363 ジンアレクVS赤い煙 ⑩
触れただけで、ダメージを与える神滅属性。それが魔神剣に付与された状態で貫いたのであれば、その結果は明らかである。
つまりは赤い煙を貫いた箇所を、神滅属性が焼き始めたのだ。
「ぎゃぁああ!? や、焼けるぅ!? 俺様の体がぁ!! クソがぁああ!!」
赤い煙はそのような叫び声を上げると、魔神剣から逃れようとし始める。回避系のスキルは持っていそうな気がするが、それすらも神滅属性の前には無力のようだ。
「そんなに抜け出したいのなら、手伝ってやろう」
「は? な、何を……よせ、やめろぉおお!」
対して俺は、魔神剣を上に動かし始めた。当然赤い煙は全力で抵抗してくる。
少し前の俺ならば、その抵抗を突破するのは難しかったかもしれない。だが事前にレフとアンクを覚醒させていたことで、融合後の姿であるジンアレクが大幅に強化されていた。
その結果として俺は赤い煙の抵抗を突破し、中腹から天辺までを魔神剣で斬り上げる。赤い煙の顔面は、真っ二つに裂けた。
加えて斬られた箇所は、神滅属性によって更に焼けただれていく。赤い煙からは、それによる別の煙が発生し始めた。
だがそれでも、赤い煙は倒れない。むしろ痛みに関しては慣れてきたのか、次第に喋り始める。
「ひぎぃいい!! な、なんじゃこりゃぁああ!! いてぇ、いてぇよぉ! こんないてぇのは、初めてだぁ!!!
で、でもよ~。ま、まだ終わらねぇからなぁ! た、確かに追い詰められたかもしれねぇけどよぉ、まだ逆転の一手はあるんだぜぇ~。ここからが、本当の最後の戦いだぁ! ひひゃひゃ!」
そう言って痛みに耐えながらも、笑い声を上げる赤い煙。どうやらまだ、隠し持った奥の手があるみたいだ。
それは確かに、恐ろしいものなのだろう。もしかしたら本当に、ここから逆転する一手なのかもしれない。
だがしかしそれは、この先があるならばの話である。
「本当の最後の戦い? それはもう、今終わったところだろう?」
「は? 終わり? 何を言ってやが……!?」
俺の言葉に対して状況が理解できていない赤い煙だったが、ふと自身の体に違和感があったのだろう。それを確認したことで、その意味を理解したみたいだ。
そう、赤い煙の体は、黄金の光に包まれていた。それも体の端から少しずつ、光の粒子になっている。
「気がついたか? 戦いは既に終わっているんだよ。お前はもう、カード化され始めている」
左手で赤い煙を指さして、その現実を突きつけた。
「なあっ!? 噓だろぉ!? 確かお前の神授スキルは、倒したモンスターに対して発動したはずだろぉ!?」
赤い煙の言いたいことは、よく理解できる。確かにこれまではそうだった。しかし今は、そうではない。
「俺は神授スキルの真の効果を使えるようになったことで、瀕死の相手ならカード化できるようになったんだよ。加えて肉体ダメージと精神ダメージを合算することで、より早くその効果を発動させることができる。
つまりここで精神体が大きく傷ついたお前は、効果の適用範囲内に入っていたんだ。追い詰められて奥の手を出そうとしても、もう遅い」
その言葉に赤い煙は色々と反論したそうだったが、自身の残された時間がもうほとんど無いことを、本能的に理解したようだった。
故に赤い煙はそれを飲み込んで、今までのような飄々とした雰囲気を出す。そして最後に、こう口にした。
「ひ、ひひゃひゃ! そうかぁ、俺様の負けかぁ! 色々あったが、ここまで全力を出せて楽しかったぜぇ~。スリルとエンターテインメントは、十分に堪能できたからなぁ!
