362 ジンアレクVS赤い煙 ⑨
精神世界で融合状態ではないことは、何となく分かっていた。俺の融合は魂が混じり合うものではなく、互いに魂が隣にくっつく感じだからだ。
故に俺は願った。精神世界でも、融合状態になれるようにと。そして、それは叶うことになる。
そう、金目と銀目が、創神力で能力を拡張してくれたのだ。これまで隠しスキルが増えるルールを知らなかったが、過去の記憶を見たことでそれを知った。
であればこの願いは、叶う確率が高いだろうと踏んでいたのである。実際、それは叶った。
そして精神世界には、ゲヘナデモクレスの元になったリビングアーマーたちもいたのである。だが正直数は多くても、戦闘にはついていけないだろう。
しかし俺がそう思っても、対するリビングアーマーたちはやる気のようだった。全員、赤い煙との戦闘に加わりたいという。
なので物は試しだと思い、神授スキルの真の効果である覚醒を発動してみた。するとリビングアーマーたちは、その効果によりAランクまで強化されたのである。
これならば、ギリギリ役に立つかもしれない。もし赤い煙が眷属を召喚してきたら、その相手をさせよう。流石に、赤い煙に挑ませるようなことはしない。
またゲヘナデモクレスが吸収したという、魔将ジルニクスもいた。彼も力になってくれるようなので、覚醒を発動しておく。カード化はしていないが、ゲヘナデモクレスに吸収されたことで、効果の対象になったみたいだ。
ジルニクスは元々ランクが高かったからそこまで強化はされなかったが、それでもSSランク級になっている。
あとはヤミカも普通にいたので一応覚醒を発動させてみると、こちらもアンクに吸収されていたからか、無事に発動した。
モンスターではなく人族でも、対象にできたみたいである。いや、ヤミカの場合特殊な状況なので、例外的な感じだろう。
最後にカルトスであるが、コイツは放置しておく。完全に信用できる訳ではないからな。
ちなみに吸収されていた者たちだが普通に、この精神世界で所持していたスキルが使えるみたいだ。
加えてその者たちを吸収したゲヘナデモクレスやアンクも、問題なくその者たちのスキルを使える。
ただ吸収されている方がやられた時点で、スキルは使えなくなるみたいだ。おそらく、一種の共有状態にあるのだろう。
また気をつけたいのは、この精神世界で死亡した場合である。精神の死亡とはすなわち、消滅を意味している可能性があった。つまりこの場所で死亡すれば、復活できないかもしれない。
なので本当は赤い煙との戦いに参戦させない方がいいのかもしれないが、何もせずに見ていることは出来ないという。
特にジルニクスとヤミカは、赤い煙への恨みがあるようだ。故にこうして戦う機会があるのならば、是非とも戦いたいのだろう。
俺は少し考えたのち、最終的にはその気持ちを尊重することにした。二人は覚醒により、SSランク級になっている。十分戦力になるだろうと、そう思ったからだ。
またヤミカは人族だが、ランク的には元々Aランクの実力があったようなので、上限のSSランクまで強化された形である。
そして最後に一応レフ、アンク、ゲヘナデモクレスにも覚醒を発動させた。するとレフとアンクには問題なく発動したが、ゲヘナデモクレスには発動しなかったのである。
どうやらゲヘナデモクレスは、既にSSランク級だったみたいだ。なので覚醒の上限がSSランクまでなので、その効果を発揮しなかったのだろう。
やはり俺の配下の中では、ゲヘナデモクレスが一番強いみたいだ。これは魔将ジルニクスを吸収したことも、関係しているだろう。
ちなみに俺自身には、覚醒は発動しなかった。これはランク云々というよりも、元々対象外のようである。残念だが、これは仕方がない。
あとは精神世界でも、装備はそのままである。つまり、魔神剣も取り出せるはずだ。現実世界では、右手に持っていたはずである。
なので俺は右手に魔神剣が来るように意識してみると、魔神剣がそれに答えたのか瞬時に現れた。
よし、問題なさそうだな。過去の記憶を取り戻すと同時に神授スキルの真の効果を手に入れたことで、魔神剣は前よりも俺を認めてくれているみたいだ。まだ完全ではないが、ほとんどの能力が使えるような気がする。
そうして一度魔神剣を右手から消すと、最後に俺はあることを考え始めた。それを可能としたのは、赤い煙が現在精神世界の端の方にいたからである。まだ、時間はありそうだった。
さて、赤い煙と戦うには、あと一手ほしいところだ。欲を言えば、神滅属性を使いたい。
神滅属性は、ブラッドが光りの柱に消し飛ばされたとき、一度だけ確認している。
またデミゴッドは、神力の扱いが優れた種族だ。それは、神滅属性もそうかもしれない。なによりデミゴッドは、全属性適性だ。当然そこには、神滅属性も含まれているはずである。
完全でなくてもいい。少しでも使えれば、御の字だ。それに、扱うためのあてはある。これまで感じていなかったが、この精神世界にきてから金目と銀目の気配を強く感じていた。
それは精神の奥深くにある神授スキルに、二人が宿っているからだろう。現実世界よりも、断然近いのだ。
加えて二人が俺の目の前に出てくることはまだできないみたいだが、サポートはしてくれるようである。
実際さきほど俺の願いを聞いてくれて、精神世界でも融合が可能になったからな。十分、可能性はあるだろう。
