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383 ぶらり城下町


 あれからアルハイドも教皇としての業務があるので、解散することになった。


 代わりの護衛と案内役をつけようとしてくれたが、それについては断っている。


 ジンジフレ教の神である立場としては不用心かもしれないが、この先俺は旅を再開させる予定だ。


 なので過保護な対応は、必要ないのである。何より、自由に城下町を見て回りたかったのだ。


 そういう訳で俺はレフと共にジンジフレ教の大聖堂から出ると、あてもなく歩き出した。


 にしても、凄い(にぎ)わいだな。人々の表情も明るい。この五年間、女王たちはとても頑張ったようだ。


 俺は眠っていただけだが、それを誇らしく思える。赤い煙から、城を守った甲斐(かい)があったというものだ。


 するとそんな風に周囲を観察しながら歩いていると、そこで唐突に声をかけられる。


「そこの者、少しいいか? この辺りでは見慣れないが、旅人か?」

「ん?」


 そのように声をかけてきたのは、頭部を覆い隠す長方形のヘルムを被った、衛兵の男だった。


「俺はこの国で、衛兵をしているスカムという。これでも顔が広くてな。この国に所属している強者はある程度は把握しているんだ。その中にお前のような者は見たことがない。だから声をかけさせてもらった」


 なるほど。このスカムという人物。結構できるな。雰囲気からして、冒険者ならBランク以上はありそうだ。それに一応ジンジフレ教のシンボルもつけているし、俺の信者らしい。


 今は仮面をつけているし、服装もブラックヴァイパーシリーズだ。故に俺がジンジフレ教の神とは思うはずもないだろう。


 だがここでジンジフレ教の神である、ジンジフレを名乗る訳にもいかない。おそらくジンという名前も、知れ渡っているだろう。


 騒ぎを起こすのも面倒だし、適当に取り(つくろ)うことにした。


「そうか。俺は冒険者として活動をしながら、旅をしているものだ。この城下町があまりに素晴らしいから、お上りになっていたらしい。しばらくは滞在する予定だが、そのうちまた旅に出る予定だ」


 とりあえず、旅をしている冒険者と言っておく。まあ、嘘は言っていない。


「なるほど。冒険者か。俺も昔はお前のような冒険者だったのだが、膝に矢を受けてしまってな……。今ではこの国の衛兵という感じだ。それで、名前とこの国に来た目的、あとその仮面を外してもらっ――!?」


 やっぱりこれでは言い逃れは厳しかったかと思った瞬間、スカムという衛兵が固まる。


 ヘルムでは分かりづらいが、その視線の先にはレフがいた。


 あぁ……。そういえば、レフは普通に石像もあるし、この国では有名過ぎたか。


「えっと。一応俺はジンジフレ教と仲が良くてな。レフ……様がこうして案内してくれていたんだ」

「にゃぁん!」


 レフもそう鳴くと、俺の足に体をこすりつけた。


「!?!? ……うぉおほん。そうか。何も問題は無さそうだな。そうそう旅人よ。これをやろう。俺の故郷のお菓子、シュガーロールだ」

「ど、どうも」

「で、では俺は、この辺りで失礼しよう。何かあれば、人型種族の衛兵代表である、このスカムを頼ってくれ」


 そう言ってスカムは収納系スキルから、シュガーロールという真ん中に穴の開いた、少し山のような形をしたお菓子を俺に手渡すと、一礼をしてから立ち去って行った。


 なんとかなったみたいだな。とりあえず、このお菓子はしまっておこう。とてもカロリーが高そうなお菓子だ。


 俺はシュガーロールをストレージにしまうと、どうしてか先ほどの出来事が面白く、つい笑みを浮かべてしまった。


 なんだか、早く旅を再開したくなったな。まあ、それはそれとして、レフは目立ちすぎる。カードに戻そう。


「にゃ゛!? にゃぁあああ!?」


 そう思い、俺はレフを強制的にカードへと戻した。かなりの猛抗議を受けたが、レフはこの国では有名過ぎる。


 先ほどはレフのおかげでやり過ごすことができたが、逆にレフだと気づかれて面倒なことになりかねないのだ。


 なのでここからは、俺一人で歩こうと思う。


 ちなみにレフのカード化は、人気(ひとけ)のない路地裏で行った。

 

