431 ハンスの最後
「死ねぇええええ!!」
ハンスがそう言って、ナイフを俺の胸に刺そうとしてくる。
俺はそれを思考を加速した状態で、ゆっくりと眺めていた。
ここまで来ると、哀れだな。ナイフごときで、本当に俺を殺せると思っているのだろうか?
いや、もはやハンスには、そこまでの思考力は残っていないのだろう。
それとこのナイフを、避けることも受けることも可能だ。どちらを選択しても、俺にダメージは無い。
加えて正当防衛の結果、反撃で偶然にも当たり所が悪く、ハンスを殺すことも可能だろう。
だが俺は、これらの選択をしない。それよりも、良い方法がある。
俺はそう考えて、即座にそれを実行した。
「――ッ!?」
するとその瞬間、俺の目の前でハンスが光の柱に包まれる。
そして光の柱が収まると、そこにハンスはいなかった。そう、跡形もなく消し飛ばされたのである。
加えて神滅属性が付与されていたそれは、ハンス魂さえも、この世から消滅させた。
また神域の存在+は、創神力を込められる。ならば神滅属性もできるかもしれないと試してみたところ、見事に成功した形だ。
ハンス如きにはもったいなかったが、ハンスは最後に、良い実験材料になってくれた。
そうしてハンスが消し飛ばされた光景に観客は言葉を失い、周囲に静寂が走る。
よし、魔道具も壊れていないな。神滅属性を込めても、ちゃんとハンスだけを狙い撃ちできたようだ。
俺はその事を確認すると、周囲に説明を始めた。
「どうやらジンジフレ様が、介入されたようだ。此度の件を報告し終わった後も、どうやら俺のことを見ていてくださったらしい。
そしてよほどの事がなければ介入しないと、ジンジフレ様は先ほど申していた。だがハンスの行いは、介入してしまうほどの事だったのだろう」
その言葉に周囲がざわつく。俺に畏怖と尊敬の眼差しを向ける者や、ハンスの末路に喜ぶ者など、多岐に渡る。
またジンジフレの行いに、誰も文句を言わなかった。ハプンとサマンサも、無言を貫いている。
神を犯罪者とすることはできず、逆にこれは天罰なのだと、受け入れているようだった。
さて、これでハンスも完全にお終いだ。魂まで滅ぼしたので、奇跡が起きて蘇ることも無いだろう。
実にあっけない最後だったが、神滅属性を使ったのだ。ハンスには贅沢な最後だろう。
それにある意味、ハンスは歴史に名を残す。ジンジフレ教にとって、愚か者の代名詞としてだ。
一応事の顛末は、後々アルハイドにも共有しておこう。
そうして俺は、この出来事の終わりを最後に告げる。
「これにて神罰は為された。罰を受けた者は、心を入れ替えて励むように。そしてジンジフレ様に、祈りを捧げるのだ」
俺はそう言うと、魔道具のバリアーから出た。そして唖然としている初老の執事に命じて、ハンスの屋敷へと案内させる。
ハプンとサマンサたちは、そのまま置き去りにした。
俺がいなくなった後、色々と面倒なことになるかもしれないが、そんなことは知ったことではない。
そうして行きのときと同じように、馬車に乗って移動を開始した。初老の執事は俺に怯えながらも、従ってくれた感じである。
ちなみにこの執事も、罰を受けてサーヴァントを取り上げられていた。まあ、そんなことはどうでもいいが。
加えて俺は、馬車の中で膝に乗せたレフの背を撫でながら、あることを思う。
今回の出来事で、神域の存在+を色々と試すことができた。またいずれやろうと思っていた天罰関連も、前倒しで行えている。
結果として神力はほとんど使ってしまったし、創神力も心もとなくなってしまった。
一応神力の収支は現状プラスだが、今後は一定基準で自動的に天罰が下るようになったし、それを維持するために神力を払い続ける必要がある。
また状況によっては、追加で支払うときもあるだろう。故に神力が最大まで回復するまでは、節約していくことにした。創神力も同様に、節約せざるを得ないだろう。
それと現状では不可能だが、俺の元に集まってきたサーヴァントカードたちについて、何か使い道などを考えた方がいいかもしれない。
今後は溜まる一方であり、サーヴァントたちは専用の空間で安らかな状態で、半ば眠り続けている感じだ。
中にはそのまま眠り続けたいサーヴァントもおり、それについてはこのままでもいいだろう。
だが外に出たい、もっと活躍したいと思っているサーヴァントには、何かしても良いかもしれない。
