457 ブラックヴァイパー ⑨
あれから場を収めるのには、少々苦労した。
幼児化したヴィレッタをなんとか話の出来る状態に戻すのに手間取った感じである。
他にも途中退席した護衛たちが、再びやってくるなどのハプニングも発生した。
またそのときポッチは爆笑しており、配下たちは困惑と幼児化したヴィレッタに歓喜するなど、まさに場は混沌としていたのである。
正直俺の生命力と魔力を吸ったとはいえ、ここまでヴィレッタがおかしくなるとは思わなかった。
最初は平気そうに見えて、実のところヤバい状態だったのだろう。
ルルリアの聖肉ほどではないが、俺の生命力や魔力にも相当な依存性があることを、このとき改めて理解したのである。
そうしてしばらく経ってから、ヴィレッタは意識を取り戻したかのように、元の状態へと戻った。
だがその記憶はしっかりと保持されており、自身の年甲斐もない行動に、相当の羞恥心を覚えたみたいである。
ポッチはそれをからかっていたが、ヴィレッタは鬼の形相でポッチを睨んで黙らせた。
実力はポッチの方が上だが、それだけの勢いがあった感じである。
そして入ってきた護衛たちだが、当然のように先ほどと同様に騒ぎ立てた。
故にうるさいとヴィレッタが一喝して、もう一度追い出したのである。それでようやく静かになったので、本来の話が再開された。
まずポッチの配下三人は、これから午前中に試合が始まる。その軽い打ち合わせの後、先に部屋から退出していった。
これで部屋には俺とレフ、それとポッチにヴィレッタだけになる。
ちなみに先に三人を退出させたのには、理由があった。その内容については、ヴィレッタの口から直接語られる。
「ふぅ。余計な者もいなくなったし、これでようやく話の続きができるわね。それで推薦の件だけど、実のところ私一人の推薦でも、ボスとは会えるのよ。
モブメッツ君がいるから特別に教えるけど、ボスはある意味私の息子のようなものなのよ」
「なっ!? ボ、ボスがヴィレッタの息子だと!?」
ヴィレッタの言葉に、ポッチが驚愕の声を上げた。しかしヴィレッタはそれを意に介さず、話を続ける。
「息子と言っても、別に私が産んだわけではないわ。単純に私がボスの父親である前のボスの、愛人だったというだけよ。つまりラブは前のボスとの子供であり、今のボスとは腹違いの兄弟ということになるわ」
「ま、マジかよ……」
「なるほど」
「にぁワン?」
心の表層から読み取ってみたが、嘘はついていないみたいだ。つまりヴィレッタの推薦が一つあれば、ボスに会えるというのは事実なのだろう。
「でもポッチやラブからの推薦も加わった方が、確実なのは間違いないわ。ちなみにこのことは、ラブも知らないことよ。前のボスとボスの実の母親は既にこの世にいないから、知っている者も本当に少ないのよね」
そんな風にヴィレッタは軽く口にするが、先ほどから貴重な情報が、一気に押し寄せてきていた。
これがかなり重要な事実なのは、間違いないな。それほどのことを、こんな軽い感じに喋ってもよかったのだろうか?
それについてはポッチも似たように思ったらしく、焦ったように口を開く。
「お、おい! 何でそんな事を俺様たちに教えるんだよ! この事実を知っているだけで、面倒ごとの種になるじゃねえか!」
確かにポッチの言う通り、この事実を知ったことをまだ会ったことの無いボスに知られた場合、面倒なことになる可能性があった。
何となくこういう裏の世界では、身内の存在は弱点になってしまう印象がある。
実際のところボスがヴィレッタやラブにどれだけ情を持っているかは不明だが、知っているというだけで、こちらを消そうとしてくるかもしれない。
だがそう思ったのも束の間、それが杞憂だと知ることになる。
「別に問題はないわね。仮に私やラブが人質にされても、ボスは簡単に切り捨てるでしょう。私やラブが良くしてもらっているのは、あくまでも前のボスのおかげだもの。
ボスも実の両親には愛情があったから、父親である前のボスが決めた事を、そのまま引き継いでいるに過ぎないわ。
だからこれは、モブメッツ君に少しでも私のことを信頼してもらうために、貴重な情報を差し出しただけよ。あとポッチにも教えたのは、その方がモブメッツ君の助けになると思ったからかしら」
ヴィレッタは淡々とそう言って、扇子を開き口もとに当てた。
ちなみにその扇子は、先ほど俺に縋りついたときに投げ捨てていたのを、その後に拾ったものである。
ふむ。先ほど幼児化する前に俺に対して言っていた、全てをあげる云々は、おそらく本気で言っていたのだろう。
実際そう言った後から、俺の反応を終始とても気にしている。よほど俺の印象を良くしたいのだろう。
正直聞いた俺たちよりも、それを喋ったヴィレッタの方が、当然リスクは大きい。傍から見れば、ボスの弱点となることを喋ったことになる。
たとえこれがボスの弱点にならなくとも、ボスの身内の情報はとても重要なことだ。
なのでもし仮にこのことをポッチが周囲へと漏らしたり、ボスに報告したら、ヴィレッタは何かしらの罰を受ける可能性がある。
だとしたらそれだけのリスクになることを喋ってしまうほどに、覚悟が決まっているのかもしれない。
それほどまでに、俺の生命力や魔力はヤバかったのだろうか?
