377 ユメリカとアルハイド
※前回の大雑把な説明
(読み辛かったかもしれないので)
1.勇者陣営の待機組は、勇者の敗北を城のダンジョン側から知らされた上で、来るか帰るか戦うかの選択を迫られ、大半が国に帰って解散した。
2.ダンジョン側で暮らすことを選んだ者の中で、悪者は新しいダンジョン運営の実験台になって消えた。一石二鳥!
3.ユメリカは魔王の嘘を見抜けなかったことで、勇者が魔王に負けた理由の原因にされて、奉公先の貴族の息子から追放される。
4.結果様々な悪意に晒され、非戦闘員の悪漢たちに暗がりで乱暴されそうになる。だがそこへアルハイドが派遣していたレイスが現れて、見事悪漢たちを倒してユメリカを助けたのだった。
5.そしてどこにも行き場が無かったユメリカは、城のダンジョンに来ることを決める。そこでアルハイドの計らいによってメイドになり、助けてくれたレイスと共に幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
ユメリカ視点では、ここまで来るまで大変な道のりだったのは間違いない。
だからこそ直接助けてくれたレイスとは、これほどまでに仲が良いのだろう。
来た当初は、人間不信だったとしてもおかしくはない。だが今は見た感じ大丈夫そうなので、問題は無さそうだ。
レイスもユメリカの隣が定位置なのか、いつの間にか移動している。
それを見た俺は、あることを決めた。実際レイスにも繋がりから問いかけてみると、それに喜んでいる。
なので俺は、一度レイスをカードへと戻した。それにユメリカは驚くが、俺は構わずそのままユメリカへとカードを差し出した。
「レイスも君の元へ行くことを望んでいる。故に、このレイスを君にあげよう」
俺は一応神となっているので、神秘性を意識しつつ、若干普段とは口調を変えてそのように口にする。
「えっ? えぇ!? も、もしかして貴方様は!?」
どうやらレイスをカードにしたことで、俺の正体に気がついたらしい。アルハイドと対面した時以上に、驚いていた。
するとそれを見ていたアルハイドが、驚いているユメリカに対して口を出す。
「ユメリカさん、これについて他言は無用だ。それとこの方からカードを授けられることは、光栄な事なのだよ。是非受け取りなさい」
「ふぇ!? は、はいぃ。あ、ありがたきしあわしぇでふ!」
ユメリカは緊張のあまり言葉を噛み噛みだったが、俺から無事にレイスのカードを受け取る。
だが、その時だった。
「ん?」
「ふぇ?」
ユメリカに渡したカードが光り輝き、その姿を変える。いつものカードの裏面は魔法陣のような模様だが、紫黒の渦巻のような模様に変化していたのだ。加えて、レイス自体にも変化が起きていた。
そんな驚いているユメリカに渡したレイスのカードを、俺はこっそり鑑定してみる。
種族:ラブリーレイス(レイちゃん)
種族特性
【生命探知】【闇癒属性適性】
【ヒール】【キュア】【隠密】
【ドレインタッチ】【ラブリータッチ】
【物理無効】【物理干渉】
【魅力上昇(中)】【魔法弱体(中)】
おおっ。よく分からないが、おそらく希少な種族へと進化を遂げたのは間違いない。少々惜しくも感じてしまうが、これは諦めるしかないな。
すると自動的になのか、ユメリカの受け取ったカードから、さっそくラブリーレイスとなったレイス、レイちゃんが召喚された。
「――!」
現れたのは、ピンク色のレイスである。形は進化前とほぼ変わらないが、何となくデフォルメ感が強くなっていた。ゆるキャラに近いかもしれない。
「レ、レイちゃんなのですか! か、かわいいです!」
「――♡」
レイス、いや今はレイちゃんか。渡した瞬間から、名づけが為されるくらいには、その名前が魂に刻み込まれていたのだろう。
そんなレイちゃんは、ユメリカの周りを嬉しそうに飛んでいた。
それに物理干渉を覚えたことで、ユメリカと触れ合えるようになったみたいである。
ユメリカはサッカーボールほどのレイちゃんを抱えると、嬉しそうに笑みを浮かべた。前髪で隠れていた青い瞳からは、嬉し涙さえ僅かに零れている。
