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373 ヴラシュについて


 やはり、無理だったか……。


 その雰囲気に、俺はついそう思ってしまう。


「ジン君。ヴラシュ君だけどね……」


 すると、女王がそう含みを持たせて言った後だった。女王が唐突に指を鳴らすと、俺の目の前に一匹のモンスターが姿を現す。


「お前は……クモドクロ?」


 そう。現れたのは眠る直前に召喚していた、クモドクロである。女王の合図に合わせてこの場に転移してきたのだ。


 しかしなぜここで、クモドクロなのだろうか? だが俺がそう思うのと同時に、その答えがクモドクロ自身から念話(・・)で伝えられる。


『ジン君。久しぶり。僕だよ。ヴラシュだよ。色々あって、クモドクロの体に移ったんだ』

「なっ!? お前、ヴラシュなのか!?」


 なんと驚くことに、クモドクロの中にヴラシュがいるという。確かダンジョンコアと融合したはずだが、この五年の間に移動することができたようである。


『うん。ルミナリア女王様とクモドクロのおかげで、僕はこうして復活することができたんだよ』

「そうか。それは良かった。どのような形であれ、ヴラシュが生きていてくれて嬉しく思う。

 それで、どんな経緯でクモドクロの中に移動したんだ?」


 俺はそのことが気になり、問いかけてみた。するとその結果として、以下のことを教えてくれた。


 まずヴラシュの精神はかなり希薄(きはく)になっており、当初は自我のようなものがほとんど無かったらしい。


 しかしそれを女王が時間をかけて集め、修復していったみたいだ。


 また女王はヴラシュの神授スキルを受け継いでおり、それもいい影響をもたらしたらしい。


 更には大陸の王という称号も女王にあったことで、それがヴラシュの復活にかなり助けになったようだ。


 そうしてヴラシュの魂を、何とかかき集める事に成功したらしい。


 あとはアルハイドの協力も得て、魂を別の器に移すことが可能になったようだ。


 だがそんなヴラシュの魂に適合する器が、中々見つからなかったらしい。転移者であり、融合という状況を経たヴラシュの魂は、かなり複雑な形だったようだ。


 下手な器に入れてしまうと、魂や器が損傷したり、最悪どちらも失われてしまう可能性があったようである。


 ならばアルハイドの時のように、幻属性の極意で器を用意すればいいのではと思われた。


 しかし幻属性の極意で器を作るには長い時間が必要であり、またアルハイドは自身の肉体だったからこそ、ここまでの完成度を実現したのである。


 またヴラシュの魂を集めたとはいえ、時間が経てばその魂が自然消失する可能性もあった。


 なのでそのときはかなり(あせ)っていたみたいだが、そんな二人の元にクモドクロが現れたらしい。


 クモドクロはこの時点で僅かに個が芽生えていたらしいが、(みずか)らヴラシュの器になることを申し入れたようだ。


 クモドクロ自身、何かを感じ取っていたのかもしれない。自分なら適合率が高いことを、本能的に理解していたのだろう。


 そのことに女王たちは驚いたみたいだが、実際クモドクロの器としての適合率は非常に高かったらしい。


 これはクモドクロが、ヴラシュによって作られたことが大きく関係していた。


 更に同じヴラシュ作のガシャドクロと違い、クモドクロはヴラシュの最高傑作でもある。


 クモドクロとガシャドクロでは、適合率に大きな差があった。


 そしてクモドクロの適合率なら、ヴラシュを移動させることは可能だと判断されたのである。


 結果としてクモドクロの想いを汲み取り、ヴラシュの魂の移動が実施された。


 そうして無事に事は済み、こうしてヴラシュはクモドクロの肉体に魂を移したのである。


 ちなみにクモドクロの魂とは、お互いの合意の上で融合を果たし、ヴラシュ主体の状態になったようだ。


 これは、アンクとヤミカの状態に近いかもしれない。クモドクロの魂は完全に消えたわけではなく、ヴラシュの中で生きていることだろう。


 またヴラシュの魂が融合から分離したが、女王からヴラシュの神授スキルは消えなかったらしい。


 これは完全に神授スキルが、女王へと移動が済んでいたからだろうか? 確か神授スキルは一度だけ移動が可能だと、金目と銀目が言っていたはずである。それが関係しているのかもしれない。


