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357 封印された記憶の真実 ⑤


「そして神が授けた真の効果とは、神授スキルにより強力な能力を一時的に発現させることにある。つまり君の場合は、二重取りとカード召喚術がその対象になるだろう。

 どれほどの能力が発現するかは、千差万別だ。実際に使う時が来れば、自然と効果を知ることになるはずだろう」


 金目の言った内容に対し、そこまでの驚きはない。ある意味予想の範囲内だった。おそらく本当に驚くのは、その発現した効果を知ったときになるだろう。


 少なくとも神が授けた真の効果と銘打(めいう)っているので、強力なのは間違いないはずだ。赤い煙を倒すための、強力な手札になることだろう。


 するとここで金目に代わり、銀目が会話を引き継ぐ。


「だが真の効果を使うには、魔力ではなく神力が必要となる。幸い記憶の封印を解くことで、同時にいくつかの力も解放されている。

 そのうちの一つが真の効果であるが、もう一つはそれを使うための神力を僅かながらに生み出し、そして蓄えることができることだ」


 なるほど。神授スキルには元々神力を生み出す力もあったみたいだ。記憶と同時に封印されていたようだが、それには理由があるのだろうか?


 俺がそう思うのと同時に、銀目がそのことに言及した。どうやら一度に力を与え過ぎると、転移者自身が耐えられないのだという。


 なので封じられた記憶を取り戻すまで、同様に封じているらしい。取り戻す条件を満たした時には、耐えられるくらいには強くなっているだろうと考えているようだ。


 また戦うことが苦手でも、他の部分で強度が増している可能性が高いので、問題ないとのこと。


 それでも耐えられない場合には、記憶を取り戻しても真の効果は封じたままにしておくらしい。


 また転移者はこの時点で、全員神力を手に入れてしまうことを覚えておいた方がいいだろう。


 俺は既に神力を所持しているが、その利便性は計り知れない。魔力の上位互換とも言える神力は、持つ者と持たざる者に大きな差を生み出してしまう。


 逆に赤い煙と渡り合えていたのも、俺が神力を持っていたからだ。仮に勇者パーティが全員神力持ちだった場合、敗れていた可能性もある。


 更にそこへ神授スキルの真の効果まで加われば、今まで以上に一発逆転の何かが起きる可能性が高くなるだろう。


 数年以内には転移者の中にも、神力と真の効果を手にする者が何人か現れる気がする。好きに生きていいというが、後半は弱いままだと悲惨なことになりそうだな。


 そんなことを思いながら、俺は話の続きを聞くことにした。


「真の効果は神授スキルによって効果は千差万別だが、使った際に反動があるのはどれも共通していることだろう。

 どれほどの反動かも、多岐に渡るため一概には言えない。致命傷を負うものから、数分間だけ使用できなくなるなど、こちらも千差万別だ」


 ふむ。やはり真の効果を連発してのゴリ押しは、あまり出来ないようだな。おそらく真の効果は、奥の手という立ち位置になることだろう。


 俺は自分の手札を考えながら戦うタイプなので、問題はなさそうである。


 すると金目がここで、あることを口にした。その内容は俺にとって、かなり有益な内容となる。


「君がもし仮にデミゴッドを選択しているのであれば、その反動は少なくとも半減するだろう。場合によっては、ほとんど無いかもしれない。

 これはデミゴッドが半分神であることに、関係している。またデミゴッドは神力を蓄えられる量が他よりも突出しており、神力に目覚めれば自力で生み出すようにもなるだろう。

 また神力の扱いに関しても、同様に突出している。これこそが、デミゴッドの最も優れた点だ」


 まるで俺がデミゴッドを選択したことを前提にして、金目がそう口にした。もしかしたら、俺がデミゴッドを選択するのを確信しているのかもしれない。或いは、何らかの形で誘導されていたのだろうか?


 そう思いつつも、俺はデミゴッドを選択したのが間違いでなかったことを、改めて理解した。


 これは、デミゴッドの種族選択時には分からなかった内容だ。確かに半分神であれば、神力関連に優れているのは納得である。


 思えば俺は神力を使えば使うほど、慣れていく感じがあった。これは本来、あり得なかったのだろう。普通の人族であれば、神力の扱いはかなり難しいのかもしれない。


 故に他の転移者が神力を得ても、すぐには自在に操れない可能性が高く、同時にそれは神力を必要とする真の効果の扱いも難しいことになる。


 どうやら俺は知らない間に、他の転移者にはないアドバンテージを享受(きょうじゅ)していたようだ。


 これはチートと(ののし)られても、反論はできないかもしれない。


 そうして全ての説明を終えたのか、いよいよ過去の俺があの白い空間に移動する時がやってくる。


「君の旅路が、満ち足りたものになることを願う。我々は君の中で、出来る限りのことをしよう。君の活躍には、我々も期待している」

「最初から我々が二人宿ることは、前代未聞だ。もしかしたら、君は容易に神候補に成ってしまうかもしれない。そうなれば、我々も鼻が高いというものだ。是非、頑張ってくれたまえ」


