371 私のバブちゃん
それから一度女王たちとは解散になり、俺と配下たちが部屋に残される。
なお一度解散した理由は今いなかった者たちを呼び出し、改めて別の場所で再会するためだ。
なのでその間、俺は少し時間ができたのである。
あと当初レフが破壊したドアは、女王がダンジョンの力で修復させていた。簡単な事なら、ダンジョンコアに触れていなくても可能なようである。
そういう訳で時間ができた俺は、まず寝間着から着替えることにした。ちなみに着替えたのは死竜の鎧シリーズではなく、懐かしのブラックヴァイパーシリーズである。
何だかんだで性能こそ高くは無いが、これが一番着やすい。戦いも終わったことだし、一先ずはこれで十分だろう。
また解散前にシャーリーから食事について問いかけられ、空腹感があったので普通にもらうことにした。
眠っている間も簡単な物を食べていたらしいので、おそらく食べても問題はないだろう。
そうしてその後シャーリーが食事を持ってくると、何故か配膳用のワゴンをベッドの横に持っていき、シャーリーもベッドに腰かける。
「……あっ、申し訳ございません、つい、いつもの癖で……」
「そ、そうか」
たぶん眠っている俺の上半身を起こして、食べさせてくれていたのだろう。スプーンを口に運べば、本能的に口を動かしたのかもしれない。
俺はそう自己完結をしたのだが、そこへまたしてもゲヘナデモクレスが爆弾を投下する。
「主よ! 我は見ていたぞ! そやつは主を赤子のように片腕で抱きかかえると、『私のバブちゃん、ごはんでちゅよ~』と言いながら主に食事を与えていたのだ!
更に一年後には衣服を脱ぐ術を身に着けたのか、己の乳房をさらけ出し、『私のバブちゃん、お乳のじかんでちゅよ~』と言って主に乳を吸わせていたのだぞ!!
加えて哺乳瓶を自身の乳房に透過させて重ねつつ、吸わせる乳房は実体化させる複合高等テクニックを編み出した、ハレンチメイドなのだ!」
「は?」
「――ッ!! そ、そんな! あの時は確かに誰もいなかったはず!! 女王様にも気づかれないように、念入りに準備したはずです!!」
流石の俺も、これにはドン引きだった。これまでの真面目なシャーリーへの印象が、崩壊していく。
またシャーリーは半透明のレイス系だが、おそらく物理干渉のスキルで俺に触れる事ができたのだろう。
またこの数年間で、着ているメイド服を脱ぐ技術を手にしたみたいだ。もしかしたら、服装も変えられるのかもしれない。
一応シャーリーは、金髪碧眼をした美しい女性である。胸も大きく、スタイルが良い。モンスターになる前は、結構モテていたことだろう。
しかしだとしても、それとこれとは別である。だが、ここでシャーリーとの関係がこじれるのも問題があるだろう。
そう考えて俺は、この数年間世話をしてくれたことと相殺する形で、許すことにした。
ちなみに何故そんな事をしたのか訊いてみると、アンデッドになる前は自分の子供が欲しかったとのこと。
それで俺の世話をしているうちに、母性のようなものが目覚めてきたらしい。情欲からの行いでは無かったようなので、一応は安心した。
たぶんこれについて、嘘は言っていないだろう。表層から心を読むことはできるが、それは止めておく。ここは、シャーリーを信じることにした。
「ほ、本当に申し訳ございませんでした」
そうしてシャーリーは俺に謝ると、部屋を出ていくのだった。
「ふんっ、我も成長したものだ。昔なら、八つ裂きにしていたところである」
「そうか、シャーリーが八つ裂きにされなくてよかった。それと、教えてくれてありがとな」
「う、うむ! これくらい我にかかれば、楽勝なものよ! ふははははっ!」
ゲヘナデモクレスは、嬉しそうに声を上げる。だがここで、リーフェが無自覚にもこう呟いた。
「でもゲヘちゃんって、我慢のし過ぎで逆に新しい扉を開いちゃったって、女王様が言ってたよ~」
「新しい扉?」
「うん。何だっけ~? ああ、思い出した~。たしか、寝取られって言ってた~」
「なあっ!? こ、この羽虫! な、何を言うか! わ、我がそんな性癖に目覚めるはずがなかろう!! あ、主も勘違いするではない!
む、むむ! わ、我は急用を思い出した! こ、これで失礼する! さらばだ!」
そう言って慌てたようにして、ゲヘナデモクレスが去っていく。
ね、寝取られ? 何を言っているんだ? 何だか、また頭が痛くなってきたんだが……。
「きゅい!」
俺がその言葉に頭を抱えていると、アロマがスキルで癒してくれた。なんとなく、少しはよくなった気がする。
どうやらシャーリーやゲヘナデモクレスは、この五年の間に俺の知らない成長を遂げてしまったようだ。
これはもしかして他の面々や配下たちも、そうなのだろうか? なんだか、今から不安になってきたな……。
そうして俺はシャーリーが持ってきてくれた食事を摂りながら、この先のことに頭を悩ませるのであった。
◆
食事を終えてもまだ呼ばれる様子はなく、俺は暇を持て余す。
ちなみにリーフェたちは、俺が取り出したトーンシロップを久々に味わっていた。
俺が眠っていたので、必然的に食べることができなかったこともあり、その美味しさに感動している。
ただベタベタになっていたので、生活魔法できれいにしておいた。
またトーンシロップを出したことで、トーンたちのことも思い出す。
この五年間俺と共に眠っていた配下たちも、ある程度落ち着いたら召喚しようと思う。
今は状況を把握する方が、重要だ。この後女王に呼ばれる予定だし、その方がいいだろう。
すると召喚していないカード状態の配下を意識したからか、ふと俺の中に全く知らないカードたちがあることに気がつく。
ん? このカードたちは、いったいなんだ?
