400 女王からの報酬 ①
そうして俺がやって来た場所は、会議室のような部屋である。
この部屋にいるのは、俺を含めてレフ、女王、エンヴァーグ、シャーリー、ヴラシュ、アルハイドという感じだ。
当初は女王の間で仰々しく行うことも提案されたが、俺がそれを断った形である。
なのでこうして、少人数で行うことになった。
「色々と待たせてしまったけれど、ついに旅に出るみたいだから、報酬を渡すわね。ジン君、本当にありがとう。ジン君のおかげで、この大陸全体が救われたわ」
女王はそう言って、収納スキルから報酬を取り出す。
まず取り出したのは、無数の袋である。その中には、様々な種類の硬貨が入っていた。旅に出る俺のために、それぞれ分けてくれたのだろう。
一番価値のある聖金貨だけを渡されても、逆に使いづらいからな。これはありがたい。
また報酬として渡されたからか、当然のように二重取りが発動して、硬貨の入った袋が増殖した。
『神授スキル【二重取り】が発動しました。報酬が倍になります』
すると硬貨の入った袋の数が倍になり、それを認識できたのか、女王がぎょっとしたかのように体を動かす。
「すごい……これがジン君の神授スキルなのね。私もヴラシュ君の神授スキルがあるからか、認識できるみたい」
「僕も神授スキルを失ったけど、クモドクロはジン君の配下だったからか、問題なく認識できたよ」
どうやら女王とヴラシュは、二重取りを認識できたみたいだ。
逆にエンヴァーグとシャーリー、そしてアルハイドは、何がおかしいのか、全くわからないらしい。訊いてみると、そんな風に言っていた。
やはり二重取りの認識については、神授スキルの影響が鍵になっているようだ。
まあ二重取りに関しては今更なので、どうでもいいか。それよりも、今回はアレを試してみようと思う。
そう思いながら俺は二重取りの真の効果である、『返還』を発動させた。
『神授スキル【二重取り】の真の効果が発動しました。報酬が返還されます』
するとそんなアナウンスが聞こえると同時に、今増えた袋たちが消えていく。
「今のは、収納系スキルとは違うのかしら? 消え方に、なにか違和感があったわ」
「ああ、神授スキルの真の効果で返還したんだ。他の真の効果を使う際の代償を、肩代わりするエネルギー的なものをストックすることができる感じだ」
女王たちには、既に神授スキルの真の効果については話している。ただこうして実際に目の前で見せるのは、初めてのことだった。
ちなみにこの数ヶ月の間に返還は何度か行っていたので、俺に驚きはない。色々と実験もしていたのだ。
また返還についても、他の面々は認識ができないようだった。二重取りで増えた時と、同様の反応である。
「なるほど。そういうことね。少しもったいない気がしたけど、それだけの価値があることなのね?」
「そうだな。手にした物なら大抵二重取りが発動する真の効果や、二重取りで進化した物を更に進化させる真の効果の代償に使えるから、十分に価値はあるという感じだ」
「神授スキルの真の効果……すごいわね」
女王は神授スキルの真の効果について、強い関心を示している。
それは女王も、ヴラシュから受け継いだ神授スキルに対して、真の効果を目覚めさせたいからかもしれない。
一応女王は、真の効果を得るための緩和条件を、一つ満たしているようだ。
満たしているのは『王になり、大陸を三つ統一する』の緩和条件である、『王になり、大陸を一つ統一する』という項目についてだ。
この元アンデッドだけの大陸を一国で支配しているので、緩和条件を満たしている感じである。
ちなみに他の転移者が既に条件を満たしていたのか、それとも『大陸の王』自体がそれだったのか、他に称号は得ていないらしい。
女王には緩和条件についても話しているので、今後はあと二つ満たすことを目指しているようだ。
配下の活躍もカウントされるのは、俺が実証している。なので女王が、単独で熟す必要はない。故に案外時間があれば、どうにかなりそうである。
ちなみに眠っている間俺の配下が活躍した分は、女王の緩和条件に影響を与えていないようだった。
それは俺が正式な配下ではなく、契約による一時的なものだったからのようだ。
なので配下たちが転移者を倒しても、俺のところでせき止められていた感じである。
それと神授スキルを持つゲヘナデモクレスとアンクも、まだ条件を三つ満たせていなかった。
そもそも数を熟しても俺の数にカウントされるのか、それともゲヘナデモクレスとアンクにも、ちゃんとカウントされるのかはまだ不明だ。
これについては、金目と銀目も答えられないみたいである。そもそもその情報が、抜け落ちているらしい。
もしかしたら神授スキル関連の一部情報は、創造神によって規制されている可能性がある。簡単に情報は、渡してはくれないみたいだ。
また金目と銀目も、何でも知っているわけではないようである。まあこれについては仕方がないので、諦めるしかないだろう。
ただ配下同士の熟した内容や、俺が単独で熟した内容が配下に共有されている感じはしない。
共有されるのはあくまでも、配下から主人である俺の方へだけのようだ。
もしそうでなければ、ゲヘナデモクレスとアンクも、真の効果に目覚めている可能性があったはずである。
なのでおそらく支配している者だけに、配下の熟した神候補や緩和条件などの回数が、共有されて、カウントされるのだろう。
