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360 ジンアレクVS赤い煙 ⑦


「ひひゃひゃ! ダークランス!」


 最初に攻撃を放ったのは、赤い煙である。無数のダークランスが、俺たちを襲う。一発一発がAランクほどのモンスターであれば、致命傷になるほどの威力を秘めている。


 それに対して俺は、魔神剣の上級スキル郡(剣)の中から、斬撃を飛ばすショットスラッシュを放つ。


 上級スキル郡(剣)は剣系スキルの下級~上級までのスキルを、幅広く使うことが出来る。結果として俺は、多くのダークランスを撃ち落とした。


 しかし全てを撃ち落とすことはできず、いくつかはグインとリーフェの方へと向かってしまう。どちらも覚醒前であれば、かなり不味い状況だったはずだ。


 けれどもそれをグインは、ライトシールドで容易にやり過ごす。加えて、リーフェの分まで対処していた。流石はSSランクまで、強化されたことだけはあるだろう。


 そしてグインに守られたことで余裕のあるリーフェが、続けて攻勢に出る。


「え~い!」


 繰り出したのは数少ないリーフェの攻撃手段である、サイコカッター。三日月型をした半透明な斬撃が、ものすごい勢いで赤い煙へと迫る。


 本来なら回避が間に合わないタイミングだが、赤い煙は自身の体をより煙に近づけて薄く広げると、サイコカッターを難なく回避した……ように見えた。


「ぎぎゃぁ!? な、何が起きやがった!?」


 しかし実際は、真逆の結果になったようである。赤い煙は叫び声を上げると、痛みによって元の密度へと戻る。見た目にはダメージは無さそうだが、どこか苦しそうな様子だ。


 ふむ。リーフェがSSランク級になったことで、赤い煙の幻属性への対策では、その攻撃に処理しきれなかったのかもしれない。だがどちらにしても、これはチャンスだ。


「喰らえ」


 俺は追撃とばかりに、一点集中のオーラオブフィアーを赤い煙へと放った。リーフェの攻撃で切っ掛けが出来たのか、俺の攻撃も赤い煙へと届く。


「ひぃいい!? な、なめんじゃねえ! メモリーリバイバル! 行きやがれ! 勇者軍団!」


 赤い煙は精神的なダメージを負いながらも、対抗して勇者ブレイブ軍団+αを召喚してきた。


「魔王は俺が倒す!」

「みんなを助けるんだ!」

「聖剣よ、俺に力をくれ!」

「俺様が勇者タヌゥカ様だ!」

「みんなの希望を力に!」

「世界は、俺が救う!」


 無数の勇者ブレイブの中に紛れ込んだ、一匹のタヌゥカ。もう出会うことは本当に無いと思っていたのに、また出てきたようである。死んでも蘇る、ある意味ゾンビのようなやつだ。


 タヌゥカはともかく、偽物とはいえこの数の勇者ブレイブは正直やっかいだ。聖剣まで手に持っている。あの聖剣も、当然偽物だろう。


 するとそんな時だった。ストレージに収納していたはずの聖剣アルフィオンが、急に飛び出してくる。


 とっさに空いている左手で取ると、聖剣が強い光を発し始めた。その光が勇者ブレイブ軍団+タヌゥカを包み込むと、幻の存在であるブレイブたちをかき消していく。


「そうか……魔王を倒してくれ」

「みんなを……たのむ」

「聖剣は、お前を認めたようだ……」

「俺様は諦めねぇ! 俺が、俺様こそが勇者タヌゥカだ!」

「みんなの希望を、お前に託す」

「どうか、世界を救ってくれ」


 若干一名意味不明なやつがいたが、ブレイブたちは正気に戻ったかのようにして消えていった。もちろんタヌゥカも正気に戻ったかは別として、同様に消えている。


「なぁ!? い、いったい何をしやがった!」


 流石の赤い煙も、今の現象には驚きを隠せないようだ。だが赤い煙が驚いている間にも、戦闘は動いている。その隙に、グインが動き出した。


「グォオウ!」

「!?」


 するとグインが発動したウォータブレスによって、赤い煙が後方へと勢いよく飛ばされていく。そして岩山へと直撃すると、割る勢いで奥へと押し込んでしまった。


 俺もグインの生み出したこの隙の間に、聖剣アルフィオンを思考加速を使いながら確認してみる。その結果、新たに【邪偽(じゃぎ)退散】というスキルが増えていた。これが、先ほどの光の正体なのだろう。


 

