問題はないだろう。


 最善を考えるならば殺した方がいいのかもしれないが、その場合ブラッドが騒ぐので止めておく。


 そういう訳で、俺はダークネスチェインを操って少女たちを気絶させた。


「お、おい、殺したのか!?」

「いや、ただ気絶させただけだよ」

「そ、そうか。流石に美少女を殺すのは反対だったから、よかったぜ」


 うーん。兵士たちを殺した時は何も言わなかったのだが、ブラッドにとってやはり美少女は別だったようだ。


 俺も人族で異性に興味があったのなら、同じように思ったのだろうか?


 この感覚のずれは、誰かと組む際は気を付けた方がいいかもしれないな。


 些細(ささい)なことで、言い合いに発展するかもしれない。


 そんなことを思いながら、俺はツクロダを待つ。


 ブラッドにはその間に、少女たちを縄で縛るように言っておいた。


 ツクロダが来ることを話した場合、心が読める事も知られてしまう。


 これはツクロダにも現状数少ない有効な事なので、ブラッドにも内緒にしておく。


 何が切っ掛けで、知られるとも限らない。


「へへ、これは縛るためだから、仕方ないよな?」

「ねえ、状況分かってる? 変な事してる場合じゃないでしょ?」

「っ!? あ、ああ。分かってるって」


 ブラッドはこんな時にもかかわらず、少女たちを縄で縛る際にイタズラをしていた。


 これには、正直呆れる。


 ツクロダとの戦いに必要だから共にいるが、全て終わったらあまり関わりたくはない人物だ。


 そうして美少女たちを縛り終えて数分後、変化が訪れる。


 突如として、目の前に黒目黒髪をした少年が現れた。


 髪型はキノコのようであり、細い目と丸眼鏡。また特徴的な出っ歯をしており、ひ弱そうな細身をしている。


 その特徴から、ツクロダだと判断した。


 俺はその瞬間、両腕を獣に変えて襲い掛かる。


『おおっ、本当に猫耳美少女じゃ――うわっぁあ!?』

「な!?」


 しかし俺の攻撃は空を切り、全く当たる気配が無かった。


『い、いきなり何をするんだ! ホログラムじゃなきゃ死んでたぞ!! お、お前、僕ちゃんの物にしたら覚悟しておけよ!!』


 どうやら目の前のこれは、ホログラムらしい。


 つまり、ツクロダはここに来ていないことになる。


「いきなりなんだ!? お前、一体何者だ!」


 ツクロダがやって来ることを知らなかったブラッドが、そう誰何(すいか)した。

 

『はぁ? 犬畜生が頭が高いんだが? 僕ちゃんはこの国、いや大陸の神、ツクロダ様だぞ? お前はいらないし、殺したら剥製にするからな』

「何だと! てめぇ、出てきやがれ! 怖くて出てこれないのか!!」


 ブラッドはツクロダの言葉に激高して、ホログラムに殴りかかる。


 だが当然、その攻撃は意味がない。


『うひゃひゃ! こいつ間抜け過ぎるだろ! ホログラムだって言ったばかりなのに攻撃してるとか!』


 対してツクロダは、ブラッドを指さして笑い声を上げる。


 俺はその隙に、鑑定や以心伝心+を発動させた。


 しかしホログラムだからか、全く通じる気配が無い。


 これは困ったな。コイツの狙いはなんだ? いったい本人はどこにいる?


 少女たちを気絶させたのは、間違いだったかもしれない。


 しかし今から起こすのは不自然だし、この状況でどうにかする必要がある。


「笑っているところ悪いけど、いったい何の用かな? もしかして、もう逃げちゃった?」

『ん? ああ、そうだった。こんな犬畜生に構っている場合じゃなかったな。どうやら猫耳ちゃんも、転移者なんだろう? 僕ちゃんには分かるぜ』


 分かるも何も、おそらく少女たちから伝えられていたに過ぎないだろ。


「そうだけど、それで?」

『ああ、転移者だとほら、神授スキルを持っているだろ? 僕ちゃんも流石に警戒せざるを得ない訳じゃん? 

