SS 変わり果てたティニア
※推奨読了話数149話までくらいです。
ティニア・ユグレイア。彼女は自称ハイエルフの女王である。
その神授スキルは【精霊召喚術】であり、モンスターの魔石から精霊を創り出すことができた。
また隠し効果により、創り出した精霊を自身に憑依させることによって、精霊のスキルを自由に使えるようになる。
加えて精霊は同時に三体まで憑依可能であり、憑依させた精霊によっては、身体能力などにも影響を及ぼした。
この神授スキルによって、ティニアは状況に合わせて創り出した精霊を呼び出したり、憑依させていたのである。
それだけでも強力な神授スキルであるが、【契約】という希少なスキルを持つクイーンフェアリーの精霊を手に入れてからは、更に力を増した。
そうして自身の勢力を拡大させていき、順風満帆であったことには間違いない。
しかしここにきて、ティニアは堕落してしまう。毎晩エルフの男性と交わり、大事な仲間であったエリシャにユグドラシルを強制的に創らせた。
ここまで聞くとティニアが力を手に入れたことで、本性をあらわにしたように思うかもしれない。
だが本来のティニアという人物からは、この出来事はあり得ないことなのである。
そしてそれには、神授スキルである【精霊召喚術】が大きく関係していた。特に精霊を自身に憑依させることが、問題となっている。
本来精霊の憑依とは、奥の手のような技だった。それをティニアは常に発動させた上で、最大数である三体の憑依もキープしていたのである。
これがもし短時間で解除して、インターバルを設けていたのであれば、何の問題もなかった。
しかし常に憑依させていたことで、精霊と魂が深く繋がってしまったのである。
それにより、ティニアの精神は少しずつ侵食されていった。
また侵食が少しずつだったこともあり、ティニア自身は違和感を持たずに慣れてしまい、次第にこれが当たり前になってしまったのである。
加えて周囲の者も違和感に気がつきながらも、対応を見送ってしまった。
そうして最終的には、手に負えない状況へとなってしまったのである。
なによりたとえ精霊だとしても、元はモンスターということもあり、その多くが本能への我慢を効かなくするものだった。
そして最も長く憑依させていたクイーンフェアリーにより、ティニアは悪い意味で女王様気質になっていったのである。
その結果として、酒池肉林に溺れる女王様が誕生したのだった。
しかし当初のティニアは一般的な人よりも、自制できるタイプだったのである。性欲も、そこまで強いという訳でもない。だが逆に、皆無という訳でもなかった。
故に少しずつそれが増幅されていけば、最終的にはそうなってしまう。
そして憑依が深く繋がれば繋がるほど、解除することに対して、強い抵抗感を覚えるのだ。
もはやティニアからすれば、これは自身の手足を取り外すようなものである。
なので魂が侵食されていることにもし気がついたとしても、ティニアは簡単に解除する気は起きなかっただろう。
そうして時が経った頃にはもう手遅れであり、エリシャとルフルフに慕われていたティニアは、もうそこにはいなくなっていた。
結果としてティニアは変わり果て、酒池肉林を貪り続ける。
またルフルフには半ば手遅れだと思われ、老婆になったエリシャには恨まれていたことにも、ティニア自身は気がついてはいない。
そんなティニアは最後のその瞬間まで、欲望のままに生きていた。
神授スキルの扱いを間違っていなければ、素晴らしい人物だったことには、間違いない。
そうであれば【自称】ではなく、本当の意味でハイエルフとして、エルフ達から認められていたかもしれなかった。
しかしそんな未来は訪れることなく、ティニアはゲヘナデモクレスによって、あっけなく討たれたのである。
そしてティニアがここまで変わり果ててしまった理由を本当の意味で知る者は、悲しいことに最後まで現れることはなかった。