429 ジンジフレとしての言葉 ②
『またこの機に、サーヴァントが望むのであれば、我の元へ来ることをこれより許そう。
主人に不満があれば、自らの意志でそれを願え。これは後から主人の元へと戻ることも可能だ。我はサーヴァントの意志を尊重しよう』
するとその直後、多くのサーヴァントがカードを収納している異空間へと集まってきた。
どうやら想像以上に、主人への不満を抱いていたサーヴァントが多かったみたいである。
ただ不満の度合いにも差はあり、時間が経てば戻る意志があるサーヴァントもいれば、逆に今後戻る気がないサーヴァントもいることだろう。
これまでサーヴァントを無限に復活する奴隷のように酷使していた持ち主は、これから後悔することになるはずだ。
見れば闘技場の中にも、サーヴァントの意志で主人から離れた個体もいたようである。
持ち主がそれに対して騒いでいるが、自業自得だ。
とりあえず大きな問題については、これで落ち着くだろう。
それと今回唐突に俺が世界へ語りかけた事に対して、軽く説明をしておくことにした。
異端審問官として事前に言っておいたハンスたちはともかく、アルハイドたちなどはこの出来事で、現地では大変なことになっていることだろうからな。
『本来、我は汝らを可能な限り、見守ることにしている。だが決して、無関心というわけではない。
今回は我の耳目の代わりになっている者からの一報により、介入することを決めたのである』
すると闘技場全体から、俺への注目が集まる。この耳目の代わりになっている人物というのは、明らかに俺のことだったからだ。
これについては、仕方がない。そもそも既に俺が普通ではないことは、知られてしまっていたことだ。
『これからも何かあれば、我は度々介入することになるだろう。しかし勘違いせぬことだ。大概のことについては、我も手出しはせぬ。
汝らの自由意志を、我は尊重している。それが結果として、一方からは悪に見えることであってもだ』
俺も暇ではないので、いちいち取り締まるようなことはしたくはない。
今回はジンジフレ教全体に、悪影響があるからこそ、介入することにしたのだ。
仮にサーヴァントから信頼されている者が、ジンジフレ教とは直接関係の無い悪事を働いたとしても、俺はスルーするだろう。
また罰を与える条件を厳しくし過ぎたら、信者の減少や不信感に繋がるような気がした。
けど最後に、一応フォローだけはしておこう。
『だが善なる行いをする者を、我は好ましく思う。サーヴァントを愛し、我に祈りを捧げるのだ。さすればそれは、汝の力へとなることだろう。我が信者たちよ、励むがよい』
実際俺を強く信仰するほど、信仰スキルの効果は上昇していく。
そしてサーヴァントとの絆を深めることは、いずれ何かに繋がるかもしれない。もしかしたら現状報告の無い、進化に必要なピースの一つかもしれないのだ。
そうして言いたいことを終えると、俺は全ての信者に向けた言葉を解いた。
神との繋がりや威光が消えたことにより、信者たちもジンジフレが離れたことを認識したようである。
するとジンジフレが離れたことで、夢でも見ていたかのように、全体が呆けて静まり返った。けれども少ししてから、現実へと戻ってくる。
そして、全体が熱狂した。
「おぉおお!」
「ジンジフレ様万歳!」
「更なる信仰を捧げます!」
「この出来事は、生涯忘れませぬ!」
「すばらしい。あぁ、すばらしいぃいい!」
「ジンジフレ様最高! ジンジフレ様最高!」
「これほどの奇跡が、生きている間に体験できるとは……」
「一生ついていきます!」
「サーヴァントのことも、大切にしなければ」
「奇跡、まさに奇跡だぁ!」
歓声は騒がしいほどに上がり、瞬間的に多くの祈りが俺へと届く。ここだけではなく、全世界の信者からである。
おぉ、かなり不味い事になっていた神力が、少しずつ回復していく。どうやら神力を保持できる上限も、今回の出来事で増えたみたいだ。