故に俺は、さっそく試してみる事にした。赤い煙が端の方にいるとはいえ、あまり時間は無いというのもある。そうして神滅属性を、俺は強く意識してみた。
すると体の内側から、神力が溢れてくる。だがこれは、ただの神力だ。神滅属性ではない。神滅属性は名称の通り、神を滅ぼすほどの属性のはずである。であればもっと荒々しく、危険な雰囲気があるはずだ。
しかしそう意識してみるものの、一向に神滅属性が目覚めそうにはない。やはり手にするにはまだ早過ぎたのかと、そう思った時である。何かが手助けしてくれるように、一滴の雫が落ちたようなイメージが湧いてきた。
どうやら金目と銀目が、ここで手を貸してくれたみたいである。先ほどまでとは打って変わり、扱い方が本能的に分かってきた。
そしてこの一滴の雫が、その神滅属性だったのである。ほんのごく僅かだが、俺にそれが流れてきた。すると全身がうっすらと、神滅属性に覆われていく。神滅属性が発動したのだ。
属性と銘打っているが、扱いとしては魔力や神力に近いかもしれない。それか両方の性質を持つ、特殊なものなのだろう。
そうして発動した神滅属性だが、纏っている俺自身には悪影響は無さそうである。だが配下たちに関しては、そうではなさそうだった。
配下たちでも関係なく、神滅属性は牙を剥くようだ。それを周囲の配下たちは、本能的に感じ取っているようである。
やはり、神滅属性は危険な属性だったようだな。それに、身体に纏わせるだけで精いっぱいだ。動くことも難しい。現状神滅属性を使って戦うなど、夢のまた夢だろう。
それに戦いの最中、瞬時に纏うこともできそうにはない。加えてこうして維持するだけでも、かなりの集中力を要する。
だが神滅属性はこのまま諦めるには、とても惜しい。相手に触れさせるだけで、かなりの効果を発揮しそうだった。それほどの何かを、神滅属性からは感じる。
故にどうにかして赤い煙に触れさせれば、ダメージと共に大きな牽制にもなるだろう。
しかし赤い煙がそう都合よく、俺に触れるだろうか? 神滅属性を少し発動できるようにはなったが、まだ扱える段階ではないかもしれない。
だが俺がそう思ったときだった。ジルニクスから、あることが告げられる。それは赤い煙が肉体だけではなく、精神を支配するために精神世界で、直接相手の精神体に触れる必要があるということだった。
実際ジルニクスも支配されたとき、精神体に直接触れられたらしい。また同時に赤い煙はそのときにべらべらと、その内容を話していたようである。
赤い煙がお喋りなのは、昔から変わらなかったようだ。思わぬところで、良い情報が手に入った。
そうして俺はその情報を基にして、罠を張ることにしたのである。配下たちを一時的に別の場所に移動させると、俺は一人になった。
ちなみにこの空間を経由しなければ、配下たちが移動した場所に行くことはできない。なので、そちらは安全だ。
さて、上手くいくかは賭けだが、攻撃されても耐えることはできるだろう。神滅属性を纏えば、それだけで防御にもなる。
大抵の攻撃は、おそらく滅することが出来そうだった。たとえできなくても、大きく効果を減衰させられるだろう。
一度纏ったことにより、何となくそれを感じ取ることができた。実際赤い煙が触れるかどうかは賭けだが、遠距離攻撃を滅するだけでも意味はあるだろう。
俺はそう思いながら神滅属性を纏い、そのときを待った。そして結果として赤い煙は俺に触れ、その身を焼くことになったのである。
それは思っていた以上に赤い煙には致命的だったようであり、まさかの逃亡を始めた。だがここは俺の精神世界。逃亡先の壁に神力を纏わせて、それを防いだ。
神滅属性を少しだけ使えるようになったことで、同時に関係性があるからか、神力の扱う技術力も向上したようである。
これでもう、赤い煙が逃げることはできない。そして幻属性の精神攻撃は対策しているようだが、精神への直接攻撃はそれに関係なさそうである。
つまり赤い煙の精神に、ダメージを負わせることができるということだ。強化された現実世界の赤い煙よりも、こちらの方がある意味倒すのは楽そうな気がする。
すると赤い煙は逃げられないことに焦ったのか、ナイトメアレイスを大量に召喚してきた。それに対してちょうどいいと、俺は配下たちをこちらに呼び出す。
そして赤い煙が強化された配下たちに視線が奪われている間に、俺は融合を発動させた。
現実世界で融合しているのならば、コストも代償も無しである。またそれに加えて、精神世界ならどの場所に融合するかも自由だった。
故に俺は、赤い煙の背後に融合した姿を現す。そして同時に魔神剣を取り出すと、隙だらけの背後から赤い煙を貫いたのだった。
もちろん、可能な限り魔神剣の効果を引き出している。神滅属性を使えたからか、魔神剣の効果で魔神剣にも神滅属性を付与できた。三分間だけだが、この一撃なら十分の時間だ。
更に一日に十回無条件で耐性、無効、反射、再生を無効化する効果を任意で攻撃に付与できる効果も、同時に発動している。
つまりこの一撃は、赤い煙にとって致命的なものになった。
剣系スキルを発動するまでの余裕はなかったが、成果としては十分だろう。
「……は? わけわかんねぇ……」
結果として貫かれた赤い煙は、そう呟きながらこちらへと視線を向ける。
そんな赤い煙の表情は、今までに見たことのない、驚愕したものに満ちていた。