 だからさ、今僕ちゃんに絶対服従を誓うなら、お嫁さんの一人として一生かわいがってやるけど、従う気ある? ちなみに断ったら、奴隷だから』

 

 それを言うために現れたのか? 従う訳ないだろ。


「当然断るよ」

『あっそう、じゃあ奴隷決定な』


 断ることは織り込み済みだったのか、ツクロダがそう答えた瞬間、俺の足元に穴が現れる。


 ブラッドも同様のようで、現れた穴へと落下していった。


 対して俺は何かしてくるとは思っていたので、壁の燭台にダークネスチェインを引っかけて落下することを防いだ。


 そしてダークネスチェインに引っ張らせて、俺は穴から脱出する。


『はぁ!? そこは普通落ちるだろ!? 空気読めよ!!』

「残念だったね?」

『くそが!』


 思い通りにならなかった事に腹を立てたのか、ツクロダが地団駄を踏む。


「それでどうするの?」

『ちっ、早く落ちろよ! あの犬畜生がどうなってもいいのか?』

「別にいいけど?」

『はぁ!?』


 ブラッドがどうなろうと、正直どうでもいい。


 ただツクロダがブラッドを殺して、ポイントの事に気が付くのは少しやっかいだった。


「ウルフは今回限りの共闘だし、自分の命をかけるほどじゃないかな」

『何て薄情な奴だ! けど落ちなければ、僕ちゃんの元には辿りつけないぞ!』

「ん? それってどういう意味?」

『簡単な事だ。その穴の先は僕ちゃんが造った人工ダンジョンになっているんだ! 僕ちゃんはその最奥にいる!』


 なるほど、そういうことか。しかし、それが事実かどうかは分からない。


「それを信じる理由がないかな。明らかに罠っぽいし」

『なっ!? 嘘じゃない! それにダンジョンには、僕ちゃんの作った魔道具もあるぞ! 中には金貨百枚を余裕で超える物もある! どうだ! 欲しいだろ?』

「別にいらないけど……」


 どうせ、ツクロダが死んだら壊れるか爆発する魔道具だろ? それなら持っていても意味がない。

 

『はぁ!? お前いい加減にしろよ! 空気読めよ!』

「貴方こそいい加減にしてくれない? 出てこないなら、この城を破壊しつくすけど?」

『おまっ、悪魔か!! 城には貴族の令嬢やメイドたちもいるんだぞ!!』

「うーん。結局この国は悲惨なことになるし、犠牲と割り切るしかないかな?」


 ツクロダを失えば、この国もお終いだろう。


 洗脳されていたという言い訳は、通用しない。


 オブール王国とドラゴルーラ王国に、おそらく滅ぼされるだろう。


 だとすれば、この国の貴族や王族には破滅しかない。


 兵士やメイドもいるが、仕方がないだろう。


『く、くそがぁあ! いい加減にしやがれ!』

「え!?」


 するとツクロダがとうとうキレたのか、俺は直接転移させられてしまった。


「お? ジフレちゃんも来たのか。もしかして一人になるかもって、少し心配になっていたところだ」


 そんな悠長なことを、ブラッドが言ってくる。


 周囲は、石壁に囲まれた部屋のようだった。


 おそらく、ここがツクロダの造ったダンジョンなのだろう。


 それにしても直接転移をさせられるなら、最初からすればよかったのに、なぜ行わなかったのだろうか?


 いや、たぶんかなり無理をしたに違いない。


 一瞬だったから抵抗しきれなかったが、かなり(あらが)った感じはした。


 おそらくツクロダは、かなり消耗しているだろう。


 もしかしたら、気絶しているかもしれない。


 抵抗した俺を転移させるには、かなりの魔力を消耗したはずだ。


 ツクロダは人族だろうし、魔道具で魔力を底上げしていても限度がある。


 つまり今は、かなりのチャンスという訳だ。


 このダンジョンがどこまで続いているかは分からないが、短時間で攻略すればかなり有利な状態で戦える。


 まあ前提として、ツクロダの言った通り最奥に居ればの話だが。


 しかし脱出するという事も考えれば、進むしかない。


「ここはツクロダの造ったダンジョンで、最奥にいるらしいから今から攻略するよ」

「お、おう。分かったぜ!」


 そうして俺とブラッドは、ツクロダの造ったダンジョン、ツクロダダンジョンに挑むのであった。



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