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361 ジンアレクVS赤い煙 ⑧

 ※赤い煙の視点です。


 ひひゃひゃ。馬鹿なやつだぜぇ。あの前任者によく分かんねえ力を与えられた感じだったけどよぉ。調子に乗り過ぎだぁ。精神世界じゃ、俺様が最強だぜ~。


 それに力を手に入れたとしても、すぐに使いこなせる訳がねえだろうからなぁ。対してこの俺様は魂について、数百年も研究しているんだぜぇ。負けるはずがねぇ。今からどうやって支配してやるか、楽しみだぁ。ひひゃひゃ。


 俺様はそう思いながら、ジンという転移者の精神世界の中を移動する。真っ暗で何も見えないが、これはまだ外側だからに過ぎない。


 このまま進み続けていれば、いずれ辿り着くだろう。俺様は魂の反応を、しっかり感じ取っていた。


 それとあいつは、俺様を捕まえたとか言っていたなぁ。概ね精神世界で迎え撃つ算段なんだろうが、無駄だぜぇ~。


 あいつは知らないだろうが、基本的に融合しても、精神世界では融合していないことはよくあることだぁ。


 つまり俺様が戦うのはジンという転移者と、その配下共になる。融合していなければ、各個撃破できるぜぇ。


 融合状態でも俺様に単体で勝てない以上、勝負は見えているんだよなぁ。力を得て、慢心したのかぁ? だとしたら、がっかりだぜぇ。


 そうして進んでいると、視界が切り替わった。何も見えない暗闇から、何もない真っ白な空間へと切り替わる。


 なんだなんだぁ? つまんねえ精神世界だなぁ。もっとお前の大切なところを見せてほしかったんだがなぁ?


 精神世界は、基本的にそいつの本質が見えてくる。アルハイドの時は、城にある玉座の間だったか。これまで見てきたやつらも、そいつにとって特別な場所や、直近で起きた大きな出来事に関する場所になる事が多い。


 しかしジンという転移者の精神世界は、真っ白で何もない空間だ。つまりこいつの本質は、何にも興味ない無関心なやつなのだろう。


 まさかこんな真っ白な空間が精神世界に現れるほど、魂に刻み込まれているとは考えづらいはずだぁ。


 俺様はそんな事を思いながら、真っ白な空間を進み始める。すると少しして、融合前のジンという転移者が、こちらに背を向けて立っていた。


 見つけたぜぇ! ひひゃひゃ! なんだよぉ。精神世界でまともに動けねえのかぁ? そんなんじゃ、すぐに俺様が支配しちまうぜぇ!

 でもよ~。もしかしたら罠を張っているのかぁ? いいぜぇ。受けて立ってよるよぉ! 俺様は、精神世界では最強だからなぁ! ひひゃひゃ!


 そうして俺様は、ジンという転移者の肩に手で触れる。肉体と精神を完全に支配するには、実際に精神世界でも触れる必要があるからだ。


 これでお前はもう、俺様の――


「ぐぎゃぁああああ!!」


 だがその瞬間、まさかの事態が起きる。


 焼ける! 俺様の手が、焼けるぅ!!!


 ジンという転移者の肩に手で触れた瞬間、人族が強酸に触れたかのように、俺様の手も焼けただれていった。


 ありえねぇ。俺様はレイス系アンデットの頂点だぞぉ!! ひ弱な人族のように、物理的(・・・)に焼けただれるなんて、ありえねぇ!


 だが実際俺様の手は焼けただれ、煙を上げている。煙の体をした俺様から、煙が出ているのだ。体が溶けるような思いだった。


 ちぃ! 仕方がねぇ!


 焼けただれた箇所が腕にまで侵食してくる前に、俺様は手首を切り離す。それにより激痛が走ったが、痛みに関してはもう諦めた。


 それよりも俺様は、即座に手首から先を再生させる。無駄に魔力を消費してしまったが、これはもう仕方がない。


 だが切り離してから再生したことで、痛みからは解放された。すると途端に、思考が冴えてくる。


 クソがぁ。そういうことかぁ。ここは精神世界だからなぁ。ある意味物理的ではないことを、忘れていたぜぇ。

 でもよ~。おかしいだろぉ。触れただけで焼けただれる精神って、何なんだよぉ! そんなの、見たことねぇ。あの勇者だって少し覗いたときには、いつでも始末できるくらいだったのによぉ。


 するとこちらに背を向けて動かなかったジンという転移者が、ようやく動き出して振りむいた。そして、驚くべきことを口にする。


「なるほど。これが神滅属性の力か。思っていた以上に、お前には致命的みたいだな」

「し、神滅属性だとぉ!? 前任者が言っていた魂ごと滅ぼすという、あの神滅属性のことかぁ!? はぁ? 何でもう使えるんだよぉ!」


 確か神力が切っ掛けになって、いつか使えるようになるかもしれない。そんな属性じゃなかったのかぁ? 意味わかんねぇ。


 だが、これは不味い。現実世界ならともかく、精神世界では致命的だ。精神世界に入ると、俺様も自動的に精神体になってしまう。


 これは俺様にも、どうしようもない(ことわり)だ。支配するにしても、触れられないのでは、意味がない。ここは、逃げるしかないだろう。


 俺様はそう判断するとその場から飛び上がり、一目散に脱出を試みる。


「ひひゃひゃ! 勝負は現実世界でやろうぜぇ! 今は支配しないでおいてやるよぉ! じゃあなぁ――ぐべっ。???」


 何もない真っ白な空間の壁を通り過ぎようとした瞬間、俺様はそのまま激突して跳ね返されてしまう。壁にぶつかるという現象は、器ではなくこの体で初めての経験だった。

 

 な、なにがどうなってやがる!? 俺様はレイス系の頂点だぞ!? 壁なんて、無いようなものだろうが!!


