368 大いなる選択
気がつけば俺は、何もない真っ白な空間にいた。ある意味、この空間は見慣れたものである。
確か俺は、アルティメットフュージョンの代償で眠りについていたはず……。
どうしてこの場所に来てしまったのかは不明だが、もしかしたら眠っている間に何か条件を満たしたのかもしれない。
あとは流石に無いとは思いたいが、死亡した転移者は、自動的にこの場所に連れてこられるという可能性もあるだろう。
おそらく待っていれば何か起きる気がするし、とりあえず待つことにするか。
すると俺がそう思った直後だった。目の前に、俺が現れる。
「!?」
その出現に少々驚いていると、目の前の俺が何か言い始めた。
「おめでとう。君は今回の転移者の中で、初めて神候補の条件を満たした」
「なに?」
俺は突然の神候補という言葉に、少しばかり訝しむ。
神候補の条件は、確かいくつかあったはずだ。その中で俺が満たしているのは、二つほどだと認識していた。
一つ目はもちろん、【属性の魔王を一体倒す】だ。これは赤い煙を倒したことで、満たしている。
そして二つ目は、【神力と神属性を一定基準で扱えるようになり、神属性のスキルを手に入れる。加えて神滅属性を発動させる】というものだ。
正直二つ目は、満たしているか判断に迷うところである。神力と神属性を一定基準で扱えるようになるというのはともかく、神属性のスキルを手に入れるという部分が怪しかった。
ちなみに【神滅属性を発動させる】は、赤い煙を倒す時のアレで満たしているのだろう。
だとすれば神属性のスキルは、ジンアレクの時にレフのゴッドネイルを一時的に所持していたからだろうか? それとも神力を使うという意味で、スキルではないが称号の森羅万象の天敵がそれを満たしたのかもしれない。
まあそれについてはまだいいとして、問題は三つ目か。一体俺は、何を満たしたのだろうか?
すると俺の心の声が聞こえていたのか、目の前にいる俺が答える。
「君が三つ目に条件を満たしたのは、信者数十万人の達成だ」
「信者数、十万人?」
確か城下町での戦いのとき、信者数千人突破で称号を得ていた。だがまさか俺を信仰する者が十万人を超えるとは、全くの埒外である。
そしてそれによる何らかのアナウンスが聞こえないのは、もしかしたら俺の本体がまだ眠っているからかもしれない。この何もない真っ白な空間からして、そんな気がした。
加えて今こうして俺がここにいるのは、眠っている間に条件を満たしたからだろうか?
あとは目の前の存在が俺と全く同じ見た目をしているが、この者の正体はいったい誰なんだ? いや、ここまできたら、もしかして……。
俺がそう考えたところ、それに合わせたかのようにその正体が明かされる。
「そう。今君が思っている通り、私は創造神ルートディアスだ」
「!?」
創造神ルートディアス。とうとうこうして、俺はその存在と出会ってしまったようだ。仮に出会うとしても、それはずっと後だと思っていた。
予想外の遭遇に、俺は驚く。この世界で絶対的な力を持つのは、まず間違いないだろう。発する言葉は、慎重に選んだ方がいいかもしれない。
だがそれすらも、創造神には無用なことだった。
「言葉を飾る必要はない。私の前では、それは無意味だ」
「……わかった」
先ほどから、心を読まれているのは間違いない。であれば逆に、発する言葉と心の言葉は同じにした方が良いのだろう。
俺は創造神の言葉からそれを理解すると、飾らずに喋ることにした。
そして一先ず落ち着いたところで、創造神からこの場所に呼ばれた理由を説明される。
「先ほども言ったが君をここに呼んだのは、神候補の条件を満たしたからだ。そして君には、これから選択するべきことがある」
「選択するべきこと?」
いったい、何を選ばされるのだろうか。いや、選択できるだけ、マシなのかもしれない。無条件でどこかに連れていかれるとしても、おそらく抵抗は無駄になるだろう。であれば選択ができるのは、とてもありがたい。
「そう。この中から君は、好きなものを一つ選択することができる。どのような選択だろうと、私はそれを尊重しよう」
するとその瞬間、脳内にいくつかの選択が現れ始めた。
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1.今すぐ神候補として、この世界から旅立つ。
2.今世で死亡、あるいは満足してから、神候補としてこの世界から旅立つ。
3.神候補の権利を破棄する。
4.神候補の権利を、他の転移者に譲渡する。
5.創造神ルートディアスに挑む。
6.残りの属性の魔王、【溶・嵐・雷・氷・空・冥】の打倒あるいは配下にすることで、地球とアルヴァンティアを行き来する権利を手にする。また完遂後に任意で、再度この条件を除いた中から選択を行う。
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これはどう考えても、誘導されている。六番目だけ、やけに具体的な内容だった。
それとこの内容から属性の魔王は、幻属性以外にあと六種類存在しているらしい。普通に火や水の属性の魔王がいると思っていたので、これは予想外である。
だが溶属性は確か、火と地属性の複合だった気がするし、嵐は水と風の複合属性だ。
以前城のダンジョンの書庫にある本に、そう書かれていたはずである。あとは希少属性と、冥属性のようだった。
逆に光や癒、聖属性の魔王はいなみたいである。ついでに、無や音もいないようだ。
だとすれば地球にいる全属性の魔王とは、それだけ特別な存在なのかもしれない。
そして創造神が俺にこれをやってほしいのは、属性の魔王が世界のバグみたいな扱いだからだろうか?