 またこれはこれで、重要な発見だった。つまりアンクの中にいるヤミカの魂をどうにか分離しても、アンクの中に神授スキルが残る可能性が高いということだ。


 いつか解放する的な事を言ったはずなので、約束が守れそうで良かった。


 そういうわけでヴラシュは、クモドクロと一つになることで復活をしたのである。


 ちなみにクモドクロがヴラシュと一つになっても、俺の配下であることには変わりないようだ。また神授スキルであるカード召喚術に干渉できたのは、同じ神授スキルである不死者の友達があったかららしい。


 真の効果が手に入っても、神授スキルとしての格は変わらないようだ。やはり神授スキルには、神授スキルで対抗できることが重要なのだろう。


 あとはヴラシュに譲渡したカードだが、こちらも女王に権利が移動したみたいである。一度ダンジョンコアに融合したときに、そちらも同様に移動したみたいだ。


 女王は無断で俺の配下であるクモドクロを使用したことを謝っていたが、別に構わない。


 状況が状況であるし、クモドクロ自身が納得していたのであれば、問題なかった。


 逆にヴラシュとはもう二度と会えないと思っていたので、嬉しいくらいだ。


 何だかんだで友人と呼べる転移者は、現状ヴラシュしかいないからな。


 こうして俺は目覚めてから、仲間たちとの再会を無事に終えるのであった。


 ◆


 そしてまさかのヴラシュの復活に驚いたあと、俺の眠っている間の様々な事についても話を聞く。


 どうやら女王が大陸の王になったことで、多くの問題に対処する必要が出てきたらしい。


 まず数年かけて小型の国境門を消し去り、国境門の場所の移動などをしたようだ。これらは大陸の王効果で、できるとのこと。


 また国境門と繋がった他国とは、極力穏便に事を済ませるようにしたようだ。


 しかしそれでも侵攻してくる場合には、ゲヘナデモクレスたちに協力してもらいつつ、対処したらしい。


 幸いゲヘナデモクレスに勝てる者は、現れなかったようだ。稀に転移者も現れたが、何かする前に瞬殺したらしい。


 ちなみにゲヘナデモクレスはこのとき転移者から神授スキルを奪おうと試みたらしいが、以前試した方法だと不可能だったみたいだ。


 これはアンクも同じであり、称号の魂を喰らう者の効果に、『この一度に限り、喰らった主の神授スキルを得る』とあるので、まあ仕方がないだろう。


 そういった情報も、共有されたようだ。ここにいないゲヘナデモクレスが、当時悪態を吐きつつも教えてくれたらしい。


 仮に同じ方法で神授スキルを奪えるのだとしたら、バランス崩壊もいいところだ。五年間眠っていた俺からすれば、逆に安心した。


 もし可能であったならば、神授スキルを大量に手に入れた転移者もいたかもしれない。


 それで話を戻すが、女王は他にも友好的なところとは交流などもしつつ、城のダンジョン自体を調整して、侵入者の定義を変更することで人が住めるようにもしたようだ。


 今では城下町に、多くの人型種族が暮らしているらしい。人口も、外からの流入で増えたりもしたようだ。


 他にもこの大陸の空や地面の色も、普通の空色や茶色などに戻ったらしい。草花も生え、生命が誕生しているようだ。雨も一時期大量に降り、川も出来上がっているらしい。


 モンスターもアンデッド系が減少して、スライムやゴブリンといったモンスターも自然発生するようになったとのこと。


 加えて大陸のダンジョンは一度赤い煙によって、城のダンジョン以外全て消失したが、新たなダンジョンが次々に誕生しているらしい。


 そのうちの有用なダンジョンの周辺には村も出来上がり、大陸全体が少しずつ正常な状態へと変化していっているようだ。


 赤い煙によって(いびつ)になった大陸は、僅か五年で大きく改善されたようだった。


 しかしそれでもまだまだ不足していることが多く、女王たちは日々奔走(ほんそう)しているらしい。


 なのでこの大陸が完全に復活するまでは、まだまだ時間がかかるだろう。


 そうしたことを教えてくれた女王は、忙しそうには言いつつも、どこか活き活きとしていた。アンデッドなのに、良い意味でおかしな話である。聞いている俺もそれに感化されたのか、何だか嬉しくなってきた。

 

 俺が眠っている五年の間に、この大陸は良い方向へと進み続けていたようである。色々あったみたいだが、おおむね平和そうで何よりだ。


 もし仮にこれが物語であれば、まさにハッピーエンドだっただろう。


 赤い煙との戦いが無事に終わって、本当によかった。この結果を聞けただけでも、頑張った甲斐(かい)があったというものである。


 そして大陸の現状をある程度聞くと、俺はいよいよ旅に出たグインについて、教えてもらうのだった。


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