なら俺の生命力や魔力については、今後は迂闊に他者に与えるのは、止めた方がいいだろう。それによって、どのようにして相手が暴走するかが分からない。
今回はプラスに働いているのか、直前に超直感が警告してくることもなかった。だが、次もそうとは限らない。
本当に不味ければ超直感が警告をしてくると思うが、俺自身でも注意しておくことにした。
それとヴィレッタはここまでの内容に嘘は言っていないようなので、ある程度は信用してもいいだろう。
一応嘘を言っていないだけで、本当に重要なことを口にしていないだけという可能性もあるが、先ほどの幼児化は到底演技には思えない。
なのでおそらくだが、大丈夫だろう。ある意味それがあるので、ヴィレッタはポッチよりも信用できるかもしれない。
そうしてヴィレッタの覚悟もわかったところで、次に俺の試合について話を始める。
ちなみにポッチは先ほどの内容の衝撃が抜け落ちていないようだが、特に遮ることなく、試合についての話を聞く。
そして俺たちはヴィレッタから、無事に試合の情報を聞くことができた。
聞けばまず今日の目玉試合は、日が落ちてから行われるようである。金持ちたちも見に来るみたいであり、専用の客席にて優雅に夕食を摂りながら楽しむらしい。
もちろん一般席もあって、主に裏の世界で生きる者たちが観覧にくるようだ。
当然そこでは賭けも行われているようで、人によっては一発逆転を狙って、借金をしてでも賭けを行う者もいる。
そういう者は負ければこの闘技部門で買い取って、試合に出場させたりもするらしい。
他にも奴隷部門やモンスター部門から、出場させるための人や、モンスターを仕入れているようである。
また闇闘技場では常に出場者を募集しており、富や名誉を夢見て、腕自慢たちが集まってくるようだ。
ちなみにそんな本日の目玉試合は、二人の元Cランク冒険者の奴隷と、Cランクの中でも上位の力を持つモンスターとの試合らしい。
そこへ急遽飛び入り参加の俺が、その二つと連戦することになるのが筋書きだった。闇闘技場では時折あることなので、特にそれについては問題無いとのこと。
なおポッチならどちらとでも勝てるかもしれないが、連戦で勝つのは流石に難しい相手のようだ。
なのでポッチより強いと言われたとはいえ、俺でもそれは同じだろうと、ヴィレッタは当初思ったらしい。
だが俺に生魔ドレインをしたことで、その底知れない実力を間接的に理解したようである。故に今では、間違いなく俺が勝つと信じているようだ。
もちろん俺としても、Cランクとの連戦は楽勝だと判断できる。これは油断とかではなく、客観的な事実である。
またヴィレッタは、一応対戦相手のステータス内容を教えてくれようとしたが、それについては断っておいた。
その理由は何をしてくるか事前に知ってしまっては、戦いの楽しみが減ってしまうからである。
既に強さについては間違いなく大きな差があるのに、ステータスの内容まで知ってしまっては、面白くもなんともない。
ちなみにこれについては、間違いなく俺の舐めプになってしまう。だが別に、それでも構わなかった。
対戦相手には悪いが、俺という神相手に頑張ってもらおう。もちろん、手加減はするから大丈夫だ。
それにこの潜入自体が、そもそもプリミナたちが戻ってくるまでの、暇つぶしという側面もある。なので、焦る必要はない。
加えてヴィレッタからは、可能なら接戦を演出して欲しいと言われた。それと試合時間も、できれば稼いでほしいらしい。
もちろん瞬殺しても構わないらしいが、そうすると試合を楽しみに来ていた観客たちが騒ぐようである。
特に金持ちたちに不満を持たれると、面倒なことになるようだ。
まあ俺もわざわざヴィレッタを困らせてやろうとは思っていないので、それについては了承しておいた。
組織に潜入という意味でも、接戦をした方が自然かもしれないしな。
そうして後は細かいことを決めると、試合までの間は暇になってしまう。
なので俺はヴィレッタに闇闘技場を案内してもらったり、実際に試合を観覧したりするのだった。