そんなことを思いながらも、俺は引き続き報酬を女王から受け取る。
次に手渡されたのは、ぱっと見は鉄製をした普通の長剣だった。
「お兄様から剣を失ったことを聞いたから、この剣を用意したわ。流石に聖剣や魔神剣を、普段使いはできないでしょ? だから見た目がシンプルな物を用意したの。もちろん、性能は良いから安心してね」
そう口にした女王から剣を受け取ると、また二重取りが発動して、剣が増える。更に魔神剣の時のように、二振りの剣が統合された。
『神授スキル【二重取り】が発動しました。擬剣【ミミックソード】を獲得します』
『同質の擬剣が二振り存在しているため、擬剣を統合します』
『擬剣【ミミックソード】は、擬剣【パンドラソード】に進化しました』
すると二振りの剣は一つに統合されたことにより、擬剣【パンドラソード】になったようである。
その見た目は統合されても、変わらない。普通の武器屋に売っている、量産品の鉄の剣にしか見えなかった。
「おおっ、剣が一つに!! その光景にも驚きだが真に恐ろしいのは、その剣から何も感じないことでしょうな! 先ほどの剣であれば、儂も隠された力をほのかに感じていた。しかしそれすらも今は消えていますぞ! 素晴らしい!」
するとエンヴァーグが興奮して、統合されたことを認識したのか、そのように口を開く。どうやらエンヴァーグは、剣に目が無いようである。
またエンヴァーグが言うように俺も意識しなければ、この剣をどこにでもある、普通の剣に思えてしまう。
しかしそんなはずはないので、俺はこの剣を鑑定してみることにした。
すると最初は単なる鉄の剣という鑑定結果が表示されたが、間違いなく偽装されている。なのでその偽装を突破するために、更なる鑑定を発動した。
その結果一瞬かなりの抵抗を感じたが、俺の鑑定は超鑑定であり、なおかつエクストラだ。加えて神力まで使うことで、鑑定に成功する。
名称:擬剣パンドラソード
説明
・この擬剣はあらゆる剣に擬態することが可能であり、性能を偽って表示させる。また鑑定系スキルなどを無効化する。
・この擬剣は一日に一時間だけ、あらゆる剣の性能に擬態することも可能とする。
・この擬剣に宿る属性を、基礎属性の中から自由に切り替えることを可能にする。
・この擬剣に認められた者にしか使用できず、念じると手元に戻ってくる。
・この擬剣は、時間と共に修復される。
・この擬剣は以下のスキルを内包している。
【偽装擬態】【超級鑑定妨害】【七属剣技】
【中級スキル郡(剣)】【属性耐性(小)】
【斬撃強化(中)】【技量上昇(中)】
【身体操作上昇(中)】
鑑定結果は、とてもユニークなものだった。また鑑定に成功した瞬間、この擬剣に主だと認められたことを理解する。それが伝わってきた感じだ。
普通の鑑定なら、いやランクアップする前のエクストラの鑑定でも、突破するのは難しかっただろう。
超鑑定は、偽装・擬態・鑑定妨害を看破することが可能だ。加えてエクストラであることや、神力を使ったことにより、鑑定の無効化を更に無効化できたらしい。
なのでこの擬剣を鑑定するには、俺と同等の鑑定能力か、鑑定系の神授スキルでなければ難しいだろう。
結果鑑定を突破したことで、擬剣が俺を主として認めたのだと思われる。擬剣ゆえに、その隠していた性能を見破ったことが、大きかったのだろう。
それと今回は、真の効果で更に進化させることはしない。先ほどの金銭の返還だけでは足りないだろうし、欲しいのは普段使いの剣である。
強敵にはそれこそ、魔神剣や聖剣を使えばいいだろう。いちいち全部進化させていっては、返還のエネルギーが一向に溜まらない。
加えて正直なところ、普段使いではこの擬剣パンドラソードでも過剰である。しかしそこはもう統合されてしまったので、諦めることにした。
あと地味にエンヴァーグが、剣の統合を認識していたことに驚いている。どうやらこれは、シャーリーやアルハイドも認識しているようだ。
同じ二重取りの効果でも、統合が認識されるのは何故だろうか?
するとこれについて、金目と銀目が答えてくれる。違いはメイン効果、真の効果、拡張効果の違いらしい。
増えるのはメイン効果、返還は真の効果、統合は拡張効果(隠し効果)と理解できる。
そしてこの中で拡張効果は、他よりも創造神の影響が薄いようだ。それは拡張効果だけ、神授スキルに宿る存在である、金目と銀目が用意したからである。
なのでこの世界から認識されない、いやあたり前のことだと認識改変される現象までは、宿らなかったらしい。
エンヴァーグが普通に認識できた理由は、そうした違いだったみたいだ。なるほどと、俺は納得した。
また認識以外にも、この擬剣パンドラソードの効果についても色々と気になるが、それは後で確認することにした。まだ女王の報酬は、これで終わっていないみたいである。
擬剣だけで俺は既にかなり満足しているが、いったい女王は何をくれるのだろうか?
本編が400話を突破しました!
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
まさかここまで続くとは……もしかしたらいずれ、500話にも届くかもしれません。
とりあえずこの章の終わりでも、記念にSSを投稿します。
今後ともモンカドをよろしくお願いいたします。