378 ジンジフレ大聖堂 ①
ジンジフレ大聖堂に入ると、そこは巨大なホールになっていた。
多くの長椅子が並んでおり、そこで祈りを捧げている者が何人もいる。
またシスター服や神父のような姿をした者もおり、どこか全体が厳粛な雰囲気がしているような気がした。
そして入ってすぐの前方に見える物にも、俺は驚かされる。
あれは……俺の石像だよな? それも、いくつもあるんだが……。
そう。前方奥の中央には、巨大な俺の石像があった。
死竜の鎧シリーズに身を包み、胸の前で両手を組んでいる。またその両手の平を支えにして、床へと伸びる魔神剣ルインダークネスがあった。
おそらく魔神剣は石像の見栄えのために、大きさを調整されていることが分かる。
俺の身長はおよそ165cmほどであり、それに対して本来の魔神剣は約150cmだからだ。
まあこの辺りの事は、別にどうでもいい。問題なのは、俺の姿がそのまま石像にされていることである。完全に身バレ状態だった。
これは、俺が起きた時に城内の者が気がつくわけだ。石像の顔の再現度が、高すぎる。
仮面をつけて服装もブラックヴァイパーシリーズでなければ、色んな意味で危なかったかもしれない。
現状ジンジフレ教は、国教となっているようだからな。一応その神である俺が、素顔で出歩くのはよくはないだろう。少々面倒なことになったかもしれない。
また石像はその一体だけではなく、少しサイズは小さいが他にもあった。
まずカオスアーマーの姿に加えて、ジンクやジンアレクの石像があり、ここまでは問題ない。実際この大陸で、その姿を見せているからだ。
しかしどういう訳か、この中にジフレの石像もあった。当然のように、メイド服を着た猫耳美少女である。
本当に、意味が分からない。どうしてジフレの石像まであるのだろうか? これは配下の誰かが、製作を手伝った可能性がある。そう思わずにはいられない。
それと俺の石像から少し離れた左右の壁際には、配下の石像もあった。配下たちの石像は、元の大きさを考慮して多少の差はあるが、なるべく同じくらいに調整されている。
レフやアンク、リーフェやゲヘナデモクレスの石像。他にもホブンにルルリアなど、ネームドたちの石像がそこにはあった。
ちなみにルルリアは元の大きさが大きさなので、他よりも石像が大きいようだ。また配下たちの石像の中では、なぜか一番人気がある。
今も多くの信者たちが、ルルリアの石像の前に集まっていた。
ふむ。ルルリアが人気なのは、人外だが美女だからだろうか?
そう思ったのだが、聞いた話ではどうやら違うらしい。ルルリアが人気なのは、その歌声を聞いて信者になった者がこのダンジョンでは多かったからとのこと。
けれどもそれは元からいた者たちだけであり、後からなった者は違うかもしれない。
理由はこの大聖堂の中に、なぜか普通にお土産コーナーの部屋があるからだ。そこではなんと、ルルリアの聖布という商品が売られていたのである。
完全にそれは、ルルリアの乳当てに他ならない。女性で買う人もいたが、圧倒的に男性の購入者が多いのである。
ちなみにお土産コーナーには、デフォルメされたレフやアロマ、アンクのぬいぐるみがあり、子供たちに人気のようだ。
また魔神剣やゲヘナデモクレス、グインのストラップなどもあり、それは十代の少年などに人気があるみたいである。
ほかにも様々な配下や、俺にちなんだ商品が置かれていた。
なんとなくこれは、ヴラシュが案を出した感じがする。たぶんジンジフレ教を広めるのであれば、こうした商売もプラスに働くのだろう。
だが一つ気になるのは、そのお土産の中にジフレの絵や、ジフレのフィギュアが普通に売られていることである。
しかもその中には、過去の黒歴史であるあのポーズがされている商品も存在していた。
『心が読めるにゃん♡』としっかりタイトルの札も置かれている。絶対にこれは、確信犯だろう。
確かアレは、心が読めることを信じてもらうために、そこにいた兵士の言葉が切っ掛けだったはずだ。
”両手を猫のように握り、片足を後ろにあげて、『心が読めるにゃん♡』ってウィンクしながら言ったら信じます!!”