 金目と銀目はそう言うと、光の粒子になって過去の俺の胸へと吸い込まれていった。すると同時に、過去の俺が一瞬光り輝く。


 おそらくこの時点で、記憶が封じられたのだろう。過去の俺は意識がそのまま途絶えたのか、瞳から光が消えている。


 思えば突然の出来事だったが、俺の転移にはこうした理由が隠されていたんだな。加えて様々な謎も解明されたし、この世界に転移した真の目的も知ることができた。そのことは、俺にとっては大きな収穫と言えるだろう。


 更には神授スキルの真の効果にも目覚めるようであり、赤い煙との戦いではこれも有利に働くはずだ。


 それに俺にとって大切な、文香の記憶も取り戻せた。まだ実感はあまり無いが、この事実はとても重要なことである。


 故にこうなる原因になった存在に、いつか復讐をしたかった。だがそれが難しいことは、よく理解している。


 地球にいる元凶は、他世界からやってきた全属性の魔王だという。おそらく今戦っても、勝てる相手ではない気がした。


 それに移動手段も無いので、地球にすら帰れない。だがもしかしたら、神候補になればその道も存在している可能性がある。


 どちらにしてもこのまま過ごしていれば、いずれ俺は神候補の条件を満たすことだろう。そんな気がする。その時に備えて、色々と準備をしておくのがいいかもしれない。


 そうしてこの封じられた記憶の世界も終わりが近づいて来たのか、同時に様々な記憶がまとめて蘇っていく。


 なるほど。そういうことだったのか……。


 結果としてその時ふと、あることを思い出した。それは、文香がカード召喚術に目覚めた日のことである。


『カード召喚術だって! 決めた! 文香はこの力を使って、最強の軍団を作るわ! そして、仁といっしょに安全な場所で幸せに暮らすの! ねえ、仁も手伝ってくれるよね?』

『ああ、わかった。安全な場所は俺も欲しいからな。俺も文香が最強の軍団を作れるように、協力しよう』

『ありがとう。文香との約束だよ! 死んでも忘れないでね!』

『大げさだな。わかったよ。死んでも忘れないから、安心しろ』

『ふふんっ! 流石は仁! 仁の二重取りも合わされば、最強ね! これから一緒に、頑張ろうね!』


 どうやら俺が最初から目標にしていた最強の軍団とは、本来は俺ではなく、文香の目標だったらしい。


 記憶が封じられようとも、俺はそれを忘れなかったみたいだ。本能なのか、奇跡なのか。それとも魂自体が、そのことを忘れなかったのかもしれない。


 加えて目標には、どうやら続きがあったようである。


 安全な場所で、幸せに暮らす……か。全てが終わったら、それも良いかもしれないな。


 それに最強の軍団を作るには、より強いモンスターが必要になる。そういえば丁度、俺の目の前に強いやつがいたはずだ。


 最強の軍団の基準は正直なところ分からないが、きっと役には立つだろう。


 それに何となく、カード召喚術の真の効果でそれが可能になる気がする。いや、気がするじゃなくて、確実にそうだろう。


 目覚めが近いからか、真の効果の内容もぼんやりと浮かび上がってくる。おそらく完全に目覚めれば、その効果も知ることができるだろう。


 また文香の願いを叶えることは、同時に約束を守ることにも繋がる。約束を守ることは、とても大事なことだった。


 そう、俺は約束を破らない。破りたくない。思えば最初から、そうだったじゃないか。デミゴッドとしての種族的な問題かと思っていたが、それは違ったのかもしれない。


 以前エリシャとの約束を結果的に破りユグドラシルを傷つけてしまった時のあれは、俺の魂の強い拒否反応だったのだろう。


 記憶を封じられても魂が覚えているくらいに、俺にとって“約束を守る”ということは、とても重要なことなのだと思われる。


 そうか、全ては繋がっていたのか。


 大事なことを思い出したからか、体がとても楽になったような気がした。


 ならこれからも、最強の軍団を目指していこう。それが、文香との約束だ。俺は死んでも、異世界に転移しても、その約束を守る。


 すると不思議なことに、俺の左目から一筋の涙が流れた。これが俺自身の涙なのか、完全に融合してしまった文香の残滓が起こした事なのかは分からない。


 だが俺はそれを拭うことはせずに、軽く笑みを浮かべる。


 そして封じられた記憶の世界は完全に終わりをつげ、俺は元の場所で目が覚めるのだった。


 ようやく赤い煙との戦いを、終わらせる時がきたのである。



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