424 VSハンス+親衛隊 ③
そうしている間に、サンがいよいよ敵へと迫る。
当然サンを迎え撃つために、ハイサハギンが立ち塞がった。
「ギョギョェッ!?」
だがそれをサンは、種族由来の大剣一振りで葬り去ってしまう。
加えてハイサハギンは、サーヴァントではないため、その場に死体が残された。
キングと共にサーヴァントカードにいたのは、あくまでもキングのスキルによって、雇用状態にあったからだろう。
しかしこうして倒されたことで、その雇用状態も解除されたみたいだ。
「なっ!?」
対してハンスはハイサハギンが瞬殺されたことに、驚きを隠せないようである。
多少は時間をかけてもよかったのだが、繋がりからサンの謝罪の気持ちが伝わってきた。どうやら、力加減を間違えてしまったらしい。
まあ、サンはまだ進化して間もないし、聖剣アルフィオンは装備しているだけであらゆる能力を中上昇させるので、仕方がないだろう。
それにCランクとはいえ、ハイサハギンが弱すぎたというのもある。
おそらく使い捨ての雇用なので、スキルを追加で習得させていなかったのだろう。それと練度に関しても、最低限だったのかもしれない。
俺の配下も似たようにスキルを追加で習得させておらず、また訓練もしていなかった。
しかし俺の配下とキングの側近雇用による配下とでは、そこに大きな差を感じたのである。
ふむ。カード召喚術による繋がりや、様々な俺から与えられるバフなどによって、その差が現れていそうだな。実際そうなのだろう。
そんなことを思いつつ、サンは種族由来の大剣からウィンドカッターを放つ。
けれどもそれは、シールドタートルのシールドシェルのスキルではじかれた。
「っ! 何やっている! 反撃しろ! 金貨を使って何度も投げろ! 近づけさせるな!」
「ぶふぇっふぇ!!」
するとハンスもサンの攻撃で唖然とした状態から気を取り戻して、命令を出す。
キングはそれにより銭投げを連続で使用して、サンを近づけさせないようにする。
左手に金貨を何枚も乗せて、一枚ずつ右手で掴んでから投擲してきたのだ。
しかしサンはそれをライトバリアなどを使って防ぎつつ、ウィンドカッターをお返しとばかりに放つ。
それはシールドシェルを一度で破壊するには至らないが、着実にダメージを与えていた。
よし、これで時間を稼ぎつつ、接戦をある程度は演出できているはずだ。
光属性や聖属性では、おそらく簡単に破壊できてしまうだろうし、下級攻撃魔法であるウィンドカッターくらいがちょうどいい。
風属性のウィンドカッターなら、陽光師や聖剣の強化範囲外の属性になる。
だがそれでも仮にこのまま続ければ、相手のシールドシェルを破壊するのも時間の問題だろう。けれども、それでは面白くはない。
俺は状況をここから変えるために、次の作戦へと移る。故に他の配下へと、視線を動かした。
まずソイルセンチピートは、相変わらず数でウィップバルブを押しとどめているものの、そろそろ頃合いだろう。
眷属出産を止めて、あたかもソイルセンチピートの魔力切れを演出する。
「くっ、ソイルセンチピート! 直接敵の眷属を蹴散らせ!」
「キシャアッ!」
俺の命令を受けて、ソイルセンチピートが巨体を動かして前進し始めた。その速度は、意外と速い。
「キュッコン! 眷属と共にあの化け物を倒しなさい!」
「――!!」
するとカザーセという熟女は、それに合わせるかのように命令を出した。結果として、両者が直接ぶつかり合う。
だが当然、ソイルセンチピートの方が不利だった。
更にハプンの使役するハイオークのプンクが、合間を見てバフを飛ばして付与している。
ちなみにネクロオルトロスは、バフで強化されているガマゴールを攻めあぐねている感じだ。そういう演出をしている。
そうして相手の眷属をなんとか倒しきるも、ソイルセンチピートはそこでやられてしまった。
「ぐっ、やられてしまったか……」
「ぎゃはは! ざまあみろ! お前ら! その二首の犬をさっさと倒して、こっちを手伝え!」
俺の言葉に、ハンスは大層うれしそうである。
他の面々も勝ち筋が見えたのか、その表情は明るい。
そして敵三体に囲まれたネクロオルトロスは、敵の連携に翻弄されて、追い詰められていく。
だがその中でもウィップバルブの上位種と思われるキュッコンを倒したものの、あえなくガマゴールの剣にやられてしまった。
という風に、演出を命じていたのである。
ネクロオルトロスからしたら不服かもしれないが、これも作戦のためだ。圧倒してしまっては、ダメなのである。
するにしても、せめて他の配下たちはやられていた方がいい。その方が、相手も油断するだろう。
正直ネクロオルトロスだけで、あの三体を倒すことは余裕だった。CランクとBランクの差というのは、それだけ本来は大きいのである。
だが相手はネクロオルトロスというモンスターを知らなかったのか、まさかBランクとは思っていなかったようだ。
実際Cランクで倒せたので、そう確信したようである。相手の安堵した表情から、それが読み取れた。
加えてサンがある程度の強さを見せているだけに、なおさらそう思っているのだろう。
Bランクであるハンスのキングが頂点に君臨しているだけに、まさか高ランクを複数所持しているはずがないだろうという、そんな思い込みがあるのかもしれない。
またソイルセンチピートが負けたのも、似たような演出だ。本来俺から魔力を供給されている以上、出産する眷属が尽きること無く、戦い続けることは可能だった。
けれどもそうしなかったのは、試合後を見据えてである。試合そのものよりも、その後の方が重要だ。
そしてたとえ配下がやられても、問題はなかった。ここからは、サンに大きく動いてもらう。
(頼んだぞ)
(ギギ!)
