423 VSハンス+親衛隊 ②
ハンスに命じられたキングは、シールドタートルの上に座りながらも、黄色い杖を掲げる。
するとその瞬間、杖から一筋の雷が放たれた。
そしてそれは偶然なのか、ハイレイスに向っていく。
避け……くっ、無理か。
「――!!」
「……!」
俺自身が認識できていても、ハイレイスの基礎能力では、回避が間に合わない。
その雷はハイレイスに命中し、更には近くにいたマッドウォーリアーにまで繋がるようにして伝播した。
結果としてハイレイスはそのまま倒されてしまい、マッドウォーリアーは右腕が消し飛ぶ。
この素早さと威力は、雷属性の中級魔法である、チェインライトニングだろう。
レフも使えるが、相手が使用するとかなりやっかいな魔法だった。
「はははっ! 見たか! 選ばれし俺が手に入れた魔道具、雷鳴の杖の力だ! 強いぞ! かっこいいぞ!」
今の攻撃に満足したのか、ハンスが嬉しそうに声を上げる。
なるほど。あの黄色い杖は、雷鳴の杖というのか。どこで手に入れたかは知らないが、強力な魔道具なことには変わりない。
キングは基礎能力こそ普通のオークと大差ないらしいが、魔法関連だけはランク相当のようだ。つまり魔力が多く、魔力操作力も高いことになる。
これは、こちらもサンを出すべきだろうな。
すると俺がそう思っていると、調子に乗ったハンスが続けてキングに命令を出す。
「キング! あのむかつく二首の犬を消し飛ばせ!」
「ぶうぇっへっへ!」
命じられたキングは、再び雷鳴の杖からチェインライトニングを放つ。
しかしそれに対するネクロオルトロスは、シャドーステップを使い余裕で回避をしてみせた。
一度見ている上に、ネクロオルトロスは素早い。更にはBランクのモンスターだ。来ると分かっていれば、避けるのは十分に可能だろう。
だがそれは予想外だったのか、ハンスが声を上げる。
「なっ!? ふざけんな! 避けんじゃねえよ!」
けれども口ではそう言うが、回避した姿が面白いのか、ニヤついていた。
またハンス側の動きは、それだけではない。
「ゲゲコォ!」
「……!!」
こっそり動いていたガマゴールにより、負傷していたマッドウォーリアーがやられたのである。
「がはは! ざまあみやがれ! 俺のことを忘れていたのかぁ!」
マッドウォーリアーを倒せたことに、昨日の腹いせなのかガマッセが指を差しながら、そう言って笑い声を上げる。
だが見事に隙をついたと思っているのかもしれないが、俺としては計画通りだった。
来るのは分かっていたが、あえて見逃したのである。
マッドウォーリアーには悪いが、バランスを考えてここで退場してもらった。
試合は可能な限り、接戦を演出しなければいけない。
しかし相手は当然それを知らないので、一応声に出しておく。
「くっ、ガマゴールのことを失念していた……」
俺の言葉を聞いて、ハンスとガマッセは、それはもう嬉しそうだった。喜んでくれたようで、何よりである。
さて、そろそろ動くか。
「サン! 出番だ! キングを倒せ! ネクロオルトロスはガマゴールとプンクの足止めだ! ソイルセンチピートは引き続き眷属を出産して、相手の眷属を食い止めろ!」
「ギギッ!」
「ウォン!」
「キシャッ!!」
配下たちはその命令により、それぞれ動き出す。もちろん繋がりからは、細かく指示を出している。
「はっ! ようやく動くのかよ! 遅すぎるぜ! ぶっ殺してやるよ!」
「あの犬は強いかもしれねえが、二対一なら余裕だろ!」
「ジンさんには申し訳ないですが、ここは勝たせてもらいますよ」
「あの気持ち悪い虫は、任せてください!」
「先にやられちゃったけど、みんな頑張って!」
ハンスたちはそう声に出して、やる気を漲らせていた。
その言葉からは自分たちが負けることを、微塵も感じさせない。自分たちの方が有利だと、そう思っているようだ。
けどここからは、それを少しずつひっくり返させてもらおう。
まずはその場から走り出したサンが、右手に持つ種族由来の大剣を振るった。
