399 加護と使徒
神授スキルの拡張により、新たな隠し効果が増えたようである。もちろん拡張したのは、カード召喚術だ。
その内容は配下に神力を使用することで、『使徒』のスキルを種族特性に与えることができるらしい。
名称:使徒
効果
・仕える神の神託をいかなる場所でも聞くことができる。
・仕える神からの神命を拒否できなくなる。
・神命を実行する時、あらゆる能力が増加する。
・使徒同士であらゆる情報を共有することができる。
残念ながらエクストラの『アポストルスモンスター』を与えるのは、難しかったようだ。
実際には可能らしいが、色々と条件や必要な神力、創神力などが爆増するとのこと。
今回俺が神力を注ぎたかったのは、加護の内容を眷属から使徒に変えたかったからだ。
なのでそれが可能ならば、こちらの方が合っている。何体ものネームドに加護を配る関係上、あまりにもコストが多すぎるのは困るからだ。
そう考えればリスク無しで簡単に、使徒のスキルを与えられるというだけで十分だった。
加えて使徒のスキルを持っていると、進化の際に神力を受け入れられる耐性が少しつくらしい。
これがあるのと無いのとでは、大きな差がある。今回の進化は既にしてしまったが、次回の進化の際には、神力を注ぐことができるだろう。
使用した創神力も、そこまで多くはないらしい。数日で作ったにしては、中々の完成度のようだ。
そうして新たな隠し効果を手に入れたので、俺は早速使ってみることにした。
まず先に使うのは、加護を既に与えてしまったアロマである。
アロマに神力を使用して、『使徒』のスキルを与えてみた。するとそれと同時に、既に与えていた加護も、眷属から使徒に変化したのである。
結果として加護が使徒に変化したことによって、『一月に一日だけ、仕える神との融合をリスク無しで可能にする』という効果が加わった。
他の項目についても効果は上昇しているが、この部分が一番大きな変化だろう。
つまりこれによって、俺は配下たちと一月に一日だけとはいえ、自由に融合ができるようになったのである。
そう考えると、この加護はぶっ壊れかもしれない。対象の配下を変えることで、俺は一月に何度も融合ができるからである。
何だかこれで、俺の神名である『混沌』の部分の意味が増えたような気がするのは、おそらく勘違いではないだろう。
とりあえずネームドたち全員に、この使徒のスキルを配っていく。そして使徒のスキルを配り終えると、ようやく加護を与えることができた。
ちなみにレフは既に使徒のスキルを所持していたので、与えることはできない。自分だけにくれなかったからか、少し抗議された。だが無理なものは無理なので、諦めてもらう。
また加護を与えるのは神力の消耗が激しいので、時間がかかる。しかし何日もかけることで、なんとかネームド全員に与えることができた。
特に離れた場所にいるグインからは、歓喜の雄叫びが聞こえてきたほどである。
嵐属性の魔王を目指すなら、当然嵐属性が必須だったからだ。本来ならそれを得るために、途方もない道のりになったことだろう。
だがこの加護によって、場合によっては数百年単位で、それが短縮されたかもしれない。
グインには嵐属性の魔王を目指して、是非頑張ってもらいたいところだ。
そして他にもだが、実はゲヘナデモクレスが意外と喜んでいたのである。
使徒のスキルに『仕える神からの神命を拒否できなくなる』というのがあることを知って、スキルならば仕方が無いという感じで、色々と言っていた。
本来なら先延ばしにしていた決闘を再度しようとも思っていたらしいが、使徒になってしまったからにはもう必要ない。これは仕方がないことだと、何度も俺にそう言ってきたのである。
ただその雰囲気から、何となく嬉しそうだったのが印象的だった。
この五年の間にゲヘナデモクレスにも、俺たちへの仲間意識が芽生えていたのかもしれない。
そうしてゲヘナデモクレスがこれによって、正式に俺の配下へと仲間入りを果たしたのである。
だとすれば、ゲヘナデモクレスにも名前を付けるべきだと、そう思った。
しかし俺としては、ゲヘナデモクレスは既にゲヘナデモクレスというイメージが定着している。
おそらく唯一無二の種族だと思うので、悪いとは思いつつも、ゲヘナデモクレスにはゲヘナデモクレスという名前をそのままつけた。
ゲヘナデモクレスはその名付けに対して色々と言っていたが、最終的には納得してくれた感じである。
そうして日々を過ごしていると、気がつけばあっという間に三ヶ月が過ぎていた。
何だか、一日の時間の感覚が異常に短く感じるようになったな。変化の無い日々ならともかく、毎日が新鮮だったはずなのに……。
だとすれば俺の感覚が、人から逸脱し始めているのかもしれない。放っておけば、いつの間にか数百年経っていても、おかしくはないな。
神候補やジンジフレ教の神になって神名などが変化した影響なのか、時間の感覚に変化が訪れていたのである。
たぶん俺は、同じ景色を眺め続けるだけでも、平気で一日を潰せるんだろうな。
何もしないということに、全く苦痛を感じる気がしなかった。
これはしっかりと意識していかないと、不味いかもしれない。
せめて百年くらいは、人としての感覚で過ごしていきたかった。
それを強く感じた俺は、この機会にいよいよ旅を再開させることを決める。
この三か月で親しくなった者たちにも挨拶をして、旅に出ることを告げた。
特にここ最近では、意外にもユメリカと親しくなったのである。
ユメリカの相棒であるレイちゃんは、元々俺の配下であったのと同時に、サーヴァントカードでもあった。
その特殊な関係からか、レイちゃんとは感覚を共有できたのである。それにより暇なときは、ユメリカの様子を度々見ていたりしたのだ。
するとユメリカはなぜか、頻繁に事件へと巻き込まれていたのである。
なんだか放っておけなくて、気がつけば何度か助けたこともあった。それとユメリカにも加護を与えており、レイちゃんには使徒のスキルを授けている。
他のサーヴァントカードには不可能だったが、レイちゃんには使徒のスキルを付与できたのだ。
おそらく元々カード召喚術のカードだったので、ギリギリ配下判定だったのだろう。
それと旅立った後も何だか心配なので、ユメリカの様子は今後も定期的に確認することにした。
するとそれに対して何故か、ゲヘナデモクレスが怒りながらも、『我にはそうしたことに対して、一日の長がある。ここぞという場面で手を貸すから、意味があるのだ! 頻繁に顔を出しては、意味がないのである!』と言っていた。
よく分からないが確かに、頻繁に手を貸してしまえば、それはユメリカの成長を阻害することになるだろう。
なので俺はゲヘナデモクレスのアドバイスを聞いて、本当にヤバそうなときだけ、基本的には手を貸すことにした。
まあユメリカには他にも手を貸す人は多いので、大抵のことは大丈夫だろう。
また旅に出ることを女王にも告げると、約束していた赤い煙戦などの報酬を用意するという。
そういえば、そんなものもあったなと思い出した。
この三か月の間に、すっかり忘れていた感じである。なんか記憶に関しても、かってに記憶の底にしまってしまう感じがした。
意識して思い出そうとすれば、簡単に思い出せる。けどその切っ掛けがなければ、全く気にも触れないので、思い出すことがない。
たぶん長い時間を生き続ける者だから、そうした記憶の方法へと、いつの間にか変化したのだろう。
そんなことを思いつつ、俺は女王に呼ばれて報酬を受け取りに行くのだった。