やはり信仰する神が直接語りかけるということは、信者たちにとっては良い意味で、大変な出来事だったみたいである。
ふむ。消費量を考えれば多用はできないが、何かあればまたやってもいいかもしれないな。
そう思えるくらいには、リターンが見込めた。
神力の保持できる上限が増えることは、俺にとってはとてもありがたい。
またこれで神力の自然回復量も上昇しているので、以前よりも回復が早くなっていた。
現状神力はほぼすっからかんなので、これも大変助かる。
そうして周囲がお祭り状態の中、お通夜のように暗い集団がいた。当然だが、それはハンスたちのことである。
特にハンスはキングを失い、スキルの封印や基礎能力の低下まで起きていた。
加えて最初に光の柱を受けた他の面々も、実のところ影響を受けている。
ハンスほどではないが、いくつかのスキルが封印され、基礎能力もある程度は低下しているのだ。
それについて何人かは気がついたのか、顔を真っ青にしている。
戦闘を生業にしていた者たちにとって、これは致命的だ。サーヴァントも取り上げられた現状、これから苦労することは避けられない。
まあ、これまでハンスから甘い汁を吸っていたんだ。諦めろ。
中にはそこまで甘い汁を吸っていなかった者もいるかもしれないが、その一員として参加していた以上、同罪だ。
何より俺にサーヴァントを嗾けようとした時点で、減刑するつもりは無かった。
そしてあまりの絶望にうわの空になっていたハンスが、ふと俺へと視線を向ける。
すると何を思ったのか、ハンスはバリアーを展開していた魔道具を止めた。
ちなみに光の柱は、周囲に一切の影響を与えていない。よって魔道具は壊れることもなく、正常に動いていたのだ。
そうしてハンスを守るバリアーが消えると、低下した基礎能力故なのか、情けない動きをしながらもハンスは駆けだす。
その駆け出す方向は、当然のように俺の方である。
ハンスは何度も転びそうになりながら、みっともなく不格好な走りでこちらへと向かってきた。
その途中でサンに恐れを抱いたのか、大回りでサンのことを回避していく。
サンがハンスを襲うことは無いのだが、ハンスにとっては恐ろしい存在のようだ。
また周囲もハンスが駆け出したことに気がつき、ハンスに注目する。中にはハンスに暴言を吐く者もいたが、ハンスが気にした様子は無い。
それ以上にハンスの顔面は、汗と涙とよだれでグチャグチャであり、鬼気迫るものだった。
俺は何となく、ハンスがこれから行うことを予想できてしまう。故に俺はハンスが辿り着く前に、少々あることの準備をしておいた。
そうして少しして、ハンスが俺の前にやって来る。息を切らしながらもハンスは、一度こちらを睨みつけた。
また数秒ほど何かに葛藤していたみたいだが、ゆっくりと地面に膝をつくと、俺に向けて土下座をしたのである。
そしてハンスが何か発すると同時に、俺は準備していたことを実行した。
俺を包む魔道具のバリアーが拡張されて、ハンスまで届く。ハンスはそれに気がつかないままに、声を張り上げる。
「頼む! 俺を助けてくれぇええええ――は?」
魔道具によって拡声されたものが、闘技場内に響いた。
ハンスはそれに対して、唖然とする。
どうやら自身の声が拡声されるとは、思ってもいなかったようだ。
ハンスは不服かもしれないが、せっかくだから皆にも聞いてもらおう。
ちなみに魔道具のバリアーが広がったのは、事前にある程度の魔力と魔力操作力があれば、拡張できることを知っていたからだ。
試合が始まる前に、それは鑑定で確認している。
そしてタイミングを計り、レフが発動してくれたのだ。
Sランクモンスターであるレフの魔力操作力は、当然普通の人族を凌駕する。命じれば、難なくこなしてくれた。
「にゃふふんっ!」
この戦いで出番が無かったレフは、ここぞとばかりにドヤ顔をしている。
とりあえず繋がりからよくやったと褒めておき、俺はハンスへと再び視線を向けた。
そうしてハンスの最後の足掻きが、今始まる。