 そうして大通りに戻り、観光気分で俺は歩く。見慣れない食べ物を買い食いしつつ、配下を模した置物なども購入した。


 ただ歩いて適当な店に立ち寄っているだけだが、それだけでも面白い。


 するとそんな大通りで、なにやら人だかりができている。俺は気になって、その場所へと近づいてみた。


「モブメッツさん! これ持って行ってくれよ!」

「ファンです! 握手してください!」

「モブメッツ兄ちゃん! 今度また話しを聞かせてよ!」

「おーいモブメッツ! そろそろ結婚して子供つくれよ!」

「モブメッツ! また飲みに行こうぜ!」


 そんな声が、あちこちから聞こえてきたのである。


 モブメッツ? この国での人気者だろうか? これだけ人気がある人物は、一目見ておきたいな。


 俺はそう思い、声のする中心地へと向かった。


「みんなありがとう。でもオラも忙しいから、また今度な!」

「ん?」


 そう言って周囲に手を振っている人物は、どこにでもいそうな地味な青年である。茶髪茶色目であり、少し高そうな革鎧を身に着けていた。


 また彼もジンジフレ教の信者らしく、シンボルのネックレスをしている。


 強さ的には、Bランク冒険者という雰囲気があった。だがその強さに対して、強者独特のオーラがほとんど感じ取れない。


 何というか、このように声をかけられていなければ、気づくことは難しかっただろう。悪く言えば、モブという感じである。


 故に俺は、このモブメッツという人物が逆に気になった。


 なので近くにいた人に、モブメッツについて(たず)ねてみる。

 

「なあ。俺は旅人でここに来たばかりなのだが、あのモブメッツと呼ばれている人物は誰なんだ?」


 すると俺が声をかけた男は、モブメッツを知らないことに驚きながらも、自慢するように教えてくれた。


「お前、あのモブメッツを知らないのか? この国では、かなりの有名人だぞ! 何といってもモブメッツは、人型種族全体の代表だからな!」

「人型種族全体の代表?」


 俺が思っていた以上に、あのモブメッツという青年は重要人物だったらしい。


「おうよ! この国で人型種族が何かする場合は、モブメッツが先頭に立っているんだ。五年くらい前なんかでは、あの勇者陣営の待機組を解散させるときに、大活躍したんだぜ!」

「ほう。それはすごいな」


 どうやら勇者陣営の待機組を解散させるときに、モブメッツはその最前線で頑張ってくれたみたいだ。


 それとこの男はモブメッツに対して気安い感じだが、そこに(あなど)りなどの感情はない。それだけ口にしやすく、身近な存在なのだろう。


 モブメッツという人物は強者としての覇気(はき)こそないものの、誰からも好かれるような、そんな人物らしい。


 こうした人物も、ある意味必要ということか。単純に強いだけの人材を集めるだけでは、ダメということだろう。


 だとしたらこの国のために、モブメッツ君には今後も頑張ってもらいたいところだ。


 気がつけば俺も、何となくモブメッツ()と心の中で呼んでいた。


 城下町の人々と触れ合う姿を見ていたら、俺も何だか好ましく思えてきたのである。


「教えてくれてありがとうな」

「かまわねえよ! モブメッツは、俺ら人型種族の希望の星だからな!」


 そうして俺は男に礼を言うと、その場から離れるのだった。


 少し見て回っただけだが、俺がいなくてもこの国は大丈夫そうだな。俺が眠っている間に、様々な人材が集まっているみたいだ。


 もしこれで色々と問題があるようだったら、俺もしばらくこの国に残っていただろう。だがこの分なら、問題はなさそうである。


 するとそんな風に一人で歩いているとき、またしても不意に、俺へと声をかけてくる者がいた。


「へへ、そこの旦那。良い商品があるんだ。買わないか?」

「ん?」


 そう言って路地の間から顔を出すのは、一体のゾンビである。見た目は普通のゾンビと大差ないが、唯一の違いはその赤い瞳だろうか。


 というかゾンビって、普通は喋らないよな? (うな)るだけで、ここまで滑舌(かつぜつ)が良いのは珍しい。


 珍しいゾンビというだけで、俺の意識はそこに向いた。モンスターを収集している俺からすれば、それだけで立ち止まる理由になるのである。


「お、ご興味がありますかい? へへ、あっしが売っているのは、この特性ドリンクでさぁ」

「特性ドリンク?」

「そうでさぁ。特性ドリンク! なんと飲めば眠気も吹き飛び、二十四時間働けますぜ! それに精力も増強して、目が赤くギラつくって、評判なんでさぁ!」

「なるほど?」


 なんか、騙そうとしていないか? とても怪しいことこの上ない。その特性ドリンク、本当に飲んでも大丈夫なのだろうか?


 しかし俺がそう思っていると、赤い目のゾンビはその特性ドリンクの商品名を口にする。そして俺は、その商品名を聞いてあることを思い出すことになった。


「そんなスペシャルなこの特性ドリンクの名は、その名も【レッドアイ】! あっしの名をつけさせてもらったんでさぁ! レッドアイ、赤い目を授けるって感じでさぁ!」

「……は? レッドアイ? お前、あのレッドアイなのか?」


 その名前は、忘れるはずもない。このゾンビの正体は、船のダンジョンでダンジョンボスをしていた、あのレッドアイだったのである。


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