でもよ~。お前の配下になるのは、業腹だぜぇ。けどまぁ、今後俺様に新たなスリルとエンターテインメントを用意してくれるのなら、それも我慢しようじゃねぇかぁ。
それとこれは確信だけどよぉ。お前に安寧の日々なんて、絶対に訪れねえだろうからなぁ! きっと俺様を、頼ることになるだろうぜぇ。今からそのときが、楽しみだぁ~。ひひゃひゃ! ひひゃひゃひゃひゃ!」
そうして言いたいことを言うと、赤い煙は完全に光の粒子になり、俺の元でカードへと変わる。
まるでフィクションでラスボスが最終形態になる前に、倒してしまったかのような何かを感じた。だがこれは、現実の戦いである。油断せずにここで仕留めたのは、間違いではなかっただろう。
そしてそんな相手を、結果はどうあれ俺の配下にすることができた。確実に扱いづらいかもしれないが、最強の軍団を作るという意味では、大きく前進したことは間違いない。
であるならばここは、いつも通りにいこう。
「赤い煙、ゲットだ」
『にゃんにゃにゃん!』
すると融合しているレフが、そんな鳴き声を伝えてくる。やはり、レフもこの掛け声には加わりたかったのだろう。
またこのとき、俺は赤い煙の能力を少し確認してみた。
種族:ファントムギアシュピーレン(赤い煙)
種族特性
【闇冥属性適性】【闇冥属性耐性(特大)】
【幻煙体躯】【戯欲幻】【不死化の幻煙】
【精神誘導】【貫通幻夢】【支配憑依】
【幻分身】【幻魂の牢獄】
【ファントムワールド】【サイコウェーブ】
【メモリーリバイバル】【ターンセイント】
【ダークネスチェイン】【バフデリート】
【カオスウィークネス】【カオスランス】
【契約】【魔改造】【偽装擬態】【絶隠密】
【生魔ドレイン】【生魔感知】
エクストラ
【イレギュラーモンスター】
【ダンジョンマスター】
スキル★
【ストレージ】【眷属召喚】【遠隔操作】
【超級鑑定妨害】【念話】【軍団指揮】
【シャドースラッジ】【ダークレイン】
【ヘルシールド】【光聖属性耐性(特大)】
【魔法耐性(特大)】【幻属性強化(特大)】
称号
【幻属性の魔王】【大陸の王】
装備
・絶精幻の宝玉
色々と気になるところは多いが、詳しい確認はまた今度行うことにしよう。
そうして赤い煙が倒されたことで、その眷属であるナイトメアレイスたちも姿を消していった。
対して準備万端だったジルニクスやヤミカ、リビングアーマーたちは不完全燃焼気味である。
だが戦いが勝利で終わったという事実の方が大きく、喜んでいるようだった。また復讐相手である赤い煙が俺の配下になったことに思うところがあるようだが、ジルニクスとヤミカはそれを飲み込んでくれたようである。
今後俺の役に立つようであれば許すことはできなくても、色々と見逃すことにはしたようだ。
正直俺としても赤い煙は許せないところはあるが、こいつは今後役に立つだろう。各種属性の魔王に勇者。それに記憶の封印を解いた転移者も、いずれ現れることだろう。故に力は、いくらあっても足りないくらいだ。
不本意だが赤い煙の言う通り、俺に安寧の日々は早々に訪れることは無いだろう。
加えていつか、地球にもどうにかして帰還したい。俺と文香を殺した全属性の魔王は、最終的には倒すべき相手となる。
そんな感じで一つ終わればまた一つ、新たな問題が待ち受けていた。だが今ばかりは、赤い煙を倒した余韻に浸ることにしよう。
そうして戦いが終わったことで、俺の意識は現実へと引き戻されていく。気がつけば赤い煙が作り出した幻の世界に戻って来ており、目の前には赤い煙のカードが浮かんでいた。
俺は魔神剣と聖剣をストレージに収納すると、こちら側でも赤い煙のカードを手にする。
するとその瞬間この幻の世界も崩壊していき、俺は城のダンジョンで勇者たちを待ち構えていた部屋に戻ってくることができた。
これで今度こそ、本当に終わったのだろう。赤い煙との戦いは、俺たちの勝利で終わった。
だがそれでも油断せずに、何か最後に罠が残されていないかと警戒をしてしまう。しかしそんなものは、一向に現れなかった。
「ごしゅ~! もしかして、勝ったの~?」
「ぐぉお!」
すると召喚していたリーフェとグインが、俺の元へとやってくる。どうやら俺としてはそこそこの時間に感じたが、リーフェたちには一瞬の出来事のようだった。
赤い煙が俺に触れたかと思えば、次の瞬間にはカードになっていたみたいである。やはり精神世界だと、時間はほとんど経過しないようだな。
するとそんなときリーフェとグインに加えて、ふよふよとあるモンスターが近づいてきた。それは道中先行させていた、あのレイスである。まさか今回も生き残っているとは、驚きだ。
しかし聞いてみると、レイスは召喚されてからの記憶があまり無いらしい。体が勝手に動いていたようだ。
つまりこのことから考えられるのは、一つしかない。このレイスも赤い煙に、何かされていたようである。
それにこれまで影が薄いと思っていたが、今は全然そんなことはなかった。
なるほど。赤い煙の奥の手は、ここにもあったようだな。いったい何をするつもりだったかは分からないが、俺にとっては致命的な何かになっていたかもしれない。
全くもって赤い煙は、油断のならないやつである。であるならば、他にも何か隠されているのだろうか?
そう思ったのだが、エクストラである直感が既に安全だと告げていた。俺の直感は金目と銀目が干渉しているみたいなので、おそらく信用はできるだろう。
もしかしたら何か存在していたかもしれないが、カード化したことでそれも無意味になったのかもしれない。強敵相手には、この真の効果は優秀過ぎるな。とりあえず今度こそ、もう安心してもいいだろう。
そうして俺はようやく、赤い煙との戦いが本当に終わったと理解した。するとそれによりこの一連の戦いで得ていたものを、俺は獲得し始める。
いわゆるそれは、勝利リザルトというものだろう。強敵撃破による、報酬というやつだ。
過去の記憶を取り戻したことで、そうした情報が思い浮かぶ。
そして俺の脳内に、いつものアナウンスが流れてくるのだった。