409 セマカの町 ②
「おいおい坊ちゃん。こんな行き止まりまで冒険すると、危険だぜ?」
「ひゃはっ、そうだそうだ。俺達みたいな怖いお兄さんに、こうして絡まれるからなぁ!」
「さっき見てたぜぇ。金持っているみたいだな。ちょっと俺たちにもわけてくれよ!」
そうして路地裏の行き止まりまでやってきたところ、案の定チンピラ三人が声をかけてきた。
こいつらからしたら、馬鹿なガキが路地裏に迷い込んだと思ったのかもしれない。
とりあえず、唯一の逃げ道を生活魔法の氷塊で閉ざしておく。
「!?」
「なっあ!?」
「なんだこりゃ!?」
突然現れた氷の壁に、チンピラたちが騒ぎ出す。だがそんなことは、どうでもよかった。
さて、不殺のスキルはギリギリで生かすみたいだが、どこまで有効なのだろうか。
そう思いながら、まずは聖滅師に内包されているセイントを、手加減して一人に撃ってみる。
「セイント」
「ぎゃぁ!?」
すると聖なる光に焼かれて、男一人が丸焦げになった。しかし生命感知に反応があるので、生きてはいるようだ。
一番弱い聖属性魔法でこれか。何となく強いスキルだと、不殺でもカバーしきれない気がする。
「ひぃ!?」
「な、何をしやがる!」
残ったチンピラ二人が騒ぎ出すが、それもどうでもよかった。
それよりも、次は物理攻撃を試そう。魔法は町中だと使いづらいが、剣ならある程度は大丈夫なはずだ。
俺は擬剣パンドラソードを抜くと、チンピラの一人に中級スキル郡(剣)に内包されている、ハイスラッシュを繰り出した。
「ぐげっ!?」
「ひぃいい!!?」
結果として不殺のスキルでもカバーしきれなかったのか、チンピラは真っ二つになってしまう。生命感知にも反応は無い。どうやら死んでしまったようだ。
ふむ。やはりギリギリで生かすといっても、耐えられるダメージ量には限度があるみたいだな。
チンピラが弱すぎるというのもあるが、とりあえずザコには、下級スキルまでに留めておこう。それ以上のスキルだと、おそらく殺してしまう気がする。
ちなみに与えるダメージが爆増する『森羅万象の天敵』の称号は、常にオフにしていた。
これを発動していると、たぶん殴っただけでザコは消し飛ぶと思う。
また不殺のスキルを使い熟せれば、もしかしたら中級まではいけるかもしれない。これは機会があれば、その時に練習することにしよう。
「た、助けてくれ! 金なら払う! 何でもするから許してくれぇえ!!」
すると最後に残ったチンピラが何か言っているが、これもどうでもよかった。
よし。次には配下を心技体同一で操っていても、不殺のスキルが使えるか試してみることにしよう。
心技体同一で配下を俺が操作した場合、いくつかのスキルは使えなくなるが、逆に使えるスキルも存在しているのだ。
とりあえずレフじゃ強すぎるし、ここは他の配下を出すことにしよう。
「出てこい」
「ギギッ!」
「ひぇええ!?」
種族:サン・ドラゴンスパルトイ・ウィンドソードマン(サン)
種族特性
【風竜牙兵】【陽光師】
【剣適性】【スラッシュ】【連撃】
【サークルスラッシュ】【飛行】
【生命探知】【技量上昇(小)】
【使徒】
エクストラ
【フュージョンモンスター】
称号
【ジンジフレの加護(使徒)】
そう言って召喚したのは、Bランクモンスターである、サン・ドラゴンスパルトイ・ウィンドソードマンのサンである。
純白の竜人スケルトンのサンの姿に、チンピラが腰を抜かす。
だが俺はそれに構わず、心技体同一でサンの体をアバターのように操り始める。
ちなみにレフには、一応無防備な俺の本体の護衛をさせておいた。
ふむ。問題なくできたな。レフとはまた違った感じがするが、これはこれで面白い。
手に持っている種族由来の両手剣を軽く振るうと、周囲に風が巻き起こる。
「ひぃい!!」
Bランクのモンスターなので、素振りをするだけでもかなりの迫力に見えたらしい。チンピラは恐怖で失禁してしまう。
それに構わずサンを操作して近づくと、不殺の発動を意識しつつ、両手剣からスラッシュのスキルをチンピラに放った。
