表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/468

045 ノブモ村での大会予選 ③


 棍棒を持ったホブンが駆ける。


 それに対して、ジャイアントボアも突っ込んで来た。


「ゴブッ!」


 だが素早い身のこなしで、ホブンがすれ違うように回避をする。


 そして、その背後に棍棒を叩きこんだ。


「ブヒィツ!?」

「なっ!?」


 よし、攻撃が通った。


 ジャイアントボアは苦痛に(もだ)え、ジョリッツは驚愕(きょうがく)の表情を浮かべる。


 だが、これによって本気になったようだ。


 ジャイアントボアはホブンを強く睨みつけ、僅かに後ろに下がって助走をつける。


 そして先ほどよりも速く、狙いもしっかりと着けた突進がやってきた。


 ホブンが横に動くと、驚くことに軌道修正をしてくる。


 だめだ。この会場の広さじゃ、避け切れない。


 俺は即座にそう判断を下す。


 会場の広さが相手の弱点だと思っていたが、それが逆になるとはな。


 だが避けられないのなら、向い撃つしかない。


 ホブンに棍棒を両手で握らさせ、その瞬間を待つ。


 面白い。面白いな。


 次の一撃で、決着が付く。

 

 そのことを強く感じた。


 ホブン、頼むぞ。


 そして、その瞬間がやって来る。


「ゴッブアッ!!」

「ブギィイ!!」


 ホブンの振り下ろした全力の一撃が、ジャイアントボアの額に命中した。


 だがそこで、棍棒が折れる。


「ゴブガっ!?」


 続けてホブンが吹っ飛び、地面を転がった。


「ブ、ブギィ……」


 だがジャイアントボアもその場に止まり、僅かに数歩進むと横に倒れる。


「ボ、ボアザード!! 立ちなさい! 立つんですよ!」


 ジョリッツが必死に声を送る。


 しかし、ジャイアントボアは声を聞いても立ち上がろうとはしない。


「ホブン、立て」

「ゴ、ゴブ……」


 対してホブンは、俺の命令に答えてゆっくりと立ち上がった。


「そ、そんな……」

「ジャイアントボアの戦闘続行は、不可能と判断する」


 そして審判役である職員の言葉により、ジャイアントボアの敗北が決まる。


「す、すげえ!」

「ホブゴブリンが勝ったぞ!」

「嘘だろ!」

「あっという間だったな!」

「どういう育て方をしたんだ!?」

「感動した!」


 負けると思われていたホブンが勝ったことに、観客が熱狂した。


 だが、試合はこれで終わりではない。


 ジャイアントボアを何とか回復させて下げると、三匹目を繰り出してくる。


「相手は弱っています! 行きなさい、タレロ!」

「ぶひっ!」


 ジョリッツは、三匹目にオークを出してきた。


「ホブン、まだいけるか?」

「ゴブア!!」

「よし、その力を見せつけてこい」


 ホブンもやる気のようなので、引き続き戦わせる。


 相手のオークは棍棒を持っているが、ホブンは素手だ。


 しかし、その程度はどうとでもなる。


「ゴッブア!!」

「ぶひゃっ!?」


 ホブンの右ストレートを喰らい、オークは情けなく声を上げて転がった。


 その一撃でオークは、格の違いを理解したらしい。


 ホブンに怯え、まともに戦うことができなかった。


「タレロ! 真面目に戦いなさい!」


 ジョリッツは叱咤(しった)するが、その声はどうやら届かなかったようだ。


 最終的にオークは、うずくまって動かなくなる。


「オークの戦闘続行は不可能と判断した。よって決勝トーナメント第一試合の勝者は、ジンとする!」


 その瞬間、観客の歓声が再び周囲へと響き渡った。


「そんな……まさか負けるとは……」


 ジョリッツは負けたことが信じられないようで、呆気に取られている。


 対して俺は、満足行く試合結果に笑みを浮かべた。

 

 中々に面白い試合だったな。


 数で圧倒するのもいいが、こうした一対一も楽しいものだ。


 そうして試合を終えたあと、ホブンと折れた棍棒を回収して、選手用の席に移動する。


「ふふっ、あなた強いわね」


 その時すれ違いざまに、次の試合に出るアミーシャがそう耳打ちしてきた。


 おそらく、決勝で戦うのはあの女になりそうだ。


 もう一人のメインモンスターはオークみたいだし、勝率は低いだろう。


 さて、どのようなモンスターを繰り出すのか、観察させてもらおうか。

 