 名称:邪偽(じゃぎ)退散

 効果

 ・邪悪なものや、偽りのものを退ける。



 効果は少々ふわっとしているが、何となく意味は理解した。流石に赤い煙は無理そうだが、即席で作られた幻には効きそうである。


 またこのスキルが目覚めたきっかけは、間違いなく勇者ブレイブの偽物が現れたからだろう。聖剣アルフィオンとしても、それは許せないことだったのかもしれない。


 とりあえず力を貸してくれるみたいなので、右手に魔神剣、左手に聖剣という感じで行こう。


「ごしゅ! あれを見て!」


 次にリーフェがそう言って指をさす方を見れば、おびただしい数のナイトメアレイスが出現し続けていた。


 ナイトメアレイスはAランクのモンスターであり、赤い煙が召喚した眷属だと思われる。


 しかしこの赤い煙の手札は、既に見たものでもあった。数だけ増やしても意味のないことは、赤い煙も理解しているはずだ。


 だがそれでも召喚したということは、何かをするための時間稼ぎなのかもしれない。


「何か、面倒な事をするはずだ。時間を与えることなく、一気に|蹴散《けちらすぞ!」

「うん!」

「グォオ!」


 おそらくグインのウォータブレスで飛ばされたのは、これをするためにわざと吹き飛んだのだろう。まったくもって、油断のできないやつである。


 俺はリーフェとグインにそう言うと、ダークデストラクションを連射した。広範囲に及ぶ紫黒(しこく)の炎が、ナイトメアレイスの群れを飲み込んでいく。


 またグインとリーフェも、俺が討ちもらした敵を的確に(ほふ)ってくれた。


 よし、かなりの魔力を消費してしまったが、おおかた片付けられたな。だが、肝心の赤い煙が見当たらない。いったい、どこに消えた?


 俺がそう思っていると割れた岩山の頂上から、赤い煙がひょっこり姿を現した。


「ひひゃひゃ! あのウォーターブレスはわざと受けたが、流石にこのダメージには驚いたぜ~。どんだけ強化されてんだぁ? あり得ねえだろぉ!

 でもよ~。所詮は基礎能力だけなんだよなぁ。俺様みたいにスキルが優れているなら別だけどよ~。こいつらは、いいとこAランクだろぉ? Aランクのスキルじゃ、たかがしれてるぜぇ。ひひゃひゃ!」


 負け惜しみか? いや、本当に大したことがないという可能性もある。これはどうにも、判断に悩むな。だがそれは別として、赤い煙の目的は理解できた。色々と言っているが、結局のところ、同様に時間稼ぎなのだろう。


 それと覚醒したグインとリーフェに加えて、魔神剣と聖剣まで合わされば、流石にこちらの方が勢いがある。また前の幻の魔王を作り出すのに使ったコストが、思った以上に重かったのだろう。


 赤い煙の戦い方に、以前のような余裕が見られない。だとすれば時間を稼いでまでやろうとすることは、一発逆転の何かだろう。


 であれば赤い煙のしそうなことは、やはりアレの可能性が……。


「えいえ~い!」

「なっ!? ひぎゃぁああ!!」


 すると俺が思考加速でそう考えているうちに、リーフェの攻撃が決まっていた。


 幻妖精の効果であらゆる感知から逃れ、フェアリーステップによる連続転移で急接近したようである。また偽装擬態のネックレスと隠密のスキルもあるので、赤い煙からは見つかりづらい。


 そして最後は貫通幻夢の耐性貫通からのサイコカッターで、赤い煙を切り裂いたのである。リーフェ凶悪コンボだ。


 しかし案の定(・・・)赤い煙は偽物だったのか、幻のように消えてしまう。


 さて、いったい本体はどこに……。やっぱり、ここしかなさそうだな?


 そんな思考と同時に、俺の直感がこれまでないほどに冴え渡っていた。まるで誰か(・・)が教えてくれたかのように、それが伝わってくる。


 ここまでお(ぜん)立てされたらそれはもう、金目と銀目しかいないだろう。これまでの的確な直感のいくつかは、あの者たちのおかげだったのかもしれない。


 そうして直感に従い体ごと振り向くと、ちょうど気配を完全に消してた赤い煙が、姿を現したところだった。


「ひひゃひゃ! 馬鹿めこっちだぁ! これでつかまえ――」

「いや、俺がお前を捕まえたんだ」

「!?」


 背後に現れた赤い煙へと、俺は抱きしめるかのようにして、両腕で強く締め上げる。神力を纏うことで、煙のような相手でも捕まえられるようだった。


 これは賭けだったが、無事に成功したみたいである。だがこれ自体は、別に成功していなくても問題はない。最も重要なのは、ここからだった。全てはここにかかっていると言っても、過言ではない。


「ひひゃひゃ! 何が捕まえただぁ! 触れていればこっちのもんだぜぇ~! 喰らえ! 支配憑依ぃいい!!」

 

 そして赤い煙がそう叫んだ瞬間、俺の意識が暗転した。


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