しかしそれにはやはり大量の神力と、創神力が必要になるだろう。
現状どちらも心もとないし、行うとしても相当後のことになりそうだ。
だが心の隅に、このことは覚えておくことにしよう。
そうして馬車は進み、ハンスの屋敷へと辿り着いた。
ハンスの屋敷には信者が多くいことで、大混乱に陥っていた。
何かしらの甘い汁を吸っていた者も多く、サーヴァントを取り上げられた者も多い。
そんな中で初老の執事は説明を求める者たちへ言葉を濁し、後ほど説明することにしたようだ。まずは俺への案内を、優先したようである。
にしても、ハンスの屋敷は無駄に広いな。一応絵や壺などが置かれているが、正直いらない。
だが足りなければ、あれらも回収することになる可能性があった。
そうして屋敷の宝物庫にやってくると、警備している者たちが俺たちを止める。
初老の執事が説明しても、警備の者たちはどかない。俺のことを、相当怪しんでいるようだ。
正式なハンスによる、許可証が必要らしい。だがハンスは既に魂ごと消滅しており、当然許可証などはなかった。
そのとき俺はふとあることを思い出し、ストレージから懐かしの【万能身分証】を取り出す。久々の出番である。
俺は警備の者の一人に、万能身分証を見せた。
「何だそれは? そんなもので、通せるはずがないだろう!」
しかし結果は、ご覧のとおりである。通してくれないようだった。
国境門や街の出入りでは、普通に使えたんだがな……。そういえば、以前にも似たようなことがあったような気がする。
確かダークエルフの村でも、封鎖されたダンジョンに入れなかったな。
だとすればやはり、万能身分証は名称ほどの万能さは無いのだろう。まあ、3ポイントのアイテムだしな。
一定基準を超える許可が必要な場所には、効果を示さないのだろう。
であれば仕方がない。もう面倒なので、俺は手加減のスキルを使い、物理的に警備の者たちを眠らせた。
おそらく二度とここに来ることは無いと思われるので、こうした方が早い。
初老の執事はそれを見て顔を引きずっているが、宝物庫を開けて案内してくれる。どうやら、鍵自体は持っていたようだ。
必要だったのは、あくまでもハンスの許可証だったらしい。
「こ、こちらでございます……」
「ふむ。ご苦労」
「にゃぁん!」
宝物庫の厚い扉の先には、無数の金銀財宝があった。俺はそれらを確かめていくが、その内容はやはり微妙である。
硬貨は金貨が最大であり、小聖貨や聖貨などは存在していない。
装備品や魔道具なども、中途半端な効果のものばかりだ。スキルオーブも見つけたが、あっても下級までである。
なるほど。ハンスの言っていた通り、貴重な物はアイテムボックスに入れていたようだ。
しかしそれらはハンスの消滅と共に、二度と取り出せなくなってしまった。
少しもったいなく感じるが、まあ仕方がないだろう。それにそこまで財宝には興味がないので、別に構わなかった。
とりあえず宝物庫にある全てを、ストレージに収納しておく。
正直試合で告げられた大金に足りているかどうかは、わからない。
おそらく俺が足りないと言えば、たとえ足りていても追加で払ってはくれるだろう。この屋敷を売り払えば、確実に足りる。
ちなみに宝物庫の物を回収したが、二重取りは発動しなかったな。
報酬や与えられたものではなく、自らの力で手に入れた物だと、そう判断された可能性がある。
試合の結果として大金を直接手にしていれば、報酬と判断されて、増えていたかもしれない。
まあそれについては、仕方がないと思うことにしよう。
あと屋敷の売却についてだが、正直面倒くさい。別に金銭が欲しいわけじゃないし、これで足りたとしておくか。
そうして宝物庫は空になったので、俺は屋敷を出ることにした。
初老の執事もどうすればいいのか困ったのか、そのまま俺についてくる。別に気にする必要は無いので、好きにさせた。
さて、この町では有名になってしまったし、このまま町を出た方がいいかもしれない。
しかし町の近くにあるダンジョンは、少し気になるんだよな。であれば軽く踏破して、そのまま去るというプランでいこう。
おそらく一日あれば、ダンジョンボスのいる部屋までたどり着けると思われる。
そうして俺とレフがハンスの屋敷を出ると、門の前には、なにやら見慣れない人物が待っていた。