「ぐぇッ――」
結果としてチンピラは勢いよく吹っ飛び、氷塊の壁に叩きつけられる。
しかしそれでも、チンピラは生きていた。斬られた箇所は、酷い打ち身のあざが残っている。出血は無かった。
ふむ。実験は成功だな。これなら俺が配下を操作しても、問題なく手加減をすることができるだろう。
そうして心技体同一を解除してサンを送還すると、俺は意識を失っているチンピラをサクッと始末して、ストレージへと収納した。
今更敵を殺すことに対しては、何とも思わない。傍からすれば、俺はかなりのサイコパスに見えることだろう。
ちなみに元帥に内包されている領域感知により、誰にも見られていないことは確認済みである。
これを搔い潜る者がいたら、それこそ強者に他ならない。その場合は諦めるしかないが、まあ可能性は低いだろう。
そして氷塊の壁を同じく生活魔法の種火で溶かすと、俺は何食わぬ顔でレフと共に路地裏を出るのだった。
◆
う~む。今思えば、あのチンピラから情報収集をするべきだっただろうか? いや、サーヴァントも連れている様子はなかったし、大した情報は持っていなかっただろう。
町の中を再び歩きながら、俺はふとそんなことを思う。
不殺の実験に集中するあまり、そのことが頭から抜けていた。
だがそこまで気にすることはなく、チンピラたちの事などすぐに忘れて、俺は先へと進む。
そうして俺が辿り着いたのは、とある料理屋だった。適当に日替わりランチセットを頼んだ。
内容はホーンラビットのソテーと、スープにパン。あとはエールという感じだ。
またサーヴァントの存在がありふれているからか、レフの分のホーンラビットのソテーも、普通に出してくれた。
とりあえずソテーを食べてみると、味は可もなく不可もなくという感じである。ただエールに関しては、葡萄酒の無限大杯で生成したワインを飲んでいたからか、微妙に感じた。
どうやら俺も、舌が肥えたらしい。しばらくこうして旅をするならば、一般的な料理にも慣れていく必要がある。
それに城のダンジョンでは、毎日豪華な食事が出されていた。それと比べると、ここの料理などとは天と地の差がある。
「にゃぁ……」
レフも同様に舌が肥えていたのか、ソテーの味がお気に召さなかったみたいだ。まあ、これに関しては仕方がない。
そうして俺とレフが食事をしていると、近くの席からこんな話が聞こえてくる。
「このあと僕とサーヴァントバトルをしようぜ! 今日は負けないからな!」
「いいだろう! 今回勝つのも、当然俺だがな!」
サーヴァントバトル? テイマーやサモナーが行う、モンスターバトルのようなものだろうか?
気になった俺は食事を切り上げて、その話をしている少年二人の席に移動した。そして一枚ずつ銀貨をテーブルに置く。
「なあ、そのサーヴァントバトルについて、興味があるんだが、色々と教えてくれないか?」
「ぎ、銀貨! いいのか! 知っていることならなんでも話すよ!
「っ!? あ、ああいいぜ! 何でも聞いてくれ!」
そうして冒険者ギルドの時のように、俺はサーヴァントバトルについて情報を得ることに成功した。
どうやらサーヴァントバトルとは、モンスターバトルを参考にして、できたようである。
ルールもほとんど変わらないが、使用できるのはサーヴァントだけらしい。
なのでテイマーやサモナーが使役しているモンスターは、参加できないようだ。
またサーヴァントカードは原則一人一枚のため、チーム戦などもよく行われるらしい。一対一も盛んだが、三対三も人気のようだ。
すると俺は話しかけた少年二人から、三対三のチーム戦に誘われる。ちょうどいいので、俺はそれに参加することにした。
久々のモンスターバトルならぬ、サーヴァントバトルに対し、俺は少しわくわくしている。
ただネームドたちでは強すぎるので、他の配下を使ってみるのもいいかもしれない。
加えてカードの裏面を偽装擬態のエクストラで誤魔化せば、サーヴァントカードではないとは気づかれないだろう。
そんなことを思いながら、俺は少年二人に案内してもらうのだった。