 俺は用意されていた席につくと、第二試合に注目する。


「相手が女性であろうと、俺は手加減しないぞ!」

「そう、でもあなたでは勝てないわ」

「くっ、言ってろ」


 するとちょうど二人が会話を終えて、定位置に着く。


「最初から全力だ! 行け! オークス!」

「ぶひい!」


 冒険者の男ジブールは、オークを繰り出した。


「それじゃあ、私はこの子よ。フィミィ、現れなさい」

「ギギギ」


 対してアミーシャが出したのは、巨大な紫色の蝶。


 しかもアミーシャはサモナーであったのか、光と共にモンスターが現れる。


 あの女はサモナーだったのか。初めてみたな。

 

 それにあの小型犬サイズの巨大な蝶、あれも初めてみる。


 状態異常を得意とするようだが、いったいどのようなものだろうか。


「両者とも準備はいいか? それでは、決勝トーナメント第二試合を開始する! 始め!」


 俺が思考を巡らしている間に、試合が開始する。


「ギギギ!」

「ぶひ?」


 するとさっそく、巨大な蝶が上空から鱗粉を撒き散らす。


 だがすぐには効果は出ないようで、オークは一度首をかしげた後、棍棒を振り回し始めた。


 巨大な蝶は空を飛んでいるが、一定以上の高さを越えると場外扱いになる。


 即座に戻らない場合、負けという訳だ。


 なので、オークが跳躍してギリギリ届く辺りを飛行している。


 飛行対策か。これも考えないといけないな。


「ぶひ……」


 すると先ほどまで暴れまわっていたオークが、突然倒れて眠り始めた。


 なるほど。あれは眠りの状態異常効果があったのか。


 これは勝負がついたな。


「お、おい! 起きろオークス! ふざけるな!」


 それからジブールが何度声をかけても、オークが起きることはなかった。


 審判である職員のテンカウントにより、敗北が決まる。


 そして中堅、大将とジブールが繰り出したのは続けてゴブリンであり、オークと同じ結果になった。


「ゴブリンの戦闘続行は不可能と判断した。よって決勝トーナメント第二試合の勝者は、アミーシャとする!」


 まあ、当然の結果だな。


 しかし、観客は納得がいかないようだった。


「それで勝って嬉しいのか!」

「卑怯だぞ!!」

「最低の試合内容だった」

「もう帰れよ!」


 うーむ。俺は状態異常でも勝ちは勝ちだと思うのだが、確かに見世物としては退屈かもしれない。


 そうして第二試合が終わると、決勝は休憩を挟んだ後になる。


 俺は周囲から熱烈に応援され、食べ物の差し入れをいくつも渡された。


 デミゴッドは状態異常に強い耐性があるので、構わず頂くことにする。


 対してアミーシャは、気が付くと既にいなかった。


 ここにいれば罵倒を浴びせられると思うので、当然かもしれない。


 にしても、先ほどの巨大な蝶をどう攻略したものか。


 空を飛べるとはいえ、ジャイアントバットとポイズンモスでは少々心もとない。


 蝶、蝶か……。


 意外と、何とかなるかもしれないな。


 俺は一つ、使える手を思いついた。


 予選に出すモンスターは決めたが、絶対に出さなければいけないというわけではない。


 なら、蝶相手にピッタリのモンスターが俺にはいる。


 それは、ビッグフロッグだ。


 長い舌と得意の跳躍力があれば、あの巨大な蝶も攻略できるだろう。

 

 これは、面白くなりそうだ。


 俺は期待に胸を膨らませながら、その時を待った。


 そうして休憩時間が終わり、とうとう決勝戦が始まる。


「この試合、棄権するわ」

「は?」


 だが驚くことに、会場に来たアミーシャが突然そう宣言してしまう。


「えっと、アミーシャ選手、いったいどういう事でしょうか?」


 審判の職員も戸惑ったように問いかける。


「どういう事も何も、準優勝でもここの予選は通過でしょ? だから戦う必要は無いわ」


 アミーシャの言葉に、観客は当然ブーイングの嵐だ。


「ふざけるな!!」

「予選大会だからって、そんなことが許されるか!」

「戦え!!」

「納得できるか!!」


 しかしそれに対してアミーシャは、どこ吹く風で受け流す。


「アミーシャ選手、試合をしていただくことは……」

「試合はしないわ」

「そ、そうですか……。アミーシャ選手の棄権により、ノブモ村の大会予選の優勝者は、ジン選手です」


 最悪の優勝だ……。


 試合を楽しみにしていた俺は、深いため息を吐くのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
勝ったところで得られるのは名誉ではなく罵倒、報酬は同じでコストだけかさむならそりゃやる価値ないわな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