384 まさかの再会
「? どこかでお会いしやしたか? もしかして、以前ご購入したことがおありで? こ、効能には個人差があるんでさぁ。返金には対応してないですぜ。へへっ」
するとその言葉に、俺が以前の客だと勘違いしたみたいだ。手もみをして下手に出ながらも、今にも逃げ出す算段をしている雰囲気がした。
とりあえず俺は、こいつがレッドアイ本人なのか確かめるために、鑑定をしてみる。
種族:リーヴィングスゾンビ(レッドアイ)
種族特性
【闇属性耐性(小)】
エクストラ
【リーヴィングスモンスター】
ふむ。どうやら、あのレッドアイで間違いないらしい。
確かエクストラの【リーヴィングスモンスター】の効果は、こんな感じだったはずだ。
名称:リーヴィングスモンスター
効果
・全てを失って僅かに残った滓。
・あらゆる成長効果を受けられない。
・あらゆるスキルの取得が不可能になる。
・あらゆる進化方法ができなくなる。
・あらゆる強化効果を無効化する。
相変わらず、酷いエクストラである。これほどまでのエクストラは、現状では他にない。
それとこいつ、なんでここにいるんだ? 女王から聞いた話では、城のダンジョン以外のダンジョンやモンスターは、全て消えたはずだが。
これは赤い煙があのとき自身を強化するために、支配下にあるダンジョンやモンスターを生贄にしたからである。
なので一応レッドアイもその対象だったはずだが、本当になぜ生贄にならずに存在しているのだろうか?
すると俺が鑑定したことに気がついたのか、レッドアイが怯え始める。
「ひぃ!? も、もしかして、鑑定しやしたんですかい!? あ、あっしは珍しい種族かもしれないが、実力は普通のゾンビ以下なんでさぁ! ど、どうか見逃してくだせぇ!」
どうやら鑑定されて種族を知られるのは、レッドアイにとっては避けたかったことなのだろう。先ほど以上に、警戒心が増している。
まあこのまま話しても埒が明かないので、俺はレッドアイにだけ見えるようにしつつ、仮面をずらした。
「俺のこと、覚えているよな?」
「!? お、お前は!? わ、忘れるはずがねぇ! な、何しに来た! お、俺様を消しにきたのか!!」
レッドアイは俺の正体に気がついたのか、先ほどの三下口調が消えて、以前のような俺様口調へと戻る。
「別に、今更何かをするつもりはない。それにこうして存在しているということは、女王がそれを認めたということだろう。なら、俺が手を出すことはない」
レッドアイという存在を、城のダンジョン側が把握していないとは考えづらかった。おそらく見逃されているのだろう。
レッドアイの状況を哀れに思ったのか、それともここまで弱体化したレッドアイなど、どうでもいいのかもしれない。
「ほ、本当か!? な、なら何で俺様の前に現れやがった!」
「は? それはお前の方から、俺に声をかけてきたからだろう?」
「あ、そうだった……」
自分から声をかけてきたのに、何を言っているんだ。まあそれくらい、混乱しているのだろう。
「それで、何でお前がここにいる? 他は赤い煙の強化のために生贄になったはずだが、何でお前は存在しているんだ?」
俺はそのことだけが、とても気になった。
「は、話したら、見逃してくれるのか?」
「ああ、見逃してやる。そもそも、今更お前をどうこうするつもりはない」
レッドアイの問いかけにそう答えてやると、一瞬考えたような素振りをしつつも、レッドアイはポツポツと喋り始める。
「あれは、突然だった。俺様は気がつけば、何かに吸い込まれていた。だが突然『お前を使うと逆に弱体化するから、不要だぜぇ。ひひゃひゃ』という声が聞こえてきたんだ。
そうして気がつけば、なぜか城のダンジョンの前に打ち捨てられていたのが、始まりだ」
なるほど。ある意味エクストラの【リーヴィングスモンスター】が、レッドアイを助けたのだろう。
赤い煙はレッドアイを強化に変換すると、それが悪いことに繋がると感じ取ったのかもしれない。
また城のダンジョンの前に打ち捨てられていたのは、城のダンジョンが戦いの舞台だったからだろう。
実際には赤い煙のファントムワールド内だったが、それを発動した場所は城のダンジョン内だしな。
そう考えると、レッドアイが城のダンジョンの前に打ち捨てられていたのも、一応は納得ができる。
あとダンジョンボスだったレッドアイがダンジョンを失っても消滅しないのは、赤い煙に生贄にされかけたときに、ダンジョンと分離させられたからかもしれない。
実際レッドアイには、【ダンジョンボス】のエクストラが消えているしな。レッドアイ自体は不要でも、ダンジョンは生贄にされたのだろう。
「それで、そこからどうしたんだ?」
「ああ、俺様が目覚めたときには、既にお前らの戦いの決着が付いていた後でな。最初は混乱したぜ。だが自由になったことを同時に理解して、俺様は喜んだ。それはもう、最高の気分だったぜ。
だがなぁ。俺様は弱かった。そこらのザコモンスターに、勝てないくらいにはな。だから、同じダンジョンボスということを理由に、城のダンジョンに助けを求めたんだ」
ふむ。レッドアイも赤い煙が倒されたことで、支配から抜け出せたのを感じ取ったらしい。
またレッドアイは、俺と城のダンジョンが繋がっていることを知らなかったのか、そのまま助けを求めたようである。
「なるほど。助けを求めてどうなった?」
「普通に門前払いされたぜ。今はそれどころじゃないってな。だから俺様は城のダンジョンの近くで、息をひそめていたんだ。するとそのうち城のダンジョンが安定してきたのか、人型種族が出入りし始めた。何度か狩られそうになって、ヤバかったぜ。