何年も一緒だったと思えば、それだけ嬉しいのは当然か。進化したことで薄かった存在感も増したし、これからはユメリカと共にレイちゃんは成長していくことだろう。
そうして、俺がその光景を見て満足している時だった。隣にいたアルハイドが、不意に声を上げる。
「す、すばらしいぃ!」
「え?」
「ふぇ?」
唐突な出来事に、俺とユメリカは思わず戸惑う。だがそれを意に介さず、アルハイドは言葉を続けた。
「これまでは赤い煙のせいだったとはいえ、器であった僕は極力関わらないようにしてた。またそれ以外にも、様々な問題もあったのも事実だ。
けどそんなのは、もうどうでもいいくらいの奇跡が目の前で起きてしまった。これは本当に、素晴らしいことだよ」
そう言うと、アルハイドはユメリカの目の前に移動する。そしてユメリカの顔を見つめると、こう切り出した。
「だからユメリカさん、僕の娘になってくれないかい?」
「ふぇ? ふぇええええ!?」
まるで愛の告白のように、アルハイドはユメリカが自身の娘になることを望んだ。
対するユメリカは、驚きで声を上げてしまう。加えてその熱い想いを受けたからか、若干顔を赤くしている。
またはたから見れば、それは物語のワンシーンのような光景だった。
アルハイドは金髪碧眼のイケメンであり、あれから五年経っているのにもかかわらず、見た目は若いままである。おそらく復活の際に、人族ではなくなったのだろう。
なので十代後半、たぶん十七歳か十八歳くらいのユメリカとは、年齢が近く見える。
すると突然俺の脳内に、こんな風なタイトルが思い浮かんでくる。
【勇者敗北の罪を押し付けられて追放されたけど、元王子のイケメン教皇に娘になってほしいと迫られた件について!】
なんだかここから、新しい物語が始まりそうだな。
そんなことを考えていると、二人の会話が進んでいく。
「ごめん。急だったよね。い、嫌だったかな?」
「……い、いぇ。い、嫌じゃ、ないですぅ」
「本当かい? すごく嬉しいよ」
「ひぅ」
そう言ってアルハイドは、レイちゃんを抱いているユメリカの右手を手に取って、微笑んだ。実にイケメンである。
またそんな二人を下から見ているレイちゃんは、絵文字みたいな表情がどこかニヤニヤした感じに変わっていた。
ラブリーレイスという種族名だからか、こうした空間が好きなのかもしれない。
そしてそんな空間を、一歩引いたところで俺は眺めていた。
いったい俺は、何を見させられているのだろうか? とりあえず、落ち着くまで待っていよう。
そうして見つめ合う二人の甘い? 空間は、少しして解除されるのだった。
◆
「――という感じで、ジン君の授けたカードがサーヴァントカードに変化したことは、凄い事なんだよ」
「なるほど」
あれから後日正式な手続きをすることが決まったあと、ユメリカとはその場で別れることになった。
また現在俺はアルハイドの城内案内を終えた後であり、今は城下町を案内してもらっているところだ。
その道中で、先ほどの事を聞いていたのである。
どうやらユメリカに渡した途端に変化したあのカードは、サーヴァントカードだったらしい。裏面の模様が、それを示しているようだ。
一応ユメリカはジンジフレ教の信者らしいが、サーヴァントカードを授かるほどではなかったらしい。
だが俺がレイちゃんを譲ったアクションを起こしたことで、ユメリカの信仰度が急上昇したのか、その条件を満たした可能性があるようだ。
その結果として、授けたカードがサーヴァントカードに変化するという、そんな奇跡が起きたのかもしれないらしい。
加えてアルハイドがあそこまで驚いたのにも、理由があったとのこと。
それはまずあの奇跡的な光景を目の当たりにしたということもあるが、何よりレイちゃんが進化したことにあるようだ。
どうやらサーヴァントカードのモンスターは、進化することが無いらしい。
これはまだ確定しているかは不明な事だが、この五年間進化したサーヴァントカードは皆無だという。