そこから挨拶代わりに、キングへとウィンドカッターが放たれる。
だが命中する直前、半円状のバリアーのようなものが、キングを包んで攻撃を弾いた。
なるほど。あれがシールドタートルの希少盾系スキルである、シールドシェルか。
情報収集で、そのスキルのことは知っていた。だからこそ、ウィンドカッターを放ったのである。
確か自身の甲羅の強度を上昇させて、また甲羅の強度と同等のバリアーを発生させるんだったか。
サンのウィンドカッターを弾いた通り、中々の防御力を誇るようだ。
ランクはCだが、防御力はBランク以上かもしれない。
そんな事を思っていると、突き進むサンの前方に、ハイサハギンが立ちふさがった。
「ギョギョッ!」
すると驚くことに、手に持っている槍を投擲してきたのだ。加えてスキルが発動しているのか、ものすごい勢いでサンへと迫る。
「ギギッ!」
だがその飛んできた槍を、サンは聖剣アルフィオンで叩き落とした。
「はぁ!? 何だよそれ!!」
ハンスがまた文句を言っているが、その間にキングがアイテムボックスから槍を何本も出して、ハイサハギンへと渡していく。
なるほど。投擲したのは、ああやって補充できるからか。
モンスターがスキルで何か取り出す分には、ルール違反にならないのかもしれない。
またバリアーの内側からなら、外に干渉できるみたいだ。
加えてシールドタートルも、口から水属性魔法である、ウォータショットを飛ばしてくる。
それについては簡単に回避可能だが、うっとうしいことには変わりなかった。
更に近づくにつれて、キングもチェインライトニングを放ってくる。
流石に命中するとダメージを受けるので、サンはそれを回避したり、ライトバリアで防いでいく。
ちなみにライトバリアは、何故かライトバリアーではなく、ライトバリアという名称である。
まあ、どうでもいいことだが。
「何で倒れねえんだよ! くそっ! キング! 金貨一枚だ!」
「ぶうぇっへっへ!」
すると倒れずに向かってくるサンに脅威を覚えたのか、ハンスはキングへとそう命じる。
それによりキングはアイテムボックスから金貨を一枚取り出すと、サンに向けて金貨を投擲してきた。
来た! これが銭投げか!
投擲された金貨は黄金の流星のような輝きを放ちながら、サンへと一直線へと向かってくる。加えて回避しようとしても、追ってくるように軌道修正をしていた。
それに対してライトバリアを張って防ぐが、なんと銭投げはそれをガラスを割るかのように貫通していく。
だがそこから数枚のライトバリアを発動させると、流石に貫けなかったのか、光の粒子になって消えていった。
「ふざけるな! 俺の金貨が無駄になったじゃねえか! そのまま死んでろよ!!」
ハンスはかなりの富を手に入れているはずだが、金貨一枚による銭投げが防がれたことに、怒りを露わにする。
しかしそれに対して俺は、ハンスの怒りよりも、銭投げへの興味が尽きない。
金貨一枚であの威力か。であれば硬貨の一番上である聖貨を使用した場合、どれほどのものになるのだろうか。
金貨の上には、小聖貨、聖貨という順に存在している。
十枚で次の硬貨の価値なので、聖貨は金貨の百倍の価値なのだ。
だが流石に、銭投げがそのまま威力百倍とは考えづらいな。というか今のハンスの様子から、相当追い詰められない限り、聖貨を使用することは無いだろう。
ただもし仮に聖貨を銭投げに使用した場合、サンでも危ないかもしれない。
それに一枚ではなく、複数枚を消費して発動することも可能だと思われる。
金貨複数枚ならハンスは渋りながらも、普通に投げさせる気がした。
また念のため、もし聖貨を銭投げに使用するような素振りを見せたら、即座に対処させよう。
この先のことに少し支障が出たとしても、全力で阻止した方がいい。流石に聖貨を投げられたら、演出など気にするべきではないだろう。
俺はそう思いながら、試合の行く末に思考を巡らせるのだった。