そう言われたのである。
とても恥ずかしかったが、当時は時間もあまりなく信じてもらえるならと、仕方なく行ったのだ。
だが当時は仕方がなかったとしても、目の前のこれは、正に公開処刑と言っても過言ではない。
本当に、本当にどうしてジフレのことが知られているのだろうか。レフが広めたのかとレフを見つめるが、当のレフはやっていないらしい。
するとその犯人を、アルハイドより教えてもらえた。
どうやら国境門からやってきた、ケモノスキー一派という集団が広めたらしい。
オブール王国にいるケモノスキーという人物が興した派閥であり、ジフレの存在を世に広めることを使命としている、ケモナー絵師集団とのこと。
またジンジフレとジフレが同一存在だと認めており、ジンジフレ教の布教にも協力しているみたいだ。
彼らの中にもサーヴァントカードを獲得した者がおり、それが決め手らしい。ジフレを信仰していても俺であることには変わりはないので、信仰スキルが目覚めたようだ。
しかしそんなケモノスキー一派だが、どうやらジンジフレの本来の姿こそがジフレだとする過激派でもあるらしく、対立関係でもあるみたいである。
現状は数が少ないのでおとなしいが、隙あれば大聖堂の一番大きな石像をジフレにする野望があるらしい。本当にやめてくれ。
というかこの五年の間に、オブール王国からこの大陸にやってきた者たちがいたことに驚きだ。
それに『心が読めるにゃん♡』を知っているということは、あの兵士も関係していそうな気がする。
いつかまたオブール王国に行くことがあれば、このケモノスキー一派という派閥を調べようと思う。ヤバイ集団だったら、介入することも辞さない。
ちなみにカオスアーマーの姿も、ジオスという名称があった。こちらもエルフの大陸から情報が流れたのだろう。
元々この大陸にはエルフの大陸から渡ってきたので、おそらく同じように渡ってきた者がいたのだろう。
ケモノスキー一派ほどではないらしいが、ジオスこそが真の姿だと考えている者たちもいるらしい。
ジオスの姿はカオスアーマーなので明らかに鎧なのだが、そこはゲヘナデモクレスという存在がいるので、鎧が真の姿でもおかしくはないと考えているみたいだ。
あとはジンジフレであるジオスには、ユグドラシルという妻がいると喧伝しているらしい。
なので当初はユグドラシルの石像も作ろうとしたらしいが、様々な妨害があり断念したようだ。
こちらも隙あらば、ユグドラシルの石像を作ろうとしているとのこと。
なぜ俺とユグドラシルが夫婦関係にあるのかは謎だが、エルフの大陸であの後何かがあったのかもしれない。
もしかしたらその方が、ユグドラシルが大陸を支配する上で便利だったという可能性もある。
これについても、いつかエルフの大陸に再び行く機会があれば確認してみよう。
そもそも俺が信者千人を突破した時も、エルフの大陸から信者の気配を多く感じたんだよな。どうしてそうなったのか、実際に確認しに行きたい。
それでもしユグドラシルが俺のことを使って悪さをしているようなら、少々お灸を据える必要があるだろう。
ちなみにそんな二つとは違い、ジンクやジンアレクは少年たちからの人気が高く、通常状態の俺は全体的に女性人気が高いらしい。
また一応ジフレは十代後半~四十代までの男性から圧倒的な支持があり、一部の女児たちからも受けている。そしてジオスは年代関係なく、男性からの人気があるようだ。
なので男性票が分散していることもあり、結果的に通常状態の俺が一番人気があるとのこと。
加えてそれが本来の姿だとされていることで、他の一般票も集まっていることが大きい。
俺としてもこの姿がジフレに負けていたら、複雑な気分になっていたことだろう。なので通常状態が一番人気で、正直ホッとしている。
それとまだ案内はされていないが、大聖堂の横には映画館のような場所があり、ゲヘナデモクレスが創り出した映像を毎日放映しているらしい。
またその中でジフレ編はケモノスキー一派監修のもとに製作されており、大きなお友達と女児たちからとても人気のある作品に仕上がっているみたいだ。
ゲヘナデモクレスは、そんなこともできたんだな……。それにここまでジフレのことが広がっていると、もはや存在を無かった事にはできないだろう……。
すると近くから、こんな幼い少女の声が聞こえてくる。
「心が読めるにゃん♡」
見ればジフレのコスプレをした女児が、ジフレの等身大パネルの前で『心が読めるにゃん♡』の決めポーズをしていた。
ジフレの存在と『心が読めるにゃん♡』は、もはや切っても切れない関係のようだ。
先ほどのアルハイド以上に、俺の顔が仮面の下で真っ赤になっている気がする。
これはもう、気にしないことにしよう。俺の精神状態を安定させるためにも、その方がいい。
そうして俺は『心が読めるにゃん♡』に対して目を逸らしながら、アルハイドに引き続き大聖堂の中を案内してもらうのだった。
なおケモノスキー一派の元凶については、第七章の一番下にあるSS、『心が読めるにゃん♡』に記載されています。
ちなみにこの大陸に来たのは、ケモノスキーの弟子という感じですね。弟子たちは国境門を越えて様々な場所でジフレのことを布教しています。
そこで弟子が弟子を作り、更に分散して広がっていく感じですね。まさに凶悪なウイルスのような集団なのです。(笑)
あと国境門を渡る方法は、Bランク以上の冒険者証以外にも、様々な方法があります。
詳しいことは、もしかしたらいつか語るかもしれません。