まあ並の転移者だと、おそらく返り討ちに遭うだろうしな。幻属性の魔王である赤い煙を倒した俺ならその実績もあるし、頼むならちょうど良かったのかもしれない。
加えて少々俺の心を全て見透かされたようで癪ではあるものの、俺としてもこれは悪くはない話だ。
正直地球にどうやって戻ろうかと、考えていたところだった。それにどうにかして一度帰れたとしても、またこの世界に戻る方法も確保する必要がある。
あとはどの道、今後旅を再開すれば他の属性の魔王と、戦うこともあったかもしれない。だとすれば他に、選択の余地はないだろう。
ちなみに五番目にある【創造神ルートディアスに挑む】は、絶対に選んではいけない気がした。確実に、地雷な気がする。
勝てる負ける以前に、存在としての格が違う。たぶん創造神がやろうと思えば、属性の魔王など瞬殺な気がする。
おそらくそれをしないのは、神としての何かルールがあるのかもしれない。
ついでに先ほどから俺の内側から、五番目だけは絶対にダメだと強く警報が鳴らされている。たぶんそれは、金目と銀目が教えてくれているのだろう。
当然俺としても、ここで創造神と戦う気は無い。一応理由はどうあれ、一度死んだ俺をこの世界に連れてきてもらったことは、恩にあたる。
この世界に転移してこなければ文香の願いも引き継げなかったし、全属性の魔王のことも知ることはなかっただろう。
また前の幻属性の魔王が魂の利用がどうとか言っていたが、正直俺としてはどうでもよかった。
逆に利用されたことでこうしてチャンスが巡ってきたのだから、何か言うことは無い。
なので残りの属性の魔王と全属性の魔王を倒したあとは、二番目を選べばいいだろう。
神候補としてその後何をするのか、少し気になるというのもあった。いったいどこに旅立つというのだろうか?
するとそれについては、現状では教えられないと創造神が口にする。つまり、旅立ってからのお楽しみということだろう。
たぶんその先で、神になるための何かをするのかもしれない。神候補という名称なので、その可能性は高い気がした。
そうして実質選択の余地は無かった訳だが、俺は迷わずにそれを自分の意志で選ぶ。
「俺が選ぶのは、六番目だ」
「よろしい。その選択を私は尊重しよう。しかしながらより過酷な試練に臨む君に対し、私から恩恵を授けよう。目覚めたとき君は、それを受け取っているはずだ。
そして君が全ての試練を終えたとき、君が望むのならば再び選択を問いかけさせてもらおう。君の行く末を、私はとても期待している」
創造神が最後にそう言うと、次第に俺の視界がぼやけていく。どうやらこの空間に、終わりが来たようだ。
過酷だが、新たな目標ができたな。そしてそれは、俺と文香の復讐相手へと繋がっている。
もしかしたら文香は反対するかもしれないが、俺はやるつもりだ。何らかの形で決着が付かなければ、神候補として旅立つことはできないだろう。
だから俺の選択を、どうか許してくれ。いや、応援してほしい。
そうして全ての終着点となる新たな目標を、このとき俺は手にしたのだった。
これにて第十章は終了です。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
長かったアンデッド大陸編も、同時にこれで終わりです。まさか終えるまでに、六章も使うことになるとは……。ほんとうに、長かった……。
正直完結という名のゴールをしてもいいかとも考えましたが、まだやり残したことがあるので続きます。
ただアンデッド大陸編という大プロットを消費したことで、次の十一章の制作に少し時間がかかるかもしれません。
なのでいつも通りの一週間で用意できるかは、かなり微妙なところです。(^-^;
しかし一応遅くても、八月中には再開しようと思います。
それまではアンデッド大陸編の完結を記念して、またいくつかSSを投稿しますね。あと150万文字記念も、それに合わせようと思います。
まだまだ話したいことはありますが、長くなるので気になる方は活動報告の方をご覧ください。
引き続きモンカドを、よろしくお願いいたします。<m(__)m>
乃神レンガ