だがその常識が目の前で覆されたことは、教皇であるアルハイドにとって青天の霹靂だったようだ。
あまりの興奮に、ユメリカへ対する様々な悩みが吹き飛び、この五年の間迷っていた養子にすることを切り出せたという。
アルハイドとしても、色々と葛藤があったようだ。下手に思考が回るだけに、考え過ぎていたのかもしれない。
また先ほどの事を、アルハイドは後々思い出して道中赤面していた。ある意味黒歴史になったのかもしれない。状況的には、物語の一ページだったけどな。
そんな状況だったが、城下町の案内は着々と進んでいる。
以前見たときとは違い、本当の意味で活気があった。人型種族も多く店を開いていたり、買い物などを楽しんでいる子供連れもいる。
加えてアンデッドは、衛兵のように城下町の中を見回りしている感じだ。
見回っているアンデッドはスケルトンナイトであるが、誰も気にしてはいない。既に日常の風景なのだろう。
他にも店番や用心棒、単純労働などで、アンデッドは重宝されているみたいだ。
それ以外にも、様々な場面でアンデッドは活躍しているという。
俺が想像していた以上に、人型種族とアンデッドたちは共存しているらしい。
ちなみに衛兵やそうした仕事はアンデッドだけではなく、人型種族も混じっていたりする。良い感じに、組み合わさっているようだ。
そうして城下町の案内も、いよいよ大詰めとなる。俺とアルハイドが最後にやって来たのは、巨大な神殿のような建築物だ。
そうここは、ジンジフレ教の総本山、ジンジフレ大聖堂だった。
Q.なぜレイスは、ラブリーレイスになったのですか?
A.ユメリカと読者方から、とても愛されていたからです。
なおラブリータッチの抵抗に失敗すると、魅了状態でレイちゃんのことを好きでたまらなくなるぞ!
◆
おまけ
【勇者敗北の罪を押し付けられて追放されたけど、元王子のイケメン教皇に娘になってほしいと迫られた件について!】
ユメリカを主人公とした作品。メイドとして働きながらも、相棒のラブリーレイスのレイちゃんと共に城のダンジョンで起きる様々な事件を、嘘を見抜けるスキルを使って解決していく。その中で、多くの出会いを果たしていく物語。
メインのスパダリ(スーパーダーリンの略)は、元王子で教皇のアルハイドであり、その娘になったユメリカは、一緒に暮らすことになる。
色々と隙の多いアルハイドに、ドキドキさせられる日々。当初はユメリカを娘のように扱っていたアルハイドも、次第に……?
他にも野生系無垢のギルンや、たまに遭遇する神秘系少年神、ジンジフレも登場する。
更にメイド長のシャーリーや色々と助けてくれる年上メイドのルイーザ。そしてアルハイドとの関係をなぜか進展させようとする、ルミナリア女王様。
他にも人型種族全体の代表で、ぱっと見モブだが重要キャラのモブメッツや、なぜか会うたびにシュガーロールというお菓子をくれる人型種族の衛兵代表のスカム。
そしてジンジフレ教で司教をしている、若きイケメンのクリントン。ジンジフレ教周辺の出来事で、何かとユメリカのことを助けてくれる。
(サブスパダリの一人)
また国境門を通じて現れた他国の王族に、なぜか気に入られてしまうユメリカ。遊びに行ったその国でも、事件に巻き込まれてしまう。
そのとき助けてくれたのは、まさかのジンジフレであり……?
そうしたこともありながら、ユメリカの暮らす城のダンジョンに、他国の侵略や恋のライバルの出現など、他にも様々な事が起きたり起きなかったりするのだった。
果たしてユメリカの行く末は、いったいどうなってしまうのだろうか。
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なんか想像以上にスピンオフ書けそうなレベルで、しっかり設定が出来てしまいました。(笑)
実際に書く予定は現在ありませんが、設定だけでも書いていて楽しかったです。
ちなみにこれは単なる妄想なので、本編でこの設定が今後関係するかどうかは、現状分かりません。