俺のカード化したカードとは、また別の枠で分けられているような感覚がある。枚数も数百枚ほどあり、内容も多種多様だ。
ただランク自体は低く、ほとんどがFランクモンスターである。中にはEランクとDランクもあるが、ランクが高いほどにその枚数は少ない。
う~む。カード化した記憶は無いし、流石に数百枚も増やせば、身に覚えが無いというのはおかしい。
だとすれば俺が眠っている間に、このカードたちは増えたということになる。
そう考えながらそのうちの一枚を、実体化させてみた。
実体化させたカードは、Eランクのゴブリンである。
これは……。
そしてそのカードを見て、俺は思わず驚くのだった。その内容は、以下の通りである。
種族:ゴブリン(ゴブラン)
種族特性
【悪食】【病気耐性(小)】【他種族交配】
スキル★
【投擲】【腕力上昇(小)】【警戒】
【身軽】【逃げ足】
なんとカードに名付けがされており、スキルも器の上限まで所持していた。
これは明らかに、人の手が加わっている。それに意識をしてみると、カードに俺以外の者の繋がりのような痕跡が感じられた。
おそらくこれは以前にカード化して譲渡したグリフォンと、似たようなものだろう。
つまりこの痕跡は、このカードの以前の持ち主のものとなる。
であれば他の数百枚も、同じだと考えてもいいかもしれない。同じ枠で意識出来ることから、入手経路も似たようなものだろう。
するとそう考えたとき、俺はある一つの効果をふと思い出した。
いや待てよ。確か称号の神域の存在+に、【信仰スキル『サーヴァントカード』付与】という効果があったはずだ。
確かこれは、その前の神聖なる存在のときから存在していたはずである。その効果についても、以前に一度見ていた。
俺はそれを思い出し、サーヴァントカードの効果を確認してみる。称号内の効果だが、これについては以前と同様に、例外的に確認できた。
名称:サーヴァントカード
効果
・育成可能なサーヴァントを一体、カードから自由に召喚することができる。
・召喚されるサーヴァントは、その者の資質や性格などに影響される。
・サーヴァントが死亡した場合、そのサーヴァントの力量に見合った『時間』『魔力』『寿命』を捧げることで蘇生することができる。
・信仰度に応じて、スキルの効果は上昇する。
・このスキル所有者が死亡した時、サーヴァントは召喚と混沌の神ジンジフレに捧げられる。
やはり、この信仰スキルが原因だったみたいだ。それと以前は主神ジンジフレだった部分が、召喚と混沌の神ジンジフレに変わっている。とても気になるが、今は気にしないでおこう。
それよりも持ち主が死亡したことで、このカードは俺の元へとやってきたのだと思われる。
俺にこの信仰スキルを信者に付与した記憶は無いが、何らかの条件を満たすと自動的に付与されるのかもしれない。
この信仰スキルの所持者はどう考えても俺の信者みたいだし、俺への信仰度などが関係しているのだろうか?
詳しいことはまだ分からないが、今後は育てられたカードなどが継続的に、俺の元へと送られてくることになりそうだ。
信者数が増えて年月が過ぎれば、ものすごい枚数になりそうである。
それだけで恐ろしい軍隊が出来上がりそうだが、これは俺の軍団とは別枠で考えようと思う。
やはり自分で集めて育てた軍団で、最強を目指したい。何よりこれをアリにしたら、それだけで楽しみが減ってしまうような気がした。
もちろん必要な時には使用するが、現状では突然降って湧いた戦力に対して、扱いに困っているというのが正直なところである。
ただ放置するだけではもったいない気もするので、今後何か有効な活用方法も考えていきたいところだ。
幸いいくら増えても、既存のカード枠が圧迫されるような感じはしない。これまで使っていたカード枠が魔力総量だとすれば、新しい方は神力総量という感じがする。
しかも魔力1と神力1では、そこに込められた力では圧倒的に後者の方が大きい。
つまり現状の神力総量を考えれば、数千枚どころか数万枚に増えても大丈夫な気がする。
なので現状では枚数については、特に気にする必要もなさそうだ。
そうして俺は、このゴブランという名称のゴブリンのカードを再び収納するのであった。
流石に今後増えていくサーヴァントカードの詳しい内訳を考えるのは、やめました。
信者によって召喚できるモンスターの種類は多種多様ですし、また名前や覚えさせているスキルの習得量も千差万別です。
なので一部例外を除き、サーヴァントカードについては、ふわっとした感じになりそうです。