けど俺様が喋れるのを知って、モブメッツっていうやつに助けられたんだ。それでとんとん拍子に、女王に会うことができたんだぜ。ここまでは、順調だった」
モブメッツか。どうやらアンデッドにも、偏見がない人物らしい。色々と、レッドアイのために手を尽くしたようである。
門番のドヴォールとザグールを経由して、女王まで繋いだのかもしれない。
俺がそんなことを思っていると、レッドアイはそのまま話を続ける。
「だが俺様を城で雇ってもらおうと、交渉したのが失敗だった。俺様が元船のダンジョンのボスだと知ると、雇用は却下されたんだ。温情で城下町に住むのは許されたけどよぉ。理由は教えてくれなかったんだぜ。
だがまあ、今ならその理由も分かる。お前だ。お前が城のダンジョンで、重要な人物だったからだ」
そう言って恨めしそうに、レッドアイが俺を指さす。
「まあ、そうだろうな。だが倒されなかっただけ、よかったな。俺もお前が存在している理由を知れて、スッキリした。じゃあな。これからは、あまり悪させずに細々と暮らすんだな」
レッドアイがここにいる理由を知った俺は、もう用がないと思い、その場を立ち去ろうとする。
「なっ!? ま、待てよ! あっさりし過ぎだろ! この再開に、何か感じないのか!? た、たとえば、俺様をカード化するとかあるだろうが!」
すると唾を飛ばしながら、レッドアイが俺のことを引き留めてきた。きたない、それと臭い。
「は? 普通にいらないんだが? それに俺は、ルルリアの件を忘れていないからな。あの状況から抜け出せたことを許容してやってるだけでも、感謝してほしいくらいだ」
女王が生存を許したからこそ、俺から手出しすることはない。だがそれでも、俺がレッドアイに対してよく思っていないのも事実である。
いくら希少なモンスターだとしても、レッドアイはいらなかった。何より弱すぎて、コレクション以外の価値が皆無である。
それにカード化して自分の元に置いておくのも、何か嫌だった。
「ぐっ! ぐぬぬ……」
レッドアイもここは分が悪いと考えたのか、これ以上何か言うことはなく、黙り込んだ。
ここで下手に縋りついて、あの地獄に戻されることを恐れたのかもしれない。
まあ、ダンジョンボスでなくなったレッドアイは、もう残機0で復活できないから、同じことはそもそもできないんだけどな。
女王も配下にしていないし、倒されれば普通にこの世を去ることになるだろう。
これからレッドアイは、生きていくだけで大変だと思われる。Fランクでも最弱の存在になったことで、誰かに襲われればそれで終わる可能性もあるだろう。
ある意味無間地獄から、突然残機0のサバイバルが始まったようなものだ。地獄の第二ラウンドである。
もしこれからも生き残り続け、心を入れ替えて善行を積むようになったら、少しは許してやるかもしれない。
まあ応援はしないが、俺からちょっかいを出すこともないだろう。そのまま路地裏で怯えながら、ひっそり暮らしていればいい。
そうして俺は、レッドアイをその場に残して立ち去るのだった。
おまけ
レッドアイ。ユメリカ主人公のスピンオフでは、怪しい情報屋としてたびたびユメリカを助けたり、事件の切っ掛けになる情報を与える。
またレイちゃんは、元々レッドアイの配下である。なのでその名残からか、こっそりレッドアイをレイちゃんが手助けしたり、襲われている時に助けたりもしている。
レッドアイも当初は心も体も腐っていたが、ひたむきに頑張るユメリカを見て、生きていたころを思い出す。
忘れていたあの頃の記憶。いや自分から忘れるようにしていた、若い頃に亡くなった妹の存在と、ユメリカが重なったのである。
だからレッドアイは自分でも気がつかないままに、何かとユメリカのためになるような情報を集めるようになった。
そして同時にレッドアイが作った特性ドリンクは、ユメリカに渡したことによって、後々知名度が爆上がりしていく。
結果レッドアイはその特性ドリンクだけで成り上がり、店を持つことになる。
表の顔は特性ドリンク屋をしつつ、裏では情報屋として活躍するのだった。
ちなみに、レッドアイはユメリカに恋心は一切なく、妹を想う兄のような気持でいる。
またレッドアイは複雑な気持ちになりつつも、ユメリカに勧められたこともあり、ジンジフレ教に入信することになった。
最初は形だけだったが、気がつけばサーヴァントカードを授かるくらいには、信仰することになる。
そのこともレッドアイは、複雑な思いを募らせるのだった。だがいつかジンに許してもらって、
和解したいと、本当の意味で考えるようにもなる。
故にこれまでの罪滅ぼしとして、色々と稼いだ金銭を寄付したり、福祉活動に使い始めた。
結果としてレッドアイは、知らない間に周囲から、善人社長だと思われ始める。
気がつけば特性ドリンクのレッドアイブランドも、この国では名前を知らない者がいないほどに成長するのだった。
◆ ◆ ◆
※元々レッドアイは、海賊船長として成功しており、当時は巨万の富と知名度を築いていました。なので実は、かなり有能だったりします。社長適性は、とても高い感じですね。
あとダンジョンボスの時は、赤い煙の精神誘導により、より悪人になるように誘導されていたりもしています。
なので解放されたことにより、それが同時に解かれました。五年間細々と悪さをせずに過ごしていたのは、これが理由です。
またなんか後で本編中、大事件の元になりそうな終わり方ですが、たぶん起きません。
そして仲間フラグかと思いきや、そうではなかったみたいですね。ルルリアのことを思えば、レッドアイを仲間にするのは厳しいです。
ちなみにおまけの部分は、見逃した悪人が更生するパターンですね。ただ本編中で描写する機会がなさそうなので、この場で書いておきました。