 しかし壁に触れても、通り過ぎることができない。これでは、ひ弱な人族と同じじゃぁねえか!


 するといつの間にか俺様に追いついていたジンという転移者が、床からこちらを見上げながらこう言った。


「無駄だ。捕まえたと言っただろう? お前では、この空間から抜け出すことは不可能だ」

「なっ!? 意味が分からねえ! ちゃんと説明しやがれ!」

「は? 説明するはずがないだろ? お喋りなお前と一緒にするな」

「さっきは神滅属性の事を言っていたじゃねえか!」

「それはつい、口が(すべ)っただけだ。反省はしている」


 むかつくぜぇ。この状況を、説明する気はないみたいだ。それに何となくだが、本当に今の俺様じゃこの空間から抜け出せない気がしてならねぇ。


 でもよ~。なら逆に、あいつを倒せばそれでお終いだ。つまり、ダンジョンボスがいる部屋のようなものだろぉ?


 幸いあいつは融合前で、配下共も連れていねぇ。対して俺様は強化後のままだ。万に一つも、負けることはないだろう。


 それに触れるからヤバいのであって、触れなければ問題ねぇ。俺様は元々、遠距離攻撃の方が得意なんだ。ひひゃひゃ! ここからは、そのイキった態度を後悔させてやるぜぇ~。


「言いたくなきゃ、別に構わねぇ。俺様と違って、お前には余裕が無いみたいだからなぁ!

 でもよ~。それと同時に、俺様のこと舐め過ぎだぜぇ~。今のお前じゃ、俺様の足元に及ばねぇ! おらっ、まずは数の暴力だぁ! ひひゃひゃ!」


 そう言って眷属召喚を行い、俺様はナイトメアレイスを千体召喚した。


「数の暴力? なら、数には数で対抗だ。出てこい!」


 するとジンという転移者の背後に、突如としてモンスターが次々に現れる。数はこちらと同じく、千体ほどだった。


 しかしそれによって現れたモンスターのほとんどは、Cランクのリビングアーマー。ザコモンスターだ。


 だがその存在感は、なぜかAランクモンスター以上である。おそらくだが、先ほどあいつが配下を強化したのと、同じことをしたのだろう。別にそれに驚きはない。だが、一つだけ納得できないことがあった。


「はぁ!? 何で千体単位で、強化できているんだよ!! あり得ねえだろうがぁ!!」


 そう。現れたリビングアーマー全部が、Aランクモンスター以上になっていたのである。しかも眷属召喚と違って、存在感がしっかりしていた。


 眷属召喚で現れたモンスターに、魂は無ねぇ。だがあのリビングアーマーたちには、魂があるのだ。


 基本的に同じモンスターでも、眷属召喚した方が弱くなる。基礎能力やスキルが同じでも、戦えば基本負けるのだ。


 それに現実世界でレイス系は物理無効でも、精神世界ではそうではなかった。レイス系の物理無効は霊体、つまり精神体になることで無効化している。


 だからこの精神世界では相手も精神体であるので、普通に物理攻撃が通っちまう。俺様ほどになれば壁や物であれば瞬間的に透過することはできる。だが、こいつらには不可能だぁ。


 ちなみにここの壁は何か細工をされていたせいで、俺様でも透過できなかった。まじでイラつくぜぇ。


 また同じAランクモンスター同士では、ナイトメアレイスの方が分が悪い。ここはやっぱり、数を増やすべきかぁ? 

 でもよ~。それなら、俺様が直接倒した方が早いだろう。なんだ。簡単な事じゃねえかぁ。


 あいつの近くにはリビングアーマーだけではなく、見れば俺様の配下だった魔将ジルニクスもいた。あいつ、裏切りやがったのかぁ!


 やられたと思っていたのに、敵に寝返るとはイラつくぜぇ。それと勇者パーティにいた、ヤミカとかいうやつもいるじゃねえかぁ。


 あとはよく分かんねえけど、年老いて目が(うつ)ろなエルフのジジイがいるなぁ? まあ、あいつは数に入れなくてもよさそうだぁ。


 そして最後にゲヘナデモクレスやレフ、アンクとかいう配下共も当然いるなぁ? だが、そんなのは関係ねぇ。まとめてこの俺様が倒してやるぜぇ! ひひゃひゃ!


 するとそんな時だった。ジンという転移者を含めたあいつらの姿が、忽然(こつぜん)と姿を消していたのである。


 いったい、どこに行きやがった!?


 そうしてあいつらを探し始めていると、突然何かが俺様の胸を貫く。


「……は? わけわかんねぇ……」


 胸から生えていたのは、ジンという転移者が持っていた黒よりも濃い、暗黒色の剣だった。


 加えて俺様が背後を見ると、やつは融合した姿で宙に浮いていたのである。


 なんで精神世界で、融合できるんだよぉ……。


 これまで味わったことのない激痛の中、俺様はそんなことを思うのだった。


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