繋がりからそう言葉を交わすと、サンが早速行動へと移し始めた。
まずキングの攻撃をライトバリアで防ぎつつ、唐突に背を向ける。
そして左右の大剣をそれぞれ振るい、プンクとガマゴールへとウィンドカッターを放ったのだ。
「ブゲッ――」
「ゲゴゴ!」
その結果として聖剣から放たれたウィンドカッターは、見事にプンクを仕留める。
だが対して種族由来の大剣から放たれたウィンドカッターは、ガマゴールの盾を破壊したものの、防がれてしまった。
「プンク!!」
「くっ、だがよくやったガマゴール!」
サーヴァントがやられたことで、ハプンは悲しみの声を上げる。またガマッセは盾を失ったことを悔しそうにしつつも、攻撃を防いだことをほめ称えた。
「てめぇ! 卑怯だろ!!」
そしてハンスはその攻撃を卑怯と言って、騒ぎ立てる。
だがこれが、卑怯だということはない。数が多ければ、弱い敵から削るのは当然のことだ。
故にサンはキングの攻撃を再度ライトバリアで防ぎつつ、生き残ったガマゴールに追加でウィンドカッターを放つ。
「避けろ、ガマゴール!」
「ゲゴゴ!」
だが来ると分かっていれば、回避することは可能だったようだ。ガマゴールは横へ飛び、ウィンドカッターをやり過ごす。
けれどもサンの持つ大剣は、もう一つある。二射目のウィンドカッターが、ガマゴールを襲う。
「ゲゴッ!!」
するとガマゴールはそれでも高く跳躍してみせて、二射目も回避してみせた。
ふむ。中々粘るな。しかし、今度は焦ったようだ。
そう。ガマゴールは跳躍する際にスキルでも発動したのか、上空へと高く跳び上がってしまったのである。
だがスキルを使わなければ、おそらく回避するのは間に合わなかっただろう。
あの高さは、たぶん跳躍系のスキルによるものだと思われる。
しかしその結果、空中のガマゴールは大きな隙を晒すことになった。当然、見逃すはずがない。
「ギギッ!」
「ゲゴォオオ!?」
「ガマゴオオルウウウ!!!」
そうして三射目、四射目と放たれたウィンドカッターにより、ガマゴールは両断されたのである。光の粒子になり、カードへと戻った。
これがもし普通のモンスターだったら、血の雨が降ったことだろう。
「くそがあ! なんだよそのバリア!! キング! 小聖貨一枚だ!」
すると仲間がやられて流石に不味いと思ったのか、ハンスが銭投げに使用する硬貨のランクを、一段階引き上げた。
「ぶうぇっへっへ!!」
そしてアイテムボックスから取り出した小聖貨を、キングが投擲する。
銭投げは流星のように宙を駆け、ライトバリアを脆いガラスのように容易に破壊していく。
「!?」
その威力に、俺は思わず驚愕した。
これは、何枚張っても無駄に終わるだけだな。
そう判断した俺は、銭投げを打ち破らせるために、即座にサンへと命令を告げる。
「サン、ライトレーザーだ!」
「!! ギギガァ!!」
その直後サンの咢が開き、ライトレーザーが口から放たれた。
ライトレーザーは銭投げとぶつかり、拮抗する。
だが陽光師と聖剣アルフィオンによって強化されていることもあり、見事にその場で銭投げを相殺することに成功した。
即席とはいえ同じ強化された光属性であるライトバリアを、ああも易々と打ち破ってくるとは、流石に驚いたな。
しかし攻撃魔法の中でも特に威力の高い、ライトレーザーをどうにかするほどではなかったようだ。
「はぁああああ!!! 小聖貨だぞ!! 金貨十枚分! 小金貨百枚分なんだぞおお!! ふざけるなッ!! クソガアァア!!」
するとこれで決めるつもりだったのか、相殺されたことに対して、ハンスが狂ったように声を荒げる。
金にがめついハンスにとって、小聖貨はそれほどまでに覚悟のいることだったみたいだ。
ふむ。流石に金銭的には金貨の十倍の価値でも、威力までは十倍にはならなかったようだな。
もし十倍なら、流石にライトレーザーでも相殺は難しかっただろう。
だがそれでも、あれは最低でも三倍くらいの威力はあった。
金銭さえあれば、銭投げというスキルはとても優秀なスキルのようである。
これは本当に小聖貨ではなく、聖貨を使われたらサンでもやられる可能性が出てきたな。
しかし残る敵は、あとわずか。ここで負けるわけにはいかない。
そう思いつつ、俺は銭投げへの警戒心を高めるのだった。




